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ロケットエンジンの推進剤 - Wikipedia

ロケットエンジンの推進剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ロケットエンジンの推進剤(—すいしんざい)とはロケットエンジンが噴射する噴射物質およびそれに与えるエネルギーを生成するための物質である。

化学ロケットの場合は、燃料酸化剤を合わせて推進剤と呼ぶ。電気ロケットの場合は、燃焼を行なわないので、噴射物質のみを推進剤と呼ぶ。必要な比推力や技術力、安全性、コストなど、用途と目的によって燃料と酸化剤の組み合わせを変更する。燃料と酸化剤が両方とも液体の場合は液体(燃料)ロケット、両方とも固体であると固体(燃料)ロケット、固体と液体の組みあわせの場合はハイブリッドロケットと呼ばれる。

液体酸素液体水素の組み合わせ方法は、日本H-IIロケット欧州アリアン5アメリカスペースシャトルメインエンジン等で使用されている。固体燃料はM-Vロケット、ペガサスロケットなどのロケットやブースター (ロケット)、RATO、ICBM、ミサイル、RPG等に使われる。

目次

[編集] 固体燃料ロケット

[編集] 概要

固体燃料ロケット 略図
固体燃料ロケット 略図

固体燃料ロケット固体ロケット)は、固体燃料酸化剤を混錬してロケット本体に充填した固体燃料を使用するロケットである。単純な固体燃料ロケットは主にケース、ノズル、推進剤、点火器で構成される。

液体燃料ロケットとは異なり使用時にはポンプなどの機械部品で燃料を燃焼室に移送することなくロケット内部の燃料へそのまま点火する。

ちなみに、固体燃料ロケットを想像するときは、ロケット花火を例にすると丁度いい。ケースが外側のケース、ノズルがケース下部、推進剤が中の火薬、点火器が導火線である。実際、ロケット花火も、極論すれば固体燃料ロケットの1つである。

一度、点火されると液体燃料ロケットの様に制御ができない。過去にはブラジルで爆発事故が起きている。

[編集] 歴史

固体燃料ロケットの歴史は古く、誘導方法を持たないものとしては、10世紀ごろに中国で作られた火箭(「かせん」と読む。「箭」は「」の意味)がある。これは黒色火薬を燃料とした無誘導弾のようなものであり、モンゴル軍と戦う際も用いられたようである。元寇の際も他の火薬兵器と共にモンゴル軍により使用され、日本の兵士を苦しめた。 なお現代の中国語では「火箭」と言うとロケットのことを言う。

火箭は現在のロケットとはかけ離れており、現在の技術基準で言えばロケット花火のようなものであった。また火薬の調合技術も未発達であり、信頼性は高いとは言えなかった。ただ当時は武器自体が自らの力で飛翔するという画期的な武器であり、見たことのない人に対しては、その異様なものは心理戦の面で有利であった。火箭についての情報は書物にも残されている[1]

その後シングルベース火薬ダブルベース火薬ができると、ロケット弾や、日本軍の特攻兵器である桜花の推進剤にも使われた。 しかし本格的に大気圏外を飛翔するロケットの推進剤として使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことである。

その頃は、ソビエト連邦のR-7、アメリカのレッドストーンに見られるように、ロケット(弾道ミサイル)はおおむね液体燃料ロケットが主流であった。しかし液体燃料ロケットは重量対の出力に優れる反面、長期保存や即応性の問題から、ロケットはともかく、万が一に備える必要のある弾道ミサイルに使うには欠点があった。そこで固体燃料ロケットの開発が進み、弾道ミサイルやロケットなど、大型の固体燃料ロケットができることとなる。

しかしまだ弾道ミサイルが液体燃料が主流であった頃から、小型の対空ミサイルや対地ミサイルは、即応性が必要とされ、液体燃料ロケットでは部品点数が多く小型化が難しいことから、固体燃料が使われていた。この状況は現在でも変わらない。

[編集] 特徴

ロケット本体(モーターケース)が燃焼室を兼ねていて部品数が少ないため、固体燃料ロケットは構造が簡単で安価に製造できる利点があるほか、小型の固体燃料ロケットでは全質量に対する構造質量を低減、すなわち構造効率を向上させることができる。また液体や気体の推進剤と異なり、常温では推進剤が蒸発せず拡散しないため毒性に留意する必要がない。燃料は化学的に比較的安定した性質の物質からなり、製造後の点検がほとんど必要ないまま長期間保管でき、即応性に優れる。

その一方で、燃焼の制御が難しく、点火後に燃焼の中断や再点火、火力の調整を行うことは原理的に非常に困難である。 そのことがチャレンジャー号爆発事故ブラジルロケット爆発事故の原因だと言われている。

またモーターケースは自身が燃焼室となることから燃焼圧力と温度に耐える必要があり、エンジン部分のみが圧力温度に耐えればよい液体燃料ロケットに比べて頑丈でなければならず、ある程度以上の大きさの固体燃料ロケットは同規模の液体燃料ロケットに比べて構造効率が悪化する。また燃焼ガスの平均分子量が比較的大きく、液体酸素/液体水素系や液体酸素/炭化水素系の液体燃料ロケットに比べて比推力に劣るが推力の大きなロケットを比較的容易に製造できるほか、推進剤の密度が大きいのでロケット全体のサイズを小さくすることができる。

これらの性質から、固体燃料ロケットは、即応性を重んじる軍用のミサイル、大きな推力で衛星打ち上げロケットの推力を補強するブースター、最終的に衛星を軌道に投入する小型のキックモーターなどに用いられる。ちなみに固体燃料ロケットは、ロケットエンジンよりもロケットモーターと呼ばれることのほうが一般的である。

全長が長くなると管内での流路抵抗が増えるので望ましくない。燃料の断面は投入軌道の特性に合わせて推力が変化するように成型される。ミサイル転用型の場合、軌道投入に効率が下がり、衛星打ち上げ専用のロケットと比較した場合、同じ推進剤の量でも投入できる衛星の重量が下がる。極低温を要する液体燃料ロケットと比較して常温での保存に適するが、打ち上げ時の温度は燃焼速度に多少影響する。

[編集] ロケットモーターの構造

高温高圧に耐える必要がある固体ロケットの外殻(モーターケース)は、一般のミサイルロケットや重量軽減の要求が大きくない衛星打ち上げロケットのブースターの場合、安価で強度のある高張力鋼が用いられることが多い。上段キックモーターのような軽量化の要求がある場合、チタン合金などでモーターケースを製作することもある。また、ガラス繊維炭素繊維フィラメントを円筒状に巻いた繊維強化プラスチック製の軽量なモーターケースもあり、はじめ大陸間弾道ミサイル (ICBM) や潜水艦発射弾道ミサイル (SLBM) などの軍用の大型固体ロケットで実用化されたが、より小型の軍用ロケットモーターや、アメリカのアテナロケットや日本のH-IIAのブースターSRB-A、M-Vの2段目・3段目などの衛星打ち上げ用ロケットへも適用が進みつつある。

なお、固体燃料ロケットの外殻は熱に強い素材で出来ているとは言え、燃焼ガスの温度に晒されて耐えられるほど強くはない。そのために燃焼ガスの温度から保護するためには固体燃料自身が用いられる。 筒状になった燃料が燃焼した時に発生する熱がまだ燃焼していない固体燃料を溶かし、蒸発させる。この際の気化熱によってロケット自身がとてつもない熱から保護されるのである。

モーター下部のノズル、特に開口面積がもっとも絞られているスロート部は直接ガスと触れ合って激しい熱にさらされるため、黒鉛やカーボン・カーボン複合材などの耐熱性の良い材料が用いられる。

[編集] 燃料の充填

燃焼圧力に耐えるため、固体燃料ロケットのモーターケースの多くは円筒形であるから、モーターケースの中に充填される固体燃料の形状もまた円筒形となることが多い。燃焼途中に燃焼そのものの制御を行うことは難しいが、燃料充填の際に充填する形状を調整し、燃料が燃焼する表面積を制御することで点火後の時間経過と推力とのパターンを調整することができる。

例えば、円筒状に充填した燃料を端面からのみ燃焼させれば比較的小さな一定推力を長時間発生させるし、円筒状の燃料内部に円形の穴を開けてマカロニ状の形状にすると、燃焼にしたがって燃料の表面積が増すから時間経過に伴って推力は増大する。燃料内部の穴が星型であれば端面燃焼に比べて燃料表面積は増えるが時間経過によってその面積はあまり変化しないので大きな一定の推力を短時間で発揮する。この他にも、円筒形、星型、三角形の溝を掘った円筒形などの形状の燃料外面に点火する外面燃焼、内孔のある多数の円筒形燃料をまとめて点火し全面燃焼とするマルチ・グレイン、または円筒形燃料に多数の内孔を開けて同時に点火しより大きな燃料表面積と推力を得るマルチ・パーホレーションなどが用いられ、これらを適宜組み合わせて燃料の充填形状を調整することによって要求に見合う推力パターンのロケットモーターを製作できる。

ミサイルなど、一定の推力で長時間燃焼する必要がある場合は端面燃焼が用いられ、衛星打ち上げロケットの第1段やブースターのように短時間に大推力が必要な場合はマルチ・パーホレーションが用いられる。

もし燃料の製造工程で気泡が混じったり、運搬時の衝撃や震動、保管時の急激な温度変化で燃料にひびや「す」が入った状態で燃焼が始まると、燃焼面積の増加から燃焼ガスの圧力が急上昇し、ロケット本体が破壊されることがある。

[編集] 燃料の組成

初期の固体ロケットモーターには黒色火薬が用いられた。埼玉県秩父市にある椋神社で毎年10月に行われる例大祭(龍勢祭り)で現在でも打ち上げられる龍勢ロケットは木材を竹タガで締め、内部に黒色火薬をつき固めた端面燃焼ロケットである。その後、ニトロセルロースニトログリセリンを主体とした黒色火薬より性能のいいダブルベース火薬が登場し、旧軍のロケット兵器ではこれが用いられていた。第二次世界大戦の特攻兵器として知られる桜花のロケットエンジンは推力800キログラムの四式一号噴進器二〇型が三本束ねられ、それぞれ9秒間使用できた。

第二次世界大戦の後には、コンポジット推進剤と呼ばれる固体燃料が開発された。これはブチルゴムポリウレタン、ポリブタジエン等の合成ゴム系の材料をアルミニウム (Al) などの金属粉、及び酸化剤と混錬したもので、酸化剤としては過マンガン酸カリウム過塩素酸アンモニウム (Ammonium Perchlorate, AP) 等が用いられる。ゴムの基剤はそれ自体が燃料となるほか、酸化剤や金属粉の結合剤、および燃料の機械的性質を決定する。

NASAスペースシャトル宇宙航空研究開発機構 (JAXA) のH2Aロケットで用いられる SRB (固体燃料ロケットブースター)で使用しているコンポジット推進剤は、酸化剤としてAP、ゴムの基剤としては末端水酸基ポリブタジエン (Hydroxyl-Terminated PolyButadiene, HTPB) が用いられており、AP/HTPB 系コンポジット推進剤と呼ぶ。JAXA の SRB が使用するコンポジット推進剤は HTPB が14%、Al が18%、AP が68%と酸化鉄など若干の添加物から成る。現在用いられている過塩素酸塩アンモニウム系のコンポジット推進薬は燃焼時に大量の塩化水素を生じさせるため、発射後に毒性が強いガスが多量に拡散する。ケネディ宇宙センターでのスペースシャトル打ち上げでは風向きにより観客の場所制限を変えている。ケネディ宇宙センターでは調整池に排水されアルカリ投入で中和している。過塩素酸アンモニウムの塩素成分はオゾン層に悪影響を与えるほか、アメリカの防衛産業の工場付近では過塩素酸塩が環境へ多量に放出されていることが確認され近年では過塩素酸塩そのものの人体毒性が憂慮され始めていることなどもあり、代替となる酸化剤が求められているがいまだ研究途上である。

[編集] 製造企業

固体燃料ロケットの製造が可能な企業は世界的にも少ない。米国では合成ゴムの製造会社として始まったモートン・サイオコール社 (Morton-Thiokol Inc.) が、三軍のほとんどの固体ロケット(ICBM、SLBM、各種ミサイル)やスペースシャトルの SRB を製造しているほか、日本の SRB-A について後述のアイ・エイチ・アイ・エアロスペースに対し技術供与を行っている。日本では戦後に中島飛行機から派生した富士精密工業が東京大学ペンシルロケット陸上自衛隊68式30型ロケットりゅう弾の製造を始めている。同社は、後にプリンス自動車工業と名前を変え、日産自動車に買収された後、石川島播磨重工業に売却され、現在はアイ・エイチ・アイ・エアロスペースとなっている。退役した75式130mm自走多連装ロケット弾MLRS 等のロケット兵器や JAXA の SRB-A の製造は同社が行っており、中の固体燃料は日本油脂が製造している。

[編集] 経年劣化

固体燃料は安定しているが、経年劣化が無いわけでは無いので、製造元は保証期間を設けている。現代のミサイルの多くはキャニスターと呼ばれる運搬・保管兼用のランチャーに封密されており、そのまま発射可能となっている。製造元の保証する期間内であれば封を解いて中のミサイルを点検する必要は無い。

しかしながら冷戦の終了は多くの国々で「平和の配当」と呼ばれた軍事予算減少現象をもたらし、兵器の更新は製造者の予想を超えて遅くなった。これに加えて経済の破綻にみまわれた新生ロシアでは配備中の兵器の更新がなされず、多くの兵器が「賞味期限切れ」となって老朽化してしまう事態となった。旧ソ連の戦略ロケット軍の資産を受け継いだロシア陸軍では、古くなった固体燃料の弾道ミサイルを発射試験で実際に打ち上げて性能を確認している。そして初期の性能が確認されれば保証期限を延長する事で対処している。RT-2PM Topol (SS-25) では、当初15年とされた保証期間が18年まで延長されている。

[編集] 液体燃料ロケット

[編集] 概要

液体燃料ロケット 略図
液体燃料ロケット 略図

液体燃料ロケット液体ロケット)は、液体燃料酸化剤をタンクに貯蔵し、それをエンジンの燃焼室で適宜混合して燃焼させ推力を発生させるロケットである。人工衛星の姿勢制御エンジンなど一部には過酸化水素ヒドラジンのように自己分解を起こす推進剤を触媒等で分解して噴射する、簡単な構造の一液式のものもある。

液体燃料は一般的に燃焼ガスの平均分子量が小さく、固体燃料に比べて比推力に優れているうえ、推力可変機能、燃焼停止や再着火などの燃焼制御機能を持つことができる。また、エンジン以外のタンク部分は単に燃料を貯蔵しているだけなので、特に大型のロケットでは構造効率の良いロケットが製作できる。一方、燃焼室や噴射器、ポンプなどの機構は複雑で小型化が困難なので、小型のロケットでは同規模の固体ロケットに比べて構造効率は悪化する。また、推進剤の種別によっては、腐食性や毒性を持ち貯蔵が困難であったり、極低温なため断熱や蒸発したガスの管理、蒸発した燃料の補充などで取り扱いに難があるものもある。

[編集] 歴史

ゴダートと彼の製作した液体燃料ロケット
ゴダートと彼の製作した液体燃料ロケット

液体燃料ロケットの概念が最初に登場したのはコンスタンチン・E・ツィオルコフスキーによって1903年に出版された Исследование мировых пространств реактивными приборами(日本語に訳すると「反動装置による宇宙空間の探求(英語ではResearch of world spaces by jet devices)」)に掲載されたのが初めてである。ツィオルコフスキーが考えた液体燃料ロケットは、燃料として液体酸素と液体水素を使ったもので、現実に作られることはなかったものの、彼は多段式ロケットやロケットに必要な方程式など、現在のロケットに必要なものの基礎を築いた。

1926年ロバート・ゴダードによって初めて液体酸素を酸化剤に用いたロケットが実験された。このロケットはアルコール液体酸素を燃料にする方法だったが、ノズルが上にあり、燃料タンクは下にあった。これはジャイロスコープなどの誘導装置を持たない場合、ゴダートが下から持ち上げるより上から引っ張るほうが安定するからだと考えたためであった。このロケットは約2.5秒、高さ約12.6m程度であったが、それでも液体燃料ロケットとしては初の飛行であった。

本格的に液体燃料ロケットが計画された、ドイツのヘルマン・オーベルトが、映画「月世界の女」用に製作した液体燃料ロケットである。これは映画撮影用の模型であって飛行能力は持たず、製作途中に事故で破損してしまい、オーベルトはそのことが原因で製作から逃げ出してしまった。しかしオーベルトの考え方に間違いはなく、そもそも彼は技師ではなくて学者であることから、彼に作らせるのには無理があったのが実際のところである。現実に彼は戦時中はドイツでV2ロケットの研究に携わり、戦後はフォン・ブラウンの薦めもあってアメリカにわたって軍事用ロケットの研究に携わっていた時期もある。

実際に液体燃料ロケットが世に出たのが、ナチスドイツが「報復兵器」として使用したV2ロケットである。 ヴェルナー・フォン・ブラウンや、先のヘルマン・オーベルトなどの科学者・技術者が集い製作したこのロケットは、アルコールと液体酸素を燃料にし、ジャイロスコープとアナログコンピューターにより誘導され、ロケットエンジンの下にある推力偏向板(ジェットベーン)により向きを変えられるという、現在存在する液体燃料ロケットの原型とも言える構造をしていた。

世界大戦終結後、鹵獲されたV2や多くの科学者・技術者はアメリカとソ連に連行され、それぞれの地でV2と同じような液体燃料ロケットを製作し、冷戦の軍拡競争で作られた弾道ミサイルとしてそのノウハウを広めることとなる。

現在でも、飛ぶ方向を決めるものが推力偏向板からジンバル機構になり、誘導装置がジャイロスコープからレーザージャイロGPS、制御装置がアナログコンピュータからデジタル式の(現在のような)コンピュータになるなど、時代相応の技術はつぎ込まれているものの、基本的な概念や構造はナチスドイツのV2、しいてはツィオルコフスキーの描いたものと同じである。

[編集] ロケットエンジンの構造

液体燃料ロケットのエンジンは、燃焼室、噴射器、点火器、ノズルポンプタービンなどの部分からなっている。

一般に固体燃料ロケットより部品点数は多くなる。

[編集] 推進剤の供給方式

液体燃料ロケットでは、高圧の燃焼室へ推進剤を送り込まなくてはならないから、何らかの方法で推進剤に高圧を加えなくてはならない。極めて簡便な手法としては高圧の不活性なガスをタンクに送って推進剤を加圧するガス押し法があるが、ガス押し法では高い圧力を得にくいため、より高性能のエンジンではポンプで推進剤を加圧するターボポンプ法がとられる。

このときポンプの駆動力を得るにはいくつか方法がある。

V2ロケットではロケットの推進剤の他にポンプの駆動用動力として過酸化水素過マンガン酸ナトリウム溶液を用いており、それぞれ専用タンクに納められていた。両者が混合されて発生する水蒸気がタービンを駆動し、連結された推進剤ターボポンプを駆動した(ヴァルター機関)。この方式では推進剤以外のタンクを必要として構造が煩雑になるという欠点があった。高温の燃焼室もしくはノズルの周囲に冷却の為、推進剤を送り、そこで加熱され気化した推進剤でタービンを駆動した後にタービン駆動に用いた推進剤と合わせて燃焼させる方法はエキスパンダーサイクルと呼れる。

また、推進剤の一部を燃焼させ、その燃焼ガスでタービンを駆動させる方法もある。これはガスジェネレーターサイクルと呼ばれ、比較的単純な構造で推進剤を送り込むことが出来るのが長所である。しかし、タービンの駆動に用いた燃料の一部はそのまま排出されて推進力とならないので、エンジン全体として比推力を大きく出来ない欠点がある。

スペースシャトルのSSMEやJAXAのLE-7では二段燃焼サイクルが採用された。この方式はまず液体水素と少量の液体酸素をプリバーナーと呼ばれる小型の燃焼室で燃焼させ、その水素リッチのガスによってタービンを駆動し連結されたターボポンプを回した後、ガスを燃焼室へ送りこみ、さらに液体酸素を加えて燃焼させる。タンク系は最小で済み、推進剤全量を推力に利用出来る利点があるが、燃料配管やタービンは複雑になる。

[編集] 燃焼室やノズルの冷却

大量の推進剤が燃焼し、噴射される燃焼室やノズルは極めて高温となるので、耐熱材料を使うだけでは不足でありより積極的に冷却を行う必要がある。そのために、推進剤の通った配管で取り巻いて熱を奪い、使った推進剤は燃焼に用いる再生冷却、多孔質の材料から推進剤を染み出させて冷却する発汗冷却、冷却したい部分の表面を推進剤の薄い流れで覆って冷やすフィルム冷却などが用いられる。融点が高く熱容量の大きな材料で覆い、その材料の溶融気化や炭化で熱を奪うアブレーション冷却も一部で用いられる。

[編集] 推進剤の組み合わせ

代表的な液体推進剤は以下のものが挙げられる。第二次世界大戦で使用されたV2ロケットは酸化剤として液体酸素 (LOX) が、燃料としてエタノール75%と25%の混合物を使用していた。戦後のミサイルでは、燃料はケロシンヒドラジン系に置き換わり、酸化剤は硝酸系に置き換わっている。液体フッ素の使用やリチウムの添加、などの現行のものより比推力の良い推進剤も提案されているが、毒性や取り扱いの観点から現実的ではない。

これらの燃料と酸化剤とを適宜組み合わせて使用するが、性能や取り扱いの上から、あるいはノウハウや経験の蓄積、といった点から、現在の主要な液体ロケットの多くは以下の3種の組み合わせである。

[編集] ヒドラジン系

推進剤として硝酸類もしくは四酸化二窒素を酸化剤とし、ヒドラジン類の燃料を用いる場合、比推力は液体酸素/ケロシン系より劣るものの、ロケットの燃料タンク内に常温で長期間貯蔵が可能であるうえ、自己着火性(ハイパーゴリック)を持ち推進剤を混合するだけで点火するため点火器が不要になり確実性に優れ、再着火も容易である。このため即応性が必要とされる弾道ミサイルや確実性の必要な人工衛星宇宙船姿勢制御用のスラスター、複数回の着火を行い複数の衛星を軌道投入する上段ロケットなどに使用される。欠点としては、硝酸や四酸化二窒素、ヒドラジンも腐食性や毒性が強く、タンクの腐食や発生する毒性ガスに留意する必要が挙げられる。燃料の漏洩による重大事故は過去何度も発生しており、1980年9月18日のアメリカのアーカンソー州リトルロック空軍基地での事故では、点検中のタイタンIIサイロ内に不注意で取り落とした工具がミサイルに当り、燃料タンクが破れてガス漏れから爆発に至り、核弾頭を空中高く吹き飛ばす事態となった。タイタンIIはこの他にもいくつかの重大事故を起こしており、結果的に退役が早まる事となり、タイタンの退役によって米空軍からは液体燃料の弾道ミサイルが無くなった。また1986年10月3日には、後にピーター・ハクソーゼンの「敵対水域」で有名になる旧ソ連のヤンキー1型戦略ミサイル原子力潜水艦K-219での RSM-25 (SS-N-6 Serb) 潜水艦発射弾道ミサイルからの燃料漏れ事故が発生しており、火災によって同艦が沈没したほか死傷者多数を出す事態となっている。 また、火星探査機のマーズ・オブザーバーにおいては、この酸化剤と燃料が混ざると着火するハイパーゴリック性があだとなり、燃料、もしくは酸化剤が逆流して他方と混ざったために爆発したといわれている。 旧ソ連ロシアでは現在でも四酸化二窒素/ヒドラジン系の液体燃料を用いたミサイルが多用されている。これは、旧ソ連では性能の良い固体燃料ロケットの開発が遅れた影響もあるが、旧ソ連が貯蔵可能な液体燃料ロケットを独自に安定的に運用する技術を獲得した成果だととらえることもできる。

[編集] 液体酸素/ケロシン

液体酸素/ケロシンの組み合せのみを用いるA-2ロケットによる宇宙船ソユーズの打ち上げ。
液体酸素/ケロシンの組み合せのみを用いるA-2ロケットによる宇宙船ソユーズの打ち上げ。

液体酸素を酸化剤、ケロシンを燃料とするロケットは、燃料の調達も取り扱いも容易であるという理由から古くから用いられてきた。低温の液体酸素を使うため燃料をタンクに貯蔵したまま保存することはできず、比推力はヒドラジン系に勝り後述の液体酸素/液体水素系より劣る。しかし液体酸素/液体水素系より推進剤の密度が大きいために、推力が大きくて寸法が小さく、構造効率の良いロケットを製作できることから、衛星打ち上げロケットの第1段として単体で使用することに向いている。

[編集] 液体酸素/液体水素

液体酸素/液体水素の組み合せを用いるRS-68エンジン単独での打ち上げ(デルタIVミディアム)。
液体酸素/液体水素の組み合せを用いるRS-68エンジン単独での打ち上げ(デルタIVミディアム)。
液体酸素/液体水素の組み合せを用いるRS-68エンジン3基だけによる、デルタIVヘヴィーの打ち上げ。
液体酸素/液体水素の組み合せを用いるRS-68エンジン3基だけによる、デルタIVヘヴィーの打ち上げ。

液体酸素を酸化剤、液体水素を燃料とするロケットは、現在実用されている液体燃料の推進剤の組み合わせでは最高の比推力を持ち、そのために、特に衛星打ち上げロケットの2段目や3段目にこれを用いた場合、他の液体燃料よりもペイロードを増大させることが出来る。しかし、液体水素の密度は水の1/14ときわめて小さく、それを収めるタンクは極めて大きなものとなって構造効率は大きくなる。また、沸点が-252.6℃と極低温の燃料であり、燃料タンクには断熱を施さねばならず、極低温による金属の収縮、脆化を考慮しなければならない。燃料ポンプ(ターボポンプ)は極低温で動作しなければならないうえに、二段燃焼式の場合、駆動タービン側は高温になるため、極端な温度差に加えて猛烈な震動の環境下で確実に動作する高度な信頼性が求められる。ロケットへ燃料を注入した後は、タンク内で蒸発した燃料ガスの圧力を逃がすために外部へガスを排出しており、またロケット本体の断熱が完全ではないため空気中の水分がロケットの外部に少しづつ氷結してゆく。このため時間と共に燃料が目減りし、ロケットが重くなってゆくことになる。加えてターボポンプの流量や回転数の問題から、液体酸素/ケロシン系のエンジンに比べて大推力のエンジンを製作することが難しいので、衛星打ち上げロケットの第1段にこれを用いる場合、重力損失を軽減するため固体ロケットブースタを付加して推力を増強し、液体酸素/液体水素エンジンそのものは固体ブースタで高空に持ち上げた後の加速を主眼において設計する、などの手法が必要となる可能性がある。

代表的なLOX/LH2エンジンには、第1段用としてはNASAスペースシャトルのメインエンジン (SSME)、ESAヴァルカンJAXALE-7A、上段用としてはのNASAのJ-2RL-10、JAXAのLE-5Bなどがある。

スペースシャトル種子島宇宙センターのロケット打ち上げ時に出る大きな雲状のものは燃焼ガスと注水の水(音響と熱による発射設備の損傷防止用)の「湯気」の霧の混合物である。打ち上げの写真を注意深く見ると固体燃料燃焼ガスの茶色い雲(塩酸霧が主)と真っ白の水の霧の二種類が分かる。水霧の一部は液体酸素-液体水素メインエンジンの燃焼による水蒸気由来である。

[編集] ハイブリッドロケット

ハイブリッドロケットとは、固体の燃料と気体または液体の酸化剤を使用するロケットを指す。流体である酸化剤の流量を調整する事で液体燃料ロケットと同様の固体燃料の燃焼制御(推力調整、再点火)を可能にするのが特徴である。また現用の固体燃料ロケットの高性能酸化剤は全て塩素の化合物であり、液体酸素や窒素酸化物を酸化剤に用いるハイブリッドロケットは、固体燃料ロケットに比べて、より「クリーン」であるといえる。また流体は酸化剤だけなので、液体燃料ロケットのように二種類の流体を扱う必要が無く、燃料系統が簡素化される利点がある。

他方、ハイブリッドロケットには二つの主要な欠点がある。一つ目は固体燃料ロケットと同様にロケット自体が頑丈で重くなる点である。もう一つは燃焼前に酸化剤と燃料を混合しなければならない点である。固体燃料は製造過程で酸化剤と燃料が慎重に制御された状態で混合されている。液体燃料の場合、燃料の混合は性能が事前に十分に検討されている燃焼室上部の燃料噴射機によって行われる。ハイブリッド燃料の場合、燃料と酸化剤の混合は、溶融または蒸発中の燃料表面で行われる。このような混合は十分に制御されうる事は無く、結果的に多くの燃料が未燃焼のままとなり、燃料効率と排気エネルギーが制限されることになる。これらを簡単にまとめて、液体と固体の欠点を併せ持つハイブリッドと自嘲されることもある。

固体・液体燃料ロケットに比べてハイブリッド燃料の開発事例はずっと少ない。軍用ミサイルの場合、運用と整備に利点がある固体燃料が主用され、衛星打ち上げロケットは、総じてハイブリッド燃料ロケットより性能がよい液体燃料ロケットで開発が行われたためである。しかしながら最近は民間用の低軌道投入用ロケットでの開発事例が増えてきている。液体燃料ロケットの開発で知られる Reaction Research Society (RRS) はまたハイブリッドロケットを長く研究開発していることで知られている。近年、米国のいくつかの大学がハイブリッドロケットの実験を行っている。1995年ユタ大学、及びユタ州立大学の学生は合同で Unity IV と呼ばれる固体燃料(HTPB、末端水酸基ポリブタジエン)と気体酸素を用いるロケットを打ち上げ、2003年にはHTPBと窒素酸化物を推進剤に用いる、より大型化されたロケットを打ち上げている。またオレゴン州ポートランド州立大学では2000年の初めにいくつかのハイブリッドロケットを打ち上げている。

世界最初の民間開発による有人宇宙船スペース・シップ・ワン (SpaceShipOne) は、HTPB と亜酸化窒素を用いるハイブリッドロケットエンジンを採用している。二社のエンジンから燃焼時間-出力特性により選定された搭載エンジンは SpaceDev, Inc. によって製造されたものである。SpaceDev は NASA の Stennis スペースセンターの E1 テストスタンドで行われた AMROC (American Rocket Company) のハイブリッドロケットエンジンテストから収集された実験データに部分的に使用している。エンジンは最少推力 4.4 kN から最大推力 1.1 MN までの稼動テストが成功している。SpaceDev は AMROC が出資不足によって事業を停止した後、1998年に同社の特許や資産を購入している。

日本においては、プラスチック(ポリエチレン)を燃料、液体酸素を酸化剤とするCAMUIロケットが民間主体で研究されている

[編集] 代表的な推進剤

[編集] 液体推進剤

液体推進剤[2]
燃料
分子式 沸点(K)
アンモニア NH3 240
エタノール C2H5OH 351
水素 H2 20
ヒドラジン N2H4 386
酸化剤
. 分子式 沸点(K)
酸素 O2 90
フッ素 F2 85
赤煙硝酸 HNO3 -
四酸化二窒素 N2O4 294
過酸化水素 H2O2 423

[編集] 固体推進剤

固体推進剤[2]
燃料
分子式 分子構造
ポリブタジエン
(Polybutadiene)
-[C4H6]-
ポリウレタン
(Polyurethane)
-
ポリエステル
(Polyester)
-
ポリアクリルニトリル
(Polyacrylonitrile)
-
酸化剤
分子式 分子構造
過塩素酸アンモニウム
(Ammonium perchlorate)
NH4ClO4 -
硝酸アンモニウム
(Ammonium nitrate)
NH4NO3
ニトログリセリン
(Nitroglycerin)
C3H5(ONO2)3
ニトロセルロース
(Nitrocellulose)
C6.0H7.55O2(NO2)2.45

[編集] 出典

  1. ^ 荻野流小筒ヨリ大筒迄火箭矢栫傅書
  2. ^ a b ミサイルの本 久保田浪之介 2004年9月30日 初版1刷 日刊工業所新聞発行 ISBN 4-526-05350-3

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