二段燃焼サイクル
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二段燃焼サイクル(にだんねんしょうサイクル)とは2液推進系ロケットエンジンの動作サイクルの1つである。推進剤の一部をプレバーナーであらかじめ燃焼させ、その燃焼ガスでターボポンプを駆動させる。その時の燃焼ガスはターボポンプで加圧された推進剤とともに主燃焼室に送られ燃焼する。
このプレバーナーには、スペースシャトルのエンジンSSMEのように燃料の比率が高い燃料リッチ(この場合は水素リッチ)なガスを発生させる形式とエネルギアのブースターに用いられたエンジンRD-170のように酸化剤の比率が高い酸化剤リッチ(この場合は酸素リッチ)なガスを発生させる形式がある。酸化剤リッチなガスは当然酸化性である。
二段燃焼サイクルの優位な点は、すべての推進剤が主燃焼室での燃焼に利用されエンジン全体としての比推力が高いこと、また高圧で燃焼できるため大気圧下においても効率の良い高膨張比のノズルを用いることが出来ることである。一方、部品点数が多くなり開発や製造はより困難になる。プレバーナーで発生させるガスはターボポンプを駆動した後においてもなお主燃焼室よりも高い圧力を保っていなくてはならないから、プレバーナーは極めて高圧で動作しなくてはならない。したがってプレバーナーに供給される推進剤を加圧するターボポンプはさらなる高圧で動作する必要が生じる。このようにシステム全体できわめて高い圧力での動作を要求することが二段燃焼サイクルエンジンの開発が困難な大きな理由である。
[編集] 歴史
二段燃焼サイクルのエンジンは1949年、ソ連のヴァレンティン・グルシュコの下で働いていた技術者であるアレクスキー・ミハイロビッチ・イザレフによって初めて開発されたNK-33である。ケロシン/液体酸素を推進剤として使用した。酸素リッチの燃焼ガスでターボポンプを駆動した。失敗したN1ロケット(ソ連)の1段目には30基のNK-33が搭載された。1963年、推進剤に四酸化二窒素/非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)を使用したRD-253は1965年プロトンに搭載された。エネルギアのブースターに用いられた世界最強の二段燃焼サイクルエンジンRD-170は、小改良が加えられたRD-171となりゼニットで用いられているほか、RD-170/171で4個あった燃焼室を2個とし推力もおよそ半分としたRD-180エンジンはNASAのアトラスIIIとアトラスVに搭載された。さらに燃焼室を1個として推力をRD-170の約1/4としたRD-191はロシアの新ロケットファミリーアンガラ向けに開発が続けられている。
西側では西ドイツのベルコウ社で1963年初めて二段燃焼サイクルエンジンの試験が行われた。スペースシャトルに搭載されたSSME、H-II/H-IIAに搭載されたLE-7/LE-7Aは二段燃焼エンジンの典型である。