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スペースシャトル - Wikipedia

スペースシャトル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アトランティスの打ち上げ (STS-71)
アトランティスの打ち上げ (STS-71)

スペースシャトル (Space Shuttle[1]) は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) が開発した再使用型の有人宇宙船。1981年4月12日の初打ち上げ[2][3]以来、2008年3月末までに122回の打ち上げが行われている。

目次

[編集] 概説

HL-10の滑空試験 (1969年)
HL-10の滑空試験 (1969年)
HHLV (重量積荷打上船) のコンセプト図 (1976年)
HHLV (重量積荷打上船) のコンセプト図 (1976年)

[編集] 開発の経緯

NASA では、地上と地球周回軌道の間を往復し、しかも繰り返し使用することができる再使用型有人宇宙船の構想を早くから持っており、その開発は人類が月に立つ以前の1968年頃から始まっていた。

そもそもアポロ計画は、月への一番乗りを目指したソ連との熾烈な宇宙競争を背景に国家の威信をかけて推進されたもので、経済性はまったく度外視されていた。そのため個々のアポロの打ち上げには莫大なコストと多大な準備を要し、これが近い将来に予定されていた恒久的な宇宙ステーションの建造には不適切なものであることは早くから指摘されていた。軌道上に大規模な宇宙ステーションを建造するには、なによりも再使用が可能で、積荷容量が大きく、低コストでの打ち上げが可能な宇宙船を開発し、これを複数機保有することによって頻繁な宇宙へのアクセスを得ることが不可欠だったからである。

再使用が可能な宇宙船は、打ち上げ時の形状のままで地球に帰還することができるものでなければならない。そのためシャトルには必然的に燃料タンクを船体外部に取付けたデザインや、大気圏再突入後に飛行できる翼を備えたデザイン[4]が採用されることになった。

[編集] 計画の光と陰

こうして登場したスペースシャトルは、一回の打ち上げで複数の人工衛星を軌道投入することができたり、ハッブル宇宙望遠鏡のような重量級のペイロード(積荷)でもなんなく打ち上げることができたり、軌道上の故障した衛星を回収して修理を施したうえで再投入することができるなど、それまでの宇宙計画では考えられなかったことを可能にする画期的なものだった。また乗組員も従来の3人から7〜8人と数が増え、これにしたがって船内の居住性も大幅に改善されたため[5]、船内ではこれまでになく幅の広い活動ができるようになった。シャトルにはまさに本格的な宇宙時代の到来を思わせるものがあったのである。

計画当初の国際宇宙ステーション完成予想図
計画当初の国際宇宙ステーション完成予想図
2007年11月現在の国際宇宙ステーション
2007年11月現在の国際宇宙ステーション

しかし当初の期待に反して、シャトルの機体構造と飛行システムはそれまでの宇宙船とは比較にならないほど大規模かつ複雑なものとなってしまった。このためNASA は次々と起る技術的トラブルを克服しながら打ち上げを続行しなければならないという苦しい立場に置かれることになり、これがスペースシャトル計画の運用性と経済性を当初から圧迫した。またシャトルの建造費は実用五番機のエンデバーが完成した1992年当時で1機あたりおよそ18億ドル (約2160億円)、また1ミッションあたりのコストは現在およそ4億5千万ドル (540億円) 前後と非常に高額なものになっており、シャトルによる人工衛星の商業打ち上げ市場開拓という当初の目論見は完全にはずれ、これを欧州宇宙機関ロシアに奪われることになってしまった。

さらにチャレンジャー、そしてコロンビアと、機体を全損して乗員全員が死亡するという大事故を2度も起したことは、スペースシャトル計画自体を度々中断させたばかりか、国際宇宙ステーション(ISS)の建造をも大幅に遅延させ、その結果としてステーションの規模の縮小という想定外の展開を招き、アメリカの宇宙ロケット計画そのものの信用が失墜してしまった。また、わずか百数十回の打ち上げで2度も事故を起こした事は有人宇宙機としての安全基準を満たしていないとの声も上がった。

[編集] シャトル時代の終焉

チャレンジャー事故後もシャトルの改良は継続的に行われ、シャトルの打ち上げ能力、信頼性は改善されたが、高コストという問題は解決されることがなかった。そうした中で、機体の老朽化だけは着実に進行していた。2004年1月にブッシュ大統領は2010年までにISSを完成させてシャトルを退役させる方針を示し、この方針を受けて、2010年9月30日(アメリカの会計年度末)までにはシャトル全機を退役させることになった。2007年10月現在、最後のミッションはSTS-133になる予定である。有人宇宙船の後継打ち上げ機は従来型の多段式ロケット アレスIに決定しており、再使用型有人宇宙ロケットの歴史は30年弱で幕を閉じることとなる。(→「オリオン (宇宙船)」を参照)

[編集] ミッションの概略

スペースシャトルの打ち上げはフロリダ州ケネディ宇宙センターで行われる。打ち上げの直後から着陸までの管制は、すべてテキサス州ヒューストンジョンソン宇宙センターで行われる。

[編集] 打ち上げ

外部燃料タンクの液体燃料はオービタの3基のメインエンジンに供給される。打ち上げは、まず上昇する6.6秒前にメインエンジンに点火され (画像1)、次に上昇する0.5秒前に左右のブースタに点火される(画像2)。そして、メインエンジンとブースタが発生させる3000トンの推力によってシャトルは上昇を始める (画像3)[6]

打ち上げから約20秒後、シャトルは仰向けに半回転してオービタがタンクの下側に回り込む (画像4)[7]

約2分後、高度約45kmでブースタを切り離す (画像5)。ブースタはパラシュートを使用してフロリダから約230km離れた北大西洋上に落下し、回収船により回収されて再使用される (画像6)。 ブースタは20回ほどの再利用に耐えられるように設計されている。

8分50秒後、高度110〜150km[8]で外部燃料タンクを切り離す (画像7)。外部燃料タンクは大気圏に再突入し、インド洋や太平洋上空でばらばらになって多くは燃え尽きてしまう[9]。スペースシャトルで再使用されないのはこのタンクだけである (画像8)。

[編集] 周回軌道滞在中

軌道上では人工衛星を軌道に投入したり (画像9)、故障した人工衛星を捕獲して修理を施したり (画像10)、国際宇宙ステーションの建造を行ったりする (画像11)。また船内ではさまざまな物理・化学・生物学・天文学・気象学などの実験や計測が行われる。

[編集] 帰還

軌道離脱の許可が下りると、オービタは前後に180度反転して後部を進行方向に向け、軌道制御システム (Orbital Maneuvering System, OMS) を噴射して減速を始める。約10〜15分後に軌道離脱噴射が始まり、約3分後に再突入コースに乗る。その約10分後に機首を約40度上げた姿勢を取り、同時に余分な推進燃料を投棄する。

約10分後、高度約120kmから大気圏再突入が始まる。機体は火の玉のようになり、表面温度は摂氏1650度にも達する (画像12)。機体は4回にわたって左右に約60度機体を傾けて減速し、約15分後には滑空飛行体勢に入る (画像13)。

通常はケネディ宇宙センターに帰還するが、悪天候の場合はカリフォルニア州エドワーズ空軍基地またはニューメキシコ州ホワイトサンズ・スペースハーバー[10]の通常代替地に回航する。また緊急時には世界各地に53ヵ所指定されている緊急代替地[11]のいずれかに回航することになっているが、これらが使用されたことはこれまでに一度もない。

着陸はグライダーと同じように、滑走路前で機首を上げて減速し (画像14)、着地後はパラシュートを開いて停止する (画像15)。

ケネディ宇宙センター以外の代替地に着陸した場合はボーイング747を改造したシャトル輸送機でケネディ宇宙センターにこれを戻す (画像16)。

[編集] 構成

スペースシャトルは3つの主な部分から構成されている。

  • 再使用可能なオービタ (Orbiter Vehicle, OV)。大きな貨物室と3基の主エンジン(外部燃料タンクが装着されている間に使用)、2基の小さなエンジンが付いた軌道操縦システム(軌道変更や軌道離脱用)を持つ。
  • 大型の外部燃料タンク (External Fuel Tank, ET)。オービタの3基の主エンジンの燃料となる液体酸素液体水素のタンクである(前方に酸素、後方に水素のタンクがある)。打ち上げの約9分後に高度109kmで切り離され、大気圏に再突入する。部品は海に落下し、回収はされない。初期は白色に塗装されていたが、経費削減と軽量化のため現在では無塗装である。
  • 2本の再使用可能な固体ロケットブースタ (Solid-Fuel Rocket Boosters, SRBロケットエンジンの推進剤)。推進剤は主に過塩素酸アンモニウム酸化剤(重量比で70%)とアルミニウムの燃料(同16%)である。打ち上げから約2分後に高度45kmで切り離され、パラシュートで落下する。海に着水した後で回収される。

[編集] 性能諸元

組み立て作業中のシャトル
組み立て作業中のシャトル
  • スペースシャトルシステム全体の全長: 56.14 m (184.2 ft)
  • オービタの全長: 37.23 m (122.17 ft)
  • 翼幅: 23.79 m (78.06 ft)
  • 打ち上げ時の重量: 2,041,000 kg (4.5 million lb)
    • ET 751,000 kg
    • SRB 2 x 590,000 = 1,180,000 kg
  • 打ち上げ時の推力: 34.8 MN
    • 主エンジン推力 3 x 1.8 = 5.4 MN
    • SRB 推力 2 x 14.7 = 29.4 MN
  • ミッション終了時の質量: 104,000 kg (230,000 lb)
  • 軌道上に運搬可能な最大積載量: 28,800 kg (63,500 lb)
  • 軌道高度: 185~578km (100~312 海里)
  • 速度: 27,875 km/h (7.7 km/s, 17,321 mi/h)
  • 定員: 宇宙飛行士 最大7人 (コロンビアのみ最大8人)

[編集] オービタ

オービタも参照

各シャトルは固有の名称を持ち、また NASA のオービタ命名規定に基づいた機体番号も持つ。

初代 “パスファインダー”
初代 “パスファインダー”
二代目パスファインダー
二代目パスファインダー
噴射試験中の試作主エンジン
噴射試験中の試作主エンジン

[編集] 取扱確認用の模型

  • 通称 “パスファインダー”(初代)
    • オービタ・シミュレータ、機体番号なし
    • 本来のものは1977年に木材と厚紙で製作された、実物のシャトルとほぼ同じ大きさの簡略な模型で、主にマーシャル宇宙飛行センターとケネディ宇宙センター内のさまざまな施設で機体の大きさや取扱手順の確認のために使用された。パスファインダーというのも正式な名称ではなく、文字通り「先駆者」としての役割を果たす同模型につけられた通称だった。その素材からこの模型は損傷が激しく、その後まもなくお蔵入りとなり、1999年に破却された。

[編集] 展示用の模型

  • パスファインダー (Pathfinder)(二代目)
    • 展示用オービタ、名誉機体番号 STA-098
    • 1983年に日本の企業が「大スペースシャトル展」を開催するにあたり、その目玉企画に外観を細部まで詳細に復元した金属製の実物大シャトル模型を製作、これに「パスファインダー」と命名した。意味は「先駆者」。
    • 同模型は同年6月から14ヵ月にわたって東京・大阪・名古屋で開催された同シャトル展で好評を博したあと、アラバマ州ハンツビル合衆国宇宙ロケットセンターに寄贈された。同センターではこの模型に二代目「パスファインダー」の名称と名誉機体番号として STA-098 を正式に贈り、オービタの先駆者として歴代シャトルにその名を連ねさせた。現在ではこれに、外部燃料タンクの試作品 (下記 MPTA-ET) と、チャレンジャー事故後に新たに開発された新型固体ロケットブースタの試作品を装着して、同センターの中庭に展示されている。

[編集] 主推進系の試験用機材

  • MPTA-ET
    • 外部燃料タンクの試作品
  • MPTA-098
    • オービタ主エンジンの試作品

[編集] 構造試験機

  • STA-099
    • 飛行能力はなかったが、後に改装されてOV-099 チャレンジャーとなった。

[編集] 滑空着陸試験機

滑空試験中のエンタープライズ
滑空試験中のエンタープライズ
  • OV-101「エンタープライズ (Enterprise)
    • 宇宙飛行能力を持たない
    • 実際に飛行性能を備えたオービタとして建造された本機には、当初「憲法」・「国憲」を意味する「コンスティテューション (Constitution)」という名が予定されていた。ところがこれを知ったアメリカの国民的SFテレビシリーズ『スタートレック』のファンの多くが、シャトル一号機に最もふさわしい名称は同シリーズに登場する宇宙船の名称である「エンタープライズ」をおいて他にはないという誓願運動を展開、全米からホワイトハウスに40万通を超える投書が送りつけられた。これを受けたフォード大統領はNASAに改名を要請、同機は改めて「エンタープライズ」と命名されることになった。意味は「冒険心」。
    • チャレンジャー喪失後、本機を改装して実用五番機にすることも検討されたが、既存のスペア機材から新機を新たに建造(エンデバー号)した方が効率的なことが分り見送られた。現在はスミソニアン博物館群のひとつ、国立航空宇宙博物館に展示されている。

[編集] 実用機

初飛行から帰還するコロンビア
初飛行から帰還するコロンビア
改装されたチャレンジャー
改装されたチャレンジャー
軌道上のディスカバリー
軌道上のディスカバリー
ミール宇宙ステーションにドッキングするアトランティス
ミール宇宙ステーションにドッキングするアトランティス
  • OV-104 「 アトランティス (Atlantis)
    • 1985年10月3日初飛行 (STS-51-J)
    • 実用四番機となった本機は、紀元前4世紀中頃にギリシアの哲学者プラトンが著書『クリティアス』のなかで言及した伝説の大陸・アトランティスに由来する。アトランティスは古代から現在に至るまで、考古学の専門家から一般の人々までがさまざまな想いをめぐらす「未知なる神秘」であることなどが命名の背景となった。
    • 2007年8月末現在、初飛行から28回のミッションで、周回軌道滞在日数は244日を数え、現在も活躍中だが、2008年10月8日に打ち上げ予定のSTS-125(ハッブル補修ミッション)を最後に現役引退が決定している。現存する機体で唯一日本人宇宙飛行士が搭乗していない。(日系アメリカ人飛行士のエリソン・オニヅカダニエル・M・タニも搭乗していない)
国際宇宙ステーションの構造物を運ぶエンデバー
国際宇宙ステーションの構造物を運ぶエンデバー
  • OV-105 「エンデバー (Endeavour)
    • 1992年5月7日初飛行 (STS-49)
    • 実用五番機となった本機は、18世紀中頃に三回の探検航海を行い海洋天文学航海術の発展に多大な貢献があったジェームズ・クックの最初の航海で坐乗した英国海軍所属艦・HMBエンデバー号に因んだもの。またアポロ15号の司令機械船の名称もエンデバーだった。意味は「努力」[12]
    • 1986年のチャレンジャー喪失後、既存のスペア機材を使用して新たに建造された新機。2007年8月末現在、初飛行から20回のミッションで、周回軌道滞在日数は207日を数え、現在も活躍中。日本人初のスペースシャトル搭乗(毛利衛)もこの機体だった。その影響か日本人宇宙飛行士の搭乗率が高い。(3人、4回)
    • 2008年3月11日、日本初の有人宇宙施設「きぼう」の船内保管室を載せて打ち上げられた。(STS-123


[編集] 構造

シャトルには、その全長の大部分を占める大きな貨物室(ペイロードベイ:payload bay)がある。貨物室の扉の内側にはラジエータが取り付けられており、シャトルが軌道上にいる間は熱制御のために扉が開け放たれている。また、地球太陽に対するシャトルの姿勢を調整することでも熱制御が行われている。

貨物室の中には「カナダアーム」とも呼ばれている遠隔マニピュレータシステムがある。これは貨物を船外から受け取ったり放出したりするためのロボットアームである(アームの設計・製造を行ったのがカナダの企業であることからアームに Canada の文字とカナダ国旗が貼られている。)。コロンビアの事故以前は、Canadarm はアームが必要とされるミッションでのみ搭載されていた。2005年の飛行再開フライトSTS-114からは、大気圏再突入時に問題となるような損傷が機体にないかどうかを軌道上で検査(熱防護検査)することになり、この検査ではこのアームが非常に重要な役割を果たすため、以後の飛行では必ずアームを搭載することになった。

[編集] 改良点

国際宇宙ステーションから見たスペースシャトルディスカバリー。オービターの腹部を覆う耐熱タイルの様子が良く分かる。(2006年9月 STS-115)
国際宇宙ステーションから見たスペースシャトルディスカバリーオービターの腹部を覆う耐熱タイルの様子が良く分かる。(2006年9月 STS-115)

スペースシャトルシステムは年ごとに膨大な数の改良が行われている。オービタの熱防護システムも、重量を節約したり作業負荷を減らすために何度か変更されている。元々使われていたシリカベースのセラミックタイルは飛行のたびに損傷がないか検査する必要があり、また水を吸収するために雨からも守る必要がある。この水の問題は当初、帰還後タイルに防水スプレーを毎回かけることで対処していた。しかし後に良い解決策が見つかった。シャトルのタイルのうち、あまり高温にさらされない大部分について、断熱性のあるフェルトのような耐熱布に交換されたのである。これによって広い面積(特に貨物室周辺)で検査が不要になった。

チャレンジャー事故の後、操縦室もグラスコックピットに加えて安全上の理由からいくつかの改良がなされている。例として、オービタが不時着する必要が生じた際の滑空飛行時の乗員脱出システムが設けられた(当初は機長と副操縦士用の射出座席が搭載されていたが実用段階に入った後、軽量化と倫理上[13]の問題のため取り外されていた)。また、国際宇宙ステーション(ISS)が建設されると、ISSとのドッキングが出来るように、オービタ内部のエアロックが外付けのドッキングシステムを兼ねた外部エアロックに換装された。

[編集] メインエンジン

スペースシャトルの主エンジン(SSME)も信頼性と推力の向上を図って何度か改良されている。打ち上げ時のアナウンスで "Go to throttle-up at 106%" のような語句を耳にすることがあるが、これはエンジンの出力が限界を超えているわけではなく、最初の設計の主エンジンの出力レベルを100%とした値を示している。現在の実際のエンジン出力は109%まで到達可能である。オリジナルのエンジンでは102%まで出すことができた。2001年の Block II 型エンジンの開発によって109%の出力を達成している。

[編集] 飛行システム

シャトルの機体は原設計から大きな変更点はないが、フライ・バイ・ワイヤー方式の飛行制御システムは改良が続けられている。オリジナルのシステムは IBM System/360 シリーズの中でも、高信頼性を追及した耐放射線仕様32ビットアビオニックスコンピュータであるIBM AP-101に操縦室のアナログディスプレイが接続されたもので、現代の DC-10 旅客機やボーイング767旅客機などに類似するものだった。初期のAP-101は424KBの磁気コアメモリとデータドライブを搭載し、処理速度は0.4MIPSであった。1990年に更新されたAP-101sはRAMが1MBになり、処理速度は1.2MIPSに向上した。

AP-101はDPS(データ処理システム)と呼ばれ、同型のシステム5台の多数決によって動作する。4台には同じソフトを搭載しているが、バグ対処のために第5コンピュータは別の手法で作成されたソフトが搭載されており、4台のプライマリコンピュータのバックアップに当たる。プライマリコンピュータは相互監視しながら協調動作を行い、故障機が発生した場合には残存機で補完する。プライマリコンピュータが全滅した場合には、バックアップコンピュータである第5コンピュータが使用される。

コンピュータのプログラミング言語には、高信頼性を確保するためにシャトル専用のHAL/S [14]が使用されている。今日では操縦室はグラスコックピットのシステムに交換され、コンピュータの高速化が図られている。

飛行システムとは直接関係ないものの、ミッションサポート用としてアポロ・ソユーズテスト計画から続く伝統として、HP-41C 以来搭載しているプログラム電卓や、IBMノートパソコンなども搭載している。スペースシャトルは常時地上とデジタル通信を行っているが、そのデータストリームは特殊なものであるためIP接続ができなかった。現在のスペースシャトルにはシスコシステムズの開発したOCA(Orbital Communications Adapter)と呼ばれるルーターによって、Kuバンド通信上で上り3Mbps、下り43MbpsでのIP接続が可能になり、Web閲覧、メール送受信、ビデオチャットVoIPによる一般電話との接続も可能になり、地上の家族や友人とのプライベートなコミュニケーションも可能になっている。

[編集] 外部燃料タンク

白に塗装されていた初飛行当初の外部燃料タンク
白に塗装されていた初飛行当初の外部燃料タンク

スペースシャトルの外部燃料タンクは全体が断熱材で被われており、この断熱材の色があの特徴的なオレンジ色である。1981年4月12日の初打ち上げ (STS-1) と11月12日の第二回打ち上げ (STS-2) では、太陽の照射によってタンクの温度が上昇することを防ぐためにこの断熱材の上を白く塗装していた。しかしその後の試験で白の塗装がタンクの温度に及ぼす影響は無視できるほど小さいものであることが分った。またこの二度の打ち上げでは外部燃料タンクから大量の断熱材が剥離したが、その原因の一つに上げられたのが断熱材を重くしていた塗装だった。このため第三回目の打ち上げ (STS-3) 以降はタンクの塗装をやめたが、これで約270kgの重量を削ることもでき、一石二鳥となった。

また、水素タンク内部のストリンガと呼ばれる部品も飛行には不要であることが分かったために取り外され、この分の重量も軽くなった。この「軽量外部燃料タンク(LWT)」がそれ以降のほとんどのシャトルミッションで使われている。

さらにSTS-91 では「超軽量外部燃料タンク(SLWT)」と呼ばれる新タンクが初めて使用された。このタンクは2195アルミニウムリチウム合金でできている。なおスペースシャトルは無人での飛行ができないため、これらの改良はすべて理論上の卓上試験を経ただけで、その後の実飛行においてぶっつけ本番の使用となっている。

なおSTS-114以降は、STS-107におけるコロンビア号の事故の直接原因となった前部バイポッド突起部からの断熱材の落下を防ぐため、断熱材を取り除く、などといった設計変更が行われている。

[編集] 固体ロケットブースタ

固体ロケットブースタ (SRB) の特に重要な改良は、チャレンジャー事故の後でセグメントの接合部分に3つ目のOリングが追加された点である。これ以外にも SRB には性能と安全性を向上させるための多数の改良が計画されていたが、現実には実施されなかった。改良計画の最終案として、より構造が単純でコストが安く、高い安全性と性能を備えた Advanced Solid Rocket Booster (ASRB) と呼ばれる改良型ブースタが1990年代初めから中頃にかけて製造され、国際宇宙ステーション計画の助けとなる予定だったが、後に経費節減のために中止された。しかし中止までには22億ドルの予算が既に投入されていた。ASRB 計画の中止によって、積載能力を増やすために超軽量外部タンクを開発する必要に迫られた。しかしこの改良では安全面の向上はなされていない。これに加えて、空軍でも独自にフィラメント巻方式による超軽量の一体型タンクを開発していたが、これも中止された。

[編集] コックピット

アトランティスのコックピット
アトランティスのコックピット
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オービタは自動操縦ではなく人が操縦する。通常は2名で操縦するが、緊急時は1名でも操縦できる。

[編集] 使用状況

[編集] 主な用途

  • ISS の滞在要員の交替
  • ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) などの有人修理ミッション
  • 低軌道 (LEO) での有人実験
  • LEO への物資輸送:
    • HST などの大型人工衛星
    • ISS の建設資材
    • 補給
長期曝露試験衛星 (LDEF) を軌道に投入するチャレンジャー
長期曝露試験衛星 (LDEF) を軌道に投入するチャレンジャー
  • 軌道上からの衛星打ち上げ

[編集] 飛行統計データ

以下は2006年12月22日現在のもの。

シャトル 飛行
日数
軌道
周回数
飛行距離 飛行
回数
最長飛行
(日)
乗員数 船外活動
回数
ドッキング回数 衛星
放出数
(mi) (km) ミール ISS
コロンビア 300.74 4,808 125,204,911 201,497,772 28 17.66 160 7 0 0 8
チャレンジャー 62.41 995 25,803,940 41,527,416 10 8.23 60 6 0 0 10
ディスカバリー 281.45 4,433 115,140,673 185,235,454 33 13.89 206 35 1 7 31
アトランティス 243.99 3,654 94,808,732 152,534,078 27 12.89 167 21 7 7 14
エンデバー 206.60 3,259 85,072,077 136,910,237 19 16.63 130 29 1 6 3
1,095.19 17,149 446,030,333 717,704,957 117 - 813 101 9 20 66

[編集] 今後の計画

NASA にはかつて何度となく新型スペースシャトルの計画が提案されたが、米国政府の宇宙開発予算圧縮の方針などから全て実現されていない。そのため、機体の老朽化を初めとする多くの問題点を抱えている。

コロンビア号の事故後に新たな代替機の開発の必要性も叫ばれたが、2006年現在の政府方針ではスペースシャトルは2010年9月末で ISS の組立を終えて退役する予定となっている。

現在計画されているシャトルの後継機はアポロカプセルの大型版のような再使用型カプセルのオリオンで、2014年頃に有人での飛行試験を予定している。オリオンの打ち上げ用ロケットには、シャトルの SRB と ETを改造したものが流用される予定である。


[編集] 映画「007」とスペースシャトル

詳細は007 ムーンレイカー#プロダクションを参照

1979年に公開されたスパイアクション映画007シリーズ第11作の『007 ムーンレイカー』にてスペースシャトルが登場し、打ち上げから飛行シーンまで描かれている。公開当時はまだ計画の段階で実際には打ち上げられておらず、製作陣が想像と入念な調査や特撮技術により本物より先に打ち上げ、またその姿はより実際の姿に近く関係者を驚かせた。

[編集] 注・出典

  1. ^ 正式名称は Space Transportation System(宇宙運輸システム)というが、現在ではこの名称が使われるのは公式文書でも稀になっている。
  2. ^ ガガーリン少佐ボストーク1号で初の有人宇宙飛行を行ったのが1961年4月12日で、この20周年を記念してシャトルの初打ち上げがこの日になった。
  3. ^ 当初シャトルの初飛行は1979年を予定していた。これは軌道降下が続いて周回速度が増し、使用不能となっていたスカイラブの高度を、シャトルを使って再び上昇させることが予定されていたため。しかしシャトルの計画は遅れ、逆にスカイラブの軌道降下はペースを増したため、1979年7月スカイラブはついに大気圏に再突入し、破片の一部がオーストラリアの農場に落下するという、一つ間違えば大惨事になったかもしれない騒動になった。これで面目を失ったNASAにとって、ボストーク1号打ち上げ20周年というのは願ってもないタイミングだったのである。
  4. ^ NASA の前進である NACA では、早くから滑空式による宇宙船の地球帰還を研究しており、1949年には折りたたみ式の翼ながら安定した滑空が可能な帰還装置を開発した。この装置は実用にはいたらなかったが、1960年代後半に新しいスポーツとして甦る。ハンググライダーである。
  5. ^ それまでの宇宙船は、アメリカのアポロもソビエトのソユーズも居住性は二の次で、船内はまるで缶詰のような状態だった。
  6. ^ シャトル発射台からはエンジン点火とともに大量の水が機体の下部に噴出される。これは水分によってシャトルのメインエンジンから発生する衝撃波を和らげているからで、これがないと衝撃波は地表で反射してシャトルに跳ね返り機体にダメージを与えかねない。メインエンジン点火から打ち上げ直後にかけて発射台でもくもく沸き上がって見えるのは、この水がロケット噴射の高熱によって水蒸気化した雲である。
  7. ^ このシャトル独特の背面打ち上げには 1) 緊急時に操縦士がすぐに地上を見ることができるようするためと、2) 発射台の構造上シャトルは南に背を向けた状態で打ち上げられるが、目的の軌道に乗るためには東に機首を向けなくてはならないため、という二つの理由による。
  8. ^ http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/shuttle_sts_107.html
  9. ^ ミッションの中には稀に大重量のペイロードを打上げたり、高軌道上に達したりする必要性から、メインエンジンの出力を最大限に活用するダイレクトインサーション式という打ち上げを行う。この場合に限って外部燃料タンクは南太平洋上空に落下することがある。→この情報自体は正しいですが、現在は全てDirect Insertionを採用しているため、インド洋に落下したのは初期の飛行のみです。参考にされた情報は古いと思います。
  10. ^ ただしホワイトサンズ・スペースハーバーに帰還した例は過去に一度あるのみ。(STS-3)
  11. ^ 日本では沖縄県にある嘉手納空軍基地が計画当初から、また東京都内の横田空軍基地が1996年から緊急代替地に指定されている。
  12. ^ なお endeavour は英英語式のつづりで、米英語式のつづりでは endeavor となるが、本船は固有名詞であるクックの船名に由来するので英英語式になっている。
  13. ^ 構造上の制約から機長と副操縦士の分しか用意できないことによる
  14. ^ 「HAL/S」は High-order Assembly Language/ Shuttle(シャトル専用高次集合プログラミング言語)の頭文字をとったものということになっているが、この命名には当初から『2001年宇宙の旅』に登場する人工知能を備えたコンピュータ「HAL 9000」(Heuristically programmed ALgorithmic computer=解析機能がプログラムされた演算コンピュータ)との関連が指摘されている。この言語を構築したIntermetrics社の創業者は、マサチューセッツ工科大学の同僚でこの言語のコンセプト構築に寄与した J. Halcombe Laning 博士(通称 Hal)に敬意を表し、彼の名に因んで HAL と命名したとしており、そのことが『HAL/S 仕様書』巻頭の謝辞の中でもわざわざ言及されている。しかしこれがいかにもくどく不自然なことから、やはり「HAL/S」は「HAL 9000」に因んだもの、という憶測が浸透した。

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