アメリカ空軍
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アメリカ空軍(アメリカくうぐん、United States Air Force, USAFと略される)はアメリカ軍の航空部門である。アメリカ合衆国空軍、あるいは単に合衆国空軍、ほかに米空軍とも呼ばれる。
当初、海軍に属さない航空戦力は陸軍が受け持っていたが、1947年9月18日に独立した組織となった。第一次世界大戦から今日まで、世界各地の多くの戦争や紛争に関与してきた歴史がある。2000年代現在、アメリカ空軍は7,000機以上の航空機を運用する世界最大の空軍であり、世界各地に空軍基地をもつ。
アメリカ空軍の任務は「アメリカ合衆国を防衛し、航空宇宙戦力によってその国益を守ること」である。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] 第一次世界大戦
1917年、アメリカ合衆国が第一次世界大戦に参戦したことを受けて、アメリカ遠征軍 (America Expeditionary Force, AEF) のなかにアメリカ陸軍航空部 (U.S. Army Air Service, USAAS) が結成された。遠征軍の司令官はパトリック・メイソン少将で、副官はビリー・ミッチェル准将だった。
陸軍航空部は、特にサンミエルの戦いとムーズ・アルゴンヌの攻勢において、アメリカ陸軍に戦術的支援を行った。エディ・リッケンバッカー大尉とフランク・ルーク大尉などがエース(撃墜王)となった。
1926年、陸軍航空部は、アメリカ陸軍航空隊 (U.S. Army Air Corps, USAAC) と改名された。この時期、航空隊は新技術の実験を開始した。B-9の開発、初の全金属製単葉爆撃機であるB-10の開発、そして新型戦闘機の開発などが行われた。1937年にはB-17 フライングフォートレスが初めてその姿を現した。航法技術の大きな進歩によって、3機のB-17がイタリアの客船レックスを海上で捕捉することに成功した。
[編集] 第二次世界大戦
次なる変化は第二次世界大戦によってもたらされた。1941年、アメリカ陸軍航空隊はアメリカ陸軍航空軍 (U.S. Army Air Forces; USAAF) と改名、1942年3月9日に発効した大規模な軍再編成を受けて、陸軍航空軍は陸軍や海軍と同等の発言力を持つに至り、1947年のアメリカ空軍 (United States Air Force; USAF) の独立まで存続した。
- 欧州戦線
- ヨーロッパにおいて、アメリカ陸軍航空軍は昼間爆撃を開始した。統合参謀本部では英国空軍の計画立案者たちが反対したが、それを押し切ってのことだった。合衆国の戦術は、戦闘機の護衛なしに昼間のドイツ上空に爆撃機を何十機も緊密に編隊飛行させ、爆撃機同士が互いに装備する機銃・機関砲でハリネズミのように防衛し合うというものであったが、部分的な成功しか収められなかった。ルーマニアのプロイエシュチにある精油所、ドイツ中部のシュヴァインフルトのボールベアリング工場、ドイツ南部のレーゲンスブルクにあるメッサーシュミット工場への爆撃作戦では、多くの爆撃機が撃墜され、おびただしい数の搭乗員が戦死した。長大な航続距離を誇るP-51マスタング戦闘機が爆撃機の護衛に参加するようになると、爆撃機搭乗員の戦死者は減少した。1944年、2月20日から25日にわたるビッグウィーク (Big Week) と呼ばれる一週間に、連合軍は「アーギュメント」作戦を行い、ドイツ空軍は熟練のパイロットを失った。
- 太平洋戦線
- 太平洋戦線において陸軍航空軍は、中国内陸部から飛び立ったB-29スーパーフォートレスによって日本本土を攻撃した。この爆撃行の兵站支援行動は空輸によって行われ、ヒマラヤ越え(ハンプ越え)として有名である。重い爆弾と燃料の両方を運搬せねばならず、さらにジェット気流中の高高度飛行がB-29の航続距離に影響した。1944年にサイパンの航空基地を確保し、本格的な本土空襲が開始されたが、当時の司令官であるヘイウッド・ハンセル准将は高々度からの軍事拠点への爆撃を行った。しかし、効果が薄いという軍上層部の判断で解任され、後任のカーチス・ルメイ将軍は爆撃戦略を変更し、高高度からの精密爆撃を止めて、低高度からの焼夷弾による爆撃に切り替えた。分散した日本の工業地帯を破壊することが目的だった。日本の多くの都市が壊滅的な被害を受け、たとえば東京では東京大空襲によって100,000人以上が亡くなった。B-29はまた、1945年8月に、原子爆弾を日本の広島市と長崎市に落とした。
[編集] 大戦後
ハリー・S・トルーマン大統領が国家安全保障法に署名してアメリカ空軍省が設立され、1947年9月18日に最高裁判所長官フレッド・M・ヴィンソンがスチュアート・サイミントンの初代空軍長官への就任宣誓を承認したことで空軍が始動した。
1948年、東ドイツの共産主義政権は、イギリス・アメリカ・フランスの管理下にあった西ベルリンへの道路を封鎖した。このため、西ベルリンでは、生活必需品の不足など、市民生活に多大な支障が生じた。このため、空輸軍団がC-121 コンステレーションとC-54 スカイマスタなどの輸送機によって生活必需品をはじめとする大量の物資の空輸を行った(ベルリン空輸)。
1950年に朝鮮戦争が始まると、アメリカ極東空軍は韓国・金浦の拠点空軍基地を失った。その結果、孤立した釜山の守備部隊に対して、日本から飛び立って近接航空支援を行わなくてはならなくなった。しかし、1950年9月にダグラス・マッカーサー元帥による仁川への上陸(仁川上陸作戦)を受けて極東空軍は基地へと復帰し、それらの基地を拠点として、北朝鮮と中国の国境付近までの進撃を支援した。1950年12月の中国人民解放軍による反攻時には、空軍は戦術航空支援を行った。旧ソ連のMiG-15が現れてB-29に対する脅威となったが、F-86セイバーによってMiGに反撃した。
1954年、アメリカ合衆国空軍士官学校 (USAFA) がオハイオ州コロラドスプリングスに開校した。初の女性士官候補生は、1976年に卒業した。
[編集] ベトナム戦争
[編集] 冷戦
[編集] ボスニアとコソヴォ
[編集] イラクとアフガニスタン
[編集] リーダーシップ
アメリカ空軍の長は 空軍参謀総長が勤め、 4つ星の将官である大将が任命される。 他の統合参謀本部のメンバーと同じく、空軍参謀総長に航空部隊に対する作戦上の直接指揮権は無い。あるのは軍内行政執行権及び軍政策決定権だけであり、作戦指揮権は大統領から国防長官を通して命令を下される各統合軍司令官にある。空軍参謀総長に部隊指揮権は無いものの、各軍の 参謀総長と共に統合参謀本部 を構成し、統合参謀本部 として大統領に作戦上のアドバイスをする立場にある。
[編集] 組織
アメリカ空軍は3つの部分からなる。
2007年現在、空軍長官はマイケル・W・ウェインであり、空軍参謀総長はマイケル・モズリー大将、空軍最先任上級曹長はロドニー・J・マッキンリー空軍先任曹長である。以下に現代のアメリカ空軍の編成を示す。
[編集] 階級
- 士官 Officers
- 准尉 Warrant Officers
- 空軍の准士官は1986年に廃止された。
- 下士官及び兵 Enlisted
- 空軍下士官兵先任(別の訳語:空軍最先任上級曹長) Chief Master Sergeant of the Air Force
- 空軍参謀本部に配置される。空軍参謀総長によって任命され、下士官・兵の福利厚生、士気、健康管理及び規律維持、訓練・教育等に関し、空軍参謀総長及び空軍長官の補佐に任じている。日本の航空自衛隊准曹士先任(准空尉をもって補職)に相当。
- 上級部隊等下士官兵先任(別の訳語:上級部隊等最先任上級曹長) Command Chief Master Sergeant
- 航空団以上の部隊司令部にそれぞれ配置される。
- 下士官兵先任(別の訳語:部隊等最先任上級曹長) First Sergeant
- 65名以上の下士官・兵を擁する編制単位部隊に配置され、更に上級の部隊の下士官兵先任(最先任上級曹長)になっていく者もいる。固有の特技職であり、下士官・兵の福利厚生、士気、健康管理及び規律維持、訓練・教育等に関し、当該部隊長の補佐に任じている。ほとんどの部隊では曹長が下士官兵先任(最先任上級曹長)に指定されるが、部隊の規模によっては上級曹長や最上級曹長が下士官兵先任に指定される。日本の准曹士先任に相当。
- 最上級曹長 Chief Master Sergeant
- 上級曹長 Senior Master Sergeant
- 曹長 Master Sergeant
- 技能軍曹 Technical Sergeant
- 軍曹 Staff Sergeant
- 兵長 Senior Airman
- 上等兵 Airman First Class
- 一等兵 Airman
- 二等兵 Airman Basic
- 空軍下士官兵先任(別の訳語:空軍最先任上級曹長) Chief Master Sergeant of the Air Force
[編集] 軍団
|
アメリカ空軍は、司令部直属の9つの軍団によって組織されている。このほか、空軍サイバー軍団(AFCYBER)の設立が2006年にアナウンスされ、2008年中に開設予定である。
軍団 | 司令部の所在地 |
---|---|
航空戦闘軍団 (ACC) | バージニア州 ラングレー空軍基地 |
航空教育・訓練軍団 (AETC) | テキサス州 ランドルフ空軍基地 |
空軍資材軍団 (AFMC) | オハイオ州 ライトパターソン空軍基地 |
空軍予備役軍団 (AFRC) | ジョージア州 ロビンス空軍基地 |
空軍宇宙軍団 (AFSPC) | コロラド州 ピータソン空軍基地 |
空軍特殊戦航空軍 (AFSOC) | フロリダ州 ハルバートフィールド |
航空機動軍団 (AMC) | イリノイ州 スコット空軍基地 |
在欧空軍 (USAFE) | ドイツ ラムシュタイン空軍基地 |
太平洋航空軍 (PACAF) | ハワイ州 ヒッカム空軍基地 |
[編集] 航空軍
航空軍 | 司令部の所在地 | 軍団 |
---|---|---|
第1空軍 | フロリダ州 ティンダル空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) |
第2空軍 | ミシシッピ州 キーズラー空軍基地 | 航空教育・訓練軍団 (AETC) |
第3空軍 | 英国 RAFミルデンホール空軍基地 | 在欧米空軍 (USAFE) |
第4空軍 | ジョージア州 ロビンス空軍基地 | 航空機動軍団 (AMC) |
第5空軍 | 日本 横田空軍基地 | 太平洋空軍 (PACAF) |
第7空軍 | 韓国 烏山空軍基地 | 太平洋空軍 (PACAF) |
第8空軍 | ルイジアナ州 バークスデール空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) |
第9空軍 | サウスカロライナ州 ショウ空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) |
第10空軍 | テキサス州フォートワース 海軍航空基地統合予備役基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) 空軍予備役軍団(AFRC) |
第11空軍 | アラスカ州 エルメンドルフ空軍基地 | 太平洋空軍 (PACAF) |
第12空軍 | アリゾナ州 デイヴィスモンサン空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) |
第13空軍 | グアム島 アンダーセン空軍基地 | 太平洋空軍 (PACAF) |
第14空軍 | カリフォルニア州 ヴァンデンバーグ空軍基地 | 空軍宇宙軍団 (AFSPC) |
第15空軍 | カリフォルニア州 トラヴィス空軍基地 | 航空機動軍団 (AMC) |
第18空軍 | イリノイ州 スコット空軍基地 | 航空機動軍団(AMC) |
第19空軍 | テキサス州 ランドルフ空軍基地 | 航空教育・訓練軍団 (AETC) |
第20空軍 | ワイオミング州 フランシス E. ワーレン空軍基地 | 空軍宇宙軍団 (AFSPC) |
第21空軍 | ニュージャージー州 マクガイア空軍基地 | 航空機動軍団(AMC) |
第22空軍 | ジョージア州 ドビンス空軍予備役基地 | 航空機動軍団 (AMC) 空軍予備役軍団 (AFRC) |
各空軍は2個以上の航空師団(Air division)からなり、各航空師団は2個以上の航空団 (Wings) からなる。
[編集] 航空団
航空団 | 所在地 | 軍団 | 航空機等 |
---|---|---|---|
第2爆撃航空団 (BW) | ルイジアナ州 バークスデール空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | B-52H |
第5爆撃航空団 | ノースダコタ州 マイノット空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | B-52H |
第149戦闘航空団 (FW) | - | テキサス州空軍(ANG) | F-16 |
第15航空団 | ハワイ州 ヒッカム空軍基地 | 太平洋空軍 (PACAF) | - |
第18航空団 | 日本 嘉手納基地 | 太平洋航空軍 (PACAF) | F-15C F-15D KC-135R E-3 |
第1戦闘航空団 | バージニア州 ラングレー空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | F-15C |
第21宇宙航空団 | コロラド州 ピーターソン空軍基地 | 空軍宇宙軍団 (AFSPC) | 人工衛星 |
第30宇宙航空団 | カリフォルニア州 ヴァンデンバーグ空軍基地 | 空軍宇宙軍団 (AFSPC) | - |
第319空中給油航空団 | ノースダコタ州 グランドフォークス空軍基地 | 航空機動軍団 (AMC) | KC-135 |
第347救難航空団 | ジョージア州 ムーディ空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | HH-60 |
第355航空団 | アリゾナ州 デイヴィスモンサン空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | HH-60 |
第36航空団 | グアム島 アンダーセン空軍基地 | 太平洋空軍 (PACAF) | - |
第376航空遠征航空団 | アフガニスタン バグラム空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | - |
第39航空団 | トルコ インサーリク空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | - |
第412試験航空団 | カリフォルニア州 エドワーズ空軍基地 | 空軍資材軍団 (AFMC) | F-15E |
第49戦闘航空団 | ニューメキシコ州 ホロマン空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | F-117A |
第50宇宙航空団 | コロラド州 シュリーヴァー空軍基地 | 空軍宇宙軍団 (AFSPC) | 人工衛星 |
第509爆撃航空団 | ミズーリ州 ホワイトマン空軍基地 | STRATCOM | B-2A |
第57航空団 | ネヴァダ州 ネリス空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | - |
第6航空機動航空団 (AMW) | フロリダ州 マクディール空軍基地 | 航空機動軍団 (AMC) | KC-135 |
第60航空機動航空団 | カリフォルニア州 トラヴィス空軍基地 | 航空機動軍団 (AMC) | C-5B |
第62空輸航空団 | - | 航空機動軍団 (AMC) | - |
第90宇宙航空団 | ワイオミング州 フランシス E. ワーレン空軍基地 | 空軍宇宙軍団 (AFSPC) | ミニットマンIII ICBM |
第939救難航空団 | オレゴン州ポートランド | - | HH-60, KC-130 |
第99航空基地航空団 | ネヴァダ州 ネリス空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | - |
第89航空団 | メリーランド州 アンドリュース空軍基地 | 大統領航空団 | VC-25 |
航空団はいくつかの異なる機能を持つ作戦群 (groups) で構成される。作戦群はいくつかの飛行中隊(または飛行隊、squadrons)で構成される。ひとつの飛行中隊はひとつの任務を持つか、一種類の航空機を飛ばしている。飛行中隊は2個以上の飛行小隊 (flights) で構成される。
[編集] その他の組織
組織名 | 所在地 | 軍団 | 航空機 |
---|---|---|---|
空軍工科大学 | オハイオ州 ライトパターソン空軍基地 | - | - |
航空戦センター | ネヴァダ州 ネリス空軍基地 | 航空戦闘軍団 (ACC) | - |
オクラホマシティ航空兵站センター (ALC) | オクラホマ州 ティンカー空軍基地 | 空軍資材軍団 (AFMC) | - |
航空機動戦センター | ニュージャージー州 フォートディクス | - | - |
空軍報道局 | テキサス州 ラックランド空軍基地 | - | - |
[編集] 航空機
詳細は各国軍の航空配備一覧
- 攻撃機
-
- A-10/OA-10 サンダーボルトII
- F-117A ナイトホーク
- AC-130H/U スペクター
- UCAV(無人攻撃機)を開発中
- 輸送機
-
- C-130 ハーキュリーズ
- C-5 ギャラクシー
- C-17 グローブマスター III
- C-27J スパルタン
- C-9C - C-20 - C-21A - C-22B - C-37A - C-40B/C
- C-32
- 電子戦機など
-
- E-3C セントリー (早期警戒管制機 (AWACS))
- E-8C ジョイントスターズ
- E-4B NEACAP
- EC-130
- 捜索救難/特殊作戦支援機
-
- HC-130P/N
- MC-130E/H コンバット・タロンI/II - MC-130P コンバット・シャドウ - MC-130W コンバット・スピア
- HH-60G ペイブホーク
- MH-53J/M ペイブ・ロウIII/IV
- CV-22B
- 偵察機
-
- U-2S
- RC-135V/W リベットジョイント
- OC-135B オープンスカイズ
- UAV(無人機): RQ-1 プレデター - RQ-4 グローバルホーク - MQ-9 リーパー - RQ-11 レイヴン
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- アメリカ空軍公式サイト(英語)
- アメリカ空軍博物館(英語)