偵察機
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偵察機(ていさつき)とは敵性地域などの状況を把握するために情報収集を行う航空機のこと。軍隊で運用される事が多く、その場合は軍用機に分類されるが、なかには軍隊ではなく情報機関が運用するものもある(例:CIAの保有・運用していたU-2高高度偵察機など)。
[編集] 概要
偵察の種類として、空中写真による偵察を行う写真偵察機や電波を傍受する偵察を行う電子偵察機(広義の電子戦機)などがある。また偵察機には開発当初から偵察機として開発されたもの、他の用途に使われていたものを改造したもの、偵察機材が収納された整形容器を外部装備して偵察を行うものなどがある。
当初から偵察機として開発されたものではアメリカ軍のU-2やSR-71、改造されたものは航空自衛隊も装備するRF-4、偵察ポッドを装備するものにはF-14などがある。
現在、偵察衛星の利用は増大しているが、偵察衛星に比べ柔軟な運用が可能な航空偵察に対する需要がなくなったわけではない。
偵察衛星によるものだと、低軌道から静止軌道あたりを飛んでいるため、撃墜される可能性は極めて少ないものの、気象に大きく左右されるために霧のかかった所や雨、曇りの日などは撮影できない。また解像度も2007年現在のものでは50cm弱程度までとなる。
一方航空機では雨の降る中を近付いて撮影することも可能で、偵察衛星に比べ目標にずっと近いため解像度も良くなる。ただし当然ながら撃墜される危険性が高く、U-2のような超高空を飛行するもの(ただし結果としてミサイルの発達により撃墜された)、SR-71やMiG-25のように超高速飛行で、敵機やミサイルを振り切るものが存在する。また敵領域内まで侵入しなくとも、領域付近を飛行するだけでも、偵察衛星に比べればより精度の高い情報が得られる。
現在では、無人偵察機が注目を浴び、積極的に利用されるようになっている。従来の有人偵察機は、小型無人偵察機の母機として使用される事が多くなっている。
特に無人偵察機にする場合、人間が乗るスペースを必要としないために機体の大幅な小型化が可能で、レーダーに探知されにくくなる。また乗員の休憩時間を考えなくていいために長時間に渡る(極端に言えば燃料が切れるまで)偵察が可能である。これは軍用機としては大きなメリットである。
また偵察衛星では地上からほぼ垂直の偵察になるため、切り立った崖や峡谷、あるいはフィヨルドのような場所に横穴を掘り、そこに戦車などの兵器を隠したり身を潜めたりすると、探し出すのがとても難しくなる。しかし偵察機では地上から斜めの偵察が出来るため、そういった場所でも探し出すことが出来る。更に狭い場所の場合、上記の機体が小さくなることでメリットになる。
[編集] 歴史
空中より周辺を監視することによる軍事上のメリットは明らかである。そのため、人類初の実用的空中飛行機材である気球が開発されて間もない18世紀末にはすでにフランスで偵察機としての運用が開始されている。
南北戦争においては偵察用に水素気球が用いられている。初期の航空機は能力が低く、飛行することのみしかできなかったために、乗員による目視偵察しか行うことができなった。
第一次世界大戦時には気球に代わって、航空機が偵察機として広く使われるようになった。当時はまだ航空機がようやく誕生したばかりの時期であり、その航空機の初の実用任務が軍用偵察機であった。最初の頃は敵同士の偵察機パイロットが互いに手を振りあうような牧歌的光景も見られたが、やがて互いの偵察行動を妨害するために敵偵察機を攻撃する状況になり、戦闘機の誕生をみる。当時は爆撃や地上攻撃は実用化されておらず(ドイツの飛行船による爆撃は、単なる嫌がらせの域に留まっている)、主に味方偵察機の安全確保と敵偵察機の妨害のために、激しい航空戦が行われた。
空母や艦載水上機が実用化すると、海戦においても偵察機の役割は重要になった。敵を発見するのに目視以外に手段の無い時代において、敵がどこにいるのかを把握するには、実際に人間がそこに行くしかない。陸上であればそこに住む住人の駐留する監視要員からの通報によって敵の来襲を告げる事ができるが、何も無い海上の敵を探るには偵察以外に手段はない。従来の巡洋艦などの艦艇や船舶による偵察に比べて、航空機による偵察の優位は明らかであった。しかしながらレーダーの発達により、こうした艦隊の目としての偵察機の役割は終焉する。
レーダーの発達により、いわゆる索敵目的での偵察機は消滅した。地上戦力などレーダーでは察知できない敵を探るための機体は存在するが、それら地上戦力の目としての偵察目的の機体は観測機と呼ばれており、偵察機とは別のものとして扱われる。
現在の偵察機は、敵基地、その他軍事施設、生産施設などを偵察するのが主任務になっている。詳細は上記の概要で述べた通りである。