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きぼう - Wikipedia

きぼう

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

きぼう(NASDA)
きぼう(NASDA)
無重量環境プール内のきぼう実験モジュールの模型
無重量環境プール内のきぼう実験モジュールの模型
国際宇宙ステーションの完成予想CG。「きぼう」は中央手前右側に設置される。
国際宇宙ステーションの完成予想CG。「きぼう」は中央手前右側に設置される。

きぼう国際宇宙ステーションを構成する日本宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 保有の実験棟。計画時の呼称はJEM(Japan experiment module:日本実験棟)。

目次

[編集] 概要

日本はアメリカ合衆国1980年代に、西側諸国の結束の象徴として、国際宇宙ステーション建設を主張した当初から参加を訴えており、宇宙ステーション計画自体は幾度の変遷を経たが、日本の立場・方針は変わらず一貫して参加を表明してきた。そのなかで日本は費用面だけでなく、構成するモジュールの建設にも意欲を示し、宇宙開発事業団(NASDA・当時)が製造・保有・運用を担当することとなった。開発費用は約1800億円と見積もられている。

「きぼう」はスペースシャトルなどによって3度に分けて宇宙ステーションに運ばれ、組み立てられる予定で準備が進んでいる。当初は2006年平成18年)から2008年(平成20年)までに宇宙に運ばれ、運用が始まるはずであった。しかし、2003年(平成15年)2月にスペースシャトル「コロンビア」が空中分解、乗組員全員が死亡する事故が発生し、宇宙ステーション建設が遅れている。またNASAはシャトル使用を2010年までとしたため、この年でISS建設も実質、建設終了となると思われる。「きぼう」の打ち上げも相当な遅れが予想され、打ち上げ中止の可能性もあったが、2006年3月の日米協議によって、2007年(平成19年)から2009年(平成21年)に打ち上げることで最終合意した。

この合意に基づき、「きぼう」は2008年3月11日に打ち上げられたスペースシャトル「エンデバー」、ミッションSTS-123で宇宙に運ばれ、同月14日国際宇宙ステーションに取り付けられ、翌15日から運用が始まった(日付は全て日本時間)。

なお、打上げ後の年間維持費は300億円と予想される。しかしこれはあくまで「きぼう」の維持費のみであり、ISS参加国の義務として年間1~2回HTV(約140億円/機)をH-IIBロケット(約100億円/機)で打ち上げる必要があり、これを含めると一年間に必要な金額は最大800億円程度となる。これはJAXAの年間予算約1800億円の半分近くである。そのため、もしJAXAの予算が増やされないまま「きぼう」の本格運用が始まれば他のプロジェクトに回す予算がなくなり、「きぼう」以外の宇宙開発は大幅な停滞を余儀なくされることは確実である。なお、付け加えればJAXAの予算が増額される動きは皆無である。

「きぼう」には日本国の主権が及ぶことから管制は全て日本で行うが、電力・廃熱・姿勢制御などの宇宙基地としての基本的なインフラをアメリカ側モジュールから提供される為、対価として施設使用権の47パーセントをアメリカが保有している。また、カナダはカナダアーム2の提供により施設使用権の3パーセントを保有する。

ちなみに、「きぼう」という愛称は1999年に宇宙開発事業団(当時)が公募したものであり、この愛称を応募した総数は132人であった。宇宙開発事業団から組織改変された宇宙航空研究開発機構が、応募者名簿を2005年4月施行の個人情報保護法の下誤った認識により破棄し、「きぼう」の命名者も一時不明になっていたが、後に再発見された。

[編集] 船体

JEM「きぼう」は与圧部(室内実験棟・保管棟)・曝露部(船外実験プラットフォーム)・マニピュレーター(ロボットアーム)・補給部(保管棟・船外パレット)・衛星間通信システム(日本独自の双方向通信を行うもの)といった6つの主要部位で構成されている。


船内実験室
船内実験室

[編集] 船内実験室(PM)

きぼうの中心となる部位。地上と同じ1気圧の空気が保たれ、飛行士はシャツ一枚で過ごせ、最大4名が同時搭乗できる。主に微小重力環境を利用した実験を行う。内部にはきぼう全体のシステムを管理・制御する装置や実験設備が備えられた23個のラックを設置できるよう設計されており、そのうち10個は実験ラックを予定している。船外実験プラットフォームへの貨物の出し入れを行うエアロックも装備されている(サイズが小さいため宇宙服を着た人間の出入りはできない)。これらを使用して、天文観測、地球観測、材料の実験や製造、生活科学(宇宙医学・バイオなど)、通信などの実験が行われる。

船内実験室は、スペースシャトルが打ち上げるISSモジュールの中でも最大(デスティニーをも上回る)であるため、重量制限から打ち上げ時のスペースシャトルSTS-124センサ付き検査用延長ブーム(OBSS)を搭載できない。このため、直前に船内保管室を輸送したSTS-123は、OBSSをISSに残して帰還しており、STS-124はこれを使用して点検を行った後、地上へ持ち帰る予定である。また、船内実験室に搭載するラックも最小限とせざるを得ず、システム機器用ラックのうち5個を予め船内保管室で輸送した。船内実験室とともに打ち上げられるラックだけでは1系統のみのシステムとなるが、船内保管室からラックを移設することで、本来必要な2系統のシステムが構成できる。

  • 形状 - 円筒形
  • 直径(外径) - 4.4m
  • 直径(内径) - 4.2m
  • 全長 - 11.2m
  • 乾燥重量 - 15.9t
  • 搭乗員 - 通常2名、最大4名(時間制限)、居住設備は米国モジュールに依存
  • 搭載ラック - 総数23個
    • システム機器用ラック - 11個
    • 実験ラック - 10個
    • 冷蔵庫ラック - 1個
    • 保管ラック - 1個
  • 電力 - 直流120V・最大24kW
  • 通信制御 - 32ビット計算機システム、高速データ伝送最大100Mbps
  • 環境制御性能 - 温度:18.3~26.7度、湿度:25~70%
  • 寿命 - 10年以上
船内保管室
船内保管室

[編集] 船内保管室(ELM-PS)

軌道上で保管庫として使用される部位。日本が打ち上げた初の有人施設となった。実験室同様に1気圧が保たれ、8個のラックを搭載できる。打ち上げ時には船内実験室のシステム機器用ラック5個、実験ラック2個、保管ラック1個を搭載しており、これらは船内実験室打ち上げ後に移設される予定である。

当初計画では、スペースシャトルで持ち帰り、運用終了したラックや資料を地上に輸送したり、新しいラックや実験材料をISSへ輸送することを考慮していた。しかし、シャトル運用はISS完成と同時に終了するので、以後は船内保管室を地上に持ち帰る手段はなく、運用期間中に持ち帰る予定もない。

  • 形状 - 円筒形
  • 直径(外径) - 4.4m
  • 直径(内径) - 4.2m
  • 全長 - 4.2m
  • 乾燥重量 - 4.2t(打ち上げ時8.4t)
  • 搭載ラック - 8個
  • 電力 - 直流120V・最大3kW
  • 寿命 - 10年以上

[編集] 船外実験プラットフォーム (EF)

微小重力・高真空の宇宙曝露環境を利用して、科学観測、地球観測、通信、理工学実験、材料実験を行う多目的実験スペース。実験装置を取り付ける10の結合部があり、そこに船外実験装置や船外パレットを取り付け、また交換することができ、これによって様々な実験を行うことができる。

  • 形状 - 箱形
  • 幅 - 5.0m
  • 長さ - 5.2m
  • 高さ - 3.8m
  • 質量 - 4.1t
  • 実験装置取付け場所 - 12箇所
    • システム機器用 - 2箇所
    • 実験装置設置用 - 9箇所
    • 実験装置仮置き用 - 1箇所
  • 電力 - 直流120V・最大11kW
    • システム機器用 - 最大1kW
    • 実験装置用 - 最大10kW
  • 通信制御 - 16ビット計算機システム、データ伝送速度:最大100Mbps
  • 環境制御性能 - なし
  • 寿命 - 10年以上

[編集] 船外パレット (ELM-ES)

船外実験装置(MAXI,SEDA-AP)と衛星間通信システムの船外機器を搭載する。船内保管室と同様シャトルによる複数回の利用が想定されていたが、現状では往路のみとなる見込みである。

  • 形状 - フレーム型
  • 幅 - 4.9m
  • 長さ - 4.1m
  • 高さ - 2.2m(実験装置を含む)
  • 質量 - 1.2t(実験装置を含まない)
  • 実験装置取付け場所 - 3箇所
    • 実験装置2個+ORU 2~3個とすることも可能
  • 電力 - 直流120V・最大1kW
  • 環境制御性能 - なし
  • 寿命 - 10年以上

[編集] 衛星間通信システム(ICS)

きぼうの運用を効率的に行うため、船外実験プラットフォームには直径約80cmのアンテナを持つ装置を設置する。これとJAXAのデータ中継衛星こだまを利用して、筑波宇宙センターとの間でデータ・画像・音声などの双方向通信を行う。日本が独自に管制・運用を行うために必要不可欠な機材である。通信速度は、地上へのダウンリンクが50Mbps、地上からのアップリンクが3Mbpsとなっている。

[編集] ロボットアーム(JEM-RMS)

実験や船体の保全作業支援に使用する実用ロボット(マニピュレーター)。全長10mの親アームと、2.2mの子アームの二つの腕とアーム作業卓からなる。アームはそれぞれ6つの関節を持ち、人間の腕と同じような動作が可能である。

2005年(平成17年)10月23日にJAXAで一般公開された「きぼう」モジュール。右の黄色が船内実験室(模型)、その奥が船内保管室、中央やや左のビニールの中に船外実験プラットフォーム、左奥の青いビニールに包まれているのがロボットアーム
2005年(平成17年)10月23日にJAXAで一般公開された「きぼう」モジュール。右の黄色が船内実験室(模型)、その奥が船内保管室、中央やや左のビニールの中に船外実験プラットフォーム、左奥の青いビニールに包まれているのがロボットアーム

[編集] 実験装置

きぼうは実験施設であり、宇宙実験を行うことが利用目的である。スペースシャトルの重量制限のため、打ち上げ時には一部の実験装置しか搭載されておらず、2009年と2010年にHTVで実験装置を輸送して搭載する。以後の計画は未定であるが、きぼうの搭載スペースには余裕があり、引き続き新たな実験装置が搭載されると思われる。 なお、きぼうの利用権の47%は米国が保有しているため、実験装置の半数はNASAが設置する予定である。

[編集] 船内実験室実験装置

米国、欧州と共通の国際標準実験ラック(ISPR)を、JAXAが5基、NASAが5基設置する予定である。JAXAが設置するラックは以下の通り。

[編集] 流体実験ラック(RYUTAI)

1J/Aミッションで、船内保管室に搭載して打ち上げられた。1Jミッションで船内実験室に移設され、後日配線などが行われて使用可能になる。マランゴニ対流の観察や結晶成長実験などを行い、結晶生成メカニズムの解明や結晶成長制御技術開発を行うための実験を行う。

  • 流体物理実験装置(FPEF)
  • 溶液結晶化観察装置(SCOF)
  • 蛋白質結晶生成装置(PCRF)
  • 画像取得処理装置(IPU)

[編集] 細胞実験ラック(SAIBO)

1J/Aミッションで、船内保管室に搭載して打ち上げられた。1Jミッションで船内実験室に移設され、後日配線などが行われて使用可能になる。植物や細胞などを培養し、宇宙環境が生物に与える影響を解明するための実験を行う。

  • 細胞培養装置(CBEF)
  • クリーンベンチ(CB)
  • 軌道上冷凍冷蔵庫(MELFI)

[編集] 勾配炉ラック

2010年に、HTV2号機で打ち上げて設置する。資料を最高摂氏1600度まで加熱して融解、冷却、結晶化して半導体の性質を研究する。宇宙飛行士の手で同時に15個の試料を装着することができ、地上からの遠隔操作で試料の交換や実験操作が可能である。

  • 炉体部(GHF-MP)
  • 試料自動交換機構(SCAM)
  • 制御装置(GHF-CE)

[編集] 多目的実験ラック(MPSR)

2010年以降の設置に向けて、開発を進めている。

[編集] 船外実験プラットフォーム実験装置

船内実験装置と同じく、JAXAが5基、NASAが5基設置する。船外実験プラットフォームに取り付けた状態で打ち上げることはできないため、船外パレットか、HTVの曝露パレットに搭載して打ち上げ、ロボットアームで取り付けられる。

[編集] 宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)

2009年の2J/Aで、船外パレットに取り付けて打ち上げられる。人体や人工衛星に影響を与える各種の宇宙環境を計測する。3年間の計測を行った後、サンプル(材料曝露実験装置)をスペースシャトルで持ち帰り、残りはHTVで廃棄される予定とされている。実際には2010年にスペースシャトルの退役が決定しているため、2012年頃に利用可能な回収手段はソユーズのみである。

  • 中性子モニタ(NEM)
  • 重イオン計測装置(HIT)
  • プラズマ計測装置(PLAM)
  • 高エネルギー軽粒子モニタ(SDOM)
  • 原子状酸素モニタ(AOM)
  • 電子部品評価装置(EDEE)
  • 微小粒子捕獲実験装置(MPAC)
  • 材料曝露実験装置(SEED)

[編集] 全天X線監視装置(MAXI)

2009年の2J/Aで、船外パレットに取り付けて打ち上げられる。広視野のX線観測装置を備えて、ISSの公転により96分間隔で全天のX線映像を撮影し、突発的な天体現象の発生を発見する。

[編集] 超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)

2009年に、HTV1号機で打ち上げて設置する。成層圏の大気に含まれる微量な物質が放射するサブミリ波を計測し、オゾン層の観測を行う。

[編集] 開発担当企業

[編集] 打ち上げ予定

きぼうの各部位・機材は3度に分け、スペースシャトルで宇宙空間に運ばれ、その都度、ISS本体と接続される。

1J/Aミッション後
1J/Aミッション後
1J/Aミッション
  • ミッションナンバー:STS-123、打ち上げオービター「エンデバー
  • 打ち上げ部位:船内保管室
  • 打ち上げ年月日:2008年(平成20年)3月11日
  • JAXA任務飛行士:土井隆雄(保管室の取り付け及び室内の設定作業)
  • 1J/Aは日本と米国の宇宙ステーション機材を同時に運ぶミッションの1回目を表している。米国側機材は特殊目的ロボットアーム「テクスター」。
  • 保管室には実験ラックなどが積み込まれた状態で打ち上げられ、暫定的にISS本体へ直接接続される。
1Jミッション後
1Jミッション後
1Jミッション
  • ミッションナンバー:STS-124、打ち上げオービター「ディスカバリー
  • 打ち上げ部位:船内実験室、ロボットアーム
  • 打ち上げ年月日:2008年(平成20年)6月1日
  • JAXA任務飛行士:星出彰彦(実験室の取り付け及び室内の設定作業)
  • 1Jは日本の機材のみを運ぶミッションの1回目を表す。
  • 実験室をISS本体に取り付け後、保管室を実験室に移設し接続する。
2J/Aミッション
  • ミッションナンバー:STS-127、打ち上げオービター未定
  • 打ち上げ部位:船外実験プラットフォーム、船外パレット、衛星間通信システム(船外機器)
  • 打ち上げ年月日:2009年3月(予定)
  • JAXA任務飛行士:若田光一(2008年秋以降から第18次長期滞在クルーとしてISSに滞在。打ち上げ各部位の船体取り付け及び設定作業。本任務終了後、STS-127にて帰還予定。)
  • 日本と米国による2回目の同時打ち上げ。

[編集] 「きぼう」に関連する計画

[編集] セントリフュージ

*詳細はセントリフュージを参照

日本は「きぼう」打ち上げの見返りとして、アメリカ航空宇宙局(NASA)の実験棟「セントリフュージ」における重力発生装置などの開発・製造を行い、宇宙空間にてアメリカに引き渡す予定であった。だが2005年(平成17年)8月31日に発表されたNASAの変更計画で「セントリフュージ」計画は中止され、日本における開発も終了した。NASAとはその後の調整によって、開発品の一部を納入することにより、契約を完了すること、及び「きぼう」の打ち上げについて合意している。装置本来の目的であった生命科学の発展に貢献することはできなかったが、「きぼう」打ち上げの対価と言う意味においては、成功を収めたと言えるであろう。

[編集] HTV

日本は1997年(平成9年)から、米国のスペースシャトルやロシアソユーズなどに頼らず、地球からISSへ物資を輸送する独自の宇宙輸送システムを開発することを決定した。これはHTV (H-II Transfer Vehicle) と呼ばれる機体で、全長10メートル弱、直径4メートルの円筒形で、推進モジュール・電気モジュール・キャリアの三区画からなる。こちらは2009年(平成21年)度の使用開始を予定している。

[編集] 外部リンク

ウィキメディア・コモンズ


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