LE-5B
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H-IIAロケットの第二段エンジンで、H-Iロケットの第二段エンジンであるLE-5の流れをくみ、H-IIロケットの第二段エンジンLE-5Aをもとに主にコストダウンをはかった改良型。推進剤は液体酸素(LOX)と液体水素(LH2)で真空中推力は137.2kN(=14トン)。
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[編集] 概要
LE-5BはH-IIAロケットの第二段用として、1995年から2000年にかけて開発された。主目的は信頼性の向上と製造コストの削減であり、そのためエンジンの性能の指標となる比推力は447秒と、LE-5(450秒)、および5A(452秒)よりもわずかに低い。
LE-5ファミリーは再着火能力を持つが、特にLE-5Bはロケットエンジンとしては世界初の再々着火が可能である。これによりアポジエンジンなしに直接衛星を静止軌道に投入することも可能である。
H-IIロケット8号機に使用されたが、第一段にトラブルが発生し指令破壊が行われたため、実際に使用されず、実際に使用されたのはH-IIAロケット一号機が最初となる。現在まで失敗に直結するような重大なトラブルは起こしていない。
宇宙開発事業団(NASDA) が開発、製造は三菱重工業(燃焼器及び艤装)、石川島播磨重工業(ターボポンプ)。
[編集] 構造
エンジンサイクルはLE-5Aと同じエキスパンダブリードサイクルと呼ばれる型式で、燃焼器を冷却した水素ガスでLH2ターボポンプ及びLOXターボポンプのタービンを直列に駆動する。ただしLE-5Aは燃焼室とノズルスカートの両方でLH2の吸熱を行っていたが、LE-5Bでは燃焼室のみで吸熱をしている。そのため、LE-5Aは「ノズルエキスパンダブリードサイクル」、LE-5Bは「チャンバエキスパンダブリードサイクル」と分類し呼ばれることもある。ノズルスカートに配管が通ってないため、LE-5Bではノズルスカートを取り外した状態で大気圧中で燃焼試験が行える。対し、LE-5Aはノズルスカートを取り外せず、つけた状態で大気圧中で燃焼させるとノズル流れが剥離するため、専用の高空燃焼試験設備が必要であった。
LE-5Bでは上記のように燃焼室のみでLH2の吸熱をしているため、吸熱量を稼ぐために燃焼室がLE-5Aよりも長くなっている。また燃焼室の構造も、LE-5Aの純ニッケルチューブをろう付けした管構造から、LH2を流す溝を掘った無酸素銅の内筒と、その外側の銅電鋳層からなる「銅電鋳溝構造」と呼ばれる構造に変更された。これはH-IIロケット5号機での事故(LE-5A燃焼室のチューブ間ろう付け部が破損)を踏まえたものである。
燃焼室に燃料・酸化剤を噴射する噴射器も製造コスト削減のためLE-5・5Aより簡略化されており、同軸型の噴射エレメントが208個から127個に減少している。
[編集] 主要諸元
LE-5 | LE-5A | LE-5B | |
---|---|---|---|
燃焼サイクル | ガスジェネレータサイクル | エキスパンダブリードサイクル (ノズルエキスパンダ) |
エキスパンダブリードサイクル (チャンバエキスパンダ) |
真空中推力 kN | 102.9 | 121.5 | 137.2 |
混合比 | 5.5 | 5 | 5 |
膨張比 | 140 | 130 | 110 |
真空中比推力 s | 450 | 452 | 447 |
燃焼圧力 MPa | 3.65 | 3.98 | 3.58 |
LH2ターボポンプ回転数 min-1 | 50,000 | 51,000 | 52,000 |
LOXターボポンプ回転数 min-1 | 16,000 | 17,000 | 18,000 |
全長 m | 2.68 | 2.69 | 2.79 |
質量 kg | 255 | 248 | 285 |
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
「機械工学便覧 応用システム編γ11 宇宙機器・システム」(日本機械学会編,2007年) ISBN 978-4-88898-154-5