H-Iロケット
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H-Iロケット(えいちわん-・えいちいち-)は、宇宙開発事業団 (NASDA) がN-IロケットとN-IIロケットに続いて人工衛星打上げ用に開発・実用化したロケットである。
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[編集] 概要
Nロケットに引き続き米国のデルタロケットの技術を導入して作られているが、第2段ロケットや慣性誘導装置を国産化しており、N-IIでデルタロケットに回帰した国産部分を取り戻したとも言える。次世代のH-IIロケットへの重要なステップと言えるものの、全体から見れば、まだまだデルタロケットの亜流の域を出る事ができなかった。H-Iロケットと命名されているが実態はN-IIロケットの第二段を国産エンジンに置き換えただけであり、N-IIIと命名した方が良かったかも知れない(次世代ロケットは、H-IIと命名されているが技術的には、N-IIからH-Iに変わった以上の開きがある)。
但し、2段目用液体酸素・液体水素燃料のLE-5型エンジンを自主技術で開発できたことは、次世代のH-IIロケットの1段目用LE-7型エンジンの実現に道筋をつけた点で意義が大きい。LE-7の実用化にはそれにもかかわらず大変な努力を要したわけであるが、LE-5の経験が無ければさらに難易度が高くなったといえる。
H-I試験機(第1号機)は1986年(昭和61年)8月13日の打ち上げに成功、1992年(平成4年)まで合計9機を打ち上げ、すべて成功した。これにより「さくら」「ひまわり」「ゆり」など実用静止衛星の打上げを順調にこなし、さらに複数衛星の同時打上げの技術習得も行った。
[編集] 諸元
- 構成
3段式の液体+固体ロケット
- 1段目: MB3-3型エンジン(推進剤はケロシンと液体酸素)を使用したN-IIとほぼ同じもの。
- 1段目補助ロケット: N-IIロケット同様のキャスター2型9本。
- 2段目: NASDAと三菱重工業、石川島播磨重工業、航空宇宙技術研究所が開発したLE-5型液体ロケット(推進剤は液体酸素・液体水素)で、軌道上再着火が可能。
- 3段目: 日産自動車が国産化した固体ロケットエンジンを使用。
- ペイロード・フェアリング: 米国製を完成品で輸入。
- 誘導装置: 国産化した慣性誘導装置を搭載。
- 大きさ
- 全長 40.3m
- コア直径 2.44m
- 全備重量 260,000kg(ペイロード除く)
- 打上げ能力
低軌道(LEO)に2,200kg、静止軌道(GEO)に550kgのペイロードを投入可能(ただし、燃焼後のアポジモータを含む重量)。
[編集] 打ち上げ実績
機体 | 打上げ年月日 | 衛星 | 命名前 | 目的 | 軌道 | 備考 |
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試験機1号機 | 1986年8月13日 | あじさい | EGS | 測地実験衛星 | LEO | |
MABES | 磁気軸受フライホイール実験装置 | LEO | ||||
ふじ | JAS-1 | アマチュア衛星1号 | LEO | Fuji-Oscar-12, FO-12 日本初のピギーバック衛星 |
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試験機2号機 | 1987年8月27日 | きく5号 | ETS-V | 技術試験衛星V型 | GSO | 3段式 |
3号機 | 1988年2月19日 | さくら3号a | CS-3a | 通信衛星3号-a | GSO | |
4号機 | 1988年9月16日 | さくら3号b | CS-3b | 通信衛星3号-b | GSO | |
5号機 | 1989年9月6日 | ひまわり4号 | GMS-4 | 静止気象衛星 | GSO | |
6号機 | 1990年2月7日 | もも1号b | MOS-1b | 海洋観測衛星1号-b | LEO | |
DEBUT | 進展展開機能実験ペイロード | LEO | ||||
ふじ2号 | JAS-1b | アマチュア衛星1号-b | LEO | Fuji-Oscar-20, FO-20 | ||
7号機 | 1990年8月28日 | ゆり3号a | BS-3a | 放送衛星3号-a | GSO | |
8号機 | 1991年8月25日 | ゆり3号b | BS-3b | 放送衛星3号-b | GSO | |
9号機 | 1992年2月11日 | ふよう1号 | JERS-1 | 地球資源衛星1号 | LEO |