蒸気機関車
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蒸気機関車(じょうききかんしゃ)とは、蒸気機関によって動く機関車のことである。日本では Steam Locomotive の頭文字をとってSL(エスエル)とも呼ばれる。
蒸気機関車、または蒸気機関車が牽引する列車のことを汽車とも言う。ただし、地域や世代によっては、電気で動く物も含めて全ての列車のことを「汽車」と呼んだり、国鉄・JRを「汽車」、路面電車や私鉄を「電車」と呼んで区別したりする場合がある(このような「汽車」の用法については「汽車」を参照のこと)。また、明治時代には蒸気船に対して陸の上を蒸気機関で走ることから、「陸蒸気」(おかじょうき)とも呼んでいた。
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[編集] 蒸気機関車の分類
[編集] 駆動方式による分類
- ピストン式
- 蒸気の圧力をシリンダーに導きピストンを作動させることで往復運動に変換し、その往復運動で動輪を駆動する方式で、広く普及した。
- タービン式
- 発電式
- 車上のボイラーで発生させた蒸気を、蒸気タービンや多気筒式蒸気エンジンに導き電力を発生させ、電気モーターにより駆動する方式である。アメリカなどに存在したが、試作段階にとどまった。一見するとディーゼル機関車のようで、とうてい蒸気機関車には見えないものが存在する。
[編集] 動力伝達方式での分類
- ロッド式
- ピストンの往復運動をロッドで直接的に動輪に伝達する方式。シリンダーとメインロッドと動輪そのものがレシプロエンジンを構成するが、通常はレシプロと言う用語を用いない。ほとんどの蒸気機関車がこの方式を採用している。
- 歯車式
- ピストンの往復運動を回転運動に変換し、その回転運動を歯車により間接的に動輪に伝達する方式、もしくはピストンの往復運動をクランクシャフトで回転運動に変え、シャフトとギアで動輪に伝達する方式。詳しくはギアードロコの項を参照。
- チェーン式
- ピストンの往復運動を回転運動に変換し、その回転運動をチェーンにより間接的に動輪に伝達する方式。自転車と似た原理である。ロッドを動輪に接続する必要が無いため構造が簡便であるが、信頼性やチェーンの耐久性が低く普及しなかった。後述するバヴァリア号や、アメリカの森林鉄道でハンドメイドされた一部の車両がこの方式を採用している。
- 摩擦式
- 動輪を上下2段に付け、上段の動輪をシリンダーで駆動し、下段の無動力の車輪を摩擦により間接的に駆動する方式。歯車比の理論を当てはめて考案されたもので、速度を上げる場合は上段を大きく、下段を小さくし、牽引力を上げる場合には上段を小さく、下段を大きくするという物であるが、実際には成果を上げず摩擦機構の問題も多かったため実用化しなかった。主な形式は1876年ドイツのエルザス・ロートリンゲン鉄道向けに製造されたものであり、D7形451号「ファゾルト」という形式を与えられ1906年まで在籍していた。上段と下段の車輪径の比率は1:3で、牽引力を重視したため最高時速はわずか時速10kmだった。後に似た方式をアメリカのホールマンとユージーン・フォンテインがそれぞれ考案している。
[編集] エネルギー源による分類
- 化学燃料(有機燃料)
- 石炭やコークス、重油などの化石燃料、その他薪やガスなどの炭素資源を燃焼させることにより熱エネルギーを発生させ、これによりボイラー内の水を沸騰させて蒸気を得る方式である。蒸気機関車の殆んどがこの方式で、燃料には主に石炭、コークスが用いられる。旧国鉄の制式機では蒸気機関車時代の後期に補助重油タンクを装備し、勾配区間などパワーが必要な際に重油を投入したほか、C59の127号機が重油のみを燃料とする重油専燃機であったことで知られている。海外では重油専燃機がある程度普及した。タイなどの東南アジア各国では薪が多く使われた。変わった例としては、東南アジアの製糖工場で、砂糖の原料となるサトウキビの絞りかす(バガス)を機関車の燃料として用いた例が多くある。
- 圧力の外部供給
- ボイラーを有さず、外部から熱水とともに高圧蒸気を供給し、それをタンク内に蓄圧してピストンを駆動する方式を無火機関車と言う。一般的に蓄圧に2~3時間以上を要するにもかかわらず、その走行可能距離は著しく短いが、火を使わず煤煙なども一切出さないため、火気厳禁の産業施設などで使用された。また、高圧蒸気と熱水の代わりに圧搾空気を用いた圧搾空気機関車や、走行可能な距離が短いという欠点を改善するために、アンモニアや苛性ソーダなどの化学薬品を使用する車両も製作された。日本では無火機関車が1963年まで八幡製鐵構内で数多く使われていた他、浜川崎から分岐するシェル石油(現・昭和シェル石油)の精油所引き込み線で1960年代まで使用されていたことが知られている。海外では観光用としての活動も伝えられており(ドイツのマンハイムの産業博物館など)、現在も南米などで商業用として稼動している可能性がある。
- 電力
- 架線から運転台天井部に取り付けたパンタグラフで集電し、その電気エネルギーでボイラー内の水を沸騰させて蒸気を得るという機関車がスイスに存在した。これはSBB(スイス国鉄)のE3/3形と呼ばれる軸配置0-6-0の入れ替え用タンク機関車であり、第二次世界大戦中の石炭の入手難に対応すべく2両が試作されたものである。この形式の場合、電気を動力源(熱源)としているが、電動機や電磁石など、電気のみによって駆動力を得ているわけではなく、電力はあくまで熱源としてボイラーの加熱にのみ用いられ、最終的には蒸気で動輪を駆動するため、電気機関車ではなく蒸気機関車に分類される。
- 原子力
- 搭載した原子炉で蒸気を発生させ、蒸気タービンで発電しモーターを駆動する方式で、発電式機関車の一種である。主に1950年代と1970年代に計画されたが、重量が極端に大きくなる、放射能漏れの危険性があるなどの問題により、実現した例は無かった。
- ハイブリッド
- 蒸気機関とディーゼル機関を両方搭載した、ハイブリッド方式の機関車が試作された。1926年にイギリスのキトソン社がスティル社のディーゼルエンジンを使用してLNER鉄道向けに試作機が製造され、1934年まで試験が行われたが、ボイラーなどに問題が多く実用化しなかった。
[編集] ボイラーによる分類
- 飽和式
- ボイラーで発生させた蒸気(飽和蒸気)を直接シリンダーへ導く方式。蒸気の膨張により温度が下がると水滴が凝結した。蒸気の持つエネルギーが少なく、効率もよくない。
- 過熱式
- ボイラーで発生させた蒸気を細いパイプ(過熱管)で煙管内に導き、再過熱する方式。蒸気機関車の出力向上に大きく貢献した。理論上での提案はされていたが、高温の蒸気を使用するため、シリンダー潤滑油が改良されるまで実用化できなかった。
[編集] 火室による分類
- 狭火室
- 火室の幅が線路の幅より狭く、古典機や小型機に見られた。特に狭軌でしかも使用炭の品質も一般に良好とは言い難かった日本では十分な火格子面積=火力が確保出来ず、高出力化の障害となった。
- 広火室
- 火室の幅が線路の幅より広く、近代の大型機では一般的な方式である。広い火格子面積を確保出来るため、蒸気機関車の出力向上に大きく貢献した。小車輪径の貨物型では動輪の上に広火室を配置するものもあったが、大きな動輪を持つ高速用機関車では動輪の後ろに広火室を配置することになるため、狭火室よりも全長が長くなる。その為、小型機やタンク機では最後まで動輪の内側に配置出来る狭火室を採用するものも多かった。
- 燃焼室の設置
- 蒸気機関車の燃料として最も望ましい瀝青炭の燃焼時の炎は長く、火室内では収まりきらないので、ボイラー前方に副室を設けこれを燃焼室と呼んだ。燃焼室を設けることにより高温の炎からの輻射熱を十分に吸収でき、効率が向上した。また、燃焼時間が長くなったことにより煤煙の発生が減少し、煙管の詰まりも防がれた。日本の国鉄では8200形製造時に導入のチャンスがあり、またメーカー側も推奨していたにもかかわらず、ドイツ流の長煙管設計に固執したため採用が著しく遅れ、戦時設計で極限性能発揮が求められたD52形でようやく採用された。外見から燃焼室の有無を知るには火室の前方にも洗口栓があるかどうかを調べればよい。
- 特殊な火室
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- ベルペヤ火室
- ベルギーの鉄道技術者、A・ベルペヤが考案した火室形状で、内火室と外火室の形状を相似形にしているため、内火室を支えるステイの形状を単純にでき、缶水の循環が良く水垢の付着が少ないという利点を持つ。上部が角張った形状が特徴であるが、円筒形の煙管部との接合工作が難しいという欠点がある。
- ウーテン火室
- 広火室の一種で、外見上は下部が大きく広がっているのが特徴である。質の悪い石炭を燃焼させるためのもので、日本では日本鉄道が質の悪い常磐炭を使用するために、一部の形式で採用した。
[編集] 弁装置による分類
日本の国有鉄道に在籍した蒸気機関車の弁装置の種類は次のとおりであった。
- スチーブンソン式(基本形、ハウ形、アメリカ形) - 初期の蒸気機関車の標準型として広く用いられた。弁室は、基本形ではシリンダの内側に置かれるが、アメリカ形では上部に置かれる。
- アラン式(トリック式)
- ジョイ式(基本形、ウェッブ形)
- ベーカー式(深川形)
- 宇佐美式
- マーシャル式(ヴィンターツール形、コッペル形)
- グレズリー式 - 3シリンダ式機関車の中央シリンダ用に使用される方式で、左右の弁装置の動きを合成することで、中央シリンダの弁装置を作動させる。
- ワルシャート式(ヘルムホルツ形、ホイジンガー形) - 近代の大型蒸気機関車の殆んどがこの方式で、動作機構が全て動輪の外側にあるため、整備性が良い。
[編集] 気筒数による分類
- 1気筒(単気筒)
- 蒸気機関車の黎明期に存在した。また、1857年、ニールソンが1気筒の小型機を製造し、多くがスコットランドの炭鉱や製鉄所で使用された。
- 2気筒
- ごく一般的な方式である。2組の気筒(シリンダ)があるため、より円滑な動作が可能である。ロッドが死点に位置して、起動不能となるのを防ぐため、左右の位相は90°ずらされている。日本の国有鉄道においては右側先行が原則であったが、9600形など左側先行の例外も少数ながら存在した。
- ギアードロコではV形配置のものも見られる。
- 3気筒・4気筒
- 国鉄ではC52・C53が3気筒である。構造が複雑で整備性が悪く、特に狭軌の日本では運用に労が多くC53以降は採用されなかったが、メインロッドを3本とすることで死点をそれぞれ120゜ずらし、ハンマー・ブロー現象を抑えることができる利点があり、さらに複式とすることで蒸気を有効に利用出来るため、欧州などでは普及した。日本のC53は停車時のロッドの位置によっては発車不能になることがあり、問題視された。
- 碓氷峠で使用されたアプト式機関車は、動輪用の駆動装置の他に歯車用の駆動装置を別に備えており、4気筒式であった。
- ギアードロコでは、ボイラー脇にシリンダーを垂直に並べた、インライン(直列)配置が一般的。
[編集] 使用済み蒸気による分類
- 単式
- ボイラーで発生させた蒸気を一度だけ使用するのが単式で、ごく一般的な方式である。
- 複式(2段膨張式)
- 単式に対して、一度使用した蒸気を、もう一度別のシリンダに送り込んで再使用するのが複式である。一度使用した蒸気は圧力が下がるので、1次側(高圧)のシリンダより2次側(低圧)のシリンダの方が径が大きくなる。スイス人のアナトール・マレー(Anatole Mallet)が1874年に特許を取得し、1876年に実用化に成功した。
- 複式には種々の方式があり、左右のシリンダをそれぞれ高圧・低圧とした2シリンダ式、左右のシリンダそれぞれに高圧・低圧のシリンダを装備した4シリンダ式、高圧・低圧の2組の走り装置を有するマレー式(後述)などがある。日本においては、山陽鉄道が4シリンダ複式(ボークレイン複式)を積極的に導入したほか、明治時代末期に国有鉄道がマレー式を一時大量輸入した程度で、他にはほとんど普及しなかったが、1893年に官設鉄道神戸工場で製作された国産第1号機関車(860形)が2シリンダ複式(ワースデル複式)であったのは特筆される。
- 復水式
- シリンダーで使用した蒸気を回収し、コンデンサー(凝縮器)で水に戻して再利用する方式。水の便の悪い地域で用いられる。
[編集] 車軸配置による分類
詳細は車軸配置を参照
蒸気機関車にとって、動輪と従輪の配置は非常に重要な要素である。これによって、機関車の用途が決まってしまうといっても過言ではない。動輪径を大きくすれば同一回転速度で運転速度を高くできるが、機関車全体が一定の長さに収まるようにするには、動軸数を減らすことになり、牽引力が低下する。そのため、高速が要求される旅客列車牽引向けということになる。逆に動輪数を増やせば牽引力は増すが、その分動輪径は小さくせざるを得なくなり、速度性能が犠牲になることになるため、貨物列車牽引や急勾配区間向けということになる。
従輪については、機関車重量の一部を負担するばかりでなく、先従輪には曲線通過時に、動輪をスムーズに導く機能があり、高速を要求される旅客用機関車では、2軸としたボギー台車が装備されることが多い。一方で、貨物用機関車では動輪上重量を増して粘着力を高めるため従輪の数は少なく、高速も要求されないため、より簡便な構造の1軸先台車が採用されることが多い。
[編集] 車体構成による分類
- タンク式
- 石炭及び水を機関車本体に搭載する方式、主に小型機が多いが、4100形、4110形、E10形など急勾配線専用の大型機にも採用例がある。小回りが利くなど長所があるが、長距離走行ができないなどの、短所がある。
- テンダー式
- 石炭や水をテンダー(炭水車)に積載し、機関車本体に牽引させる方式。通常、機関車本体と炭水車を分離して運用することはないが、検査時は切り離しが可能である。長距離走行ができるなど、長所があるが、バック走行や、小回りが利かないなどの短所がある。
- キャブ・フォワード型
- テンダー式機関車のうち、機関車本体の前後を逆にしたもの。キャブ(運転室)を最前部に設けることにより機関士は煙害から免れることが出来、また良好な前方視界を得た。ドイツや、アメリカのカリフォルニア州の山岳地帯のトンネルが多い線区で使用された。
- キャメルバック型(キャブ・ミドルワード型)
- テンダー式機関車のうち、機関車の中央に運転台が位置しているもの。詳細はキャメルバック式蒸気機関車の項を参照。
[編集] 関節式機関車
1両の機関車に2両分以上の走り装置を装備し、出力強化や曲線通過の容易化を図ったもの。
- ボイラーの下に2組の走り装置を設けた方式。後部動力台車はボイラーに固定されていて、高圧蒸気の供給を受けてシリンダーを駆動し、その排気を左右に首を振れる前部動力台車に送って径の大きな低圧シリンダーを再度駆動する複式機関車である。大型機が急曲線を通れるようにし、効率も上昇させることができる方式である。なお、出発時はインターセプト・バルブと呼ばれる弁を操作することで前部台車にも高圧蒸気を供給する。複式機関車の実用化に成功したアナトール・マレーが考案し1884年に特許を取得した。最初の機関車は1887年にベルギーで製造され、1889年のパリ万国博覧会に出品された0-4+4-0形機である。
- 構造が複雑で取り扱いが煩雑であり、高速性能では通常型機関車に見劣りするが、機構上空転発生が抑止されるという大きなメリットがある。日本では9750形・9800形・9850形(いずれも0-6+6-0)が存在したが、短命であった。狭義の「マレー」はマレー式機関車の中でも0-6+6-0の動輪配置のもののみを指す。日本では0-4+4-0配置としてタンク式の4500形や4510形、あるいはテンダー式の9020形が存在したが、この内9020形はマレーに満たないと言う意味で「ベビーマレー」と呼んだ。実際には製造されなかったが、旧ソ連では2-4-4-2+2-8-8-2+2-4-4-2という超大型のマレーが5フィートゲージ用に計画され、6000馬力を発揮する予定であった。このマレーはフランコ・クロスティ式という特殊なボイラーを採用していた。
- 単式膨張型関節式(単式マレー式)
- 日本にはない形式で、simple expansion articulated engine の訳語である。本来のマレー式は複式であるがこれは前部・後部のシリンダーが同径で、同じ圧力の高圧蒸気が供給される単式となっている。1910年代後半になって、関節式機関車の設計・製造・保守において問題となる自在継手式蒸気管の蒸気漏れの問題がある程度解消され、マレー式では低圧蒸気が供給されていた前部シリンダーへ後部シリンダーと同じ高圧蒸気が常時供給可能となったことで実現を見た。アメリカのペンシルバニア鉄道で1919年に開発され、以後、アメリカで製造されたビッグボーイなどの超大型関節機関車はすべてこの方式を採用している。厳密にはこれらをマレー式と呼ぶのは誤りであるが、便宜上「単式マレー式」(Simple Mallet)と称されることがある。これらはほとんどが2組の走り装置を持つものであるが、中には炭水車を含め3組の走り装置を持つものもエリー鉄道向けなど、わずかながら存在した。また、実際には製造されなかったが、4組、5組の走り装置を持つものも計画された。
- なお、アメリカで最後までディーゼル化の波に抗し続けたノーフォーク&ウェスタン鉄道は、1950年代に入ってからも蒸気機関車の改良を続け、マレー式についてはトルクの必要な低速度域では単式、時速25km/h以上では複式、とそれぞれの特性を最大限生かして高性能を実現する機構を自社で独自開発し、実に1958年まで新造と在来車の改造により、この機構をマレー式の各形式に導入していた。
- ガーラット式
- 2組の走り装置を別々の車体に設け、その両車の間に跨ってボイラーを搭載した主台枠が首振り構造で載る方式。イギリスのハーバート・ウィリアム・ガーラット(Herbert William Garratt)により、列車砲をヒントとして1907年に考案され、ベイヤー・ピーコック社の協力で実用化された。大型機に多く見られたが、その最初の適用例となったタスマニア島政府鉄道K1形は610mm軌間の4+4配置であり、小型機にもこのタイプのものが少なからず存在した。走り装置上に水タンクが搭載され、その空積に関わらず常に死重となる炭水車が基本的に不要(しかも特に軸重制限の厳しい線区への入線時には、走り装置上の水タンクを空にして別途炭水車を連結することで軸重を標準より軽くすることも可能であった)、燃料・水の積載量が多く長距離を走行できる、ボイラー下が空間となるため、缶胴部や火室設計の自由度が高い、急曲線や勾配に強く高速化もマレー式以上に容易、車輪数が多くすることで1軸あたりの軸重を相対的に軽くでき、それでいて容易に牽引力の強化が可能となる、など様々な利点があり、インド、南アフリカなど英連邦所属の各国で多く採用された。もっとも、その勃興期が第一次世界大戦後であったため、日本では採用されなかった。計画だけに終わったが、ガーラット式の足回りをマレー式相当とする、ガーラット・マレー式機関車も提案されていた。なお、ガーラットは「ガラット」や「ギャラット」などと表記されることもある。
- フェアリー式
- 二つのボイラーを背中合わせに繋ぎ、その下に2組の走り装置を設けた方式。イギリスのロバート・F・フェアリー(Robert F.Fairlie)により1863年に考案され、イギリスやその影響下にあった国の軽便鉄道で使用された。2台の通常型タンク機関車を背中合わせに連結した形をしており、後述する双合式と似ている。急カーブに強い上、方向転換の必要が無いという利点があったが、ボイラーが運転台の中央を通っているため運転上不便であるという大きな欠点があったため、他の間接式に比べると普及しなかった。日本では鉄道連隊によりアメリカ製の1両のみ使用された。
- メイヤー式
- マレー式と同じくボイラーの下に2組の走り装置を設けた方式。後部動力台車がボイラーに固定されておらず、前後の動力台車がそれぞれ完全に独立しており、シリンダーが中央に寄っているのがマレー式と異なる点である。フランスのジーン・ジャック・メイヤーにより。1861年に考案され、主にヨーロッパの地方鉄道で使用されていた。1894年にイギリスのキトソン社により改良されキトソン・メイヤー式となる。こちらは南米やアフリカで使用されたが、地味な存在のまま終わった。また、バグナル社により改良された形式も存在した。
- マッファイ式
- ドイツのマッファイ社により、1851年のゼメリング・コンテストのために考案された方式。同社が製作したバヴァリア号に採用された。軸配置は4-4-6で全ての車輪が同径、前方の台車はシリンダーにより駆動され、そこから後部の台車へチェーンで動力を伝達する。チェーンは緩みがあるのでカーブに対応できるという理由で「コンテストで最も優れている」と賞を獲得したが、後に信頼性やチェーンの耐久性が低いことが明らかになり、実用化には至らなかった。
- ヴィーナー・ノイシュタット式
- ドイツのヴィーナー・ノイシュタット社により、1851年のゼメリング・コンテストのために考案された方式。同社が製作したノイシュタット号に採用された。ボイラーの下に2組の走り装置を設けた方式で、後のメイヤー式の原型となる。車輪の間に火室が出っ張っており台車の動きが制限されるのが欠点で、さらにヴィーナー・ノイシュタット社は間接式機関車用の特殊な部品を製作するのが初めてであったため、粗悪な部品が出来上がってしまい、これが問題視されて実用化に至らなかった。
- コッケリル式
- ベルギーのコッケリル社により、1851年のゼメリング・コンテストのために考案された方式。同社が製作したゼライング号に採用された。二つのボイラーを背中合わせに繋いだ構造で、後のフェアリー式の原型となる。その後似た方式がヨーロッパで何度か考案されたが、タンクを乗せるスペースが無いのが欠点であり実用化に至らなかった。
- ドゥ・ブスケ式
- フランスの北部鉄道(NORD)のみで使用された。
- ゴルウェ式
- アフリカで使用された。
- 双合式(ツヴァイリングロクス)
- 二両の通常型タンク式蒸気機関車を背中合わせに連結した形式。転車台の設置が困難で、軸重制限が厳しく、かつ一定の牽引力が要求される野戦軽便鉄道用としてドイツで考案された。ドイツ陸軍の影響下にあった日本陸軍も導入し、鉄道連隊にはA/B形と呼ばれる双合式機関車が400両あまり在籍していた。
[編集] 特徴
[編集] 長所
- 多種の燃料が使える(高熱量のものが望ましいが、およそ可燃物なら何でも 石炭以外には重油、薪、草などの例がある)
- 物理的に重量を抑える必要がある場合、電気機関車やディーゼル機関車より軽量化できる(ただし、牽引力は劣る)。
- 耐用寿命が長い。通常約30年程度、それ以降の運転は大規模な修繕や部品交換が必要とされるが、電気機関車やディーゼル機関車に比べて、延命が容易。(インドのダージリン・ヒマラヤ鉄道で使用されるイギリス製の蒸気機関車は最古のもので110年にわたり使用されている。)
- 発電所が破壊されても線路が無事なら走行できる。(弾丸列車はその観点から非電化の計画だった。)
[編集] 短所
- 機構が簡単だが調整が難しく、雑な調整ではうまく走れない(したがって修理作業に熟練を要する)。
- ただし、これに対して電気機関車が有利となるのは、VVVFインバータ制御が主流になってからと言える。
- 電気機関車やディーゼル機関車より燃費効率が悪く、牽引力も弱い
- 始動に時間がかかる。ボイラーの火入れ、蒸気の発生と数時間前から作業開始する必要がある。また走行終了後も石炭ガラの廃棄などの作業が必要。
- 運転には、走行操作をする機関士と、ボイラーに水や石炭を送る操作をする機関助士の2人が必要となるため、2倍の人員を必要とする(電気機関車やディーゼル機関車の場合1人で運転可能)
- 高温を発するボイラーを稼動させるために、運転士(機関士、機関助士)が過酷な労働を強いられる(とりわけ夏季の高温環境における石炭投入などの肉体労働の負担、冬季の寒気や雪の進入による肉体的負担)
- 性能が条件により変化し、一定しない(燃料の発熱量、タンク機関車の場合は燃料と水の残量も影響する)
- 有害な煤煙・ガスを排出(運転士、乗客、沿線住民いずれにとっても深刻な問題となった)し、大気汚染や酸性雨をもたらしたり、石炭は化石燃料なのでこれが燃焼することで地球温暖化の問題に繋がっている。
- 煙の火の粉により、時として火災を発生させる(藁葺きや木の屋根が普通であった時代には多発した)
- 保守に手がかかる
- 摩耗部分が多い
- ボイラー部などの熱・高圧疲労・耐用年数による老朽化
- 水垢の蓄積
- 国鉄の蒸気機関車全廃による機構部品の生産終了
- 稼動の多い付属品では交換が多く部品が不足(コンプレッサー、給水ポンプなど)
- 燃料と水を補給する必要があり、大型機では約100kmごとに補給が必要。そのため、駅や機関区などに水、石炭などの補給や、使用済みの石炭ガラ処理用の大型設備が必要となる。
- 設計上逆向き運転が考慮されておらず、転車台・デルタ線・袋状の小さな環状線など方向転換のための設備を必要とする(後年にはC11やC56など逆向き運転が容易な形式も出現した)
電気機関車・ディーゼル機関車は当初性能面における信頼性が低く、そのため蒸気機関車が日本では昭和後期まで使用されていたが、以上のように欠点が多いため、国鉄は「動力近代化計画」として1959年(昭和34年)より蒸気機関車を15年間で全廃する計画を立て、予定より2年遅れたが1976年(昭和51年)には完了させた。
[編集] 日本での歴史
- 日本の蒸気機関車史
- 軽便鉄道・産業鉄道
- 鉄道省、そして規模の大きな私鉄向けの蒸気機関車は規格化・国産化された。しかし資本力の小さな鉄道向けの小型蒸気機関車までは国は関与しなかった。軽便鉄道、産業鉄道に向けては主にドイツ、コッペル社の小型蒸気機関車が廉価で高品質であったこともあり、第一次世界大戦までは大量に輸入され続けた。
- その後は日本車輌製造、雨宮製作所、あるいは深川造船所などのメーカーによって国産化が進み、第二次世界大戦期には立山重工業などの手による規格化設計機関車の量産も実施された。
- 軍用鉄道
[編集] 稼動している蒸気機関車
- ダージリン・ヒマラヤ鉄道、ニルギリ山岳鉄道(世界遺産「インドの山岳鉄道群」を構成している。)
- 動態保存されている蒸気機関車(日本をはじめ、世界の複数の国で実施)。
- 保存鉄道の項目も参照。
- 日本国内については動態保存中の蒸気機関車を参照。
[編集] 海外の歴史
- イギリスの鉄道
- ドイツの鉄道
- アメリカ合衆国の鉄道
- フランスの鉄道
- ロシアの鉄道
[編集] 蒸気機関車の発明・開発に関わった主要な人物
- リチャード・トレビシック
- 1804年にイギリスで蒸気機関車を走行させる。鉄道史上初とされている。
- ジョージ・スチーブンソン
- 公共鉄道で走行する最初の蒸気機関車「ロコモーション号」を制作。さらに「ロケット号」で蒸気機関車の基本設計を確立した。
- ロバート・スチーブンソン
- ジョージ・スチーブンソンの息子。父とともに蒸気機関車の実用運転に貢献。
- マーク・イザムバード・ブルネル
- シールド工法でロンドンの地下鉄を建設した。
- イザムバード・キングダム・ブルネル
- 広軌のグレートウエスタン鉄道を建設した。
- マシュー・マレー
- 1812年、軌条の側面がラックレールの軌道を走る機関車サラマンカ号を走らせた。
- ナイジェル・グレズリー
- グレズリー式連動弁装置を開発。またA3形や蒸気機関車の速度記録を持つマラード号を設計した。
[編集] 代表的な形式
[編集] 日本の国有鉄道・JR
国鉄・JRの車両形式の一覧#蒸気機関車を参照せよ。
[編集] 東武鉄道
[編集] イギリス
- グレート・ウェスタン鉄道1000型蒸気機関車(カウンティ型)
- グレート・ウェスタン鉄道2900型蒸気機関車(セイント型)
- グレート・ウェスタン鉄道3252型蒸気機関車(デューク型)
- グレート・ウェスタン鉄道3300型蒸気機関車(ブルドッグ型)
- グレート・ウェスタン鉄道3700型蒸気機関車(シティ型)
- グレート・ウェスタン鉄道4000型蒸気機関車(スター型)
- グレート・ウェスタン鉄道4073型蒸気機関車(キャッスル型)
- グレート・ウェスタン鉄道4120型蒸気機関車(アタバラ型)
- グレート・ウェスタン鉄道4300型蒸気機関車
- グレート・ウェスタン鉄道4900型蒸気機関車(ホール型)
- グレート・ウェスタン鉄道6000型蒸気機関車(キング型)
- グレート・ウェスタン鉄道6959型蒸気機関車(ホール改型)
- サザン鉄道V型蒸気機関車(スクールズ級)
[編集] ドイツ
- T3
- ドイツ国鉄BR01形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR03形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR05形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR18形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR24形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR38形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR42形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR44形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR50形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR52形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR86形蒸気機関車
- ドイツ国鉄BR89形蒸気機関車
- S3/6
[編集] フランス
[編集] アメリカ合衆国
- ユニオン・パシフィック鉄道4000形蒸気機関車(ビッグボーイ)
- ノーフォーク&ウエスタン鉄道Jクラス蒸気機関車
- ニューヨークセントラル鉄道Jクラス蒸気機関車
- ペンシルベニア鉄道Kクラス蒸気機関車
- サザンパシフィック鉄道GS-4形蒸気機関車
[編集] 関連項目
[編集] 蒸気機関車の形式・車両
- 国鉄機関車の車両形式
- ギアードロコ
- マレー式機関車
- キャメルバック式蒸気機関車
- キャブフォワード
- 過熱式
- パニア
- サドルタンク
- ウェルタンク
- ダミー
- USRA
[編集] 蒸気機関車の機構
[編集] 蒸気機関車に関係する文化
[編集] 外部リンク
- 機関車技術研究会 蒸気機関車の技術についての情報を掲載している。
- Steamlocomotive.com (英語)主に北アメリカの蒸気機関車についての情報を掲載している。
- The Ultimate Steam page (英語)現代における蒸気機関車の新技術・新造計画についての情報を掲載している。
- Extreme Steam- Unusual Variations on The Steam Locomotive. (英語)特殊な形式の蒸気機関車についての情報を数多く掲載している。