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石油 - Wikipedia

石油

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

石油(せきゆ)は、炭化水素を主成分として、ほかに少量の硫黄・酸素・窒素などさまざまな物質を含む液状のである。精製前のものを特に原油(げんゆ)という。鉱物資源の一種とする場合もある。

原油の瓶詰め
原油の瓶詰め
石油タンク
石油タンク

目次

[編集] 石油の概要

石油は、英語でPetroleumという。これはラテン語のPetra(岩石)とOleum(油)を語源とする。狭義には原油 (crude oil) のことを指すが、より広い意味では天然ガスや固体のアスファルトなどを含める。さらに、原油を原料として製造された石油製品石油化学製品のことも含めることがある。また、日常生活では灯油を「石油」と呼ぶことが多い。

古くは石脳油(せきのうゆ)とも呼ばれた。

また、石油製品は連産品と呼ばれる。これは原油を精製してガソリンや灯油などを作る場合、ある特定の製品のみを作ることは出来ず、必ず全製品が生産されてしまうため、こう呼ばれている。石油の精製とは混ざった油を性質の違いで分ける事なので、精製する元の原油によって生み出される生産される製品の割合は異なってくる。精製は分留によって行なわれ、出来た各製品は留分と呼ばれる。留分の中でも需要の多いガソリンはより重い油を改質することで作る事が出来る[1]

現在は主にエネルギー資源として世界中で様々な用途で使用されており、現代人類文明を代表する重要な物質であるが、膨大な量が消費されており、いずれ枯渇すると危惧されている。

[編集] 石油の起源

[編集] 生物由来説(有機成因論)

現在の学説の主流である。百万年以上の長期間にわたって厚い土砂の堆積層の下に埋没した生物遺骸は、高温と高圧によって油母 (kerogen) として知られているワックス状の物質に変わり、次いで液体やガスの炭化水素へと変化する。これらは岩盤内の隙間を移動し、貯留層と呼ばれる多孔質岩石に捕捉されて、油田を形成する。この由来から、石炭とともに化石燃料とも呼ばれる。

有機成因論の根拠として石油中に含まれるバイオマーカーの存在がある。 葉緑素に由来すると考えられるポルフィリンや、コレステロールに由来すると考えられるステラン、あるいは、酵素の関与しない化学反応では生成が困難な光学活性をもつ有機化合物などが石油に含まれるバイオマーカーとして知られている。

これら石油の大部分は油母(kerogen、ケロジェン)の熱分解によって生成していると考えられている。 これは、石油中に含まれる炭化水素の炭素同位体比を調べた結果、炭素数の少ない炭化水素ほど、質量の軽い炭素同位体を含む割合が多くなるという傾向が、熱分解による炭化水素の生成の傾向と同じであることが知られているためである。

この結果は、メタンのような炭素数の少ない炭化水素の重合によって石油が生成したとする無機成因説とは矛盾するため、多くの学者は有機成因説を支持している。

[編集] 無機成因論

惑星(地球)内部には膨大な量の炭素が存在するのが自然であり、一部分は炭化水素の形で存在している。炭化水素は岩石よりも軽いので、地表へと染み出してくる。この無機成因論に基づけば、一度涸れた油井もしばらく放置すると再び原油産出が可能となる現象を説明することができる。

無機成因論の根拠としては「石油の分布が生物の分布と明らかに異なる(深い地層に埋蔵されている)」「石油の組成が多くの地域で概ね同一である」などがあげられる。 また、生物起源論が根拠としている、石油中に含まれる炭化水素の炭素同位体比を調べた結果、炭素数の少ない炭化水素ほど、質量の軽い炭素同位体を含む割合が多くなるという傾向は、地下から炭化水素が上昇する過程で、分子の熱運動により重い同位体が分離されたと説明することも可能だという。


また、トーマス・ゴールドの新しい説が2003年の Scientific American誌で発表され、それによると炭化水素は地球の内核で放射線の作用により発生するとされている。

[編集] 成分

石油を構成する化学物質は、分留によって分けられる。原油はそれを精製した製品として、灯油、ベンゼン、ガソリン、パラフィンワックス、アスファルトなどを含む。厳密に言うと、石油は水素と炭素だけから構成される脂式炭化水素を要素とする。

まず示すのは、分子量が最小の4種の炭化水素で、すべてガスである。

  • CH4メタン、 methane) - 沸点 -107℃
  • C2H6エタン、 ethane) - 沸点 -67℃
  • C3H8プロパン、 propane) - 沸点 -43℃
  • C4H10ブタン、 butane) - 沸点 -18℃

  炭素数5 - 7の範囲の鎖状炭化水素は、完全に軽質で、蒸発しやすい透明な性質のナフサになる。ナフサの留分は溶媒、ドライクリーニングの溶剤あるいはその他の速乾性の製品に用いる。

C6H14からC12H26までの鎖状炭化水素は配合調整されガソリンに用いられる。炭素数10 - 15の範囲の炭化水素からケロシンが作られジェット燃料に用いられる。炭素数10~20の範囲からディーゼル燃料(軽油)と灯油が、そして船舶のエンジンに用いられる重油と続く。これらの石油製品は常温で液体である。

潤滑油と半固体の油脂(ワセリンを含む)は、炭素数16から炭素数20の範囲である。

炭素数20以上の鎖状炭化水素は固体であり、パラフィンワックスを皮切りに、タールアスファルトの順である。

常圧蒸留留分の名称と沸点(℃)を示す:

石油エーテル (petrol ether) :40 - 70℃ (溶媒用)
軽ガソリン (light petrol) :60 - 100℃ (自動車燃料)
重ガソリン (heavy petrol) :100 - 150℃ (自動車燃料)
軽ケロシン (light kerosene) :120 - 150℃ (家庭用溶媒・燃料)
ケロシン (kerosene):150 - 300℃ (ジェット燃料)
ガス油 (gas oil):250 - 350℃ (ディーゼル燃料/軽油/灯油)
潤滑油:> 300℃ (エンジン・オイル)
残留分:タールアスファルト、残余燃料

[編集] 石油の歴史

[編集] 19世紀まで

地下から湧く燃える水の存在は、古代から各地で知られていた。産地で燃料や照明に用いた例も多い。17世紀ルーマニア産の石油が灯油用に用いられており、品質の点で他の油より良いとされていた。しかし、大量生産はずっと後のことであった。

機械掘りの油井の出現が、石油生産の一大画期をなした。エドウィン・ドレークが1859年8月にペンシルベニア州タイタスビルの近くのオイル・クリークで採掘を始めたのが世界最初と言われる。しかし、別のところでもっと早くあったとする説もある。19世紀後半には、アメリカ合衆国ルーマニアロシアコーカサス地方が石油の産地であった。

1863年ジョン・D・ロックフェラーオハイオ州クリーブランドで石油精製業に乗り出し、1870年スタンダード石油を設立した。

しかし、1879年に、エジソンが白熱電球を発明し、アルコールランプの需要は激減し、倒産の危機にあう。 そこへ、1876年にドイツのニコラウス・オットーがガソリンで動作する内燃機関(ガソリンエンジン)の発明を、ゴットリープ・ダイムラーが改良し、1885年にダイムラーによる特許が出される。 1885年、ドイツのカール・ベンツは、ダイムラーとは別にエンジンを改良。 運良く、次世代の石油需要(ガソリン)に転換できたのだった。

同社は、事業統合を重ね、1884年には、アメリカ合衆国全体の石油精製能力の77%、石油販売シェアは80-85%に達した。あまりに巨大化したスタンダード石油に対し、世論の反発が起き、1890年に成立したシャーマン反トラスト法により、同社は解体された。ただし、消滅したわけではなく、分割されただけである。スタンダード石油が前身となって、現在あるエクソンモービルシェブロンなどの旧7大メジャーができた。

[編集] 第二次世界大戦まで

19世紀から20世紀半ばにかけて、生産だけでなく、消費側にも石油普及をうながす技術革新が続いた。内燃機関での利用である。19世紀末の自動車の商業実用化、20世紀初めの飛行機の発明は、ガソリンエンジンと切り離しては考えられない。船舶も重油を汽缶(ボイラー)の燃料にするようになった。

石油自体は珍しくないが、大量生産できる油田は少なく、発見が困難であったため、石油産地は地理的に偏った。戦車軍用機軍艦などの燃料でもあったことから、20世紀半ばから後半にかけて、石油は死活的な戦略資源となった。

20世紀前半には、ベネズエラインドネシアが石油の輸出地に加わった。

[編集] 第二次世界大戦後

第二次大戦後、石油の新たな用途として、既に戦前に登場した化学繊維プラスチックが、あらゆる工業製品の素材として利用されるようになった。また、発電所の燃料としても石油が利用された。

戦後しばらくして、中東に大規模な油田が発見された。中東は優れた油田が多いだけでなく、人口が少なく現地消費量が限られているため、今日まで世界最大の石油輸出地域となっている。

石油の探査には莫大な経費と高い技術が必要となるが、成功時の見返りもまた莫大である。必然的に石油産業では企業の巨大化が進んだ。独自に採掘する技術と資本を持たない国では、巨大資本を持った欧米の少数の石油会社に独占採掘権を売り渡した。これによって石油開発の集中化はさらに進み、石油メジャーと言われる巨大な多国籍企業が誕生した。石油の大量産出によって安価な石油はエネルギー源の主力となり、エネルギー革命と呼ばれるエネルギー源の変化が生まれた。

しかし1970年代に資源ナショナリズムが強まると、石油を国有化する国が相次いだ。1973年から1974年には、第四次中東戦争アラブ石油輸出国機構がイスラエル支持国への石油輸出を削減し、オイルショックと世界的な不況をもたらした。

他にも北海メキシコ湾など世界各地で石油が採掘されるようになると、石油の戦略性は低下していった。石油の重要性は低下していないが、供給はかつてほど脆弱ではない。価格変動が景気にどの程度の影響を与えるかという程度になっている。

[編集] 日本の石油事情

国内主要油田の年間生産量(2004年)
順位 油田名 道県名 生産量(バレル)
1 勇払(ゆうふつ) 北海道 1,490,000
2 岩船沖(いわふねおき) 新潟県 1,010,000
3 南長岡(みなみながおか) 新潟県 690,000
4 東新潟(ひがしにいがた) 新潟県 580,000
5 由利原(ゆりはら) 秋田県 470,000

日本書紀には、越後国より天智天皇に「燃ゆる水(燃水)」が献上されたという記述がある。今日の新潟県胎内市より産したものであるとされる。自然にわき出た原油は「臭水、草水(くそうず)」などと呼ばれた。なお、現在も新潟市秋葉区や新潟県阿賀野市を始め各地に地名として残っている。

現在では、新潟県・秋田県の日本海沿岸、および北海道勇払平野)などで原油が採掘されている。生産量は年間で86万キロリットル程度(2004年度)で、国内消費量全体に占める比率は、0.3%に過ぎない。

一方で原油の輸入量は国内消費量全体の99.7%、2億5,460万キロリットルである。輸入相手国は上位よりサウジアラビアアラブ首長国連邦イランカタールクウェートなど中東地域からが全体の87%を占めている(2006年度)。

国際情勢の影響を抑えるために、日本の石油開発会社及び商社などが海外で権益を取得し開発する「自主開発油田」(ここより産出する原油は「自主開発原油」)の開発が急がれている。自主開発原油は原油総輸入量の13%である(この段落の数値は2000年度)。

石油業界は1996年特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)廃止、ついで2002年1月の石油業法廃止によって完全自由化されている。

中東系の石油が安定して手に入るようになった昭和40年代以降、国内での石油資源開発は縮小傾向にあり、零細の油田は縮小・廃坑とされた。特に、上記の自由化措置によって、不採算油田の廃坑が相次ぐようになり、特に秋田県の零細油田はほぼ壊滅状態となった(この時、年間産出量は25万キロリットル前後)。しかし、2004年以降の石油価格急騰を受け、国内においても、小規模でも安定した産出量をもつ油田を再度調査・拡張する動きが出始めている。2001年度に約37万キロリットルであったため、2004年単年度でほぼ倍増している。

[編集] 日本の石油会社

国際石油資本(メジャー)のような海外大手石油会社は、石油の探鉱、生産、輸送、精製、元売りまでを一貫して手がける垂直統合を行っているが、日本の石油会社の多くは精製、元売り(これを下流事業という)のみを手がけ、上流事業(精製までの事業)を手がけていないか、手がけていても小規模にしか手がけていない。上流事業を専業とする日本の有力石油会社には国際石油開発帝国石油石油資源開発などがあるが、下流事業をほぼ専業とする有力会社としては以下の4グループがある。

[編集] 日本の石油諸税

日本で消費される石油には多段階にわたってさまざまな税金がかかっている。これを石油諸税と言う。

この結果、たとえばガソリン1リットルには、消費税を除いて約56円の税金がかかっている計算になる。また、ガソリン販売時にかかる消費税は税にさらに税をかけた、事実上の二重課税である。

前記の各税金のうち軽油引取税だけが地方税で、それ以外の税金は国税である。石油諸税の年間税収額は、2004年(平成16年)度予算で約4兆8,641億円となっている。地方税である軽油引取税を除いた税収合計は、国税収入の約12%を占め、所得税、法人税、消費税に次ぐ第4位の税収規模になっている。また、消費税以外の石油諸税は目的税となっており、その84%が道路整備財源として使われている。そのほか石油対策、空港整備などに使用されている。

[編集] 石油の可採年数

可採年数 (R/P) とは、ある年度において埋蔵が確認されている石油のうち、その時点での技術で採掘可能な埋蔵量(R) を、その年度の実際の生産量 (P) で割った値である。BP統計によれば、例えば1970年の可採年数は約35年であったが、2005年に石油が枯渇したという事実が存在しないことは明らかである。ちなみに2006年の可採年数は40年~65年とされている。

[編集] 可採量の増大

石油の埋蔵量に関する将来予測は、その時の経済活動の状況に左右されており決して単純な自然科学的な根拠に基づいてなされてはいない。20世紀末からの可採量の増大した理由には、原油価格の上昇と技術の向上がある。1973年の第一次石油危機の時には多くの石油専門家がマスコミに登場して「あと30年で石油は枯渇する」とされていたが、2005年の段階でも「現在発見されている油田可採埋蔵量だけでも現在の消費量で割ればあと40年は供給できる」とされたように、可採量は毎年増大し続けた[2]

[編集] 価格上昇

可採年数は、原油価格が上がると伸びるという特性がある。それは、原油価格が変化すると『採掘可能な埋蔵量』が変化するためである。以下に例を示す。

ある油田は1バレルあたり採掘コストが30ドルかかるとする。このとき、もし原油価格が1バレルあたり10ドルならば、この油田は採算に合わないため『採掘可能な埋蔵量』には含まれない。しかし、もし原油価格が1バレル50ドルに上昇すれば、この油田は充分採算に合うため『採掘可能な埋蔵量』に含まれることになる。

現在の採掘技術でコストを考えずに採掘を行えば、あと数百年分は埋蔵されているとも言われるが、石油を取り巻く事情は常に変化を重ねる。また、埋蔵量は、各国の自己申告であり、政治的な理由のかさ上げが何度も判明してきた。

人類が採掘可能な石油埋蔵量を究極可採埋蔵量という。1970年代にはこれは2兆バーレルと考えられており、また、その時点での既発見の埋蔵量は1兆バーレルと考えられていた。しかし、現在ではこれは3兆バーレル(68年分)と考えられている[3]。 需要は今後も拡大すると思われる石油だが、わざと供給をなるべく小さくして原油価格を上げようとしているのでは無いかという意見も聞かれる。

[編集] 採油技術の向上

従来の採油技術は単純に油層からポンプで汲み上げるだけであり、地下の地層に存在する原油の内の容易に集められるものだけが得られるに過ぎなかった。この「一次回収」と呼ばれる方法では地下に存在する全原油の20-40%しか得られない。この後、採油技術は向上し「ニ次回収」「三次回収 」と呼ばれる技術で100%に近い回収が行なえるようになっている。

地下油田の内部状態も三次元や四次元地震探鉱技術によって立体的に判別出来るようになり、取り残しの原油が見通せるようになっている。

「傾斜堀リ」や「水平堀り」と呼ばれる自由な方向に掘り進める技術や地中で分岐させる技術の登場によって、油層を水平に縫うように掘り進める事が出来るようになっている。

また、従来は採掘が不可能とされていた大深度地下の油田層や500m以上の深海での海底油田、極地での採掘が可能になっており、油田探査の対象地域も拡大している[2]

詳しくは油井を参照。

[編集] 主な産油国と油田一覧

(数値は推定埋蔵量)

[編集] 参考文献

  • 瀬木耿太郎『石油を支配する者』(岩波新書、1988年)
  • 藤和彦『石油を読む』(日経文庫、2005年)
  • 正井泰夫『今がわかる 時代がわかる 世界地図』(成美堂出版、2007年)

[編集] 出典

  1. ^ 甘利重治・山岡博士著 河村幹夫監修 『石油価格はどう決まるか』 時事通信社 2007年12月20日第一刷発行 ISBN 978-4-7887-0768-9
  2. ^ a b 藤和彦著 『石油を読む』 日本経済新聞社 日経文庫 2005年2月15日1版1刷 ISBN 4-532-11056-4
  3. ^ 石鉱連資源評価スタディ2007年 (世界の石油・天然ガス等の資源に関する2005年末における評価)2007年11月石油鉱業連盟発行

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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