国鉄ED45形電気機関車
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国鉄ED45形電気機関車(こくてついーでぃー45がたでんききかんしゃ)は、旧・日本国有鉄道(国鉄)が1955年(昭和30年)に登場させた交流電気機関車である。
仙山線で日本初の交流電化の試験を行うため、試作された機関車である。
同時に試作された国鉄ED44形電気機関車(こくてついーでぃー44がたでんききかんしゃ)についてもここで扱う。
目次 |
[編集] 登場の背景
1953年、全国の幹線の電化を進めるにあたって、変電所が少なくでき建設費を抑えられる商用周波数による交流電化方式が着目された。国内での研究のほか、単相交流では世界初の交流電化実用に成功したフランスから機関車を輸入するため折衝にあたったが、国鉄が試験用としての最小両数の輸入とする方針だったのに対し、フランス側は継続的な輸入を要求したことから交渉は決裂した。このため自力で交流電気機関車を開発することになり、まず1955年、直接式(交流電流により整流子式の交流モータを駆動する方式)のED44形と、整流器式(交流電流を整流器によって直流に整流し、直流モータを駆動する方式)のED45形が1両ずつ試作された。
[編集] 製造・外観
ED44形は1号機1両のみ、ED45形は1号に続き、11号・21号が試作された。性能などの詳細についてはそれぞれの項で記述する。
車体は各メーカーの私鉄向電気機関車の設計を利用したため、いずれも戦前・戦後間もない頃の電気機関車と同様、車体前部にデッキがあり、そこから運転室へ出入りする方式である。ちなみに交流、直流とも国鉄制式の新形電気機関車は、山陽本線瀬野~八本松間で使用される補機以外、いずれも車体側面の出入口から運転室へ出入りする方式でデッキを持たない。
[編集] 車両別概説
[編集] ED44 1
直接式交流機関車として試作されたもの。日立製作所水戸工場で製造され、1955年7月20日を竣工日とする日本初の交流電気機関車である。しかし製造当初は国鉄の正式な車籍を有しておらず、メーカーからの借入扱いで試験が行われた。その後、仙山線の交流電化開業を前に、1957年3月27日付けで国鉄への入籍が行われた。
[編集] ED44 1 構造
直接式ということで極めて内容はシンプルで、極論すれば直流電気機関車の抵抗制御器を低圧タップ切換器に置き換え、交流モーターを釣掛式で駆動するもの。ただし、交流モーターは周波数が高いと変圧器の作用で整流が悪くなり、ついには制御不能に陥る。当時の日本には50HZのような高周波数の交流モーターの製作経験がなく、14~16極と直流機の4倍の磁極を入れることで端子電圧を下げている。なお、これらの交流モーターは日立製作所、東洋電機、富士電機でそれぞれ2個づつ製作し、各メーカーのものを乗せ換えながらテストしたため、試験時はEB形のようなものであった。
台車は後年の交流機でも問題となる軸重移動の問題が当初より考えられたことから、車体の脚を設け板バネで台車枕バネと接続、低い位置で引張力を伝えることで解決を図っている。
車体は日立の私鉄向電気機関車の設計を応用しており、秩父鉄道デキ100形や大井川鉄道E103と似た角ばった雰囲気を持つ。ただし、当初デッキの手摺をほとんど持たず、転落事故などが懸念されたことから暫くして増設工事がされた。なお、蛇足だが、本機は当初、横文字の凝ったデザインのメーカーズプレートを取り付けていたが、国鉄側がこれを問題視し、銘板の取付け規定を制定する遠因となってしまった。
[編集] ED44 1主要諸元
- 全長:13500㎜
- 全幅:2800㎜
- 全高:4095㎜
- 運転整備重量:60.00t
- 電気方式:交流20kV、単相50Hz
- 軸配置:Bo-Bo
- 動力伝達方式:吊り掛け駆動方式 歯車比:16:93(1:5.81)
- 電動機形式:MT950形4基(交流整流子式)
- 制御方式:低圧タップ切換方式(のちに弱め界磁制御方式を追加)
- 台車形式:DT108
- 整流器:なし(直接式のため)
- 1時間定格出力:1120kW
- 1時間最大引張力:7300kg
- 最高速度:65㎞/h
[編集] ED45 1
直接式のED44形と比較検討するため製造された整流器式の機関車。三菱電機・新三菱重工業により製造され、竣工日は1955年9月28日である。ED44同様、当初はメーカーからの借入扱いで、ED44と同時に国鉄へ入籍された。
[編集] ED45 1 構造
整流器式の電気機関車は、いわば車内に変電所を持つようなものであり、当初見積もりでは自重が100tを超えてしまったため、重量対策が問題となった。そのため、電気、機械部分にこれまでの常識を覆すほどの大変な苦心が払われており、いわば本機がその後の新性能電気機関車の原型を作った。
電気部品は水冷式イグナイトロン水銀整流器と低圧タップを併用して直流モーターを駆動する。このイグナイトロン整流器は振動に弱く、しかも直流機関車の感覚からすれば余計な死重に相当するものとなる。そのため、機械部分で吸収を図る必要があり、小型高速型のモーター(主電動機)を採用、衝撃からモーターを守るためにクイル式駆動装置の初採用となる。さらに台車も防振と軽量化のためコイルばねとウイングばねを用いた電車的な方式を採用したが、これにより台車を鋼板組立で製作することが可能になった。
しかし、防振対策を図ったとは言え水銀整流器内のイグナイタ脱落事故が相次ぎ、しかも寿命が短くすぐに交換の必要がある、水冷式ゆえに整備に手間がかかると言った欠点が目に付いたことから、1959年にシリコン整流器に置き換えられる。その結果、位相制御が出来なくなり牽引力が減殺されることとなったが、仙山線の輸送単位からすれば特に問題となることはなかった。
車体は三菱の私鉄向電気機関車の設計を応用しており、小田急電鉄デキ1041や大井川鉄道E101,102と似たやわらかい雰囲気を持つ。また、正面尾灯部にステンレスの飾り帯を持っていたのが特徴であった。
[編集] ED45 1主要諸元
- 全長:14200㎜
- 全幅:2800㎜
- 全高:4100㎜
- 運転整備重量:59.90t
- 電気方式:交流20kV、単相50Hz
- 軸配置:Bo-Bo
- 動力伝達方式:クイル式 歯車比:16:91(1:5.69)
- 電動機形式:MT903形4基(直流式)
- 制御方式:低圧タップ切換方式、格子位相制御方式、弱め界磁制御方式
- 台車形式:DT109
- 整流器:水冷式イグナイトロン水銀整流器
- 1時間定格出力:1000kW
- 1時間最大引張力:10600kg
- 最高速度:85㎞/h
[編集] 直接式と整流器式の比較
ED44 1・ED45 1は製造後、直ちに仙山線で各種試験が行われた。直接式のED44形は高速域に達すると高出力を発揮するが、起動トルクが弱く引き出し力・加速力が整流器式のED45形に劣り、加速・停止を頻繁に行う列車には不向きとされた。ちなみに1時間定格出力においてはED44形がED45形を上回っていたにもかかわらず、25パーミル勾配上における引き出し能力はED44形が360トンであったのに対して、ED45形は600トンであった。
これを電気的な観点から見ると、整流器式の場合、特に水銀整流器は位相制御による連続的な電圧変換が可能で、空転しても電圧が連続的に変調することからモーターが最適な回転数にすぐに切り替わり、空転が自然に収まるという特性を持っていた。これは当時の常識からすれば驚異的なことで、こうした優れた粘着特性がやがて交流機のD形=直流機のF形に匹敵すると宣伝される根拠となる。
一方、直接式は交流モーターの磁極数が多いうえ、これまで経験したことのない高圧を使用していたことから技術的に未熟であったため、1運用ごとに各ブラシの接点を磨かねばならないなど、整備の手間が想像を超えていた。こうした手間の問題からED44形は1961年以降ほとんど使用されなくなり、1966年に廃車となった。
この結果、今後製造される交流電気機関車には整流器式を用いることになった。電気機関車や電車の交流モーターは加速力が弱く速度制御が難しいとの欠点がなかなか克服できず、本格的な実用化はVVVFインバータ制御の開発を待たねばならなかったのである。ただ、交交変換VVVFインバータは今日なお開発されておらず、交流電力を一旦直流に変換することなくそのまま使用するという点では現在もなお後継車両が現れていない。
この後、整流器式機関車の開発が継続され、下記に示すED45 11・21が製造された。
[編集] ED45 11
整流器式を選定したことに伴い、さらなる試験継続のため製造されたもの。東京芝浦電気(東芝)により製造され、竣工日は1956年12月21日である。やはり当初は借入扱いで試験を行い、ED44 1・ED45 1と同時に入籍された。
[編集] ED45 11 構造
本機は東芝の技術提示の側面があり、ED451で保守上、問題となった主変圧器が保守の楽な空冷式となった所に特徴がある。また、東芝技術陣は水銀整流器の電流阻止作用に着目、これを利用して低圧無電弧タップを切る方式を開発した。さらに補機用の低圧電源供給には従来の電動発電機をやめ、相数変換機による交流化が図られている。
一方、台車、主電動機は保守的な設計で、EH1015号機のそれを基礎とした釣掛式を採用している。車体は東武鉄道ED5000形(→現・三岐鉄道ED458)の設計を応用した、極めて角ばったスタイルをしている。
[編集] ED45 11主要諸元
- 全長:13200㎜
- 全幅:2800㎜
- 全高:4100㎜
- 運転整備重量:60.00t
- 電気方式:交流20kV、単相50Hz
- 軸配置:Bo-Bo
- 動力伝達方式:吊り掛け駆動方式 歯車比:16:69(1:4.31)
- 電動機形式:MT902A形4基(直流式)
- 制御方式:低圧タップ切換方式、抵抗制御方式、弱め界磁制御方式
- 台車形式:DT110
- 整流器:風冷式イグナイトロン水銀整流器
- 1時間定格出力:1100kW
- 1時間最大引張力:10800kg
- 最高速度:100㎞/h
[編集] ED45 21
整流器式選定にあたり、直接式を製作した日立製作所に整流器式機関車も製造させてみたもの。1957年に製造され、あまり間をおかずに国鉄に入籍されている。また、本機には大出力化試験機と言う意味付けも持つ。
[編集] ED45 21 構造
本機は日立の技術提示の側面があり、同社が得意としたエキサイトロン形水銀整流器を採用し、イグナイトロン形との比較が行われた。また、大出力化を実現するため、高圧タップを採用することで制御電流量の増加を図り、弱め界磁を併用することで出力を1640kWまで引き上げたが、1959年にシリコン整流器の長期耐用試験のためにエキサイトロンを失ったことから位相制御が不可能となり、最終的に出力は1500kWに落ち着いた。
台車はクイル式を採用したため揺れまくら方式の台車を採用、車体はED44形同様、私鉄向電気機関車に範をとっているが、ED44よりもスタイルは多少洗練されており、大阪セメント伊吹工場のいぶき500形(→現・大井川鐵道いぶき501)に近い雰囲気を持つ。
[編集] ED45 21主要諸元
- 全長:13800㎜
- 全幅:2800㎜
- 全高:4085㎜
- 運転整備重量:60.00t
- 電気方式:交流20kV、単相50Hz
- 軸配置:Bo-Bo
- 動力伝達方式:クイル式 歯車比:15:82(1:5.47)
- 電動機形式:MT904形4基(直流式)
- 制御方式:高圧タップ切換方式、弱め界磁制御方式
- 台車形式:DT111
- 整流器:風冷式エキサイトロン水銀整流器
- 1時間定格出力:1500kW
- 1時間最大引張力:13400kg
- 最高速度:100㎞/h
[編集] 運用
4両とも作並機関区に配属され、仙山線での試験終了後、1957年9月から同線で営業列車の牽引を始めた。1961年、形式称号改正に伴い、ED44形→ED90形、ED45形→ED91形に改められた(製造番号はそのまま)。
その後、仙山線全線が交流電化に切り替えられた際、新形式のED78形に置き換えられ、1970年までにすべて廃車された。
[編集] 現状
現在は2両の保存機が残っている。ED91 21が利府駅構内から新幹線総合車両センターに、ED91 11が利府町の森郷児童公園にそれぞれ静態保存されている。
[編集] 関連項目
- 旧型機関車
- B・D型機(貨物用) - EB10 / AB10 - ED10 - ED11 - ED12 - ED13 - ED14 - ED15 - ED16 - ED17 - ED18 - ED19 - ED23 - ED24
- D型機(旅客用)- ED50 - ED51 - ED52 - ED53 - ED54 - ED55(計画のみ) - ED56 - ED57
- F型機(貨物用)- EF10 - EF11 - EF12 - EF13 - EF14 - EF15 - EF16 - EF18
- F型機(旅客用)- EF50 - EF51 - EF52 - EF53 - EF54 - EF55 - EF56 - EF57 - EF58 - EF59
- H型機 - EH10
- アプト式 - EC40 - ED40 - ED41 - ED42
- 私鉄買収機
- ED20 - ED21 - ED22 - ED25 - ED26 - ED27 - ED28 - ED29 - ED30 / ED25II - ED31 - ED32 - ED33 / ED26II - ED34 / ED27II - ED35 / ED28II - ED36 - ED37 / ED29II - ED38 - ケED10 - デキ1(旧宇部) - ロコ1(旧富山地鉄) - デキ501(旧三信) - ロコ1100(旧南海)
- 開発史 - 日本の電気機関車史