外食産業
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外食産業(がいしょくさんぎょう)とは、家庭の外で食事を提供するサービス業。
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[編集] 日本
[編集] 業種による分類
外食の定義は、一般に狭義と広義の意味がある。
狭義の外食は、食事をする空間とともに食事を提供する形態の業種を指す。食堂、レストラン、ファーストフードや喫茶店(カフェ)など一般に「飲食店」と称する業種がこれにあたる。(以後、本稿では「(狭義の)外食」として扱う。)
広義の外食は、主として食事を提供する業種が全て含まれるとされる。広義にのみ含まれる業種として、調理済みの弁当、惣菜の販売などの「中食」(なかしょく、ちゅうしょく)や、出前、デリバリー形態の販売、イベントや飛行機の機内食などの大人数分の仕出し(ケータリング)、工場などの社内食堂や病院など給食業務を請け負う事業がこれにあたる。(以後、狭義に含まれない外食産業を本稿では「中食、その他」として扱う。)
[編集] (狭義の)外食
[編集] 中食・その他
- 中食
中食とは食料品を購入後に自宅で食べる事をいい、調理を伴わない食事形態。(調理を伴う場合を自炊や内食と称する。)
女性の社会進出の広がりや、主な販路であるコンビニエンスストアの拡大に連れて成長が著しい。特にコンビニエンスストア向けの弁当を製造している工場は、24時間操業で稼働し、大規模なところでは一日に数万~10万食あまりを製造している。
- その他
[編集] 証券市場の分類
証券コード協議会における業種分類では、狭義の外食産業がスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどと同じ小売業に、「中食」を手がける企業が食料品に分類されている。
[編集] 提供形態を示す用語
本稿では業種の違いとして「(狭義の)外食」と「中食、その他」に分けているが、そのどちらの業種にも自店舗で顧客に食事をしてもらうサービスと、食事を顧客に持ち帰ってもらうサービスを併せて営んでいる場合がある。これらを区別を指す言葉として、テイクアウトとイートインがある。また、業者が顧客の元まで食事を届ける出前などがある。
- テイクアウト(take out)/持ち帰り - 外食産業で一般的に使われる言葉で、食事を持ち帰る形態を指す。
- イートイン - テイクアウトの対義語として用いられるようになった和製英語。いわゆるデパ地下や市中にある惣菜店やコンビニエンスストアなどの中食を提供する店舗内に、テーブルや椅子を併設してその場で食べることもできるようにした形態を指す。
- 出前/デリバリー
- 仕出し/ケータリング
[編集] 日本の歴史
[編集] (狭義の)外食
原型の「茶屋」が登場したのは室町時代といわれる。江戸時代初期には「飯屋」(めし屋)が登場し、例えば井原西鶴の「西鶴置土産」によれば、1657年に浅草に出店した飯屋の奈良茶(茶飯、豆腐汁、煮しめ、煮豆のセットメニュー)は人気を博したという。中期から後期にはそば屋や、留守居茶屋(料亭の起源といわれる。大名がいない間、大名屋敷を預かる留守居役を相手とした高級茶屋。会席料理を出していた)、居酒屋などの業態が登場したとされる。
これらの業態は、個人による生業(なりわい)的なものがほとんどで、「のれん分け」による支店としての関係にとどまっていたが、1960年代にアメリカで起こったフランチャイズブームをきっかけに、日本にもフランチャイズ形式の店舗が登場する。
- 1968年には、回転寿司の元禄寿司が大阪にオープンした。
- ファーストフードについては、1970年、大阪日本万国博覧会会場にケンタッキーフライドチキンが出店。1971年マクドナルドが銀座三越に出店、同年にはミスタードーナツも第1号店を出店した。1973年吉野家が神奈川県小田原市にフランチャイズ第一号店を出店している。同年にはシェーキーズも渋谷に第一号店を出店している。
- ファミリーレストランは1970年、すかいらーく、ロイヤルホストが出店している。
- ※これらファーストフード、ファミリーレストランは、当初は外食産業という概念がないため、他の飲食店と同じく水商売と呼ばれていたという。
- 1970~80年代には、セントラルキッチンやPOSが導入され、より効率化が図られた。市場規模は、1980年で14兆7000億円に。80年代後半には、20兆円を越えた[1]。
- 1980年代にはフランチャイズ形式を取り入れた居酒屋が登場しており、1983年には白木屋1号店である東京都中野南口店が出店している。
- 1990年代、バブル崩壊によって成長は鈍化した。一方で、バブル崩壊による地価下落等により、地価や家賃が安くなり、出店環境は良くなる。これによってファミリーレストランの都内への出店や、居酒屋チェーンの郊外への出店が容易になった[1]。90年代後半以降は、スターバックスなど外資系コーヒーチェーンも進出している。
- 2000年代には、2001年のBSE問題、2004年の鳥インフルエンザの流行が、関連店舗に打撃を与える。また、飲酒運転の取り締まり強化が、アルコール販売に影響を与えた[1]。マクドナルドの80円バーガーなど低価格競争が話題になったが、収益は改善せず、低価格競争からの脱却を計っている[1]。
日本の外食産業は成熟期に入り、価格から質へと方向が変化している。また、質の向上に伴い、例えばラーメンのレベルが高くなり新規出店のハードルが上がるといった状況もある[1]。
[編集] 中食・その他
弁当は、起源は鎌倉時代後半までさかのぼる。江戸時代には幕の内弁当が、また明治時代には駅弁が登場した。詳細は弁当参照。
弁当内の弁当を作る方法に注意点として「食中毒を避ける」とあることからもわかるとおり、総菜は品質管理が難しかった。調理販売を経て速やかに食べられることが求められ、そのため戦前までの総菜屋は住宅街近くのいわゆる街角の総菜屋であり、零細な家内工業であった。だが、戦後になって冷蔵庫の登場、冷蔵輸送技術が発達するに伴い、総菜は売り場、品目を増やしていく。
- 1960年代、ダイエー(チェーン第一号店の神戸市三宮店は1958年開業)に端を発したスーパーマーケットの全国への広がりが、総菜にも影響を与える。スーパーの、1品ごとにパックされた商品を並べてお客が自由に選べる売り方は、従来の店員と対面しての量り売りに比べて気軽、簡単なためより総菜が買いやすくなった。また、チェーン化されたスーパーの登場は総菜の総売り場面積を増やすことになり、需要の増加により同一製品の大量生産ができるようになる。
- 1980年代以降は、持ち帰り弁当チェーン店の展開が本格化され(ほっかほっか亭1号店は1976年オープン)、同時期にはコンビニエンスストアで弁当が売られるようになった。また、女性の社会進出などのライフスタイルの変化は、総菜宅配業といった新たな形態が登場する。
- 1990年代には1991年のピザハット開業など、宅配ピザが登場した。
[編集] 家庭における傾向
一般的に、世帯主が若い家庭ほど、食費に占める外食の割合が大きい。また、単身世帯は2人以上の世帯よりも、外食の割合が大きくなる[2]。
[編集] 市場規模
市場規模は、1997年をピークに、その後は20兆円台前半となっている。売上上位10社は以下のとおり[1]。
順位 | 社名 | 売上(100万円) |
---|---|---|
1位 | 日本マクドナルド | 441,516 |
2位 | すかいらーく | 281,256 |
3位 | ほっかほっか亭総本部 | 192,968 |
4位 | プレナス | 154,561 |
5位 | ダスキン | 140,372 |
6位 | 日本ケンタッキーフライドチキン | 131,030 |
7位 | モンテローザ | 126,753 |
8位 | レインズインターナショナル | 126,635 |
9位 | ロイヤルホールディングス | 116,199 |
10位 | モスフードサービス | 97,726 |
出典:2007年7月7日号 週刊東洋経済
[編集] 多店舗展開している外食企業
- ファミリーレストラン - すかいらーく、ロイヤルホスト、デニーズ、ガスト、ジョナサン、アンナミラーズ、ココスジャパン、サンデーサン、トマトアンドアソシエイツ、ジョイフル、和食さと、とんでん
- ハンバーガー店 - マクドナルド、モスバーガー、ロッテリア、ファーストキッチン、DOMDOM、フレッシュネスバーガー、ウェンディーズ、デイリークイーン、バーガーキング、ラッキーピエロ、ベッカーズ、A&W、ジェフ、KUA `AINA、熊本バーガー ドラゴンリッチ
- 麺料理店
- 餃子 - みよしの、ホワイト餃子
- 中華料理店 - 餃子の王将、大阪王将、ぎょうざの満洲、551蓬莱、東秀、天下一、紅虎餃子房、横濱一品香、一品香、東天紅
- 宅配ピザ - ドミノ・ピザ、ピザーラ、ピザハット、ピザ・カリフォルニア、ストロベリーコーンズ、ピザクック
- サンドイッチ - サブウェイ、クイズノス、プレタ・マンジェ、ラヴァンデリ
- パン - トランドール、サンエトワール、ヴィ・ド・フランス、ヴイ・ディー・エフ・サンロイヤル、ジャーマンベーカリー、ウィリーウィンキー、フジパンストアー、シュタイナー、九州フジパンストアー、リョーユーパン
- フライドチキン - ケンタッキーフライドチキン
- ホットドッグ - ネイサンズ
- ドーナツ - ミスタードーナツ ダンキンドーナツ
- 喫茶店 - ドトールコーヒー、スターバックス、ルノアール、コメダ珈琲店、イタリアントマト、BECK'S COFFEE SHOP、プロント、丸福珈琲店、サンマルクカフェ、ムジカ、ヒロコーヒー、タリーズコーヒー、ベローチェ
- カレーショップ - カレーハウスCoCo壱番屋、カレーショップC&C、ゴーゴーカレー、バルチックカレー、カレーの王様、リトルスプーン、みよしの、カレーのチャンピオン、カレキチ、タイム
- 居酒屋 - 土風炉、つぼ八、養老乃瀧、白木屋(笑笑など)、魚民、和民、村さ来、八百八町、酔虎伝(八剣伝など)、甘太郎、天狗、やぐら茶屋、庄や、日本海庄や、やるき茶屋
- 牛丼屋 - 吉野家、松屋、すき家、なか卯、神戸らんぷ亭、牛丼太郎
- 焼肉屋 - 牛角、肉の万世、焼肉屋さかい、バリバリ、安楽亭、叙々苑、あみやき亭、食道園、はや、焼肉じゅうじゅうカルビ
- 焼鳥屋 - 秋吉、備長炭のこだわり串鳥七兵衛
- 鍋料理屋 - MKレストラン
- 天麩羅屋 - ハゲ天、てんや
- ステーキ・ハンバーグ屋 - どん、ハングリータイガー、ビッグボーイ、びっくりドンキー、三田屋、ステーキ宮、シャロン
- 豚カツ屋 - とんかつ和幸、新宿とんかつさぼてん、浜勝、かつや、KYK
- 串カツ屋 - だるま
- シーフード - レッドロブスター
- 定食チェーン - 大衆食堂半田屋、宮本むなし、大戸屋、やよい軒
- 洋食店 - ラケル
- イタリア料理 - カプリチョーザ、サイゼリヤ、馬車道、ブラボー、イタリアントマト
- 和食店 - 浜ん小浦、味処三笠
- 寿司屋(鮨屋) - がんこ寿司、柿家鮨
- 回転寿司 - 平禄寿司、アトムボーイ、かっぱ寿司、元気寿司、くら寿司、あきんどスシロー、函館市場、うず潮、マリンポリス、柿家鮨
- アイスクリーム店 - サーティワン、ハーゲンダッツ、ブルーシール、ディッパーダン、シャトレーゼ、キハチ、レディーボーデン
- たい焼き屋、たこ焼き屋 - 一口茶屋、会津屋、元祖たこ昌
- お好み焼き屋 - 千房、ぼてぢゅう、鶴橋風月
- フードコート - オレンジキッチン、ピーターパン、ポッポ、ピーコック
- 食堂車
- 総合
[編集] 従業員の労働環境
食生活を支える外食産業であるが、特に大手外食チェーン企業の店舗業務に携わる正社員の労働環境は著しく悪いといわれている。よく見られる具体例として、次のことが挙げられる。
- 勤務時間が長く、休日が少ない割りに給料が安いケースが少なくない。(求人票などに8時間勤務・週休2日制と記載していても、激しい価格競争により人員が少ないことや、パート・アルバイト社員の勤務可能な日程の状況によって、正社員の勤務時間が長くなったり、出勤日数が増えたりする。極端な例では、月の休日が1~2日しか取れないケースもある。残業代や休日出勤の賃金がもらえないケースもある。)
- 土曜日・日曜日・祝日・連休は休むことができないケースが多い。
- 人員の少なさから、年次有給休暇の利用が難しいケースがある。
- 店長などに昇進すると労働基準法における管理職となり、管理職手当と引き換えに残業代がもらえなくなる一方、管理職に相応しい待遇や権限は与えられないケースもある。(これを、「名ばかり管理職」という)管理職になって、残業代がなくなったことで、管理職手当をもらっても非管理職だった時より給料が少なくなるケースもある。
- 地域内の店舗を統括するスーパーバイザーと店舗のパート・アルバイト社員との間に板ばさみになり、ノルマ達成やシフト調整に苦労することがある。
- 本部など、店舗以外の部署に配属される正社員は少ない。(本部配属の社員は中途採用者の方が多い企業もある)
- 店舗で身につけたスキルは他業界での活用が難しいことから、他業界への転職が難しくなる。
このこともあってか、新規学卒者は外食産業を避ける傾向にあり、アルバイト社員を正社員に昇格させたり、中途採用を常時行ったりしているが、人員確保には苦戦している。また、外食産業に就職した者は、店舗での激務から入社後あまり時間が経たないうちに退職するケースも少なくない。体調を崩して退職するケースも見られる。
業界全体で見ても、市場規模は今後拡大しないといわれている一方で、店舗数が増えている現状があり、競争の激化で業界の生き残り競争が熾烈となると見られる。このため、店舗の従業員の将来性はさらに厳しくなると見られる。実際、セブン&アイ・ホールディングスは、外食部門の不振から、2008年度以降、外食部門の店舗数を削減すると発表している。
[編集] 中国
国民の収入の増加、食の安全への意識の高まり(生産者の食に対する安全性への意識は低く、利益を上げることを第一としている。発ガン性物質等の混入などがニュースで報道されている。詳細は、中華人民共和国を参照)を背景に、外食産業は成長を遂げている[3]。
市場規模は、2006年で約1兆元。2010年には、約2兆元(約29兆円)になると予想されている。雇用規模は、2006年で2000万人以上とされている。企業のM&Aも盛んに行われており、今後の発展が有望視されている[3]。
[編集] 脚注
- ^ a b c d e f 2007年7月7日号 週刊東洋経済
- ^ 『第1節 食料自給率の向上に取り組む意義と課題』平成18年度食料・農業・農村白書(農林水産省)
- ^ a b 2007年6月26日付配信『市場倍増の2兆元に、2010年の外食産業』(NNA)