NHK民営化
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NHK民営化(エヌエイチケイみんえいか)とは、NHK(日本放送協会)を民営化する政策を指す。
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[編集] 背景
NHKの根拠法である放送法によれば、NHKは、公共の福祉の為に、営利を目的としない全国放送を行い、「受信設備を設置した者」から徴収される受信料によって運営される。
NHK本体は法人税を免除されていることは勿論、日本郵政公社等とは異なり、余剰利益を国庫に納める義務も無い。
又、今日では、全ての都道府県に民放局が存在し、CS放送やBSデジタル放送、ケーブルテレビ等の普及もあって、全国放送を行うNHKの存在価値は、過去と比べて相対的に低下している(テレビジョン放送局を参照)。
さらに、NHKを全く視聴していない世帯からも受信料は徴収され、その反対に、受信料を1円も払わずとも、NHKを視聴し続ける事は可能である。又、受信料は、世帯の人数や、テレビ・ラジオの台数とは関係なく、一律の金額となっている。また、事業所の受信料体系も不明確(総務省の研究会など)である。
NHK本体は、公認会計士による外部監査が義務付けられていない。NHK本体は株式会社ではないことから会社法の適用は無く、又、放送法にも外部監査についての規定が無いためである。一方で会計検査院による監査を受け、予算決算は国会の承認を得る必要があり、一定の監視下にあるとも言える。2004年から2005年にかけて、相次いで発覚した不祥事は、こうしたNHKの杜撰な財務に世論が注目するきっかけとなった。
[編集] NHK民営化の展望
ここでは、NHK民営化の是非ではなく、NHK民営化の可能性と、民営化に伴う課題について主に詳述する。
[編集] NHK民営化の可能性
NHKの経常事業支出は約7,457億円(2004年度連結決算)と、民放1位であるフジテレビの売上高のほぼ1.6倍にも及んでいる。
地上波デジタル放送では、スクランブル処理をかけることにより、CS放送と同じように、視聴料を支払っていない視聴者を排除できる(B-CASを参照)。したがって、2011年7月24日の地上波アナログ放送の終了に伴い、NHKをペイテレビ方式で民営化する条件が整うことになる(もちろん、2011年以前でも、現行の受信料制度を維持しながら、広告放送を部分的に解禁し、NHKを特殊会社として民営化することは不可能ではない)。NHKはスクランブル化にはTV所有者全体から受信料を徴収するという前提が崩れるため難色を示している。
語学講座や「きょうの料理」等は、視聴率そのものは低いが、NHK出版によるテキストの出版で収益を上げており、他の番組も含めた各種テキストは、合計で3,830万部(2004年度)を販売している。
[編集] NHK民営化の課題
民営化にあたって、現在NHKの放送している国会中継や学校放送、災害報道のような、公共性は高いが、収益性の低い番組には、公的な補助が必要となり得る。これらの番組は、ノースクランブル、ノーコマーシャルで放送することが求められるからである。JRやNTT、日本郵政では、株式の売却益を原資として基金を設け、その運用益によって、一部の事業の収益を補填している。
地上波デジタル放送では、視聴可能なチャンネルの総数は、理論的には現在の数倍に増加する。
その他の課題としては、以下のようなものがある。
- 株主議決権を通じた国家の干渉の問題がある。NHKを株式会社化する際、当初は政府がその株式を保有することになるが、そのままでは、かえって政府による放送への関与を強めてしまう(国営放送と化す)。
- 持株会社ではない完全民間企業(会社法上の株式会社)とした場合でも、放送法上では非一般放送事業者として受信料制度を維持することも理論上は可能である。
[編集] NHKの国営化及び廃止
7千億円近いNHK本体の予算を国費によって運営する事は、増税を必要とする為合理的とは言い難い。又、NHKを廃止、つまり法人として解散する事は、既契約者からの反発が多く予想される上、16,153人(2004年度、子会社等含む)に上る局員の再雇用の問題を発生させる事になる。
[編集] NHK民営化に向けた動き
2000年12月には、テレビ朝日の広瀬道貞社長(当時)が既にNHKの分割民営化に言及している(但し、民放テレビ、ラジオ局の業界団体である日本民間放送連盟は、NHK民営化には否定的である)。
特殊法人としてのNHKのあり方に注目が集まるようになったのは、主として、「聖域なき構造改革」を掲げる小泉内閣の誕生以降である。小泉首相は、NHKの独立行政法人化に触れた事がある。但し、小泉内閣は同年11月、NHKの組織形態を特殊法人のまま現状維持とする「特殊法人等整理合理化計画」を閣議決定した。
2005年7月、NHKの不祥事の発覚をきっかけとした受信料不払いの急増を受け、内閣府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は、NHKについて、スクランブル化や民営化が望ましいとする中間報告をまとめた。
同年9月28日、自民党が圧勝した衆議院議員総選挙に伴って開かれた特別国会で、衆議院の代表質問が行われた。自民党の武部勤幹事長は、小泉内閣の特殊法人改革はあと3つを残すだけとなったとして、政策金融機関や公営競技と並んで、NHKを名指しし、改革の総仕上げに対する小泉首相の決意を尋ねた。
さらに、同年10月28日には、自民党の衆参両院議員19人が、「NHKの民営化を考える会」を発足させた(会長は愛知和男・元防衛庁長官)。同会では、ホームページで一般視聴者の意見を募り、民営化も含めた放送法の見直しを目指している。
竹中平蔵総務大臣は、同年11月4日の記者会見で、こうした自民党内のNHK民営化を求める動きについて、「民主主義社会の議論であり、タブーはない」と理解を示した。又、同年12月6日には、NHKの経営形態や、受信料制度等について議論する有識者懇談会通信・放送の在り方に関する懇談会を、総務相の下に設ける事を発表し、半年ほどで結論を出すとした。
これと歩調を合わせ、規制改革・民間開放推進会議も同年12月21日、NHKの受信料制度を廃止し、視聴者の意思に基づく契約関係とすべきであるとの答申を、小泉首相に提出した。この答申では、仮に受信料制度を当面維持する場合であっても、受信料収入をもって行う公共放送としてのNHKの事業範囲は、真に必要なものに限定する必要があるとし、子会社の統廃合や、スクランブル化の早期検討などを求めている。
ところが、小泉首相は、同年12月22日の政府・与党懇談会で、NHKについて、「民営化しないという閣議決定がある。いろいろな意見があるが、それを踏まえた方がよい」と発言した。又、会談後、記者団に対して、「民営化ということではない、ほかの改革が議論されるのではないか」と述べた。これにより、政府・与党内で急速に高まったNHK民営化論は、小休止する格好となった。
その上、小泉首相が2006年2月10日の閣僚懇談会等、複数回にわたってNHKによる海外への情報発信の強化の検討を関係各方面に指示する等、NHKの機能強化を視野に入れる姿勢を強調している。かねてから「民間に出来る事は民間に」のコンセプトのもと、郵政民営化を代表とする公共セクターの民営化政策を強硬に進めてきた小泉首相が、NHKについては例外とする扱いを明確化したことから、NHK民営化は当面の間実現しない公算が大きくなっている。
又、2006年1月26日自民党の通信・放送産業高度化小委員会と総務部会が合同で、NHKの特殊法人性を維持する前提に立った「放送受信料の支払拒否に対する罰則の導入」を内容とする放送法改正の検討を始めている点を考慮すると、受信料廃止論も、その実現はしばらく困難な情勢となっている。
[編集] 諸外国の公共放送民営化
[編集] フランス
フランスではもともと、民間のテレビ・ラジオ局は存在せず、全局が公共放送を統括するRTF(1949年~1964年)、ORTF(1964年~1974年)の傘下であった(もっとも、当時から既に、それらの公共放送が広告収入を得ていた点には注意を要する)。然し、1982年に、ミッテラン大統領(当時)の下で、公共放送による放送の独占が廃止され、1986年には、シラク首相(当時)の主導によって、公共放送のうち、視聴率の最も高いTF1(Télévision Française 1)の民営化が開始された。
TF1はその後、新規参入した民放テレビ局であるラ・サンクを競争の末、倒産に追い込んだ。同様にTF1との競争に破れ、経営難となった公共放送アンテンヌ2(Antenne 2)は、同じ公共放送FR3(France Régions 3)と新たに「フランス・テレビジョン」として統合することとなった。フランス・テレビジョンは、政府が株式の100%を保有する株式会社である。TF1は現在でも、視聴率と広告収入の両方でトップを独走しており、ビデオ配給や映画制作、スポーツ専門放送などにも進出している。
対して、公共放送フランス・テレビジョンに属するFrance 2は、2004年の平均視聴率で、TF1におよそ1.5倍もの差を付けられ、又、誤報も相次いでいる。F2の財源の約3分の2は、テレビ受信機使用権料(受信料)で賄われている。
他にもフランスには、カナル+というユニークな地上波の有料テレビ局がある。このチャンネルを視聴するには、デコーダーを購入し、カナル+と視聴契約を結ばなければならない。カナル+は、1984年に最初の民放局としてスタートしたが、大株主が政府系企業であった為、政府の間接的な支配を受けていた。後に、政府はこの政府系企業の株式を放出し、カナル+は完全な民間放送となっている。2000年には、ヴィヴェンディ及びシーグラムと合併し、ヴィヴェンディ・ユニバーサルとなった。
カナル+は、収入の20%を映画産業へ投資することを義務付けられている代わりに、最新映画の放送が地上波では唯一認められている。さらに、スポーツの独占放映やポルノ等、公共放送にはない魅力的なコンテンツが視聴できることから、契約者が順調に増加し、現在では、13ヶ国でおよそ1,400万もの加入件数を誇っている。
[編集] イギリス
イギリスでは1985年に、サッチャー政権が公共放送BBC(British Broadcasting Corporation)の民営化を目指し、文化経済学者のアラン・ピーコックを長とする放送調査委員会を設置した事がある(「ピーコック委員会」)。ピーコック委員会は、視聴者主権と市場原理導入を理由に、BBCの財源として、広告収入ではなく、視聴料収入が望ましいとした。然し、有料放送はその実現が当面は困難であるため、ピーコック委員会は受信料制度の維持を勧告した。これを受け、サッチャー政権はBBCの民営化を断念した。
政府による世論調査では、「受信料は財源としてベストではない」との結果が示された。文化省は2005年に、次なる特許状の有効期限である2016年までは受信料制度を継続すると発表したが、それ以降の財源については、数年後に議論する事とした。
こうした流れの中で、BBCの有料放送化を要求する声も再燃している。BBCの独立諮問委員会は2004年に、5~6年以内に受信料制度を改め、視聴者との契約料や広告料、公的基金をBBCの新たな財源とするよう文化省に求めた。野党保守党も、受信料制度の廃止を求めるリポートを提出し、話題を呼んだ。英国でも、2012年に地上波アナログ放送の停波が予定されており、各種デジタルテレビの世帯普及率は既に約62%(2005年)に達している。
BBCは2004年以降、10%以上の人員削減や、商業部門の子会社の売却等、大胆なリストラを進めている。
[編集] イタリア
イタリアの公共放送であるRAI(Radiotelevisione Italiana)は、受信料と広告料を主な財源としている。イタリアでは、RAIがテレビ・ラジオ放送を独占してきたが、1976年に、民営のローカル局設立を合憲とする憲法裁判所の判決が出てからは、放送への参入が事実上、自由化された。
もっとも、RAIの独占は、全国放送では相変わらず認められていた為、1984年には、全国ネットワークを有する民放が一部の地域で突然の放送停止命令を受けた。この珍事件をきっかけに、1990年に放送法規が整備される事となる。だが、それまでは民放に対する規制が緩く、ほぼ野放し状態であった事から、メディア・セット社のような寡占企業の台頭を許した。時の首相シルヴィオ・ベルルスコーニ率いる同社は、現在では、4つの民放テレビ局のうち、3局までをも支配している。
ベルルスコーニは、テレビ放送への影響力をさらに強める為、2003年にガスパリ法を議会で可決させた。この法律によって、RAIの分割民営化が定められたほか、マスメディアの寡占規制が緩和される事になっていた。チャンピ大統領がガスパリ法への署名を拒否した為、法案は議会へと再び戻されたが、結局、若干の修正を経て2004年に成立した。
この結果、RAIは、受信料を用いた事業と、広告収入等による事業とに分離され、受信料は公共サービスのみに充てられることとなった。又、政府は2005年以降、RAIの株式を一部放出する予定である。この計画では、1株主の保有できる株式の上限を全体の1%(子会社等を通しても2%)までとしている。
[編集] アメリカ
アメリカの公共放送は、初めから民営である。すなわちアメリカ合衆国には受信料制度自体が存在しない。また、日本のNHKのような一つの組織ではなく、全米に分散する数百のNPOテレビ局のネットワークという形をとっている。そのネットワークのキー局がPBS(Public Broadcasting Service)である。PBSは政府から独立したNPOである。
1967年に、カーネギー財団の援助もあって、連邦議会は、CPB(Corporations for Public Broadcasting)を設立した。CPBは、営利を目的としない放送局を支援する為の非営利団体として作られた。このCPBと全米各地の放送局の出資により、1969年に誕生したのがPBSである。
PBSは、CPBを通して交付される政府の助成金や、企業・団体や個人、系列局等からの寄付金を主たる財源としている。その為、PBSの財政基盤は不安定であり、2005年には、2006年のCPBへの交付金を約1億ドル削減する案が連邦議会で可決されかけたが、成立は免れた。
PBSの放送内容は、教育番組やドキュメンタリー、ニュースが中心となっている。有名な「セサミ・ストリート」もPBSの番組である。
[編集] 関連項目
[編集] 関連図書
- 『NHK民営化論』 粟津孝幸(著) 日本工業新聞社 ISBN 4526046604 (2000/10)
- 『視聴者が動いた 巨大NHKがなくなる』 田原茂行(著) 草思社 ISBN 4794214383 (2005/09)
- 『放送の自由』 鈴木秀美(著) 信山社出版 ISBN 4797221658 (2000/06)
[編集] 外部リンク
- 放送法全文 (法令データ提供システム)
- NHKオンライン (NHK公式サイト)
- NHKグループネット (NHK関連団体の公式サイト)
- 『公共放送の在り方とNHK改革』 (荒井透雅・総務委員会調査室)
- 『日本放送協会(NHK)の民営化を考える会』(NHK民営化推進の有力団体)