世論調査
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世論調査(よろんちょうさ、せろんちょうさ)または輿論調査とは、無作為に抽出された、ある一定数の人々から意見を収集し、集団や社会などの世論の動向を調べる事。近年は電話によるRDD方式(Random Digit Dialing、コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発生させて架電、応答した相手に質問を行なう)が多く採用されている。
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[編集] 概要
統計学的にサンプル数が多ければ多いほどより正確な世論が調べられるが、調査対象全体(母集団)から偏向無くサンプルを集められなければ結果は不正確なものとなる。また、恣意的な設問によって世論調査の実施主体にとって有利な世論に誘導できる点が批判されることもある。さらに、無回答や分からないという回答の扱い方が難しいため、統計学的に母集団を推定するうえでは問題もある。
回答率は調査の主体によっても左右される。たとえば、朝日新聞の調査には回答を拒否しても、日本放送協会の調査には応じるなどである。特に政治的問題では、調査主体に好意的な回答者の回答率が高くなり、そうではない回答者の回答率は極端に下がる。たとえば、死刑廃止を訴えるアムネスティ・インターナショナル日本支部が1996年の衆議院総選挙候補者に行ったアンケートでは、自民党候補者の回答率が極端に低かった。これは、調査主体に批判される材料として使われることを恐れたり、そもそも調査主体を嫌っているからと思われる(従って、アムネスティの調査に無回答の候補者は、死刑賛成の立場である可能性が高い)。おおむね、公的機関や大手マスメディアの調査に対する回答率は比較的高いが、回答率が低すぎる場合、有効回答者の回答を、サンプル全体に当てはめることはできない。選挙プランナーと称する三浦博史は、1社だけでは不正確なマスコミの調査も、複数の調査を合わせれば、精度の高い結果になるとしている[1]。
また、電話での世論調査は、従来の固定電話を対象として行なわれる。近年、若年層において携帯電話のみを所有する人や、固定電話を引かずにIP電話で済ませている人も多いため、これらの回答が得られない点も問題である。
さらに固定電話があっても、電話相手がどんな人物なのか明確に特定はできていない。場合によっては選挙の調査に選挙権がない年齢の人が答えているという可能性もある。近年はコンピュータによる電話調査も進んでいるが、「プッシュボタン式電話ではない」「0発信電話のためプッシュボタンが使えない」など電話調査に対応できないこともある。調査に進んで参加したい人でも参加できないという不都合がでている。
[編集] インターネット
インターネット利用の普及に伴い、インターネットを用いた世論調査に関する研究が進んでいる。インターネットを用いた調査の場合は、サンプルの偏りに関する問題が特に深刻である。この問題を解決するため、傾向スコア(Propensity Score)を利用して、標本に重み付けを行うなどの研究が進められている。
ただ、世論調査では回答傾向自体がインターネットと既存の訪問面接聴取法とでは異なるという指摘がある。内閣府の調査では、訪問面接聴取法とインターネット調査でサンプルの偏りを修正した結果を比較しても、調査手法、そしてインターネットの利用頻度によっても、回答傾向が異なるという。そのため、ただちにインターネットによる世論調査が既存の世論調査と置き換わることはないという[2]。
なお、大手ポータルサイト等で行われている自由参加の投票は、理論としての調査法に基づいて行われているとは言えず、所謂世論調査とは見なされない点に注意が必要である。
[編集] 代表的世論調査
- ギャラップ調査
- 商業的世論調査機関であるアメリカ世論調査所 (American Institute of Public Opinion) ギャラップ社 (Gallup Organization) が行う世論調査の総称。調査は大統領選挙の予想が特に有名。
- ギャラップ (George Horace Gallup) (1901年~1984年) アメリカの心理学者、統計学者。世論の統計的調査法を創始。1935年に米国世論調査所を設立した。
- ギャラップ社は、現在では世界30カ国以上にオフィスをもち、多くの調査員が活躍している。同社の調査結果は、アメリカの新聞社をはじめとする多数のマスメディアにとりあげられている。
- 1936年、大統領選挙において、民主党のフランクリン・ルーズベルト (Franklin D. Roosevelt) と、共和党のアルフ・ランドンという2人の候補がいた。大手雑誌である『リテラリー・ダイジェスト』誌は、250万人もの世論調査の末、ルーズベルトの落選を予想した。対して、ギャラップ社は再選を予想。そして、ルーズベルトが再選した。その予想の的中により、ギャラップ社は一躍脚光を浴びた。
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- 『リテラリー・ダイジェスト』誌の予想が外れたのは、当時としては珍しい、電話を使った世論調査の特性を見落としていたからといわれている。当時は電話の普及途上で、早くから電話が普及していた富裕層と、それ以外の層で、普及率に差があった。共和党支持者は富裕層に多いため、ランドン候補に有利なデータが出てしまったのである。
[編集] 脚注
- ^ 三浦『洗脳選挙』光文社ペーパーバックス、2005年1月、ISBN 4-334-93351-3、72頁参照
- ^ 『インターネットによる国民生活に関する意識調査』内閣府 2008年4月
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- ダレル・ハフ(Darrell Huff)、高木秀玄訳『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門』(1968/7/24 講談社ブルーバックス ISBN 4-06-117720-6)
- 谷岡一郎『「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ』(2000/6/20 文藝春秋社文春新書 ISBN 4-16-660110-5)