NHKワールド・ラジオ日本
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NHKワールド・ラジオ日本(えぬえいちけいわーるど・ラジオニッポン、英語:NHK World Radio Japan)は、日本放送協会 (NHK) の行うラジオ国際放送の名称。ラジオジャパン(Radio Japan)(略称:RJ)とも呼ばれる。
NHKワールドはNHKの海外向けサービスの総称で、ラジオ日本はその一つである。
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[編集] 概説
1935年6月1日、日本語と英語による1時間のラジオ番組が北米西部・ハワイ向けに短波で送信され、日本の国際放送(当時は海外放送と呼んだ)は幕を開けた。社団法人日本放送協会(当時)による海外放送には開始当初は呼称がなかったが、やがて非公式に「ラジオ・トウキョウ(Radio Tokyo)」が使用されるようになり、1941年1月になって公式に定着した。なお、欧米では同盟通信社によるモールス信号を使ったニュース送信が「トウキョウ・ラジオ(Tokyo Radio)」と呼ばれており、歴史書などで混同されることが少なくない(「ラジオ東京」の呼称は、後に1951年に同名で開局した民放ラジオ局の後身である東京放送(TBS)およびTBSラジオとは無関係)。なお、聴取には短波受信機(ラジオ 但し、日経ラジオ社(ラジオNIKKEI)に周波数が固定されている専用ラジオは受信不可)もしくはHF無線機が必要。
日本放送協会の海外向け放送は、太平洋戦争終結後の1945年9月に連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の命令によって中止された。1950年、放送法施行により社団法人日本放送協会は解散し、業務を継承した特殊法人である日本放送協会(NHK)が1952年2月に「ラジオ日本(ラジオニッポン、Radio Japan)」として海外向け放送を再開する。1996年6月にはNHKの機構改革とともに「NHKワールド・ラジオ日本」となり、現在22の言語を使って放送が行われている。
「NHKワールド・ラジオ日本」の放送には、日本語と英語による全世界向けの「ジェネラル・サービス」と、各言語の対象地域向けの「リージョナル・サービス」の2系統がある。また、インターネット放送でニュース番組(日本語放送の場合、国際放送独自放送のものとラジオ第1・FM放送で放送される国内放送のもの)を配信している。
海外向けの放送で、短波送信によるスキップ現象のため、日本国内では電波が入感しにくいが一応日本国内でも受信は可能(短波の電波伝搬の性質上、八俣送信所(KDDI所有茨城県古河市)からの放送は受信しにくい地域・季節・時間帯も存在し、海外の送信所からの放送も受信可能な場合もある)であるため愛聴者は多い。なお、NHKは国内からの受信報告には通常、受信確認証(ベリカード)を発行していない。また、短波による放送の他、海外衛星テレビ受信装置(DVB)でも日本国内を含めて受信可能であるが、海外衛星テレビ受信装置による放送では通常、スクランブルがかけられているため通常は聴取不可である。
NHKは基本的に受信料を徴収しての運営であるが、この国際放送の運営に関しては、受信料収入のほか、政府から交付金という形で、補助が出ている。2006年11月10日には菅義偉総務大臣(当時)より橋本元一(当時)NHK会長に対し、放送法第33条「NHKに対して放送区域、放送事項、その他必要な事項を指定して国際放送を行うべきことを命ずることができる」という規定に基づき「NHKワールド・ラジオ日本において北朝鮮の日本人拉致被害者へ向けた放送をするよう」命令(その後、「要請」という表現に改めた)された(湾岸戦争当時の「緊急報道」もこのひとつ)。これに基づき、NHKは2007年3月26日から、送信設備に比較的余裕のある時間帯に「しおかぜ」(特定失踪者問題調査会)に設備を供与。これに伴い、長らくKDDIと結んでいた八俣送信所の独占使用契約を解除した。
しかし、先進国での衛星テレビやケーブルテレビ、ブロードバンド・インターネットの普及、更にはNHK新生プランにより、先進国への放送はインターネット及び衛星テレビ(NHKワールドTV、NHKワールド・プレミアム、テレビジャパン)での放送を重視することになり、2007年10月1日より、ロシアを除く欧州・北米・ハワイ向けの日本語放送の廃止等、先進国向けの放送を中心に大幅な削減を行った。これにより、同地域へそれまで短波にて放送されていた番組「地球ラジオ」の放送も、同年10月6日放送分よりインターネットへのストリーミング同時放送(ライブ配信。実質的には数十秒遅れ)に切り替えられた。なお、短波による日本語放送の1日通算放送時間は20時間のまま変更はない。この改編には、海外の短波放送リスナーから批判の声が噴出している。
[編集] 送信所(カッコ内は所有者)
- 茨城県古河市東山田字八俣(KDDIが所有しており、NHKはKDDIから借り上げている。なお、「しおかぜ」の送信開始に伴い、長らくKDDIと結んでいた独占使用契約は解除した。)
- 送信空中線:カーテンアンテナ×16、ログペリアンテナ(対数周期アンテナ)×4
- カーテンアンテナ―多線式折り返しダイポールを放射素子となす一種のアレイアンテナ。形状からこの名がある。八俣送信所のカーテンアンテナは6~12MHz周波数帯が1面と12MHz~22MHzの周波数帯の1面、合計2面で1式、反射器もある。入力インピーダンスは平衡300Ω、利得は16.5dBiまたは14dBi。最大瞬間風速60mに耐えられるように設計。送信機から同軸ケーブルで出力された不平衡50Ωを野外にあるバラン(アンテナ整合装置)で平衡300Ωに変換されて平行4線でアンテナに給電されアンテナ切替装置で最適な方向に送信されるアンテナを選ぶ
- 空中線支え鉄柱:張られるカーテンアンテナを支える鉄塔は、約35m~70m自立式トラス鉄柱35本、うち35mクラスが13本、70mクラスが22本
- 送信機:300KW送信機7台、100KW送信機4台。300KW送信機のうち2台のPWM(Pulse Width Modulation)変調方式はドイツ製、残り9台が国産メーカー。うち300KW送信機5台が国際電気(現:日立国際電気)TA-3001でプレート変調方式。
- TA-3001(国際電気) 真空管を用いた終段プレート変調式300KW短波送信機。SSB送信にも対応。送信周波数範囲は5.9~21.9MHz。四極管3本使用。うち変調器にTH573(グリッド電圧1000V、フィラメント電圧15V、フィラメント電流500A、使用可能周波数26MHz、重量53Kg)を2本を使用、電力増幅器にTH558(4CM500000G)(プレート損失500000W、フィラメント電圧23V、フィラメント電流500A(最大1000A)、使用可能周波数110MHz(CWは50MHz)、重量70Kg)が1本。音声入力は600Ω(0dBm)。音声周波数特性は50~7500Hz(フラットは150~3500Hz)、80%変調時で歪率3%以下、95%変調時で歪率5%以下。送信機総重量7500Kg
- 番組伝送回線:NHK放送センターから専用デジタル回線(768kbps)をメインに64kbps程度の伝送量回線が十数回線
- 送信局舎:敷地のほぼ中央に集中。送信機棟は鉄筋コンクリート平屋建て。第1送信機棟は延べ面積2700㎡(送信機8台他)、第2送信機棟は970㎡(送信機3台他)
- 電源:66KV送電線より2回線にて受電。送信機棟の受配電設備に6.6KV
- 備考:いづれのデータも1995年当時であり更新された可能性がある
- 送信空中線:カーテンアンテナ×16、ログペリアンテナ(対数周期アンテナ)×4
- シンガポール・カランジ(英国放送協会(BBC)=イギリス放送協会中継所)
- スリランカ・エカラ(スリランカ国営ラジオ)
- アラブ首長国連邦・ダバヤ(所有者不明)
- アフリカ・アセンション(イギリス領)(BBC中継所)
- ガボン・モヤビ(ガボン国営放送)
- イギリス・スケルトン (BBC)
- カナダ・サックビル(CBC=カナダ放送協会)
- 中米・オランダ領ボネール島(オランダ放送協会)
- 南米・フランス領ギアナ・モンシネリ(RFI=ラジオフランスインターナショナル)
※このうち、BBCとCBC、RFIとは「交換中継」という形をとっており、ラジオジャパンが送信所のある大陸に向けた中継放送を行う代わりに、送信所の所有者がラジオジャパンの八俣送信所からアジア・オセアニアへ向けての中継送信を行っている。CBC(ラジオ・カナダ・インターナショナル)は1988年から1989年の一時期、八俣中継の日本語放送を行ったことがあったが、その後中国(CRI)・韓国(KBS)の中継に切り替えて日本語放送では使われなかった)また、80年代にはポルトガルのラジオトランスヨーロッパのシネス送信所(250Kw)からの中継も毎日1時間行っていた。
[編集] 使用言語
[編集] 全世界向け(ジェネラル・サービス)
[編集] アジア地域向け
- 朝鮮語1
- 中国語
- ヒンディー語
- ミャンマー(ビルマ)語
- ベンガル語
- マレーシア語
- インドネシア語
- タイ語
- ウルドゥー語
- ベトナム語
- 1番組表、ラジオ日本オンラインでは「ハングル」と記載。開始アナウンスではコリアン・サービス(Korean service)とアナウンス。
[編集] 中東・アフリカ大陸向け
[編集] ヨーロッパ・南米向け
[編集] ヨーロッパ向け
[編集] 備考
- 以前、「ジェネラルサービス」の放送は、日本時間(JST)の奇数時(協定世界時(UTC)の偶数時)の1時間が日本語放送、逆に日本時間の偶数時(協定世界時の奇数時)は英語放送が原則とされていた。但し『NHKジャーナル』を開始した1982年以後は、それを世界同時放送する関係で、日本語放送を22時から、英語放送は23時から行い、日本語放送は21時から23時、英語放送は23時から翌日1時まで、それぞれ2時間連続で放送する形となっていた。
- その後、国内向けラジオ第1放送の同時放送の時間帯が増えた関係で、時間枠が見直されており、現在は、以下のような放送日程となっている。時間帯によっては日本語、英語の同時放送が行われている。なお、録音番組の更新は日本語が11時放送分、英語は12時放送分からとなる。特別編成により、下記の時間帯以外でも日本語放送や英語放送を行う場合がある(例 日本国内で災害・地震・津波警報発令などの緊急報道や、高校野球の決勝戦・閉会式が放送される場合)。その際は、時報の1分前の周波数案内などの中で臨時放送に関する告知を放送。
- 一部外国語(英語・中国語・朝鮮語・スペイン語・ポルトガル語)のニュースは、ラジオ第2放送でも同時あるいは時差放送されている。(ラジオ第2での放送時間についてはNHKニュースの放送時間#ラジオ第2を参照)
- 日本語放送は国際放送独自の内容の番組と、国内向けラジオ第1放送との同時放送の時間帯がある。(以下、時刻はいずれも日本時間)
- 国際放送独自編成時間帯の平日の番組は、2004年4月からそれまでのニュースと「TOKYO通信」をひとまとめにして『TOKYO発 きょうの日本』(2008年3月で放送終了)として放送していた(時間割はその項に掲載)。しかし2006年4月から同番組は18時台のみとなり、あとの時間帯では後半がラジオ第1放送の同時放送となっている(※)。
- ラジオ第1放送(一部FM放送を含む)の同時放送は 11:00~14:00、16:00~翌2:00(月曜未明と日曜未明は翌1:00)、翌3:00(月曜未明と日曜未明は翌4:00)~9:00と全放送時間の9割近くを占めている。かつては国際放送独自の番組編成だったが、こうしたいわゆる「垂れ流し」的な編成は、国際放送の本来の主旨に反するとの意見もある。
- ラジオ第1放送の放送内容は全国ネット送出回線(デジタル方式で伝送)に流れているものと同一である。これは基本的に東京第1放送の内容と同一だが、番組途中の交通情報・気象警報・地震情報(ローカル放送)、国政選挙の政見放送、高校野球地方大会の放送は無い(関東地方ローカルのニュース放送時はそのまま放送)。すなわち高校野球東西東京地区大会の中継放送を東京第1放送で放送している間でも、国際放送では11:00~14:00の時間帯は通常通り『昼のいこい』『ふるさとラジオ』『民謡をたずねて』、日曜日の『NHKのど自慢』などが放送される(放送されている番組はNHKラジオ番組一覧およびNHK FM番組一覧を参照)。そのため、高校野球地方大会の放送があって、なおかつ、他地域のラジオ第1放送が受信出来ない地域でも、国際放送の放送されている周波数に合わせれば、日本国内でも聴くことが可能な場合もあるため、補完の役割を果たしているとも言える。
- ※ラジオ第1放送の同時放送でも、その時間帯に国会中継や、放映権の都合で放送できないスポーツ中継(主にオリンピック、サッカーワールドカップ、高校野球(決勝戦以外)など。NHKプロ野球、高校野球決勝戦、大相撲中継は放送)がラジオ第1放送で放送される場合、当該時間帯は国際放送では別の一般番組に差し替えられ、主にラジオ第1・第2・FMで放送される録音番組から抜粋して放送されたり、FM放送・総合テレビ(『NHKのど自慢』のみ)と同時放送の番組を放送(フィラーで音楽を流すこともある)。したがって、『昼のいこい』、『ふるさとラジオ』、土曜日の『民謡をたずねて』日曜日の『NHKのど自慢』は、ラジオ第1放送が高校野球全国大会の中継が放送される時でも、通常通り放送される。また、『ラジオ深夜便』午前1時台(火曜~土曜未明のみ)、午前3時台(火曜~土曜未明のみ)午前4時台(日本時間)も、ラジオ第1放送がオリンピックやサッカーワールドカップの中継や年度末に行うNHK予算審議の録音中継があっても、FM放送で通常通り放送される関係から、国際放送でも通常通り放送される。
- 平日の2:00~2:55は『NHKジャーナル』の再放送がある。
- ラジオ第1放送(一部FM・総合テレビも含む)との国内同時放送ではNHKワールドTV、NHKワールド・プレミアムとは対照的に緊急地震速報がそのまま放送されることがある。通常、国際放送独自編成では流れないが、日本国内同時放送ではネット送出回線を直受けしている関係上、そのまま流れている。
- なおこの放送は、外国で受信される事を目的としているので、日本国内で受信してレポートを郵送してもベリカードの発行は原則として行わない(開局記念などの特例で発行される場合を除き、別種類のポストカードとなる)。また外国での受信であれば、報告者は邦人・外国人の別を問わない(日本に近い海外地域においては韓国、台湾、北方領土(現状ではロシア領であるため)、サハリン(ロシア領であるため)など現地での受信報告もベリカードの発行の対象となる)。一方、NHKワールドTVとNHKワールド・プレミアムのテレビ放送の受信報告書に関しては、日本国内外を問わずレポートを郵送してもベリカードの発行は行わない。
- 80年代後半に行われた八俣送信所の大規模改修工事の際、空中線電力の最大出力を500kWで申請していたが、送信所周辺の住宅事情等を考慮して、結局300kWに落ち着いた。改修工事が為されて今日のような送信設備に整備されるまでは、「ラジオ日本(当時の名称)は蚊の鳴くような声」と揶揄され、海外では受信が難しい放送局の一つだった。
- かつて、パナマに専用の送信所の建設を計画していたことがあった。パナマは北米と南米のほぼ中間に位置しているので、これらの地域での受信状態改善ができると期待されたが、結局実現に至らなかった。
- 80年代後半に、八俣送信所周辺の地域の作業停電のため、数時間八俣送信所からの送信が全くできない日があった。この頃の八俣送信所には自家発電設備もなかったのである。
[編集] 沿革
- 1930年10月27日 - 国際交換放送を開始(検見川送信所)
- 1934年4月29日 - 名崎送信所の使用を開始(検見川送信所の使用はこの日をもって終了)
- 1934年6月1日 - 満州及び台湾向け定時国内放送短波中継業務を開始(外地中継放送・外地連絡放送)
- 1935年6月1日 - 北米西部・ハワイ向け海外放送を開始(日本語・英語)
- ※当時の日本放送協会の英称は"THE BROADCASTING CORPORATION OF JAPAN"
- 1937年4月1日 - 海外放送でフランス語の使用を開始(この年、4月2日 ドイツ語、8月3日 スペイン語、8月23日 中国語)
- ※このころから「ラジオ東京(Radio Tokyo)」の呼称を使用(フランス語放送が最初)
- 1938年1月3日 - 海外放送でポルトガル語の使用を開始(この年、8月15日 オランダ語)
- 1940年6月1日 - 海外放送でヒンディー語の使用を開始(この年、6月3日 ビルマ語・タイ語、8月1日 広東語)
- 1940年11月1日 - 八俣送信所の使用を開始
- 1941年1月1日 - 海外放送でアラビア語・イタリア語・福建語・マレー語の使用を開始(この年、12月18日 タガログ語)
- 1941年1月1日 - 外地中継放送・外地連絡放送を「東亜中継放送」に改称
- 1941年1月 - 「ラジオ東京」の呼称が公式に定着(日本放送協会の海外向け広報誌の誌名として使用)
- 1942年4月1日 - 海外放送でタミール語の使用を開始(この年、8月16日 トルコ語、10月11日 ペルシャ語、12月3日 ウルドゥー語、12月5日 ロシア語)
- 1942年9月1日 - 東亜中継放送を「東亜放送」に改称
- 1943年7月2日 - 海外放送でベンガル語の使用を開始(この年、8月1日 グジャラチ語)
[編集] 外部リンク
- NHKワールド(ラジオを含むNHK国際放送に関する内容)
- ラジオ日本オンライン(日本語を含む21国語のニュースのライブストリーミング配信)