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近親相姦 - Wikipedia

近親相姦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

近親相姦(きんしんそうかん)とは、近い血縁関係にある者による性的行為である。国語や創作物の分野ではこの用語が用いられることが多い。ただし、政治、犯罪、フェミニズム臨床心理学などの学術的分野では虐待問題などに対する危惧から近親姦(きんしんかん)と呼ぶことが多い。英語では近い血縁関係にある者による性的行為をインセスト (Incest) という。

インセスト・タブーにより、多くの文化で禁止されている。だが、その血縁範囲、何をもって性的行為とみなすかに関しては文化的差異が大きい。近親者間の性的行為は異性間、同性間いずれでも起きる。大人と子供、子供同士、大人同士のいずれも起こる。しかし、非常にプライベートな話であるため議論することが困難な話題でもある。また、現在日本には文化的タブーとされているが、近親姦そのものを取り締まる法律はない。

目次

[編集] 近親者の性行為の用語

近親者の性行為を表す用語にはいくらかの議論がある。「近親相姦」と言われる事も多いが、これは合意の上での行為という意味で「相」という文字を用いており、実際に見られる例はそうではない場合が多いとしてフェミニズム運動を中心にして「近親姦」の用語を用いるべきという意見が出た。[要出典]『教育相談重要用語300の基礎知識』(1999)においては「近親姦」として紹介されている。1995年の第132回国会法務委員会においてこの用語の話題が出ている[1]。児童施設や婦人保護施設の利用者に被害者がかなり存在するとして、刑罰規定という政治的問題に触れた文書でもこの語が用いられた[2]

この用語が用いられるのは、「相」という文字には双方の合意と言う意味合いが社会通念上含まれているにも拘らず、実際には強要・甚だしくは強姦による場合が多く、性的虐待や暴力を表現するには適切とは言いがたいためである[3][4][5]。強制された例にも「相姦」という用語を用いる事は、行為に同意してしまったとして被害者が自らを責める事態を生む恐れがある。また、「相姦」という用語には、「肉体関係を持つ事が一般に禁じられている男女の関係」という道徳的な意味合いが濃いが、虐待や性的自由の侵害という権利の侵害を問題とする意味が薄いという指摘がある。[要出典]

近親愛の問題は1970年代のアメリカではしばしば法律で規制するのかどうかについて論争があった。その後、虐待問題で一方的な場合が多いことが認められた。近親姦に様々なパターンが存在する事、その人物の人生に決定的なダメージを与えるとは限らない事、だがしばしば有害な影響を与える事はよく知られている。

[編集] 近親姦の発生率調査

[編集] 近親姦と性的虐待

キンゼイ報告によれば近親者の性的虐待の体験率は5.5%、父親または義理の父親によるものは1.0%である[6]。しかし、この調査報告はさほど話題にされなかった。

また、1978年にはアメリカのカリフォルニアでダイアナ・ラッセルにより調査が行われた。それによると近親者による性被害率は女性が18歳までで全体(N=930)の約16%[7]である。そのうち4.5%が父親で、残り12%が別の肉親である[8]。この調査は女性に対する近親姦の全体16%のうち3分の1近くが父親によるものであることを示す[9]。だが、同時に気をつけなくてはならないのは3分の2以上が他の肉親によるものであるという点である[8]

一方、男性に対しても同様の調査は行われている。大学生を対象にしたデイビッド・リザックらの1996年の調査報告では男性の近親者による性被害率は16歳までで全体(N=595)の3-4%である[7]

日本では1972年、五島勉が著書『近親相愛』でアンケート調査を発表した。その結果女性1229人中4.7%が実際に行為に至った、もしくはギリギリまで進んだと報告された。しかし、これはほとんど話題にされなかった。

また、精神科医斎藤学が1993年に過食症の女性患者52名、比較群の健康女性52人に行った調査がある。その結果、健康女性の2%、過食症の女性患者の21%が18歳までに接触性近親姦の被害に遭っているという調査結果が得られた[10]

石川義之は1993年に大学・専門学校生を対象に調査を行ったが、非接触も含むと女性の12.3%が近親姦被害に遭っており、うち5.7%が父親によるものであった。

[編集] 兄弟姉妹の近親姦

社会学者デイビッド・フィンケラーによる796人の大学生を対象にした研究によれば、女性の15%、男性の10%は、何らかの形での兄弟姉妹との近親姦を報告し、その4分の1は虐待的なものであった[11]。Floyd Martinsonも大学生を対象にしたこの研究報告10-15%を引用しており、そしてその40%は8歳より前に起こったものである[12]。ただし、これの多くは性交は伴っていない。基本的に性的虐待は年齢差のあるものを指す事が多く、それを性的虐待をみなすとすればどちらが加害者かという問題も浮上する。マルグリット・ユルスナールは文学におけるインセスト主題の歴史を振り返り、父娘や母息子の場合は双方の意志に基づかないものが多く、兄弟姉妹だけには意志的なものが成り立つと主張した。2007年にはドイツで当人たちからの訴状も起こっている。

しかし、もちろんこういった場合も強要が伴う場合が少なくない。こういった兄弟姉妹の場合でも家庭内の力関係を反映しているという指摘もある。「近親相姦に関する研究」で久保摂二の行った調査では、兄弟姉妹姦は実質的に家族の中心者でありながら、未熟なまま統率者に添えられた男性に多いことが分かっている。兄弟姉妹の近親姦は不完全な家族の絆を強くする作用があるのかもしれない。周囲の対応として、関係の存在自体を否認したり、まともに取り扱おうとしないことは問題がある。カール・グスタフ・ユングは兄に強姦された女性を治療したこともある[13]。また、兄弟姉妹で性行為を行っている人には形式(偏り)はない[14]。そのため、その行為は家族の機能不全の結果であったとしても、原因にはならない可能性が高い。

[編集] 遺伝学と心理的嫌悪

生物学者が近交弱勢と呼ぶように近親姦で子供が生まれた場合、その子供は遺伝的疾患や死を催しやすい。近親交配においては、夫婦が共通の祖先を持つため、その両者が同じ種類の劣性遺伝子をペアとして共有する可能性が高くなる。優生学上は両親から同一の遺伝子をもらった場合のみにその形質が現れる遺伝子を劣性の遺伝子、どちらか片親からその遺伝子をもらっただけで形質に現れる遺伝子を優性の遺伝子という。近親交配を繰り返した場合には両親が同じ劣性遺伝子を持つ可能性が高くなる。そのため、劣性遺伝子という形で隠蔽されている、障害をもたらしたり致死性のある遺伝子が症状として顕在化しやすい。近親姦でない場合はたとえ片方に特殊な形質に関する遺伝子があっても、もう片親にはそれを打ち消すような優性の遺伝子がある場合が多く、その形質が子供に現れることは少ない。血友病を持つ人物が同じ遺伝子を持つかもしれない自分の兄弟姉妹と親密になって子供を作り、そしてその子供が血友病にかかっているという事例が中世ヨーロッパで見られた。

人類学者の中には、生物学を近親相姦畏避の研究に入れることに批判的な意見がある。近親交配が良い結果をもたらすことも想定できるため、近親交配の嫌悪の根拠を生物学的に求める事はできないとする。例えば骨格異常の遺伝子は優性形質であることが多いなど、障害をもたらす遺伝子が必ずしも劣勢であるとは限らない。さらに、望ましい形質が頻度の低い劣性遺伝子に基づいている場合もある。その場合には、その遺伝子のホモ接合型によってその良い形質を顕在化して固定する効果があるために、近親交配が有効な手段となる。ただし、そのような近親交配の長期的な正の効果が顕在化するには、偶然や例外的な環境、あるいは畜産等の人為的な選択管理、などによるデメリットの回避が必要となる。

このため、近親交配が自然界で普通でなく、そして繁栄している生物種がそれを回避する心理的メカニズムを持っていることは意外ではない。例えばウェスターマーク効果など人間界でも近親相姦の嫌悪は一般的である。今のところ、認識心理学上の親族認識については未だ定説が確立しているは言いがたい。また、それがどの程度文化的圧力によって左右され得るかについても研究理解は不十分である。多くの研究結果は、人間の近親相姦嫌悪を理解する上で進化生物学及び人間の心理学が中心的役割を果たすことを示している。

[編集] 近親姦と妊娠中絶

妊娠中絶に関しての議論も近年盛んである。アメリカのプロライフ派がこういった場合の妊娠中絶を違法化しようとしているのに対し、それに反対する声も強い。サウスダコタ州では2006年2月、強姦や近親姦によるものを含む全ての妊娠中絶を重罪とする法律が可決されたが、2006年11月には住民投票により反対多数で廃止された。

[編集] 親子の近親姦

[編集] 親による強姦の概念

親子間の近親姦は、心理的に危険な場合が多いと考えられている。この場合、ほとんど性的虐待であるため、「近親姦」と呼ぶことが一般的である。アメリカ合衆国の弁護士にして推理小説家のアンドリュー・ヴァクスはこれを強姦の一形式とみなしている。多くのセラピストも同様の意見である。

通常は性的虐待というと心理的・身体的な強要を伴う場合が多く想像される。確かにそういった例も多く、外面的に性的虐待である事が分かりやすい。ただ、それだけではなく、その行為が何を意味するのかを理解させずインフォームド・コンセントを与えずに性行為を行う場合もある。この場合は一見すると性的虐待には見えないが、社会的な規範から自身を省みたときに精神が激しく傷つく恐れもあるため、性的虐待の範疇に含めてよい。

こういった表面上愛し合っている場合にはその関係がそのまま続いていく事もある。長期的にそうした関係を繰り返す場合もあれば、近親姦の体験が自分にとって有意義だった、あるいは悪い影響はなかったと主張する場合もある。ただし、客観的証明は難しい。例えば、殺人や盗みが時として有益な働きをするように見えるのと同じとも取れる。いずれにせよ、現代社会の状況ではこういったインセストは性的虐待となることが非常に多いと判断される。この事でトラウマを負っている人は多く、精神疾患を患っている人も少なくない。

[編集] 近親姦の定義と影響

心理学上は近親姦とは近親者における接触性の性的行為全てを差す。一方、接触のない近親者による性的行動は近親姦的行為とされる。どのような行動が近親姦的行為か否かに関しての区分は、一般にそれが秘密にしなくてはならないかどうかである。その影響としては境界性人格障害様の反応や解離性同一性障害を含む解離性障害が現れる。これは一種の心的外傷後ストレス障害の症状であると考えられており、また非常に外傷体験が複合した形式であるため複雑性PTSDとも言われる。症状としては恥、絶望自尊心の欠如、自傷行為、酷いなどがある。自殺する事もある。

[編集] 近親姦に関する誤解

近親姦については様々な誤解がある。まず、近親姦というものはめったに存在しないと考えられがちだが、実際には人口の数%以上存在するという調査結果が示されている(前述)。また、貧困家庭や低教育層、もしくは過疎地で起こることであるとも考えられているが、実際にはいわゆる上流家庭でも発生している。同様に、近親姦をする人は社会的にも性的にも逸脱した変質者であると考えられやすいが、実際には一見すると普通に見える人も少なくない。また、性的に満たされない生活を送っている人間が行うと考えられる事もあるが、親と子の場合は支配欲が主な動機と考えられており、性欲はさほど問題ではない。さらに、ほとんどの近親姦の話は子供の性的な願望が作り出した空想や白昼夢であるともいわれるが、それはジークムント・フロイトが、子供が近親相姦を望んでいると誤解した事による。

事件が起こりやすい家庭には特徴があるとされる。他者と心を通わせようとせず、何でも隠したがり、依存心が強く、ストレスが高く、人間の尊厳を尊重せず、家族がお互いに自分の気持ちを正直に語り合おうとせず、大人が自分自身の情緒不安を鎮めるために子供を利用する家庭は事件が起こりやすい。逆に開放的で暖かく、お互いにコミュニケーションを多くとる家庭は事件が起こりにくい。そうではない場合も少なくないが、全体的な傾向としては認められるものである。また、家庭が保護的な役割を果たさない場合、今度は家庭外で性的虐待に遭う可能性が高くなる。

[編集] 親子形式の比率

親子間の近親姦の体験者を全体標本としてその比率に着目したデイビッド・フィンケラーの報告では、父親-娘が80%、父親-息子が9%、母親-娘が8.5%、母親-息子が3%と出ている[15]。このように親子の場合は、比率としては父親と娘が多いが、同性間でも決して少なくはなく、父親が息子をレイプする、あるいは母親が娘と性行為を行う事も多くある。

また、母親と息子の近親姦も多く起こっているが、西洋、特にキリスト教文化圏においては、母-息子姦に対する嫌悪が強く、議論が進みにくい状況がある。近年のアメリカでも母親をエロスと欲望の対象として見る人間達は驚きと恐怖の目で見られている[16]。それでも、矛盾した被害男性の心象など、日本よりははるかに研究が進んでいる。

また、「虐待」という概念の違いが統計上のずれをもたらしている可能性もあり、比率に関しては安易に断定する事はできない。

[編集] 父-娘近親姦

父娘姦においてGoodwin, J.M.は「目隠し(Blind)」と名付けられる特徴があることを報告している[17]。その5つの特徴は、「Brainwash(洗脳…家族では当たり前のことであるという話や秘密にしなければならないという嘘の情報を与え、子供を洗脳する事)」、「Loss(喪失…秘密にしなければ家族崩壊や友人関係の消失が起こると脅迫し口を封じる事)」、「Isolation(分離…人に話せば友人から信用されなくなると言い、子供が真実の情報を得る事を出来なくさせること)、「Not awake(未覚醒時…睡眠時、病気の際や身体的虐待時など意識や判断能力の低下時に虐待をすること)」、「Death fears(死の恐怖…人に話せば殺すというメッセージを送ること)」である。

ジュディス・ハーマンは自らの著作『父-娘 近親姦(Father-Doughter Incest)』(1981)で40人の女性について研究している。その家庭は非常に保守的で、見かけはとても立派で、典型的で伝統的な家父長制の家庭であった。父親は暴力を振るう可能性をちらつかせ、それはアルコール依存により悪化する場合が多く、父親は家族の中では暴君として恐れられている傾向があった。外部的には非常に立派で家族の責任を果たしていると賞賛されている事が多かったが、その一方で父親は社会的には能力が足りないとみなされる傾向があった。家庭には男尊女卑の傾向があり、性役割ははっきりしていた。母親は大抵父親に依存しきっている専業主婦であり、何度も無理矢理妊娠させられることもあり、能力がなく、役立たずな人間とみなされており、抑うつ・精神病アルコール依存の症状をきたしていることが多かった。娘は父親の相手をし、機嫌をよく保つ役割を担わされ、さらに兄弟姉妹を養育する責任も担っていることが多かった。[18]

こうしたジュディス・ハーマン(1981)の父-娘近親姦の家族パターンは傾向としては認められるものであるが、実際には様々ありS. Kirschner, D.A. Kirschner, R.L. Rappaport (1993) は「父親が優位である家族」「母親が優位である家族」「混沌とした家族」の3つのパターンを記述している。Price.M (1994) は父親と娘における近親姦の事例に共通して見られる混沌、秘密、境界の侵害、役割の混乱について指摘し、過保護ネグレクトが繰り返され、無理矢理に子供が自分たちの家族は理想的だと思い込まされることを記述している。

また、父親と娘の場合、娘が自分は父親を奪っているという独特の罪悪感がさらに問題を複雑にしてしまっている場合がある。その場合、娘はしばしば母親に対抗する女としての自分を意識することがあり、この場合母親に秘密を打ち明ける事は非常に困難となる。さらに母親を裏切っているという意識のために余計に罪悪感を深めてしまうという悪循環に陥る。さらに、母親が知っていたのではないかと疑い、自らに答えの出ない問いかけを行った結果として、母親に父親以上の強い怒りを感じてしまっている傾向もある。親密になればセックスをしなければならないような気がするというような、親密さと性が混乱している傾向もある事でも知られる。

[編集] 父-息子近親姦

父親と息子の家族モデルは父親と娘の場合とよく似ている場合が多い。また、こういった場合権力的なもの(父性的なもの)に対する反抗が起こる事が多い。非常に多いにも拘らず、インセスト・タブー同性愛タブーと男性が性被害に遭わないという通念と本人の強烈な恥辱感が重なり合っているため非常に見えにくい。

K.Dixon (1978) は病院に運ばれた外来患者として父親から息子に加えられたケースを報告しているが、被害者は多く自己破壊的で他人を殺したい衝動を持っていたという[19][20]。ただし、こうしたパターンの性的虐待をされたからといって殺人者になるわけでは無論ない。反社会的態度が起こる場合も多いが、それには周囲の態度が影響する。

[編集] 母-娘近親姦

これに関してもかなりの数が報告されているが、同性愛タブー、インセスト・タブー、および社会における女性が加害者とならないという通念、母性の考えがこのタイプを、非常に見えにくいものとしている。Rosencrans (1997) による93人の被害者への調査は、虐待についてにだれにも告げられないまま平均28年を過ごしていた事を示す[21]。また、息子を虐待する母親は息子を年齢仲間のように扱うのに対し、娘の場合自らの拡張のように扱う傾向がある[22]

日本における被害者本人の話[7]によると被害者は母親から「侵襲」されたというような感覚を持ち、一方で母親から強烈な女性らしさを要求されるにもかかわらずそれを達成できずに苦闘するという。また、性的虐待を受けていなかったらレズビアンになったのではないかという疑惑を持ったことも記している。

[編集] 母-息子近親姦

母親から加えられるものに関しても様々な研究が行われている。全体の傾向として言えるのは、このパターンの性的虐待を受けた男児は「自分は特別であり、特権を与えられるに値する人間である」という感覚を持つ一方、実のところその感覚は仮初めでいつ壊れても不思議はないものという感覚があり、それがパラノイアに近い過剰な警戒に満ちた広範な不安反応を引き起こしているということである。[16][23]

この不安は自分自身が心理的虐待を受けることを予期し、先々それに応じた反応を取ることで被害を最小限に食い止めようとするものであり、虐待に対し非常に怯えた結果起こる反応であるという理論がA. Rothstein (1979) により述べられた。この理論はGlen O. Gabbard and S.W.Twemlow (1994) によってさらに発展された。息子は母親によって母親の自己愛を満たすことが自分の役割だと思い込まされるが、そのために間違ってでも母親を不快にさせた場合、それは自分の存在そのものを否定されることに等しくなり、それゆえに息子はまるで綱渡りをしているような状況に陥るのだという。

一方、自分が特別だという感情は行為そのものへの武勇伝的感覚などから来ると言われるが、こうした感情は自分が非常に誘惑的で、多くの女を魅惑する力を持っているのだと思い込む力へと繋がる。だがそれらは自分が被害者なのになぜか加害者のように仕立てられるという歪んだ認識の中で生まれたものであるため、その認識をあらゆる方面に投影してしまう危険性がある。

母親との近親姦関係では、性的興奮と虐待経験が強く結びついており、興奮と快楽はすぐさま羞恥と嫌悪に変わってしまい、息子の心の中では激しい葛藤が続くことが多い。また、トラウマティックな絆がそこに生まれるため非常にそれを言い出しにくい時期が続き、少年は母親の夫のような役割を担わされ続ける[24]

(参考 アグリッピーナコンプレックス密室の母と子

[編集] 情緒的近親姦

たとえ実際に明らかな近親姦もしくは近親姦的行為がなくとも似たような破壊的力動が起こることもあると主張する研究者がいる。それは情緒的近親姦(じょうちょてききんしんかん、Emotional Incest)といわれる概念である。このような場合は親は意識レベルでは子供を性的に裏切っていることに気づかない場合も多い。子供との関係が養育から近親姦的な愛への境界線を越えるのは、それが子供の欲求を満たすためではなく、親の欲求を満たすためのものになった時であるという。この概念を用いる際は、近親姦は「明白な近親姦」と言われる。

しかし、この概念はしばしば物議を醸す。それは、こういったことが問題ではないという意味ではない。視姦やセクハラに近い行為は、一般的にも問題視される。批判の焦点は、そういったことを近親姦と呼ぶことは間違っているという点である。精神的な感情(いわゆるマザーコンプレックスファザーコンプレックス)などの概念を本物の近親姦と同一視することは本物の近親姦の深刻性を和らげ、逆に近親姦に関係した概念をポピュラー化させてしまう危険性があるという。

精神分析家の多くはかつてはそのように母親から誘惑を受ければゲイになるのだろうと言ったが、現在はゲイだから誘惑されたという認識に変わりつつある。この解釈ではゲイの場合母親が子供から得られると思っていたロマンティックな感じが得られないため、無理矢理に母親が誘惑するのであるという。

[編集] 法律

[編集] 成人間の近親姦

成人間の近親姦の関係は、産業世界の大部分において文化的タブーであり、法で禁止されている国もある。だが、これらの禁止法規は時折、根拠がないのではないかと指摘される。成人間の合意の上の関係は、双方に子供がいない場合には他の人を害せず、犯罪と見なされるべきでないというのがその理由である。

暴行・脅迫を伴わないものに関しては、様々な例がある。律令制では八虐で、近親相姦の禁止は謳われていない。972年に完成された延喜式にある規定で国つ罪として禁止された。1742年の「公事方御定書」では養母、養娘、姑と交わるのはさらし首、姉妹、叔母、姪の場合は遠国送りと定めた(母子・父子は論外だった)。

近代日本でも1873年6月13日に制定された改定律例においては親族相姦の規定があったが、1881年に廃止された。フランスは合意があった場合は処罰しないと明記してある。アメリカでは州によって罰すべきか否か異なる。ドイツでは直系血族、兄弟姉妹間の性交を刑法第173条で処罰すると定めている。

1996年11月にはオーストラリアで近親姦を違法とする法律が廃止されようとしたが、それに対する抗議があった。一方その抗議を批判する議論では、それは(法律の廃止が)子供の性交を合法化する意図による、との誤解に基づいた抗議であるという。また、合意の上の成人近親姦の有罪化は、人権侵害であるという。

現在日本には近親者同士の合意に基づく性的関係についての規定はない。強姦の場合は強姦罪、子供の場合は児童虐待防止法などの法律で対処する。日本の法律では直系の血族と、傍系の血族で三親等以内の人との結婚が禁止されている(民法第734条および第740条)。たとえば、自分自身の兄弟姉妹との関係は、直系ではなく傍系ということになる。法律的には、甥・姪の子どもやいとこは傍系4親等で結婚可能。

近親婚の規定に関しては、実際の血縁関係がない「義理」「養親子」関係も近親に分類される。ただし、近親婚の禁止について民法第734条の但し書きには養子の異性(傍系のみ)とはこの限りではないとあるため、傍系ならば婚姻は可能である。例えば、配偶者がいる場合には、配偶者の両親は血族ではなく姻族と呼ばれ、直系についてだけが禁止の対象になる。そのため、妻の姉妹或いは夫の兄弟と結婚することも可能である。だが、妻の母親或いは夫の父親は直系の姻族ということになり、結婚は不可能となる。

また、近親姦によって出生した子を非嫡出子として認知することは可能である。この場合、戸籍の「父」「母」欄には、近親者同士が名を連ねることとなる。あるいは、近親姦によって出生した子を認知せずに養子とすることも可能である。この場合、戸籍の「父」欄は不明で、実父が養父として記載されることになる。

[編集] いとこ同士の場合

大部分の世界においては近親姦は一般的に家族の中の禁じられた性交である。だが、家族の定義は変化する。日本ではいとことの結婚は許可されており有名なケースではノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作や、民主党菅直人の妻もいとこである。

アメリカ合衆国では、いとことの結婚は25の州で禁止し、そして別の6州は特殊事情の下でのみそれを可能にする。例えば、ユタ州は双方の配偶者が年齢65歳以上または不能に関する証拠を持つ55歳以上の年齢の場合に限られる。残る19の州及びコロンビア特別区は、制限なしでいとこ婚を許可する(2006年現在)。

[編集] インセストの歴史

[編集] 古代 - 1000年

女王クレオパトラ
女王クレオパトラ

古代エジプトの皇位継承権は、第一皇女にあった。しかし、実質的な君主(ファラオ)は第一皇女の夫である。古代エジプトの王家で見られた兄妹・姉弟間の婚姻は、本来女系皇族が継承する皇位を、男系皇族が実質的に継承する機能を果たしていた。例えば、エジプトの女王、クレオパトラが弟のプトレマイオス13世と結婚して殺した後、さらにその下の弟のプトレマイオス14世と結婚している。

ダビデ王の王子アブシャロムの妹タマルを異母兄アムノンが犯してしまう(旧約聖書サムエル記下13章)。中国、春秋時代の襄公とその妹文姜の事例がある。

また、イエス・キリストを裏切ったユダには、オイディプスそっくりの伝説が存在していた事をオットー・ランクは指摘する。無論事実ではないが、母と寝たために父殺しの運命を背負ったという考えから生まれた風説である。

歴史上では、古代ローマ帝国の皇帝カリグラが、自身の妹であるドルシラ小アグリッピナ、ユリア・リウィッラと次々に性的関係を持っていたといわれているが、その物語には脚色が多く、どこまでが本当かは未だに不明である。その妹達の一人とされる小アグリッピナは叔父であるクラウディウスと後に結婚しており、息子ネロとの関係もかなりの噂になった。

古代日本では同母兄妹(または姉弟)の間の性関係はタブーであったとされる。有名なものでは木梨軽皇子軽大娘皇女が挙げられる(詳しくは「衣通姫伝説」の項を参照)。しかし、異母の場合およびおじ=姪・おば=甥の関係はかなり普通にあり、むしろ理想の結婚と考えられていたようである。また、イザナギイザナミとの間の性関係で日本は出来たと『古事記』には記されているし、ヒルコが生まれたのも兄妹間での性関係の罪のせいではなく、女から性関係を迫った罪だとされることからも、一概に古来よりタブーであったとはいえない。

また、記紀によれば、木梨軽皇子、長田大娘皇女、境黒彦、安康天皇、軽大娘皇女、八瓜白彦、雄略天皇、橘大娘皇女、酒見娘皇女が同父母兄弟姉妹であるという記載があり、『古事記』によれば安康天皇が臣下の嘘の証言を信じ大草香皇子を殺しその妻であった姉長田大娘皇女を妻としたとされているため、これは姉弟姦なのではという意見もある。ただし『日本書紀』の雄略紀では安康天皇の妻は履中天皇の皇女である中磯皇女とし、亦の名は長田大娘皇女と註を付けるという言い方をしている。この場合は従姉弟婚となる。一方で『日本書紀』では木梨軽皇子と軽大娘皇女のロマンティックな絡みは見られず、人間的に木梨軽皇子寄りの記述が『古事記』ほど窺えないのも特徴的である。この部分は記紀の記述が異なっている有名な事例の一つである。このため、山上伊豆母はあくまでも記紀に書かれた記述はあくまでも記紀編纂者の観念の反映であり、それよりも200年も前の木梨軽皇子の時代にも同じ倫理観(同母兄妹(または姉弟)の間の性関係に対する禁忌)が存在していたとする確証はないとしている。なお、安康天皇は後に長田大娘皇女の連れ子である眉輪王に暗殺されている。

聖徳太子(菊池容斎・画、明治時代)
聖徳太子(菊池容斎・画、明治時代)

聖徳太子欽明天皇の息子である用明天皇と娘である穴穂部間人皇女の間から生まれたとされている(「記紀」共に認める)のにもかかわらず、聖人として認められている。また、『日本書紀』によると用明天皇の母堅塩媛は、穴穂部間人皇女の母小姉君の同母姉にあたり、蘇我稲目の娘であると記す。つまり兄弟であり従兄妹であったということになる。しかしながら、一方で『古事記』は、小姉君を堅塩媛のオバと記している。これについて「捜聖記」においては、堅塩媛が「媛」なのに対し、小姉君が「君」であることから、小姉君は稲目の養女なのではないかと推測しているが、これは推測の域を出ない。なお、聖徳太子の母である穴穂部間人皇女用明天皇の没後、その皇子である田目皇子と結婚している(「上宮記」による)。これは今で言うところの義理の母子結婚に当たる。さらに、『古事記』によると田目皇子は穴穂部間人皇女の姉の子であり甥に当たるとされる。

大化の改新が起こるが、『万葉集』に孝徳天皇が、妻の間人皇女に当てた歌の中に間人の同母兄である中大兄皇子(後の天智天皇)との不倫を示唆しているとされる歌が収録されている。このことで批判されたため中大兄皇子は天皇位になかなか就けなかったのではないかとも言われている。

ほぼ同じ頃、天武天皇持統天皇及び3人の天智天皇の娘、すなわち姪を妃にしているほか、元明天皇は甥の草壁皇子の妃となっている。この他にも異母近親婚、おじ・おばとの近親婚の例は多い。

平安時代初期にも異母近親婚は行われる。桓武天皇は異母妹酒人内親王を妃にした。ただ、これは当時緊張感が漂っていた朝廷を鎮めるための政略結婚だったといわれる。彼らの間には朝原内親王が生まれたが、彼女も異母兄平城天皇の妃となった。

その後、藤原氏のように天皇家と近づこうとした貴族が現れたことで、天皇家と藤原氏の二氏族の近親相姦のような状況が日本では平安時代に作り出された。

[編集] 11世紀 - 19世紀

日本では時代が下るにつれて近親相姦の禁忌視は強くなっていく。鎌倉時代には義理の妹(血縁上の叔母)を中宮にした後深草天皇後嵯峨上皇に情緒不安定を理由に廃されたという事例もある。

立川流がインセストを容認したという事実は認められないが、過激な性思想が著名となったことで、後世になって大衆小説でまるでインセストを容認しているようなイメージがまとわりついた。

インカ帝国においては宗教観により、広く交雑する事で皇族の血筋が汚されるという考えから、近親婚が行われ続けた。だが、14代に亘り兄弟姉妹婚が繰り返されたにもかかわらず、健康上問題は起こらなかった。

ローマ法王アレクサンデル6世の娘ルクレツィア・ボルジアは兄チェーザレ・ボルジアや父と相姦していたとして訴えられた。ルクレツィアの肖像画が黒百合の風情によく似ている事からこの話は広まったとも言われている。なお、この頃ヨーロッパの貴族間では血縁が近いもの同士の結婚が行われていたが血友病に悩まされたりしていた。

中世ヨーロッパではこういったことで訴えられる例が多く、全くの無実である事も少なくなかった。有名な例として、イングランド王ヘンリー8世アン・ブーリンと離婚したいがために、彼女が兄のジョージ・ブーリンと近親相姦をしたとして訴え、兄もろとも死刑にした事などが挙げられる。なお、彼女の娘がエリザベス1世である。中世の暗黒時代において、魔女の宴で息子は母と、兄弟は姉妹と性交するものと信じられていた。

1662年に、モリエールは20歳年下の一座の女優アルマンド・ベジャールと結婚した。だが、母親は実は彼の恋人であったマドレーヌ・ベジャールであったため、娘と結婚したのではと疑惑になった。モリエール自身はこれに対しアルマンドはマドレーヌの妹であると主張した。現在もまず妹なのか娘なのか(非嫡出子の可能性は高いが)、娘であったとして他の男との子供なのか彼自身の子供なのか、はっきり分かっていない。

日本では江戸時代に入り異性双生児が母親の腹の中で相姦しているとなとどして嫌悪されたりした。

フランスでは18世紀に入り、あらゆる価値が相対化し、自由思想家の主張した精神の開放が体系化された。思想においてもマルキ・ド・サドなど、家族間の性愛を称揚する動きも生まれた。しかし、この時代のフランスのインセストは「哲学の罪」と言われ、一部の特権階級、すなわち神話やかつての王族に見られるインセストの特権意識を模倣したものであった。

フランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトは妹ポーリーヌとエルバ島で結ばれたという噂がある。ジャコモ・カサノヴァはかつての愛人ルクレチアとの間に生まれた娘レオニルデと関係を結んだ事を、『我が生涯の物語』(邦題:『カザノヴァ回想録』)で誇らしげに述べている。

今東光『十二階崩壊』(1978年中央公論社)によると、作家武林無想庵は実妹を犯したことがあるという。その後、無想庵の妹はカトリックの修道女となった。

[編集] 20世紀以降

1912年頃、島崎藤村は姪と通じた。姪を妊娠させ藤村は留学という名目で国外に逃亡した。藤村は自分の父親も妹と関係を持っていた事などを知る。彼は『新生』でその体験をつづるが、このため姪は国内にいられなくなった。

1939年ペルーリナ・メディナが史上最低年齢の5歳7ヶ月21日で出産。父親が逮捕されたが証拠不十分で釈放。現在もこれより低年齢での出産は確認されていないが、その息子は40歳で死去した。

アドルフ・ヒトラー
アドルフ・ヒトラー

1939年、両親が叔父と姪の関係のアドルフ・ヒトラーポーランド侵攻を開始し、第二次世界大戦が開始される。彼は異母姉の娘アンゲラ・ラウバルを愛人にしていたという噂があるが、その姪が自殺しヒトラーは性格が変化したと歴史学者は語る。

1957年、久保摂二の日本初の近親姦論文「近親相姦に関する研究」が発表されその実態が研究対象になりだす。1972年、五島勉は『近親相愛』を出版する。

アメリカでは1960年代より以前は、欧米を中心に近親姦は人里はなれた山奥で、変質的な父親と知的に低い娘との間にごく稀に起こる現象と考えられていた[25]。だが、その後性革命が起き、近親姦の悲惨な実態が明らかになる。

1968年、日本では父親に近親姦をされていた娘が父親を殺害する尊属殺法定刑違憲事件が起こる。1973年4月4日に最高裁判所において刑法第200条(尊属殺重罰規定 削除され現行刑法典には存在しない)が日本国憲法第14条で規定された「法の下の平等」に違反し違法であるとの憲法判断が示され、減刑された。

1980年5月に母子姦を取り扱った『密室の母と子』が発行されるが論争となる。1980年11月には神奈川金属バット両親殺害事件が起こり、一部のワイドショーでは母親と息子の近親姦があったのではという話が流れるが、警察は公式には否定している。

1984年にはゴーラー一族のスキャンダルがカナダで明らかにされ、一族内で近親姦が多く行われていた事が明らかとなった。

アメリカでは1980年代以降多くの無作為抽出調査により少ないという認識は反転し多くの人が近親姦を行っていることが明らかとなった。だが、この研究の最中で抑圧された記憶の概念が浮上したために臨床において曖昧な記憶や治療者の勘が簡単に信用されすぎて「偽りの記憶」が作り出されるのではないかということで1990年代にかけ虚偽記憶の論争が起こり、薬物や催眠は用いない事になった。悪魔崇拝者らの儀式的虐待も批判された。

1991年、アメリカでラトーヤ・ジャクソンマイケル・ジャクソンの姉)が父ジョセフ・ジャクソンによるラトーヤと姉リビー・ジャクソンに対する性的虐待の描かれた本『La Toya: Growing Up in the Jackson Family』を出版し論争になった。リビーはこの疑惑を否定した。

1993年、元アメリカン大学学長のリチャード・ベレンゼンは『Come Here: A Man Overcomes the Tragic Aftermath of Childhood Sexual Abuse』を出版。この書物では「もし、母親と自分との間に起きていることが嫌だったなら、なぜ自分の身体はあのように反応したのか?」とひどく困惑した事が述べられている[26]

1995年1月1日、多くの女性達を解体し殺害した罪及び娘に対する性的虐待行為の罪で刑務所に入れられていた、イギリスの連続殺人犯フレデリック・ウェストが刑務所で首を吊り自殺した。彼に関しては、母親にセックスされた、父親に獣姦の教育をされた、妹を妊娠させた、妻とその父親の性交を見ては興奮していたなど様々な話が流れていた。

2000年7月には奈良長女薬殺未遂事件が発生。法廷で加害者とされた彼女は父親に近親姦を行わされていた事を述べた。また、複数の男性に性的虐待を受けた事も証言。責任能力は認められたが、この件の為情状酌量が認められた。

2001年附属池田小事件が発生。事件後父親が母親と犯人の近親姦を臭わせる発言をしたらしい事が『新潮45』に記載される。彼は、レイプを行ったり4度の結婚をしたり、精神分裂病と診断されたり、飛び降りなどを行ったりしていた。

2002年2月には群馬同居女性殺人事件が発覚、加害者として逮捕された姉と弟の近親姦があったらしい事が周囲の証言から噂される。

2006年、テリー・ハッチャーは叔父に近親姦被害を受けていた事を述べる。その叔父は少女に暴行しその少女が自殺し、叔父は実刑判決を受けた。

[編集] 文化

[編集] 人類学

人類学者は、結婚が制御されるということを研究した。その結果、近親相姦の禁止は族外結婚の推奨であるという説がクロード・レヴィ=ストロースにより立てられた。一族ではしばしば族外結婚の規則によって自身の家族及び個人が結婚する。これは、族外婚により親戚が増えるために共同体として危機に陥る事が少なくなるためである。このように、最も多重化された社会においては、人は族外婚の形式で結婚しなければならない。しかし、自分自身の一族と結婚することを奨励される例においては近親相姦をしない家族は小さく、そして近親婚をする家族は大きくなる。これは、莫大な財産がある場合は族外婚を行った場合には親戚により財産が分割され一族が小さくなるためである。だが、こういった人類学者の考えには「近親相姦そのものではなく近親婚を研究しているだけではないか」という批判がある。

一族であると考えられる範囲は、族外婚か族内婚のいずれかの目的のために相当社会の間で変化する。自分自身の氏族または血統のメンバーに関して近親であるかどうかは、非常に相対的なものである。たとえ遺伝学上近くとも別の氏族または血統の家族になっている場合、近親相姦であると考えられない可能性もある。逆に、氏族として同じとみなされるならば血がほとんど繋がっていなくとも近親相姦とみなされる可能性がある。これはオーストラリアの先住民族であるアボリジニなどの社会に見られる。また、いくらかの文化は、結婚による親類にも近親相姦の禁止を用いる。これは日本においても義理の母・父や娘・息子と結婚を行う事が不可など、ある程度は同様である。これらの関係は、血族ではなく姻族と呼ばれる。イギリスでは死んだ妻の姉妹と結婚することの是非について、19世紀に長く激しい討論が繰り広げられていた。

[編集] 民俗学

アメリカ合衆国副大統領ディック・チェイニーの首席補佐官であったルイス・リビーが1996年に書いた『ジ・アプレンティス』という小説の中では、1903年の日本の様子が記述されたが、彼がイラク戦争において大量破壊兵器のプロパガンダを指導するため米中央情報局 (CIA) のエージェントの身分を意図的に情報漏洩を行ったとするプレイム・ゲート事件でリビーが逮捕・起訴されたことでこの書物は脚光を浴びた。この書物では日本の近親相姦等の様子が描かれている。日本でも赤松啓介が1994年に刊行された『夜這いの民俗学』で第二次世界大戦前の様子を記しているが、かつては近親相姦が客観的に相当数確認できたという。

現代でも、文化的に許容されている場合もある。ジャワ島のカグラン族では母と息子の近親相姦は繁栄をもたらすとされ重視される。シエラマドレ山脈に住むインディアンの父親と娘は、経済的な理由から近親相姦を行う事がよくある。チベットの密教の一つのタントラ教は母と娘を愛欲する事で、広大なる悟りを得られると主張する。また、かつても経済上の理由から東アフリカのタイタ族では息子が母や姉妹と近親婚をすることはよくあった。ゾロアスター教においては父と娘、母と息子、兄弟姉妹の結婚は最高の善行であった。聖書は、レビ記において様々な家族間における性交の禁止を含む。父及び娘、母及び息子、及び他のペアは、性交を行うことは禁じられている(ただ、これには「親が子供に行った場合」ということがはっきり謳われていないという批判がある)。またそれはおじ及び姪、おば及び甥の間で性交を禁止する。

日本では男女の双子は心中者の生まれ変わりと考える文化があった。来世で生まれ変わって夫婦になることを誓い合った二人だと考え、片方を養子に出して成人してから他人として結婚させるということが行われた。この場合は双子であっても近親相姦とは考えない傾向があった。

[編集] 精神分析

人文学上は近親相姦願望はエディプスコンプレックスと呼ばれる。ポップ・カルチャーでよく用いられる用語である。この理論は精神分析の創始者であるジークムント・フロイトが唱えたものであるが、フロイトは自身の主張をギリシア悲劇の一つ『オイディプス王』になぞらえ、エディプスコンプレックスと呼んだ。彼の主張によれば男児の自我は始め最も身近な存在である母親を自己のものにしようとする欲望を抱くが、自我の発達が更に進展すると男児は母親の所有において父親は競争相手であるという認識を抱き、この際に父親に去勢される可能性があるという不安から近親相姦的欲望は抑制され、その結果として父親に同一化していた自我の成分が無意識下に導入され「超自我」となり、それが自我の発達に重要な関与をもたらすという。

この理論に関しては現在はほとんどの人たちが批判に持ちこたえられる理論ではないだろうとみなしている。例えばブロニスロウ・マリノフスキーの「母権性社会」の話や、エドワード・ウェスターマークの身近な相手に性的欲望を持つ事は少ないという「ウェスターマーク効果」の話からするとあまりにも普遍的ではないのである。ただ、これに関しては当初から批判があり、だからこそカール・グスタフ・ユングアルフレート・アードラーもフロイトから離反したのである。現在はその上でフロイトの理論をどのようにみなせるかと考えられる事が多い。また、この論が正しいとしても、アンドリュー・ヴァクスの小説『赤毛のストレーガ』において「子供が皆、そういう感情を抱いているってことで、近親相姦の事例までが幻想として否定されるわけじゃない」と述べられているように、近親姦の事実そのものが幻想になるわけではない。

[編集] 神話

[編集] 兄妹相姦

神話においては、兄妹の神々により作られたこととなっている場所もある。男女ペアの神が兄妹として扱われることも多い。「兄妹始祖」と言われたりする。

このように、洪水と兄妹始祖神話が合一したものが、中国南部から東南アジアにかけて見られる。琉球諸島には日本神話が成立する以前の神話や信仰が残っている可能性はある(cf.おもろさうし)(しかし中国からの借り物である可能性はある)。琉球王朝の誕生譚ではニライカナイから来た兄シネリキョと妹アマミキョが久高島に降り、その後首里で王朝を開いたことになっている(二人の子供が琉球王朝の祖先)。

琉球方言には丁度英語sister に似た親族名称のカテゴリーとして「ヲナリ」というものがある(異性から見ているというのが英語とは異なる)(参照:をなり神

琉球ではかつて、兄・弟がなどで旅立つ時に姉・妹がティーサージ()をお守りとして贈った(日本の漁師町に似た文化があるようだが、姉妹ではない)。舟の外艫に留まった鳥を姉妹の「をなり(生き魂)」として扱う信仰もあったようである。このような異性のキョウダイの間の親密なつながりと信仰を「をなり神」信仰と呼ぶことがある。また「ヲナリ」は日本の「イモ」と同じく愛人の比喩に意味が分化したとされる。

首里では、兄妹のうち兄が王になると、妹を聞得大君(キコエオオギミ)になるという歴史もあった (参照:沖縄にはなぜ神社がないの?

ルイス・ヘンリー・モルガンは、北米先住民イロコイ族やオジブワ族が、と父の兄弟、と母の姉妹、兄弟姉妹の子どもは全て自分の子どもと同じ親族名称で呼んでいることから、本人が兄弟たちのや自分の姉妹たちとの間にをつくっても自分の子どもと区別がつかない、として、原始乱婚制、つまり兄妹姉弟間に近親相姦があった、という仮説を立てたが、批判も浴びた。また親族呼称は歴史的に変化するものであり、短絡は避けなければならないだろう。

[編集] 姉弟相姦

神話においては、姉弟の神々により作られたこととなっている場所もある。

[編集] 父娘相姦

[編集] 母子相姦

クロノスに去勢されるウラノス(1560年)
クロノスに去勢されるウラノス(1560年)

[編集] 関連項目

[編集] 出典

  1. ^ 参議院会議録情報 第132回国会 法務委員会 第9号
  2. ^ 買売春問題と取り組む会2004参院選候補者アンケート
  3. ^ 性的虐待
  4. ^ もし性暴力の被害にあったら
  5. ^ 児童虐待
  6. ^ 『父-娘 近親姦』(ジュディス・ルイス・ハーマン、1981、翻訳2000)ISBN 4-414-42855-6
  7. ^ a b c 『トラウマとジェンダー 臨床からの声』(宮地尚子、2004)ISBN 4-7724-0815-0
  8. ^ a b [http://www.dianarussell.com/incestintro.html THE SECRET TRAUMA INTRODUCTION TO THE 1999 EDITION]
  9. ^ NEW & NOTEWORTHY
  10. ^ 『家族の闇をさぐる 現代の親子関係』(斎藤学、2001)ISBN 4-09-387247-3
  11. ^ Sex among siblings: A survey on prevalence, variety, and effects
  12. ^ CHILD AND ADOLESCENT SEXUALITY
  13. ^ 『ユングの心理学』(秋山 さと子) ISBN 4061456776
  14. ^ Sibling Sexual Abuse
  15. ^ Coercion Lecture Outline(PDFファイル)
  16. ^ a b 『少年への性的虐待 男性被害者の心的外傷と精神分析治療』(リチャード・B・ガードナー、訳2005)ISBN 4-86182-013-8
  17. ^ 『子どもと性被害』(吉田タカコ、2001)ISBN 4-08-720095-7
  18. ^ 『父-娘 近親姦』(ジュディス・ルイス・ハーマン、1981、翻訳2000)ISBN 4-414-42855-6
  19. ^ 『児童虐待』(池田由子、1987)ISBN 4-12-100829-4
  20. ^ Father-son insest
  21. ^ Mother-Doughter IncestPDFファイル
  22. ^ Female Child Sexual Abusers
  23. ^ Consummated Mother-Son Incest
  24. ^ Male Sexual Abuse Victims of Female Perpetrators:Society's Betrayal of Boys
  25. ^ 『児童虐待』(池田由子、1987)ISBN 4-12-100829-4
  26. ^ 『Come Here: A Man Overcomes the Tragic Aftermath of Childhood Sexual Abuse』(Richard Berendzen,Laura Palmer, 1993) p21 ISBN 0-679-41777-X

[編集] 参考文献

[編集] 外部リンク


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