フレイヤ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フレイヤ(Freyja)(フレイアとも)は、北欧神話における女神の1柱。ニヨルドの娘であり、フレイの双子の妹。人間の前ではヴァナディースと名乗っていた。
美、愛、豊饒、戦い、そして魔法や死の守護神 北欧神話の太母神。また海の守護神としてマルドル(Mardöll)の異名をとる。美しい女性の姿をしており女性の美徳と悪徳を全て内包した女神で、非常に美しく、自由奔放な性格で、欲望のまま行動し、性的には奔放であった。
目次 |
[編集] 概要
フレイヤはヴァン神族の出身であり、ヴァン神族とアース神族の抗争が終了し和解するにあたり、人質として父、兄とともにアースガルズに移り住んだとされている。
[編集] 関係者
兄は豊穣神フレイ。父は海神ニヨルド。母は、巨人の娘スカディ(出典不明)もしくはニヨルドの妹(『古エッダ』の『ロキの口論』による)。夫はオーズ(おそらくアース神族)。娘はフノス(『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』35章、『ユングリング家のサガ』による)、ゲルセミ(『ユングリング家のサガ』による)。愛人にオッタル(人間。『古エッダ』の『ヒュンドラの歌』による)。
[編集] 財産
- 彼女の館はフォールクヴァング(Folkvangr)といい、その広間セスルームニル(Sessrúmnir)は広くて美しいといわれており、そこで戦死者を選び取るとされている(『古エッダ』の『グリームニルの歌』第14節、『ギュルヴィたぶらかし』24章による)。
- ブリーシンガルの首飾り(『古エッダ』の『スリュムの歌』第13節による)もしくはブリーシンガメン(『スノッリのエッダ』35章による)という、神をも魅了する黄金製(もしくは琥珀製)の首飾りを所持している。
- 移動手段として、2匹の猫が牽く車を持っている(『ギュルヴィたぶらかし』24章による)。
- 他にヒルディスヴィーニ(Hildisvíni)というイノシシも持っていてこれに乗って移動することもある。愛人のオッタルが変身した姿ともいわれている。
[編集] 主なエピソード
- 愛を司る女神として
- 性に関してだらしない点があり、前述の首飾りを手に入れる際も、製作した四人の小人たちに求められるまま、四夜をともに過ごしたとされる。人間や神々の中にも多くの愛人がいたという。特にお気に入りだったのが人間の男性オッタルで、彼を猪に変身させてそれに乗って移動することもあったという。そのためか、夫オーズに離縁されている。
- フレイとも関係を持った事があるが、ヴァン神族において近親婚は日常的に行われる。『ロキの口論』においても、ロキから、フレイヤはニヨルドとその妹との間の子だと詰られている。
- 人間が恋愛問題で祈願すれば喜んで耳を傾けるともいわれている(『ギュルヴィたぶらかし』24章)。
- 愛の女神という点でウェヌスと同一視され、また名前の類似からフリッグ(別名フリーン)と混同されやすい。なお、英語などゲルマン諸語で、金曜日を「フレイヤの日」あるいは「フリッグの日」と呼ぶのはここから来ている。
- 豊穣の女神として
- 兄のフレイと共に豊穣神としてアース神族の最重要神とされる。
- 霜の巨人からしばしば身柄を狙われている。たとえば、破壊されたアースガルズの城壁の建設を請け負った石工は、正体が山の巨人であったが、報酬として望んだのはフレイヤと太陽と月であった(『古エッダ』の『巫女の予言』、『スノッリのエッダ』42章による)。また、巨人スリュムがアース神のトールの持つ最強の武器を盗み、返却の条件として出したのは自身とフレイヤとの結婚であった(『スリュムの歌』による)。巨人フルングニルがヴァルハラ宮内で酒に酔った時は、フレイヤとシヴだけを自分の国へ連れて行き後は皆殺しにするなどと豪語した(『スノッリのエッダ』第二部『詩語法』による)。
- 死者を迎える女神として
- 『古エッダ』や『ギュルヴィたぶらかし』では、戦場で死んだ勇敢な戦士を彼女が選び取り、オーディンと分け合うという記述がある。なぜ彼女が主神と対等に戦死者を分け合うとされているのか、理由ははっきりしていない。戦死者をオーディンの元へ運ぶのはワルキューレの役割であるため、フレイヤが彼女たちのリーダーだからと考える研究者もいる。あるいはフレイヤとオーディンの妻フリッグ(別名フリーン)は同じ女神の別の時期の名前であって2人は同一人物だった可能性もあるという。フレイヤがオーディンの妻ならば死者を夫と分け合うのは不自然な事ではない(詳しくはオーズを参照のこと)。
- 未婚女性が死んだ際にフレイヤの元へ迎えられるという伝承もあるようである。
- 黄金を生み出す女神として
- 『巫女の予言』に登場する女性グルヴェイグ(Gullveig)の正体は彼女だと考えられている。「グルヴェイグ」という名は「黄金の力」を意味し、黄金やその魅力の擬人化だとされている。
- 『ギュルヴィたぶらかし』35章に書かれたところでは、フレイヤが行方不明になった夫を捜して世界中を旅する間に流した涙が地中に染み入って黄金になったとされている。そのため黄金は、フレイヤの名乗った別名から「マルデルの涙」と呼ばれることもある。
- その他
- グルヴェイグに関連したエピソードとして、グルヴェイグは「セイズ」という魔法を使って人々をたぶらかしたが、フレイヤもセイズを使うことができ、オーディンに教えたとされている。
- 行方不明のオーズを探す間にフレイヤは様々な異名を名乗った。たとえばMardöll(マルドル、マルデル)、Hörn(ホルン、ホーン)、Gefn(ゲヴン、ゲフン)、Sýr(スュール、シル)が知られている。(『ギュルヴィたぶらかし』35章による)
- デンマークでは、フレイヤはゲフィオン(Gefjun)と言う女神と同一人物であると考えられている。フレイヤの別名の中には「ゲヴン」(Gefn)という、「ゲフィオン」に似た名前がある。
- 出典のはっきりしないエピソードであるが、ラグナロクが到来する前にフレイヤは「どこかへ行ってしまう」ともいわれている。
[編集] 人間との関わり
- ドイツ語で「女性」を意味する「フラウ」(Frau)の語源といわれている。
- 第二次世界大戦中にドイツ軍が使用した対空レーダー「フレイヤ」も彼女が由来である。
- 原子番号23の元素バナジウム(Vanadium)は、同じくこの女神の英名バナジス(ヴァナディース、Vanadis)にちなんで命名された。
- 1862年に発見された小惑星も彼女にちなんで(76)「フレイア(Freia)」と命名された。同様に、1884年に発見された小惑星には(240)「ヴァナディース(Vanadis)」と命名された。
- 他、化粧品など商品のブランド名や、北欧神話に関係のない小説や漫画やアニメのキャラクターの名前など、様々なものに「フレイヤ」や「フレイア」という名前が使われることが多いようである。
- 金曜日(Friday)はフレイヤの日とされる。この為か、魔術実践者は金曜日に儀式を行うことが多い。