水星
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水星 Mercury |
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メッセンジャー (NASA) の撮影した水星 | |||||||
仮符号・別名 | 辰星 | ||||||
分類 | 地球型惑星 | ||||||
軌道の種類 | 内惑星 | ||||||
発見 | |||||||
発見方法 | 目視 | ||||||
軌道要素と性質 元期:2008年1月1日[1] |
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太陽からの平均距離 | 0.38710 AU | ||||||
平均公転半径 | 57,910,000 km | ||||||
近日点距離 (q) | 0.3075 AU | ||||||
遠日点距離 (Q) | 0.4667 AU | ||||||
離心率 (e) | 0.20563069 | ||||||
公転周期 (P) | 87日 23.3時間 (0.240852 年) |
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会合周期 | 115.88 日 | ||||||
平均軌道速度 | 47.8725 km/s | ||||||
軌道傾斜角 (i) | 7.0051 度 | ||||||
近日点引数 (Ω) | 77.5806 度 | ||||||
昇交点黄経 (ω) | 48.4257 度 | ||||||
平均近点角 (M) | 328.1305 度 | ||||||
太陽の惑星 | |||||||
衛星の数 | 0 | ||||||
物理的性質 | |||||||
赤道面での直径 | 4,879.4 km | ||||||
表面積 | 7.5 × 107 km2 | ||||||
質量 | 3.302×1023 kg | ||||||
地球との相対質量 | 0.05528 | ||||||
平均密度 | 5.43 g/cm3 | ||||||
表面重力 | 3.70 m/s2 | ||||||
脱出速度 | 4.44 km/s | ||||||
自転周期 | 58日 15.5088時間 (恒星日) 175.84 日 (太陽日) |
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アルベド(反射能) | 0.10-0.12 | ||||||
赤道傾斜角 | 0° | ||||||
表面温度 | 623 K(日中) 103 K(夜間) |
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表面温度 |
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大気の性質 | |||||||
大気圧 | 10-7 Pa 程度 | ||||||
水素 | 痕跡量 | ||||||
ヘリウム | 痕跡量 | ||||||
酸素 | 痕跡量 | ||||||
ナトリウム | 痕跡量 | ||||||
カリウム | 痕跡量 | ||||||
カルシウム | 痕跡量 | ||||||
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水星(すいせい、英語:Mercury)は、太陽系の第1惑星で、太陽に最も近い惑星である。
太陽系の惑星の中では最も小さい。例えば赤道面での直径4,879.4 kmは、地球の38%に過ぎない。木星の衛星ガニメデのように水星よりも大きな衛星も存在する。水星自体は衛星や環を伴っていない。
天球上での見かけの明るさは -0.4 等から 5.5 等まで変化する。水星は太陽に非常に近いため、日の出前と日没直後のわずかな時間しか観察できない。時期によっては望遠鏡でも見るのが難しい。これは太陽との最大離角が28.3°に過ぎないためである。
アメリカのマリナー10号(1974年 - 1975年)が初めて水星へ接近して以来、2008年まで水星に到達した探査機はなく、地表の約 40 % ないし 45 % しか地図が作られていなかった。マリナーの撮影した水星はクレーターが目立ち、月と非常によく似ていると考えられた。このため、火星や金星、外惑星と比較すると探査の優先度が低くなった。21世紀の現在においても分からないことが多い惑星である。しかしながら、2008年に探査を始めたアメリカのメッセンジャーや2013年に打ち上げ予定の日欧共同プロジェクトベピ・コロンボなど、今後の探査が期待されている惑星でもある。
目次 |
[編集] 物理学的性質
[編集] 大気
水星には大気はほとんど存在せず、非常に薄いガスの層があるだけである。大気の分子は大気の分子同士で衝突するよりも水星の地表に衝突する確率の方が高いほどである。気圧は、いろいろな仮定を用いて見積もると、10-7 Pa(10-12 気圧)程度で、成分は水素、ヘリウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムが検出されている[1][2]。
水星の大気は惑星形成の初期には他の惑星と同様に存在したと考えられるが、重力が小さいためにその大半は既に宇宙へ飛散したと考えられている。カリウムやナトリウムが大気に留まる平均時間は3時間程度である。大気は様々なメカニズムによって供給されている。太陽風を磁界で捕らえる、微小隕石が地表で蒸発する、太陽光による脱離、などがその主なものである。
[編集] 温度
表面の平均温度は452 K(179 ℃)であるが、温度変化は90 K(-183 ℃)~700 K(427 ℃)におよぶ。なお、地球の温度変化(年較差)は最大でも約60 ℃(シベリア東部)である。観測上の最低気温と最高気温の差をとっても184 K~332 K(148 ℃)の範囲に収まる。太陽光は地球の約6.3倍で、総計では 3566 W/m2 になる。驚くべきことに、1992年のレーダー観測によって、水星の北極部分に水の氷が発見された。この氷は、彗星の衝突や水星内部からの放出で生まれた水が、1年を通じて太陽光が当たらない極地方のクレーターの底に残されているものと考えられている。
[編集] 地形
水星の地表は月の地表とよく似ている。水星のもっとも特徴的な(写真などで見分けるポイントとなる)地形は、直径 1,350 kmほどのクレーターから成るカロリス盆地である。十億年以上前にクレーターができ、その後大地が冷えて固まったため、地表の様々なところに波模様ができたと考えられている。水星の表面はおおまかにいって異なる時代にできた二つの表面によって覆われている。若い方の表面は溶岩が流れ出して形成された軽い地表であり、クレーターに覆われている。さらに、水星は太陽からの潮汐力によって赤道部分が膨らんでいる(太陽が水星に与える潮汐力は月が地球に与える潮汐力の1.17倍である)。
[編集] 内部構造
水星には地球と同程度に大きな鉄の核が存在する。水星全体では約 70 % が金属、30 % が二酸化ケイ素で出来ている。このように、金属、特に鉄の質量比が大きいのは、過去に小天体との衝突で岩石質からなる表層部分を失ったためだとする説もある(詳細は後述)。平均密度 5,430 kg/m3は地球と比べわずかに小さい。コアの大きさの割に密度がそれほど高くないのは、地球は自重によって惑星の体積が圧縮されており、密度が高くなっているためである。水星の体積は地球の 5.5 % である。水星の鉄のコアはその 42 % を占めるが、地球の鉄のコアは 17 % にすぎない。コアの周りは厚さ 600 km のマントルで覆われている。
[編集] 自転
1965年にレーダー観測が行われる以前には、水星の自転は地球の月や他の多くの衛星と同様に、太陽からの潮汐力で公転と同期しており、常に太陽に同じ面を向けて1公転中に1回自転していると考えられていた。しかし実際には水星の自転と公転は 3:2 の共鳴関係にある。すなわち、太陽の周囲を2回公転する間に3回自転する。水星の公転軌道の離心率が比較的大きいため、この共鳴関係は安定して持続している。水星の自転と公転が同期していると考えられた元々の理由は、地球から見て水星が最も観測に適した位置にある時にはいつでも同じ面が見えたからであった。実際にはこれは 3:2 の共鳴の同じ位置にある時に観測していたためだった。この 3:2 の共鳴があるために、水星の恒星日(自転周期)は 58.7日なのに対して、水星の太陽日(水星表面から見た太陽の子午線通過の間隔)は176日と、3倍になっている。
水星の表面のある場所にいる観測者から見ると、日の出の途中で太陽は逆行して一度沈み、その後再び上る、という現象が見られる。これは、水星が近日点を通過する約4日前に水星の公転速度と自転速度がちょうど等しくなるため、水星表面から見て太陽の見かけの運動が止まって見えるからである。近日点では水星の公転速度は自転速度よりも速くなる。そのために太陽は逆行して見える。近日点通過の4日後には太陽は順行に戻る。
水星の自転軸の傾きは惑星の中で最も小さく、わずか 0.01°しかない。これは2番目に傾斜が小さい木星の値(約3.1°)に比べても300倍も小さい値である。このため、水星の赤道上にいる観測者から見ると、太陽はいつもほとんど天頂を通過し、1/100°程度しか南北に動かないことになる。
[編集] 軌道
水星の軌道離心率は太陽系の惑星の中でもっとも大きく、近日点が 0.307 AU (46 × 106 Km) で遠日点が 0.467 AU (70 × 106 Km) という大きな楕円軌道を描いている。この軌道の近日点はゆっくりと移動(近日点自体が太陽の周りを周回)しており、その移動の度合いは100年で574秒である。このうち531秒は金星など他の惑星からの重力効果で説明できたが、残り43秒についてはニュートンの古典力学では説明できなかった。このため、ある条件で逆2乗の法則が成り立たなくなるという説や、水星の内側にもう1つ惑星があるという説が現れた(バルカン参照)。このニュートン力学では説明できなかった43秒は、後にアインシュタインの一般相対性理論によって「太陽の重力により時空が歪んだ結果」として説明づけられた。
[編集] 磁気圏
水星は自転速度が遅いにも関わらず、比較的強い磁気圏を持つ。水星の磁場の強さは地球の磁気圏の約1 %である。この磁場は地球と同様に、流体核の循環運動によるダイナモ効果で生まれている可能性がある。2005年現在の研究によれば、水星の核はニッケルや鉄が融解できるほどには温度が高くないと考えられているが、融点がもっと低い硫黄などが代わりに磁場の生成の原因となっている可能性がある。また、水星の磁場は過去に起きていたダイナモ効果が現在消えてしまったものの、その名残の磁場が固体の磁性体物質に「凍結」しているという可能性もある。
[編集] 鉄成分
水星は太陽系の他のどの天体よりも鉄の存在比が大きい。この高い金属存在量を説明するために、次のようないくつかの理論が提唱されている。
- 水星は元々、よくあるコンドライト隕石と同程度の金属-珪酸塩比を持っていて、質量が今よりも約2.25倍大きかったが、太陽系形成の初期に水星の 1/6 程度の質量を持つ微惑星と衝突した。この衝突によって元々の地殻とマントルが失われ、核のみが残されたと考えられる。これと同様の説は地球の月の形成を説明するジャイアント・インパクト理論として提唱されている。
- 水星は原始太陽系星雲の歴史のごく初期、まだ太陽からのエネルギー放射が安定化する前にできたとする。この理論では、水星は最初、現在の約2倍の質量を持っていた。しかし、原始星段階の太陽が収縮するにつれて水星付近の温度が2500-3500K、あるいは10000K近くにまで上昇し、水星表面の岩石はこの高温によって蒸発して「岩石蒸気」の大気を作ったが、原始太陽系星雲の「星雲風」によって吹き飛ばされた。
- 第2の説と同様に水星の外層が長年にわたる太陽風の直撃によって侵食されて失われた。
[編集] 人類と水星
[編集] 歴史と神話
水星はシュメール人の時代(紀元前3000年)から知られており、Ubu-idim-gud-ud と呼ばれていた。古い記録ではバビロニア人により観測が行われており、gu-ad 又は gu-utuと名付けられていた。 古代ギリシャのヘラクレイトスは、水星と金星が地球でなく太陽の周りを回っていると考えていた。ギリシャで水星が5つの惑星の一つと認識が定着するのはプラトンの時代からのようである(『エピノミス』)。 古代ギリシア人は、水星にヘルメスを対応させた(宵の水星と明けの水星が一つの天体だと気づく以前は、明けの水星にはアポロンを充てていた)。これは、最内周惑星で運行が速いことから、他の神々の使いである俊足の神の名を冠したものである。ヘルメスは古代ローマではメルクリウスと同一視され、メルクリウスは英語のマーキュリー (Mercury = 水星) の語源である。 1639年にはイタリアのジョバンニ・ズッピが望遠鏡を使って水星を観測し、水星にも金星や月と同様に満ち欠けがあることを発見した。これによって、水星が太陽を回っていることが確実になった。
[編集] 惑星記号
ヘルメスの杖・ケリュケイオン(ローマ神話ではカドゥケウス、二匹の蛇の絡んだ杖)を図案化したものが、占星術・天文学を通して用いられる。ヘルメスは水銀とも関連付けられたため、錬金術では水銀の元素記号として使われた。ケリュケイオンは、商業や交通のシンボルでもあり、一橋大学やいくつかの商業校の校章などに現在も用いられている。
なお、医療のシンボルであるアスクレピオスの杖は、デザインは似ているが、ヘルメスとは無関係な記号である。
[編集] 水星の観測
水星は太陽に接近しているため、観測するのは非常に困難である。水星の軌道周期の約半分の期間は、太陽の光に埋もれてしまって見ることができない。またそれ以外の時期でも、朝か夕方のごく短い時間しか観測できない。
地球から見た水星にも、金星や月のような満ち欠けの相が見られる。内合の時に「新水星」、外合の時に「満水星」となるが、これらの時期には太陽と同時に上ったり沈んだりするために、見ることはできない。最大離角の時には半分欠けた形になる。西方最大離角の時には日の出前に最も早く上り、東方最大離角の時には日没後に最も遅く沈む。最大離角の値は、近日点ならば18.5°、遠日点ならば28.3°である。しかし金星とは異なり、最も明るくなるのは「半月」形と「満月」形の間の相である。(金星では「新月」形と「半月」形の間で最も明るくなる。)この理由は各相にある時の地球からの距離による。水星では内合(「新水星」)と外合(「満水星」)の時の地球からの距離の差は3倍以下だが、金星では6.5倍にもなる。水星が内合になる周期は平均すると116日だが、軌道の離心率が大きいために実際には111日から121日まで変化する。同じ理由で、地球から見て逆行する期間も8日から15日まで変化する。
[編集] 水星への到達
地球から水星に到達するためには高い技術的ハードルがある。水星の軌道は地球に比べて3倍も太陽に近いため、地球から打ち上げた宇宙機を水星重力に捕らえさせるためには、太陽の重力井戸を9,100万 km以上も下らなくてはならない。もしも静止状態からスタートできるならば、宇宙機は太陽に向かって単純に落下していけばいいので、(水星を通過するだけなら)ΔVやエネルギーを全く必要としない。しかし、実際に地球から飛び立つ場合には、地球の公転速度が約30 km/sあるため、宇宙機はかなり大きな角運動量を持っており、太陽方向へ向かうにはこれを打ち消さなければならない。よって宇宙機は、時間はかかるが速度をあまり落とさずに水星軌道まで到達できるホーマン遷移軌道に入る。
これに加えて、太陽の重力井戸を下って運動していくと、最初に持っていたポテンシャルエネルギーが運動エネルギーとなって宇宙機の速度が増す。宇宙機が水星近くに達した時には速度が大き過ぎて、着陸したり安定な水星周回軌道に入れないことになってしまう。急な崖に道路が付いていて、崖の麓で別の道路と合流しているという場合を想像すると、地球から水星までの旅はある時点までこの崖をブレーキなしで下り、それからゆっくりと麓の道に合流するようなものである。しかも、水星には大気がないので、水星に近づいた宇宙機は水星大気を使って減速することはできず、ロケットを使う必要がある。これらの理由によって、水星の周回軌道に入る宇宙機は、太陽系を脱出するよりも多くの燃料を必要とする(ただし他の惑星の周回軌道に入る飛行では、減速のために、さらに多くの燃料を要する)。
このような問題があるため、水星へ向かう探査はほとんど行われていない。また、実際のミッションでは、目的の軌道に直接遷移するのではなく、より効率の良いスイングバイを用いることが多い。
[編集] 水星探査
1973年に打ち上げたアメリカ航空宇宙局 (NASA) の探査機マリナー10号が、1974年に3度にわたって水星に接近。写真撮影や表面温度の観測を行った。
2004年8月3日、アメリカ航空宇宙局のメッセンジャー が打ち上げられ、地球、金星をスイングバイ(フライバイ)しながら水星へ向かって航行し、2008年1月には水星での最初のスイングバイを行った。今後、2011年3月には水星の周回軌道に入り、継続的な観測活動を開始する予定になっている。
[編集] 水星を扱った作品
(注)この節は英語版en:Mercury in fictionからの抄訳である。
[編集] 小説
- ラリー・ニーヴン『いちばん寒い場所』(1965年)
- ノウンスペース・シリーズの短編。水星は自転と公転が同期しているという前提で書かれたが、発表される直前にそうではないことが判明してしまったという曰く付きの作品である。
- アーサー・C・クラーク『宇宙のランデヴー』(1973年)
- デイヴィッド・ブリン『サンダイバー』(1980年)
- キム・スタンリー・ロビンソン "Mercurial" in The Planet on the Table(1986年)、Blue Mars(1996年)
- ベン・ボーヴァ Mercury (2005年)
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- ザ・ナインプラネッツ日本語版(水星)
- 惑星の名、名(銀月の部屋より)
- 反・ギリシア神話 ヘルメス
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