クレーター
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クレーター (Crater) とは、爆発や衝突によって作られる凹地のことである。広義のクレーターは、火山の火口や爆発事故・爆弾によって生じたものも含む。
狭義のクレーターは、隕石孔(いんせきこう)のこと。他の天体や隕石との衝突によって形成されたクレーターで、そのサイズは衝突した物の大きさ、質量、衝突時の速度によって異なる。
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[編集] 地球上のクレーター
地球に落ちる隕石の大きさがそれほど大きくなくても巨大なクレーターができる。クレーター径は隕石の直径の約20倍と見積もられており、周囲5km、深さ170mの大きさのクレーターはクレーターとしてはかなりの大きさだが、それを作った隕石の大きさは直径約250mでしかない。地球上のクレーターは100個以上確認されているが、大部分は侵食で痕跡すら消えてしまっている。
地球上で見られるクレーターの中には、ニッケル、金などを多く含んだものがあり、世界最大の鉱山を形成している場合もある。この為、有望な鉱脈を発見する手がかりともなっている。
- バリンジャー・クレーター(アメリカ・アリゾナ州、直径1200m、深さ180m)
- チクシュルーブ・クレーター(メキシコ・ユカタン半島- 直径約300km。地下約1000mに埋没している。)
- 御池山クレーター(日本・長野県飯田市上村 - 直径900m。日本で初めて確認された。)
- シルバーピット・クレーター (イギリス・北海 - 水面下40mにあり、堆積物で埋もれている。現在確認されているイギリス唯一のクレーターであるとされているが、異説もある。)
- フレデフォート・ドーム (南アフリカ共和国 - 現在知られている最大の隕石衝突跡)
- サドベリー隕石孔 (カナダ - 現在知られている世界で2番目に大きい隕石衝突跡)
- マニクアガン・クレーター(カナダ - 現在ダム湖になっている)
[編集] 月面のクレーター
[編集] 構造
- クレーター底:クレーターの内部の平らな部分のこと。
- 縁(リム):クレーターの周囲を取り囲む盛り上がった部分のこと。
- クレーター壁:クレーターの底から外部へ向かう時の急激な立ち上がり部分のこと。縁の内壁。
- 中央丘:クレーター中央部に見られる丘状の凸部のこと。大きなクレーターに見られることが多い。
- 光条(レイ):クレーターから放射状に延びる明るく輝く筋状の構造のこと。
[編集] 命名
1609年にガリレオ・ガリレイは、月面を天体望遠鏡で観察し、多数の円形の凹地を確認した。この地形をギリシア語のコップ、椀を意味する語からクレーターと命名した。なお、コップ座の学名はCraterである。 月の大きなクレーターには、主に科学者の名前が付けられている。この習慣をはじめたのはイタリアのジョバンニ・バティスタ・ リッチョーリ(Giovanni Battista Riccioli)とフランチェスコ・マリア・グリマルディ(Francesco Maria Grimaldi)で、彼らは自分達が作成した月面図に月の北部のクレーターに古い時代の人物の名を、南部のクレーターに新しい時代の人物の名を命名して発表した。
[編集] 成因
クレーターの成因については、様々な説が唱えられた。1787年にウィリアム・ハーシェルはクレーターは火山の火口であるという論文を発表した。それに対し、1829年にフランツ・フォン・パウラ・グルイテュイゼン(Franz von Paula Gruithisen)は、クレーターは天体の衝突によって生じたという説を発表した。
当初は火山説の方が有利であった。これは、
- 月のクレーターはほとんどが円形であるが、泥に石などを衝突させる実験などでは真上からの衝突で無い限り楕円形のクレーターしかできないこと。
- 月の海(いわゆるうさぎ模様の部分)にはクレーターがあまり存在せず、分布に著しい地域性があること。これは地球の火山帯に対応していると考えられた。
- クレーターの重なり方が大きなクレーターの上に小さなクレーターが重なっているものばかりであり、これは徐々に月の内部が冷却して火山活動が弱まっていった結果として説明しやすい。
などが理由としてあげられる。
1960年頃から、地球のクレーターで隕石の衝突を裏付ける高圧で変成された岩石が発見されたり、アポロ計画での月面で採取された試料の分析が行われたり、より正確な衝突条件を反映した高速衝突実験が行われて、衝突説を支持する結果が多く得られた。現在では月のクレーターの大部分は衝突によって生じたものと考えられている。
上記の火山説を支持する証拠に対しては
- 当時の衝突実験では衝突させた石の速度は、隕石の月面に対する相対速度(数十km/sに達する)よりもはるかに遅く、実際に起こっている衝突を反映しているものとは言えない。高速衝突実験においては衝突時の衝撃波で衝突物の直径の10倍以上の範囲の地面が掘削されてクレーターは円形となることが分かっている。楕円形のクレーターは入射角が10度以下になるような限られた場合しかできない。
- アポロ計画で採取された岩石の年代測定の結果、月の海ができた時期は衝突が多数起きた時代よりも新しい(月の海も参照のこと)。
- 重なり方の傾向は、小さなクレーターの上に大きなクレーターを作る衝突が起こると衝突による地殻変動が周辺にも及び小さなクレーターの構造は完全に破壊されてしまうためと考えても説明可能。
と反論できる。
衝突説を支持する証拠としては以下のようなものがある。
- アポロ計画で採取されたクレーター周辺の石から高圧で変成された岩石が見つかっている。
- アポロ計画で採取された石から直径1mm以下のクレーターが見つかっている。
- 大きなクレーターでは月全体に噴出物が撒き散らされているが、月の質量ではそのような規模の爆発を起こすだけの火山を生成できない。
- 月の岩石から生成する溶岩の粘性は地球上のそれに比べて著しく低いために、火口には明瞭な盛り上がった縁ができない。(なお、月には少数ながらも縁の盛り上がりの無いクレーターがあり、これらは溶岩の噴出で生じたものと考えられている。)
- クレーターが円形にも関わらず、一方向だけに光条が延びる現象は斜め方向からの高速衝突実験で確認されている。
- 月のクレーターの直径と深さの間には一定の関係式が成立する。地球上の衝突で作られたクレーターでも同じ式が成り立つ。
月のクレーターの大部分は38億年前よりも以前に作られたものである。その頃にはまだ太陽系内に多数の微惑星が残っていたために大きな衝突が何度も繰り返された。地球の表面では大気や水によって侵食やプレートテクトニクスによる海洋底の更新があるためその痕跡が残っていないが、月では大気や水が存在しないためクレーターがそのまま保存されている。
しかし、昼と夜の大きな温度差による熱膨張・収縮の繰り返しや太陽風の衝突によってわずかずつではあるが風化は進行する。また、宇宙空間からチリが降下し少しずつ降り積もっている。そのため、新しいクレーターでは縁がはっきりしており光条が延びているが、古いクレーターでは縁がはっきりしなくなり光条が失われている。
[編集] 他の惑星及び衛星等のクレーター
[編集] 水星
水星は、月と同様に全表面がクレーターで覆われている。この水星の姿は1975年にアメリカの水星探査機マリナー10号によってはじめて明らかにされた。水星の英名Mercuryは、ローマ神話の芸術の神の名であるため、水星のクレーターには文学者や芸術家の名前が命名されている。特に、1350Kmもあるカロリス盆地は水星最大のクレーターである。
[編集] 金星
金星は、厚い雲に常に覆われているため、地表の可視光による観察は不可能である。しかし1990年にアメリカの金星探査機マゼランによりレーダーによる地形の観測が行われ、いくつかのクレーターが発見されている。
[編集] 火星
火星のクレーターは、高地の多い南半球に多く低地の多い北半球には少ない。衛星のフォボス、ダイモスにはクレーターが発見されている。
[編集] 木星
木星そのものは、ガス惑星であり固体の表面を持たないためクレーターはない。そのかわり、木星の衛星のいくつかにはクレーターが確認されている。ガニメデには13個のクレーターがチェーン状に繋がったクレーターがあり、シューメーカー・レヴィ第9彗星同様に木星の重力により分解した彗星が衝突したためだと考えられている。カリストには多重リング構造のヴァルハラ盆地がある。
[編集] 土星
土星そのものは、木星同様ガス惑星であり固体の表面を持たないためクレーターはない。そのかわり、土星の衛星のいくつかにもクレーターが確認されている。特にミマス、テティスは直径の3分の1にも及ぶ大クレーターを持つ。また、タイタンは厚い大気と雲に覆われているため地表の可視光による観察は不可能だが、カッシーニによるレーダー観測によりいくつかクレーターが発見されている。
[編集] 天王星、海王星
ガス惑星である天王星、海王星にはクレーターは無く、いくつかの衛星にクレーターが認められるが木星や土星の衛星より大きさは小さい。
[編集] 小惑星
地上からの観測および小惑星探査機の観測によりいくつかの小惑星の鮮明な映像が撮影されており、クレーターが多数認められている。特に、(4)ベスタは直径460kmのクレーターを持つ。
[編集] 関連項目
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