世界都市
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世界都市(せかいとし)とは、イギリスのルーボロー大学地理学部によって提唱されたグローバリゼーション時代の新しい都市圏概念のひとつ。英語のままグローバルシティー (global city)、ワールドシティー (world city) ともいう。
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[編集] 概要
世界規模のグローバリゼーションは、戦略的な視点から地理的な条件に分類することができる。すなわち、グローバリゼーションが 1) 始まる土地、2) 促進する土地、3) 成立する土地、の三種類である。このうち最も複雑な背景をもつのが 3 のグローバル化が成立する場所、つまりグローバルシティーである。
グローバルシティーと他の地域との強い結びつきは、その関係が単に社会経済学的な要因にとどまらず、政治や文化などの影響までも色濃く反映したものとなっているため、世界情勢に直接的に、しかも具体的なかたちで影響を及ぼすことが多い。
従来、世界的な大都市圏を表わす語には「メガシティー」があったが、これにグローバリゼーションという新しい視点を加えて「グローバルシティー」という表現を初めて使ったのは、1991年に都市社会学者のサスキア・サッセンがその著書『The Global City: New York, London, Tokyo』の中でのことである。
[編集] 世界都市の特徴
世界都市にはいくつかの顕著な特徴がある。主なものは以下の通り。
- 都市名の国際的な知名度が高い。例:世界には「ロンドン」や「パリ」という名を冠した土地や地方自治体が数多く存在するが、「イギリスのロンドン」や「フランスのパリ」はいちいち国名を補足しなくてもそれが何かが自明である。「ポートランド」や「アレクサンドリア」などではそうはいかない。
- 通常数百万人規模の人口がある大都市であり、かつさらに大きな大都市圏の要として機能している場合が多い。
- 「チャイナタウン」や「リトルイタリー」など、都市の内部に複数の移民コミュニティーや異文化圏が存在することが多い。またシンガポール、上海、香港、東京などは、都市自体が大規模国際ビジネスを引き付けることから、その土地本来の文化とは別に異邦人文化が形成されやすい傾向にある。
- 多国籍企業の運営には不可欠な、先端技術を用いた高速テレコミュニケーションのインフラストラクチャーが整備されている。例:光ファイバーケーブル網、セリュラーネットワーク、インターネットアクセスなど。
- 世界的に有名な学府や文化施設を擁する。例:パリのソルボンヌ大学やルーブル美術館、ニューヨークのコロンビア大学やメトロポリタン美術館など。
- アートシーンをリードするさまざまな媒体や受け皿となる施設がある。例:ニューヨークのブロードウェイ(演劇・ミュージカル)、リンカーンセンター(オペラ、バレエ、音楽)、ソーホー(アートギャラリー)、七番街(ファッション)、マディソン街(広告)など。
- 幅広いスポーツコミュニティーが存在し、さまざまなスポーツ施設がある。またオリンピック、サッカーワールドカップ、世界陸上などの国際スポーツイベントを開催できる施設があり、過去にそうした大会を開催したことがある。
世界都市の中でも、GaWC世界都市(後述)で最上級に位置づけられているニューヨーク・東京・ロンドン・パリの四都市は特に「世界四大都市」と呼ばれることがある。
しかし、GaWCも「世界都市」の評価基準を大きく変えていることからも判るように、「世界都市」の基準については未だに確立されたものがなく、選考基準によっては格付けが大きく変動する場合もあり、客観的な比較を行うことは極めて難しいのが現状である。
[編集] GaWC世界都市 (1999)
1999年、それまでルーボロー大学で行われていた初期研究の成果をもとに、「グローバリゼーションと世界都市の研究グループおよびネットワーク」(GaWC:Globalization and World Cities Study Group and Network) が世界都市の定義を定めて、これをカテゴリー化した[1]。
この研究では、世界都市と認められる都市圏を「包括的世界都市」「主要世界都市」「小規模世界都市」に分類し、これに「将来の世界都市」を加えた四つのカテゴリーとした上で、それぞれのカテゴリーを三つの級に細分して計12の級に格付けしている。
選考は、会計・広告・金融・証券・法律などの分野で提供される「高度生産者サービス」の充実度を基準にしている。したがって政治的・文化的な側面は必ずしも反映していないことに留意する必要がある。
以下数字は GaWC が選考に使用した等級。
- ガンマ世界都市:二次的な存在の小規模な世界都市
- 世界都市となりつつある傾向が顕著な都市
- 3:アテネ、オークランド、ダブリン、ヘルシンキ、ルクセンブルク市、リヨン、ムンバイ、ニューデリー、フィラデルフィア、リオデジャネイロ、テルアビブ、ウィーン
- 2:アブダビ、アルマトイ、バーミンガム、ボゴタ、ブラチスラヴァ、ブリスベン、ブカレスト、カイロ、クリーブランド、ケルン、デトロイト、ドバイ、ホーチミン市、キエフ、リマ、リスボン、マンチェスター、モンテビデオ、オスロ、リヤド、ロッテルダム、シアトル、ストラスブール、シュトゥットガルト、ハーグ、バンクーバー
- 1:アデレード、アントウェルペン、オーフス、ボルティモア、バンガロール、ボローニャ、ブラジリア、カルガリー、ケープタウン、コロンボ、コロンバス、ドレスデン、エディンバラ、ジェノバ、グラスゴー、イェーテボリ、広州、ハノイ、カンザスシティ、リーズ、リール、マルセイユ、リッチモンド、サンクトペテルブルク、タシュケント、テヘラン、ティフアナ、トリノ、ユトレヒト、ウェリントン
[編集] GaWC主要世界都市 (2004)
1999年の世界都市の定義とカテゴリーは経済面での影響力を偏重したものだった。そこで2004年、GaWC のピーター・J・テーラーは政治的・文化的な側面を補うかたちで世界都市の再定義と再カテゴリー化を試みた[2]。
今回の特色は、それまでの等級による格付けを撤廃し、これに代わって経済・社会・政治・文化など個々のカテゴリーにおいて「グローバリゼーションへの貢献度」を考察し、それぞれ上位につけた都市を「主要都市」としてあげるにとどめた。また世界都市を「グローバルシティー」郡と「ワールドシティー」郡に分けて考察しているのも特徴的である。
しかし政治的・文化的な貢献度は単純に物差しで測ることができない要素であるうえ、そもそも「貢献度」という判断基準そのものが明確性を欠き、また「グローバルシティー」と「ワールドシティー」の違いも曖昧で、全体としては1999年版よりもむしろ分りにくいものになっていることは否めない。
- グローバルシティー
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- 包括的世界都市
- i. 貢献度が多大な都市:ロンドン、ニューヨーク
- 貢献度が高く付加価値として文化的な強みがある都市:ロサンゼルス、パリ、サンフランシスコ
- ii. グローバルシティーの初期的な段階にある都市:アムステルダム、ボストン、シカゴ、マドリード、ミラノ、モスクワ、トロント
- 特定世界都市(特定の分野での貢献が顕著な都市)
- ワールドシティー
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- 副次的な立場が明確な都市
- 世界をリードする都市
[編集] 脚注
- ^ 概略は『GaWC 研究結果広報5』(GaWC Research Bulletin 5) に発表されている。
- ^ 概略は『GaWC 研究結果広報146』(GaWC Research Bulletin 146) に発表されている。
[編集] 関連項目
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学派 | シカゴ学派(人間生態学) - ネオ・シカゴ学派 - ロサンゼルス学派 - 新都市社会学 |
主要概念 | 都市化 - アーバニズム - サバーバニズム - コナベーション - 都市問題 - 集合的消費 - 都市社会運動 - フローの空間 - 日常生活 - 都市計画 - ガバナンス - 建造環境 - 社会的ネットワーク - リズム - 表象 |
主な対象 | 世界都市 - グローバルシティ - プライメイトシティ - メガシティ - ジェネリックシティ - エッジシティ - インナーシティ(スラム - ゲットー) - エスニシティ - コミュニティ |
隣接分野 | 社会学(農村社会学 - 地域社会学 - 文化社会学) - 地理学(人文地理学 - 都市地理学) - 都市経済学 - 都市工学 |
人物(シカゴ学派) | ロバート・パーク - アーネスト・バージェス - ウィリアム・フート・ホワイト - ハーベイ・ゾーボー - ネルス・アンダーソン - クロード・フィッシャー - ルイス・ワース |
人物(新都市社会学周辺) | アンリ・ルフェーヴル - マニュエル・カステル - ロジキーヌ |
人物(ロサンゼルス学派) | エドワード・ソジャ - マイク・デイヴィス |
人物(リストラクチャリング論周辺) | デヴィッド・ハーヴェイ - サスキア・サッセン - ジョン・フリードマン |
人物(空間論、文化論) | ジョン・アーリ - ドリーン・マッシー - アルジュン・アパデュライ |
人物(日本) | 鈴木栄太郎 - 磯村英一 - 奥井復太郎 - 倉沢進 - 奥田道大 - 吉原直樹 - 町村敬志 - 吉見俊哉 - 若林幹夫 |