ゲットー
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ゲットー(Ghetto)は、
- 中世の西欧・南欧諸国で、都市の中でユダヤ人が強制的に住まわされた居住区。キリスト教徒の支配者の支配が及ばないという、宗教的な意味を持っていた。宗教弾圧の象徴。
- ドイツが第二次世界大戦中東欧諸国に侵攻し、ユダヤ人を強制的に移住させたもの。
- 東欧のシュテットルや、ユダヤ人が自然と集住してコミュニティーを作った地区をこう呼ぶことがある。特にロシア帝国のユダヤ教徒居住区と、特にチェルニウツィー、レンベルク(現リヴィウ)といった大都市のユダヤ教徒地区は、様々なユダヤ教徒への差別化政策(居住地制限など)が採られたため、このような通称で呼ばれることがある。
- 転じて、少数民族などが集まって住む地域を呼ぶことがある。アメリカ合衆国においては主にアフリカン・アメリカン(黒人)の居住区をさす。
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[編集] 歴史
[編集] 起源
第1回十字軍遠征後、1179年、1215年に開かれた第3、第4ラテラン公会議において、キリスト教徒とユダヤ教徒との交際などが禁止された。この決定は、ヨーロッパの地域で直ちに実行に移されたわけではなかったが、以後、十字軍遠征のたびにユダヤ人は迫害を受け、社会不安が高まるごとにユダヤ人は迫害の対象とされていった。
そして、まずドイツで、13世紀後半以降、ユダヤ人の強制隔離が実施されることになり、具体的には、ユダヤ人の公職追放、ユダヤ人の土地所有制限、そして、キリスト教徒が利息を取ってキリスト教徒に金を貸すことが禁止されるなどした。
その後、特に14世紀ペスト大流行の頃からユダヤ人に対する弾圧として、ヨーロッパ中で隔離政策が取られるようになっていき、ユダヤ人居住区が教会から離れた場所に設けられることが一般化した。場合によっては、その地区の周囲が石壁に囲まれたところもあった。
[編集] 言葉としての「ゲットー」の成立
1516年にはヴェネツィアに、1555年ローマ教皇パウルス4世によってローマにゲットーが築かれた。ゲットーの名が、これらユダヤ人居住区にあてられたのは、この頃である。
この言葉の由来は、もともとイタリアのヴェネツィアのある地名、“ghetto”から。イタリア語では、発音は「ゲット」になる。そこが、石切り場であったことから、採石して切り取った跡にできた穴、石の壁の中にポッカリとできた穴から、ユダヤ人を押し込めて住まわせ、管理する地区へ転用されたという。
他に、「小さな寄り合い所帯」といった意味のイタリア語、“borghetto”とか、ヘブライ語起源を主張する人もある。チェコのプラハには、有名なゲットーがあった。
[編集] ナポレオンによる解放
フランス革命後、18世紀末以降西ヨーロッパ諸国では、ナポレオンがユダヤ人解放とともに各地のゲットーを解放した。しかし、ナポレオン失脚後、再びユダヤ人の生活には制限がかけられるようになり、アメリカへ移住するユダヤ人が大量に生まれることになった。また、他方でロシアや東欧諸国のゲットーは20世紀にいたるまで存続した。
[編集] ナチスによる強制移住
第二次世界大戦中の1940年以降、東欧諸国に侵攻したドイツは、占領地にゲットーを設けて、現地のユダヤ人を強制的に移住させた。特にポーランドに侵攻し併合した後、ワルシャワのユダヤ人に居住を強制したゲットーが、ワルシャワ・ゲットーの名前で知られている。ワルシャワ・ゲットーのほかにも、当時は数多くのゲットーが存在していた。
ゲットーは出入り禁止とされ、ユダヤ人たちは、ダビデの星を腕などにつけさせられ、1942年の移送と1943年の親衛隊少将ユルゲン・シュトロープによるゲットー掃討でトレブリンカやアウシュビッツ等のユダヤ人強制収容所に移送されるまで、そこに住んだ。監視が厳しく、外は高く厚い壁と脱出防止の電線がしかれ、食料不足と伝染病の流行で数多くの人が死に至った。下水設備などはほとんどなく、中は悲惨な状態だったが、中にいたユダヤ人たちは少しでも前の生活に戻ろうと、学校や診療所を設けたり、コンサートを開いたりもした。
子どもの権利条約の元になった「子どもの権利」の提唱者、ヤヌシュ・コルチャックとその孤児院の子どもたちもここから、トレブリンカ強制収容所に送られた。
[編集] アメリカ合衆国におけるゲットー
アメリカ合衆国では、ニューヨークやサンフランシスコなど大都市にゲットーが存在する。居住者は貧困層に属するアフリカ系アメリカ人やプエルトリコ人、ラテン系アメリカ人、アジア系アメリカ人の人々である。シカゴ学派都市社会学者のルイス・ワースによる研究をきっかけとして、これらの移民系密集居住地区が「ゲットー」と呼ばれるようになった。
[編集] 関連項目
- ユダヤ人コミュニティー
- フデリア judería
- カイ call
- ヴェネツィアのゲットー Venetian Ghetto
- ローマのゲットー Roman Ghetto
- メッラー mellah
- シュテットル shtetl
- ユダヤ教徒居住区、ユダヤ人居住区(ロシア帝国) Jewish Pale of Settlement
- ハーレム
- サウス・セントラル
- ワルシャワ・ゲットー蜂起
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学派 | シカゴ学派(人間生態学) - ネオ・シカゴ学派 - ロサンゼルス学派 - 新都市社会学 |
主要概念 | 都市化 - アーバニズム - サバーバニズム - コナベーション - 都市問題 - 集合的消費 - 都市社会運動 - フローの空間 - 日常生活 - 都市計画 - ガバナンス - 建造環境 - 社会的ネットワーク - リズム - 表象 |
主な対象 | 世界都市 - グローバルシティ - プライメイトシティ - メガシティ - ジェネリックシティ - エッジシティ - インナーシティ(スラム - ゲットー) - エスニシティ - コミュニティ |
隣接分野 | 社会学(農村社会学 - 地域社会学 - 文化社会学) - 地理学(人文地理学 - 都市地理学) - 都市経済学 - 都市工学 |
人物(シカゴ学派) | ロバート・パーク - アーネスト・バージェス - ウィリアム・フート・ホワイト - ハーベイ・ゾーボー - ネルス・アンダーソン - クロード・フィッシャー - ルイス・ワース |
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