社会的ネットワーク
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社会的ネットワーク(しゃかいてきねっとわーく、Social network)とは、価値、構想、提案、金銭的やりとり、友人、親類、嫌悪、取引、ウェブリンク、性的関係、疾病の伝染(疫学)、航空路といった1つ以上の関係により結びつけられた(個人や組織を指す)ノードからなる、社会的な構造である。
社会的ネットワーク分析(ネットワーク理論)は、近年の社会学や人類学、組織論といった学問分野において、ポピュラーな推論・研究であると同時に、有用な方法として台頭した。この分析によって、それが家族から国家まで様々なレベルの問題に適用でき、問題解決への道を示す重要な役割を果たし、組織が運営され、どの程度個人の追求する目的が果たされるのか、多くの研究者によって論証されたのである。
この社会的ネットワークから派生した分析概念として、都市社会学には、個人を中心として他者とのネットワークを考える「パーソナルネットワーク」という理論も存在する。また、最近の社会学や政治学においてはソーシャル・キャピタル(社会関係資本)と関連する概念として捉えられることが多い。
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[編集] 社会的ネットワーク論
[編集] 概論
社会的ネットワーク論では、「ノード(nodes)」と「つながり(ties)」という観点から社会的隣接性を考察する。ノードとは、ネットワークに関わりを持つ個々人を指し、つながりとは、関係者間の結びつきをあらわすものである。ノード間には考え得る限りの関連性を、様々な種類のつながりであらわすことができる。この簡単な定義のもと、社会的ネットワークは可能な限りのノードを適切なつながりで全て結んだ地図であると解釈することができる。またこのネットワークは、関係する個々人の持つ社会資本(ソーシャルキャピタル)を決定付ける時にも用いられる。これらの概念はしばしば、ノードを「点」、つながりを「線」とした「社会的ネットワークダイアグラム」として表される。
社会的ネットワークの在り様は、それを形成する主体者としての個人にとって、そのネットワークの有益性を示す鍵になると考えられている。例えば「緊密型ネットワーク」は、ネットワーク上に多くの空白を含むもの(structural holes - 構造的空隙)や、主たるネットワークの外側で他の主体者と緩やかにつながっているもの(weak ties - 弱いつながり)に比べ、メンバーにとって実際にはあまり有益ではない。より開かれたネットワークには、社会的空隙や弱いつながりが多く含まれており、冗長なつながりに満ちた閉鎖的なネットワークよりも、より多くの新しいアイデアや機会に恵まれる可能性があるのだ。言い換えればこうなる。ただ一緒に何かをするだけの友人集団というのは、同じ知識や機会を既に共有してしまっている。一方、他の社会的世界へ関わりを持つ個人の集団というのは、より広い範囲の情報へとアクセスすることが出来る。ひとつのネットワーク上で多くのつながりを持つよりも、様々なネットワークへのつながりを持つ方が、個人が何かを成し遂げるときにより有益であると解釈することが出来るのだ。
社会的ネットワーク論の意義は、主体者たる個人の性質(好意的か否か、気が利くか否かなど)を取り扱う伝統的な社会学による研究との差異にある。つまり社会的ネットワーク論は、もう一つの見方を提供するのだ。個人の性質をあまり重要視せず、ネットワーク上における他の主体者との関係や結びつきに着目する。このアプローチは、多くの現実世界における現象を説明するのに有益であるということが明らかになったのである。
[編集] 社会科学での応用
社会科学分野での社会的ネットワーク論の応用は、社会関係を定量化する試みである社会測定法(ソシオメトリー)に端を発する。マーク・グラノヴェッターに代表される学者たちは社会的ネットワーク論を拡張し、今日では社会科学の分野において様々な現象を説明する手助けとなっている。例えば「組織内での力」とは、ネットワーク上の個人が、その肩書きに拠らず、どの程度多くの関係の中心にいるかによって決定付けられる、ということが見出された。また社会的ネットワークは、会社の業績や事業の成功には雇用が重要な役割を果たすということも見出している。
社会的ネットワーク論は学術分野で活発な討論が行われており、社会的ネットワーク分析者の学会が国際ネットワーク学会である。研究者によって作成された社会的ネットワークに関するツールはオンライン上で入手でき(例えば "UCINet")、ネットワークに関する画像イメージなどを比較的容易に利用できる。
[編集] 一般社会での応用
いわゆる「150人の法則」とは、現実の社会的ネットワークにおけるメンバーは150人に限定される、というものである。この法則は、異文化を扱う社会学や文化人類学における、村落の最大人員でも同じことが言える。その数は平均的な人間能力にとって、集団のメンバーであると認識し感情を把握することの出来る、ある種の限界であることが発達心理学によって明らかにされている。もっとも、それは経済学的な問題かも知れず、集団が大きくなるとそれにつれ詐欺師やうそつきも活動しやすくなる傾向があるので、「フリーライダー」の動きにも着目する必要があるだろう。
[編集] 国民生活白書
平成19年版国民生活白書ではつながりが築く豊かな国民生活と題して、日本における社会的ネットワークの現状を報告している。[1]
[編集] ソーシャルネットワーキングサービスにおける社会的ネットワーク
詳細はソーシャル・ネットワーキング・サービスを参照
オンライン上で社会的ネットワークを構築するのが、ソーシャルネットワーキングサービス(SNSまたはYASNS)である。最後のSが表すものは「サイト」「システム」「サービス」のいずれかになるが、この違いによる定義の差はない。
これらのウェブサイトはコミュニティーとして機能する。最初の段階として主催者が自らの知り合いをネットワーク上に招待する。その新しいメンバーも同じことを繰り返し、メンバーの総数的にもネットワークの規模としても成長していく。サイト側では、自動更新機能を持ったアドレス帳、プロフィール表示機能、新たなつながりを形成する能力である紹介機能、その他オンライン上での社会的つながりを支援する機能を提供している。
[編集] 海外のソーシャルネットワーキングサービス
アメリカでは、2003年ごろからFriendsterやwww.thehoosierweb.com、Tribe.net、LinkedInといったサイトが流行し始めた。現在では200以上のソーシャルネットワーキングサイトが存在している。サーチエンジンのGoogleも、2004年1月22日にorkutを立ち上げた。また、スペイン語とポルトガル語のソーシャルネットワークであるKibopも、2004年にサービスを開始している。
LiveJournalのようなサイトでは、ブログを相互接続するというアプローチを取っている。また更なる発展形として、StumbleUponとFunchainのように、人とブログの双方を相互接続するセマンテックソーシャルネットワークも出現している。
自分自身でソーシャルネットワークを構築することの出来るソフトもある。[2]また、ソーシャルネットワークはビジネスの世界にも導入されている。[3]
[編集] 日本における動向
日本でも、2004年3月にサービスを開始したmixiを筆頭に、様々なソーシャルネットワークが存在している。
いわゆる「出会い系サイト」との違いを説明するために、日本では「知り合い系サイト」という通称が用いられることもある。
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
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学派 | シカゴ学派(人間生態学) - ネオ・シカゴ学派 - ロサンゼルス学派 - 新都市社会学 |
主要概念 | 都市化 - アーバニズム - サバーバニズム - コナベーション - 都市問題 - 集合的消費 - 都市社会運動 - フローの空間 - 日常生活 - 都市計画 - ガバナンス - 建造環境 - 社会的ネットワーク - リズム - 表象 |
主な対象 | 世界都市 - グローバルシティ - プライメイトシティ - メガシティ - ジェネリックシティ - エッジシティ - インナーシティ(スラム - ゲットー) - エスニシティ - コミュニティ |
隣接分野 | 社会学(農村社会学 - 地域社会学 - 文化社会学) - 地理学(人文地理学 - 都市地理学) - 都市経済学 - 都市工学 |
人物(シカゴ学派) | ロバート・パーク - アーネスト・バージェス - ウィリアム・フート・ホワイト - ハーベイ・ゾーボー - ネルス・アンダーソン - クロード・フィッシャー - ルイス・ワース |
人物(新都市社会学周辺) | アンリ・ルフェーヴル - マニュエル・カステル - ロジキーヌ |
人物(ロサンゼルス学派) | エドワード・ソジャ - マイク・デイヴィス |
人物(リストラクチャリング論周辺) | デヴィッド・ハーヴェイ - サスキア・サッセン - ジョン・フリードマン |
人物(空間論、文化論) | ジョン・アーリ - ドリーン・マッシー - アルジュン・アパデュライ |
人物(日本) | 鈴木栄太郎 - 磯村英一 - 奥井復太郎 - 倉沢進 - 奥田道大 - 吉原直樹 - 町村敬志 - 吉見俊哉 - 若林幹夫 |