割礼
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割礼(かつれい)とは、主に宗教上の理由で男子の性器の一部を切除すること。宗教上の理由の他、衛生上の理由などで行われる場合がある。(女性に対して行われるものについては、女性器切除の項を参照)
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[編集] 語意
日本語では、聖書に記述される(ユダヤ教の)circumcisionの訳語として「割礼」が採用された。
- [要出典]宗教上の理由以外のものは割礼と呼ぶべきではない、という意見もある。
英語のcircumcisionは男性の陰茎包皮を切除することで、宗教的ニュアンスはあるものの、本来は宗教上の行為かどうかは問わず、医療行為(包茎手術)も含まれる。ただし、genital cutting(直訳 性器切断)も割礼と訳されることがあり、これはcircumcision (male genital cutting) と女性器切除 (female genital cutting) が含まれる。
- 女性器切除をfemale circumcision(女子割礼)ということがあるが、circumcisionとは宗教的背景が異なるなどの理由でこの表現に反対するものもいる。
また、オーストラリアのアボリジニーの間では、尿道の下部を切開する「尿道割礼」が、ミクロネシア連邦のポナペ島の住人や、南アフリカ共和国からナミビアにかけて居住するホッテントット族の間では、片方の睾丸を摘出する「半去勢」が行われていたが、いずれも成年男子への通過儀礼としての儀式として行われており、これらも広義の割礼の一種と見ることができる。
[編集] 概要
古来、中東の民族を中心に行われ、エジプトやユダヤの社会などで行われていた。当時、割礼習慣のないギリシア人・ローマ人などから見ると、嫌悪すべき野蛮な風習とみなされていた。
現在でもユダヤ教やイスラム教、アフリカの諸民族などでは、宗教的な意味合いから割礼を行っている。この他、アメリカ・フィリピンなどでは、衛生上の観点からおもに新生児の男児の男性性器の「陰茎の包皮」を切除する場合もある。日本でも、成人男子が主に衛生上の観点から行う包茎手術を行うケースがあるが、新生児に対して行うことはまれである。
- 宗教習俗上の意味合いを持たないものは、宗教上の理由から行われるものとは区別し、「陰茎包皮切除」と呼ぶべきという意見もある。
包皮の切除自体は宗教習俗の違いこそあれど熱帯や乾燥帯に住む世界各地の人々に見られる傾向があり(あるいは起源を持ち)、元々は衛生環境が悪化しがちの気候に住む人々の経験に基づく衛生予防上の習慣だったものが、宗教習俗上の意味合いを持つことで、宗教習俗の広がりと共により普及したと見られる。
[編集] 日本の風習
ある民俗学の報告書[要出典]によると、戦前の山口県のある村では、若衆宿(一定の年齢になった男の子が結婚するまで集団生活をする場で、村の掟や生きる知恵などが先輩から伝えられた)に新しく入った子供に、ススキの葉を使用して、割礼が行われていた記述がある。
[編集] ヘロドトスの記述
ヘロドトス(前484年-前425年)は『歴史』の中で、エジプト人・エチオピア人が昔から割礼を行っている、と書いている。
[編集] ユダヤ教
『創世記』17:9-14には、アブラハムと神の永遠の契約として、男子が生まれてから8日目に割礼を行うべきことが説かれている。(ヘブライ語のBritは契約を意味するが、割礼の意味でもあるという)。ユダヤ教では、この伝統を引き継ぐ。
また『創世記』34章には、ヒビ人ハモルの息子シケムに娘ディナを陵辱されたヤコブが、娘に求婚してきたシケムに対して計略をしかけ、割礼を受けた者でなければ娘を嫁にやれないと答え、それに応じてシケム一家が揃って割礼を受けた3日後に痛みに苦しんでいるところを襲って一家を皆殺しにした記事がある。このことから、当時の割礼には日常生活に支障が出るほどの強い痛みが数日の間伴っていたことがうかがわれる。
オデッサでは、組織に潜入しようとするユダヤ人を見抜くために、割礼の有無を確認していた(オデッサ・ファイル)。
[編集] イエスの割礼の日
カトリックのカレンダーでは、12月25日にイエスが生まれたことになっているので、8日後に割礼を行うユダヤ人の習慣から1月1日が、キリストの割礼の日である(とされる)。
[編集] キリスト教布教
キリスト教成立後、ユダヤ人以外の異邦人に対して伝道を行う際に、改宗した異邦人(割礼をしていない)に対して割礼を行うかどうかが大きな問題になった。パウロは「イエスの教えは律法を守ることではないから、割礼は必要ない」と主張したが、教団内では割礼をすべきだという強い批判もあった(「使徒行伝」15:1-29、「ローマ人への手紙」2:25-2:29、「コロサイ人への手紙」2:11など。)。ただし、パウロも一方では弟子のテモテ(父がギリシャ人で割礼を受けていなかった)に対して割礼を行っているが、これはユダヤ人に伝道するために必要な措置であったという。仮に改宗時に割礼を強制していたら、キリスト教の布教の仕方もだいぶ異なっていたかもしれない。(割礼を行わないギリシア人・ローマ人は割礼の風習を忌み嫌っており、割礼をした者とは食卓を共にすべきではないと考えていたという)
[編集] イスラーム
イスラームのコーランには特に規定はないが、ハディースにこれに関する記載がある。伝説であるためこれに関する解釈は一定ではないが、ムスリムの男児は身体を清潔に保つため伝統的に行われてきた。時期は生後7日目に行う場合から、10-12歳頃までの場合など幅がある。年齢が高いものは成人儀礼に近くなると考えられる。昔は割礼は床屋や占い師、施術に慣れた者が行っていたが、現在は外科医が行う事が多い。割礼を行ったことを地域でお祝いする習慣がある。割礼を行っていない者が成人になってからイスラームに改宗した場合は、解釈が一定ではないため必ずしも強制ではないが、なるべく割礼を行ったほうがよいとされる。
[編集] 割礼を行う国
多くの男子が一般的に割礼を受ける国としてはイスラム教国が目につくが、宗教だけが理由ではない。アメリカなど宗教というより衛生上の理由で行われている国もある。
[編集] 東南アジア・東アジア
マレーシア・インドネシアはイスラム圏、フィリピン・大韓民国は国民に占めるキリスト教徒が多く、アメリカの影響が考えられる(北朝鮮で割礼が行われているという話は聞かない)。
[編集] 中央アジア・西アジア
- アフガニスタン、バングラデシュ、パキスタン、アルバニア、エジプト、イラン、イラク、イスラエル、クウェート、レバノン、リビア、シリア、トルコ、トルクメニスタン、アラブ首長国連邦、イエメン、サウジアラビア、タジキスタン、ウズベキスタン、モルディブ、アゼルバイジャン、バーレーン、カザフスタン、カタール
主にイスラム圏
[編集] アフリカ
- エリトリア、エチオピア、アルジェリア、ガーナ、ギニア、モロッコ、ニジェール、ナイジェリア、南アフリカ、トーゴ、チュニジア、ベナン、カメルーン、チャド、ジブチ、ガボン、ガンビア、マダガスカル、マリ、モーリタニア、ケニア、コンゴ共和国、シエラレオネ、ソマリア、スーダン
北アフリカのモロッコ、東アフリカなどはイスラム圏。成人儀礼として行われている国もあると考えられる。
[編集] アメリカ
米国では宗教との関連ではなく、衛生上の理由および子供の自慰行為を防ぐ目的などの名目で19世紀末から包皮切除が行われるようになり、特に第二次世界大戦後、病気(性病、陰茎ガンなど)の予防に効果があるとされ、普及するようになった。また、医療従事者に割礼を行う宗教の信徒が多く、包皮切除に対する違和感が低かったため、という指摘もある。
1990年代までは生まれた男児の多く出生直後に包皮切除手術を受けていた。アメリカの病院で出産した日本人の男児が包皮切除をすすめられることも多かった。しかし衛生上の必要性は薄いことが示されるようになり、手術自体も新生児にとってハイリスクかつ非人道的との意見が強まって、1998年に小児科学会から包皮切除を推奨しないガイドラインが提出された。これを受け、包皮切除を受ける男児は全米で減少してきており、21世紀に入ってからは約6割程度と言われる。
また、「身体の統一性」および「自己の決定権」という意識から、生まれたときに勝手に行われた包皮切除を嫌い、包皮の復元手術を行い「ナチュラル・ペニス」にしようとする人も少なくない。
なお、アメリカ大陸先住民の中には、ヨーロッパ人到達以前から成人儀礼として包皮切除を行っていた部族もあった。
[編集] オセアニア
成人儀礼として行われている(?)
[編集] 割礼の問題
[編集] 手術の危険性
割礼そのものは常に傷口からの化膿の危険性があり特に抵抗力のない幼児に対する危険性は大きい。乳児に対する割礼では、医師が誤ってペニスを損傷してしまった例もあり、その危険性が指摘されている。そのために苦難の人生を余儀なくされたデイヴィッド・ライマーとその家族の事例が有名である。
南アフリカなどでは、施術者がずさんな割礼術を行ったり、自分で割礼しようとする男子が多く大怪我をしたり死亡する者が後を絶たない。
[編集] 快感の減少
真性包茎や歓頓包茎の場合は性交に支障が出る。しかし、仮性包茎の場合は別である。欧米では様々な理由から包皮の再生を行う人が多い。
包茎の余った皮の部分には、性感帯があるためそこを切った場合には快感が低下する。また、皮が余っている場合包皮のスライドが起こるが、これは女性側にとって自然の潤滑剤として利用される。また、包茎の皮は亀頭を保護する役割もある。包皮が全くない状態であれば、老人になるにつれ亀頭が鈍感になり、カピカピの亀頭になる可能性がある。
[編集] 割礼と病気
[編集] 性感染症
性病は、包皮切除をしていれば症状が発生しにくい。この原因としては「包皮が取り除かれ、亀頭粘膜が角質化するため」、「性交後に膣分泌液が包皮の裏に残らなくなるため」、「性器が乾きやすくなるため、ウイルスが粘膜上で生存する可能性が低減される」、「包皮には性感染症の標的となる細胞が多数存在するのだが、包皮を切除することによってその標的細胞の数が減るため」といった理由が考えられている。
だがいずれも複数の異性との無分別な性行為をしなければ感染のリスクは低い。ただし、複数の異性との無思慮な性行為を常とする男性の場合には、性行為に伴う性病感染予防の観点からは利点は存在する。また、包皮の有無に関わらず多くの性病に関しては陰茎の洗浄を行っているかが重要である。ウィルスが表面上に滞在する期間によって感染率が異なるのであれば、性行為後に念入りな洗浄を行えば包皮の有無は関係しなくなる。
また、性感染症のリスクは感染源のウィルスを持つ女性器への挿入時間によっても大きく異なることになるが、一般に包皮を持つ男性は亀頭が刺激に慣れていないため包皮が無い男性に比べて射精までの時間が短いと言われている。つまりウィルスの滞在期間や滞在箇所の湿度、環境にのみ観点を置く限りは包皮の有無と性感染症の関連性を実証出来ない。
[編集] AIDS
包皮切除(割礼)を受けている男性は、受けていない男性よりも大幅にHIV陽性率が低い、もしくはエイズ罹患率が低いという話もある。現在イスラム圏である西アフリカのエイズ罹患率が南部アフリカよりも大幅に低いのは、割礼(包皮切除)を受けている男性の割合が高いことが一因であるという研究もある。この原因はHIVの対象となるCD4陽性T細胞やランゲルハンス細胞が包皮に多くあり、それが切除されるためと言われている。
実際、ベルトラン・オーベルトの研究(成人に割礼を行わせ、「受けた群」と「受けない群」の2群を比較した)などを見る限り、割礼はエイズ感染に何らかの予防効果を持つ。ただ、オーベルト自身は安易にその事実を持ち出して割礼を受けさせる事は、複数人との安易な性行為の増加につながりかねないという警告を同時に行っている。
インドでは 1993年から2000年にかけて HIV 未感染の男性2298人についての追跡調査が行わた。約1年間の調査期間中に感染が見られたのは割礼を受けている191人中では2人であったが、受けていない 2107人では165人に感染であった。
介入試験ではフランス国立エイズ研究機関(ANRS)により南アフリカで男性3000人に対して実施された試験では感染率は約1/3になるとされ、 イリノイ大学によりケニアで男性2784人を対象に行われた試験では60%のリスク低減が、ジョンズ・ホプキンス大学によりウガンダで男性4996人を対象に行われた試験では51%のリスク低減が判明している。これらの試験はいずれも途中で、試験の中止および被験者全員への割礼が勧告されている。
[編集] 亀頭包皮炎
統計によれば実際には亀頭包皮炎には全体の3%ぐらいしか罹患しない。また、哺乳類の動物全ても発情時以外では皮が被っており、基本的には性器を一回も洗浄しないが炎症は起こらない。そのため割礼は、危険因子を減少させる作用はあるにせよさほど関係ない。
[編集] 割礼と美容
なお、陰茎包皮切除術の術式のなかには、術後の外観があからさまに包皮切除術をうけたと解る状態になるものもあり(いわゆるゼブラ状の陰茎。根元に近い筒の部分には色素沈着がみられるが、切除部よりも先端側には色素沈着がみられない)、これなどは美容の観点からは著しくマイナスに働くことになる。また、包茎による男性性器の性交渉機能の劣位性というものは、真性包茎もしくはカントン包茎でもない限り存在しない。
また、女性に対する労わり、テクニックのなさを無理矢理包茎に結び付けている場合もあり、こういった場合は包茎ではなくメンタルヘルスの問題である。