コムギ
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コムギ | ||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||
Triticum aestivum | ||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||
コムギ | ||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||
Wheat |
コムギ(小麦、英名Wheat、学名:Triticum aestivum)は、イネ科 コムギ属に属する一年草の植物。広義にはT. compactum (クラブコムギ) や T. durum (デュラムコムギ、マカロニコムギ) などコムギ属 (Triticum) 植物全般を指す。世界三大穀物の一つ。古くから栽培され、世界で最も生産量の多い穀物である。年間生産量は6億トン近くに及ぶ。
他の三大穀物と同じく基礎食料であるため、生産された小麦はまずは国内で消費され、残りが輸出される。
目次 |
[編集] 用途
収穫された種子は粉にして小麦粉として使われる。小麦粉はパンやうどん、中華麺、菓子、パスタなどの原料となる。粒の硬さにより、生成される小麦粉の種類、用途が異なる。一部のビールはコムギの麦芽から作られる。ウイスキーや工業用アルコールの原料にもなる。
品質が劣るものや製粉の際に出るふすまは家畜の飼料となる。
[編集] 分類
[編集] 生物的分類
コムギ属 Triticum は、1小穂の稔実粒数、染色体数、ゲノム構成によって以下のように分けられる。
- 1粒系 (稔実粒数1、2n=14、ゲノムAA)
- T. aegilopoides
- T. thaoudar
- T. monococcum (1粒コムギ)
- 2粒系 (稔実粒数2、2n=28、ゲノムAABB)
- T. dicoccoides
- T. dicoccum (2粒コムギ、エンマーコムギ)
- T. pyromidale
- T. orientale (コーランサンコムギ)
- T. durum (デュラムコムギ、マカロニコムギ)
- T. turgidum (リベットコムギ)
- T. polonicum (ポーランドコムギ)
- T. persicum (ペルシャコムギ)
- 普通系 (稔実粒数3~5、2n=42、ゲノムAABBDD)
- T. aestivum (普通コムギ、パンコムギ)
- T. spelta (スペルトコムギ)
- T. compactum (クラブコムギ、密穂コムギ)
- T. sphaerococcum (インド矮性コムギ)
- T. maha (マカコムギ)
- T. vavilovii (バビロビコムギ)
- チモフェービ系 (稔実粒数2、2n=28、AAGG)
- T. timopheevi
[編集] 専用小麦
強力粉や薄力粉等、パンやマカロニといった用途別の専門小麦粉の原料となる小麦のこと[1]。
[編集] その他
小麦は栽培時期等によって以下のように区別される。
- 播種時期 - 春播き小麦、秋播き小麦
- 粒の色 - 赤小麦、白小麦
- 粒の硬さ - 硬質小麦、中間小麦、軟質小麦
[編集] 歴史
中央アジアのコーカサス地方から西アジアのイラン周辺が原産地と考えられている。1粒系コムギの栽培は1万5千年頃に始まった。その後1粒系コムギはクサビコムギAegilops sguarosaと交雑し2粒コムギになり、さらに紀元前5500年頃に2粒系コムギは野生種のタルホコムギA. squarrosaと交雑し、普通コムギT. aestivumが生まれたといわれる。普通コムギの栽培はメソポタミア地方で始まり、紀元前3000年にはヨーロッパやアフリカに伝えられた。
聖書の中にも頻繁に「麦」や「小麦」が登場し、重要な作物であったことがわかる。聖書の中で小麦が最初に登場するのは、最初の書である創世記(30章14節)である。
中国への小麦の伝来も文献などからシルクロードが開かれた紀元前1世紀頃(前漢)時代と考えるのが一般的であり、中国経由で伝来されたと考えられている日本でも約2000年前の遺跡から小麦が出土しており、伝わったのはそれから遠くない弥生時代であると考えられている。奈良・平安期には五穀の1つとして重視された(『和名類聚抄』には「古牟岐(コムギ)・末牟岐(マムギ=「真麦」)」の名で伝わる)が、一方で収穫前の大麦・小麦の青草を貴族や有力豪族が農民から買い上げて馬の飼料にすることが行われ、当時の政府が度々これを禁止する太政官符を発令される(751年・808年・819年・839年)ており、稲や粟と比較して食用作物としての認識が十分に広まっていなかったとする見方もある。
[編集] 供給・需要傾向
世界的な傾向としては、需要は主に中国、インドが経済成長による食生活の変化が起こっていることなどから今後も旺盛な状態にある。一方、生産が需要に追いついておらず、小麦の期末在庫率は低下傾向にある。そのため、国際的な取引価格は上昇傾向にある[1]。
[編集] 生産
コムギは、温帯から亜寒帯にかけて栽培されている。比較的乾燥に強く、生産限界は年間降水量500mmである。灌漑設備が整っている場合は、さらに乾燥した地域でも栽培できる。
地域別ではアジア州が4割強、ヨーロッパ州が3割強、北アメリカ州が1割強となる。国際連合食糧農業機関の統計資料 (FAOSTAT)[2] によると、2005年の世界生産量は6億2957万トン。これは米の生産量(6億1844万トン)にほぼ等しい。トウモロコシ(7億167万トン、2005年)についで生産量の多い農作物である。上位5カ国、すなわち、中華人民共和国、インド、アメリカ合衆国、ロシア、フランスで総生産量のちょうど5割を生産している。なお、日本の生産量は、86万300トン(2005年)、うち北海道が65%を占める。国内生産は、米作からの転作や麺類向けの品種が主に生産され、パンなど向け品種の生産には消極的である。近年の国際価格の高騰でパン向けの品種改良や生産に目を向けたり、数少ない国内のパン用小麦の争奪戦がおこなわれている。
国名 | 順位 | 生産量 | 比率 |
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中華人民共和国 | 1 | 9744万5250トン | 15.5% |
インド | 2 | 6863万4900トン | 10.9% |
アメリカ合衆国 | 3 | 5874万トン | 9.3% |
ロシア | 4 | 4769万7520トン | 7.6% |
フランス | 5 | 3684万810トン | 5.9% |
カナダ | 6 | 2677万5000トン | 4.3% |
オーストラリア | 7 | 2509万トン | 4.0% |
ドイツ | 8 | 2369万2700トン | 3.8% |
パキスタン | 9 | 2161万2300トン | 3.4% |
トルコ | 10 | 2150万トン | 3.4% |
ウクライナ | 11 | 1869万9200トン | 3.0% |
イギリス | 12 | 1486万3000トン | 2.4% |
イラン | 13 | 1430万7970トン | 2.3% |
アルゼンチン | 14 | 1257万4200トン | 2.0% |
カザフスタン | 15 | 996万9830トン | 1.6% |
[編集] 貿易
コムギは最も貿易量が多い穀物である。2004年時点の総輸出量は1億1880万トン、総輸入量は1億1625万トン[3]。例えばトウモロコシの総輸出量は8327万トン、米は2899万トンに過ぎない。輸出国はアメリカ合衆国 (26.6%)、オーストラリア (15.5%)、カナダ (12.7%)、フランス (12.5%)、アルゼンチン (8.4%) の順であり、この5カ国だけで全輸出量の3/4を占める。輸入国は、最大の生産国でもある中華人民共和国 (7.2%)、イタリア、日本、アルジェリア、ブラジルの順に多い。この5カ国で全輸入量の1/4を占める。日本の輸入量は全輸入量の4.7%。
日本のコムギ輸入相手国は、アメリカ合衆国 (55.9%)、オーストラリア (22.2%)、カナダ (21.2%) であり、その他の国は0.7%に過ぎない。日本の小麦粉価格は国内生産農家保護のため、日本政府が一括輸入して購入し政府売り渡し価格を製粉会社に提示、引き渡す制度になっている。四半期ごとに10%程度の増減幅で売り渡し価格を決めているが上記の情勢や天候に大きく左右されれば国際価格に影響を受ける。2006年頃から上昇傾向にあった小麦価格は、2007年には主にオーストラリアでの大規模な不作によって小麦価格が高騰、それに伴い政府価格も改定[2]し、パンや焼きそばなど小麦粉を使う製品の値段が上昇した。この急激な高騰に対して、売り渡し価格の増減幅を20%程度の幅に見直す為、2008年度から20%~30%の値上げが確実な情勢である。
[編集] 品種等
- ホクシン
- 日本で最も広く栽培されている小麦品種。北海道において秋まき小麦として栽培されている。小麦農林142号。
- 農林61号
- 日本の水田裏作栽培で最も多く栽培されている品種。品種登録は1943年(昭和18年)と古いが、現在でも関東から九州地域での基幹品種である。佐賀県農試にて育成。
- チクゴイズミ
- 西日本を中心に多く栽培されている。農林61号など従来の品種に比べアミロース含量が低い「低アミロース品種」で、柔らかくモチモチとした食感が特徴。九州沖縄農業研究センターが育成。
- 春よ恋
- パン用小麦品種。北海道において春まき小麦として栽培されている。日本で初めて葯培養により育成された小麦。ホクレン農業協同組合連合会が育成(唯一の民間による育成品種)。
- さぬきの夢2000
- 讃岐うどんが名物となっている香川県が特産品の讃岐うどん用として開発した、製麺用の新品種。半数体育種法で作出されている。讃岐うどんのなめらかさ、粘り、かたさ(噛みごたえ)に最適化するため、チクゴイズミほど低アミロースにはしていない。香川県農業試験場が育成。
- きたもえ
- 北海道において秋まき小麦として栽培されている。北見72号の系統番号で試験され、北海道の優良品種に認定された。
- タクネコムギ
- 北海道を中心に栽培される。成熟すると穂が赤色になることから赤麦とも呼ばれる。主に醤油醸造に用いられる。北見30号の系統番号で試験され、北海道の優良品種に認定された。
- ゆき姫
- 実用化された史上初のもち小麦(低アミロース)。2007年に発表された[3]。
- ミナミノカオリ
- 蛋白質に富み、パンや醤油に向く。2006年に登録された[4]。
- ASW(オーストラリアスタンダードホワイト)
- 日本への輸入小麦の大半を占める、オーストラリアの製麺用小麦。日本へ輸出するために数種類をブレンドして、安定した高品質を確保している。
- デュラム
- パスタで用いられている、グルテン(蛋白質)の多い種(T. durum)。日本での栽培は難しく、ほとんどが輸入物。超硬質で黄色いのが特徴。通常、セモリナ粉(粗挽き粉)として用いられる。
- プライムハード (PH)
- 強力粉。パン等の原料。
- ウエスタンホワイト (WW)
- 薄力粉。菓子・ケーキ用。通称ダブダブ。
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク