第三軌条方式
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第三軌条方式(だいさんきじょうほうしき)は、電気鉄道の集電方式で、線路内に走行用の2本のレールと並行して第三の電源供給用レール(第三軌条)を敷設し、車両の台車に取り付けられた集電靴(コレクターシュー)を介して電源を供給する方式。サードレール方式ともいう。
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[編集] 特徴
架空電車線方式(架線方式)に比べ建設コストが安く、架線がないため沿線の景観も損ねにくいが、地上に高電圧が通り感電の危険があるため、人の侵入が容易な地上路線には不向きである。また、高速運転にも適していない。第三軌条は、地上に設置されているが、走行用レールが電気的に接地されているのに対し、第三軌条は地上から絶縁されている。また、車両の重量負担がないので、走行用レールとは種を異にしている。現在の日本では一部の地下鉄および第三軌条方式の地下鉄と直通運転している路線だけに用いられているが、欧米ではロンドン近郊の旧国鉄路線など、地上の路線にも広く採用されている。フランスのピレネー山脈には、“Train Jaune(黄色い列車)”と称する、フランス国鉄(SNCF)の経営による第三軌条集電の小型電車を使用する山岳ローカル線セルダーニュ線も存在する。
日本の路線では、コレクターシューは第三軌条の上面に接触[1]しているが、ベルリンSバーンなどのように逆に下側に接触しているものもある。一般に、欧米では上面式と下面式が1:1程度で分布しているようである。
第三軌条方式は技術的・建設コスト的な面から、小断面のトンネルで建設しようとする場合に有利で、初期に建設された地下鉄などでは車両の上方に通常の架線とパンタグラフ等集電装置を設置する空間が取れない路線で採用された。近年は地上路線との乗り入れが普及したため、剛体架線などを使用した架空電車線方式を採用する地下鉄が多く、国内の鉄輪式リニアモーターカーによる地下鉄も、全て架空電車線方式である。
線路内の低い位置に高電圧供給源を設置するため、地下鉄の駅や高架区間(ホームなど)では公衆が線路に立ち入れないよう、注意警告表示を掲示するなどの十分な防護を行う必要もある。世界的に見ても供給電圧は大半の路線が直流900V未満で、1500もしくは3000Vを多用する架線集電式より低い。
ロンドン南郊、ベルリンのSバーン等、踏切のある路線も存在するが、大半の路線は立体化されている。なお、国内でも東京地下鉄銀座線の上野駅から分岐する上野検車区の手前には一般道路との踏切があるが、この踏切から線路内に公衆が立ち入らないように、線路側にも電車の通過時のみ開閉する遮断柵が設けられている。
架線と異なり柔軟性がないため、高速運転には不向きであるものの、イギリスでは160km/h運転をしている区間がある。もっともユーロスターが通る区間はフランス国内の区間との速度差が大きいこともあり、架空線方式の高速新線 (CTRL) に順次切り替えている。
日本では近鉄けいはんな線で第三軌条最高速度95km/h運転が行われている。
[編集] 第三軌条方式の採用例
[編集] アジア
- 日本
- 朝鮮民主主義人民共和国
- 平壌地下鉄 直流825V
- 中華人民共和国
- 台湾
- タイ
- バンコク・メトロ 直流750V
- バンコク・スカイトレイン(バンコク大衆輸送システム) 直流750V
- マレーシア
- クアラルンプール地下鉄 (RAPID KL) 直流 750V リニアモーター駆動式
- シンガポール
- シンガポール地下鉄(SMRT) 直流750V
- インド
- コルカタ地下鉄(メトロ鉄道) 直流750V
- イラン
- テヘラン地下鉄 (テヘラン都市地下鉄道)直流750V
- トルコ
[編集] ヨーロッパ
- オーストリア
- ウィーン地下鉄(ウィーン路線網 6号線を除く):直流750V
- ベルギー
- ブリュッセル地下鉄:直流900V
- ブルガリア
- ソフィア地下鉄:直流825V
- チェコ
- プラハ地下鉄:直流750V
- デンマーク
- コペンハーゲン地下鉄:直流750V
- フィンランド
- ヘルシンキ地下鉄:直流750V
- フランス
- SNCFセルダーニュ線(トラン・ジョーヌ)
- SNCFコル・デ・モンテ線:(モンブラン・エクスプレス)リゾート地、シャモニーへ至る狭軌(メーターゲージ)線。スイスの私鉄TMRと直通運転している。コル・デ・モンテ線は第三軌条だが、TMRは架線集電であり、直通電車モンブラン・エクスプレスは集電靴・パンタグラフ両方備えている。
- SNCFモーリアンヌ線(現在は架線集電):イタリアとの国境モーリアンヌ峠のフランス側、シャンベリー・シャルレゾー駅とモダーヌ駅の間はかつては直流750V、第3軌条で電化されており、集電靴を装備したモーリアンヌ線仕様のCC6500形電気機関車が専用で使用されていた。同区間はフランスとイタリアを結ぶ幹線ルートであり、現在はDC1500V架線集電式に変更されており、TGVアルテシアなどが走っている。
- SNCF・パリ近郊線:パリの国鉄近郊線はかつては第三軌条電化線も少なくなかった。サン・ラザール駅発着の近郊路線は1970年代まで第三軌条電化であった。また、オルセー駅開業当時、地下トンネルでは蒸気機関車が運行不可能なため、当駅とオーステルリッツ駅の間は第三軌条で電化されており、専用の電気機関車で連絡されていた。両方とも、現在は直流1500Vの架線集電式に変更されている。
- パリ地下鉄(メトロ):直流750V 鉄輪式・ゴムタイヤ式問わず。
- リヨン地下鉄(メトロ)A、B、D線:直流750V ゴムタイヤ式。
- マルセイユ地下鉄(メトロ):直流750V ゴムタイヤ式。
- ドイツ
- ギリシャ
- イタリア
- ミラノ地下鉄 M1線:直流750V
- オランダ
- アムステルダム地下鉄:直流750V。一部路線、DC600V架線集電式のLRTに乗り入れ。
- ロッテルダム地下鉄:直流750V。一部区間、DC750V架線集電式。
- ノルウェー
- オスロ地下鉄 2、4、5号線:直流750V
- ハンガリー
- ブタペスト地下鉄 2、3号線:直流750V
- ポルトガル
- リスボン地下鉄:直流750V
- ポーランド
- ワルシャワ地下鉄:直流750V
- ルーマニア
- ブカレスト地下鉄地下鉄:直流750V
- イギリス
- スウェーデン
- ストックホルム地下鉄:直流650V 直流750V
[編集] CIS諸国
- ロシア
- ウクライナ
- キエフ地下鉄:直流825V
- ハルキウ地下鉄:直流750V
- ドニプロペトロウシク地下鉄:直流825V
- ベラルーシ
- ミンスク地下鉄:直流825V
- ウズベキスタン
- タシュケント地下鉄:直流825V
- アゼルバイジャン
- バクー地下鉄:直流825V
- アルメニア
- エレバン地下鉄:直流825V
- グルジア
- トビリシ地下鉄:直流825V
[編集] 北アメリカ
- アメリカ合衆国
- ニューヨーク地下鉄 (ニューヨーク交通営団):直流625V
- ニューアーク地下鉄:直流650V
- ワシントンD.C 地下鉄(ワシントン首都圏交通局):直流750V
- ボストン地下鉄(グリーンラインとブルーラインの一部を除く):直流600V
- フィラデルフィア地下鉄(フィラデルフィア・セプタ):直流625V
- ボルティモア地下鉄:直流700V
- シカゴ・L:直流600V
- アトランタ地下鉄:直流750V
- サンフランシスコ地下鉄(BART):直流1000V
- ロサンゼルス地下鉄レッドライン:直流750V
- アムトラック都市部地下線区間の一部(煤煙防止のため電気式ディーゼル機関車などが集電して走る。)
- メトロノース鉄道
- ロングアイランド鉄道の電化区間
- スタテンアイランド鉄道
- パストレイン
- PATCO
- マイアミメトロレイル en:Miami-Dade Metrorail
- デトロイトピープルムーバ en:Detroit People Mover
- プエルトリコ(アメリカ合衆国自治領)
- サンファン地下鉄:直流750V
- カナダ
- モントリオール地下鉄:直流750V
- トロント地下鉄:直流600V
- バンクーバー・スカイトレイン:直流600V(リニアーモーター式)
- メキシコ
- メキシコシティ地下鉄(A線を除く):直流750V
[編集] 南アメリカ
- ベネズエラ
- カラカス地下鉄 直流750V
- ブラジル
- アルゼンチン
- ブエノスアイレス地下鉄B線(メトロビアスS.A.)直流600V
- ブエノスアイレスの近郊路線。(es:Ferrocarril General Urquizaなど)
- チリ
- サンチアゴ地下鉄 直流750V
[編集] 注釈
- ^ アプト式時代の信越本線横川駅~軽井沢駅間(通称「横軽」)も第三軌条方式で、これが日本で最初の採用例である(直流600V)。この区間は、日本で唯一、下側に接触する方式が採用された。架空線式とならなかった理由は、蒸気機関車用のサイズで作られたトンネル断面が小さく、その改修に莫大なコストと期間を要することによる。なお、横川および軽井沢構内は架空線方式をとったため、機関車はいずれもコレクターシューとパンタグラフ(初期はポール)の双方を装備していた。また、機関車がいずれもロッド駆動であったこともあり、地下鉄車輌と異なりコレクターシューはいずれも車端部に装備されていた。
[編集] 関連項目