ネオナチ
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ネオナチ(Neo-Nazism、稀にネオナチスとも)は、アドルフ・ヒトラーを指導者とした国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の思想を受け継ぐと称して活動する人・団体、政治勢力を指す。
思想的にも、組織的にも、社会的にも、歴史上の旧ナチスとは断絶があり、むしろ一般的な国粋主義の特殊形態である。
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[編集] 概要
思想的には、外国人排斥・同性愛嫌悪・共産党敵対が3つの柱である。旧ナチスが、富裕なユダヤ人や過激な労働者を嫌う中産サラリーマン階級の中年層を基盤としたのに対し、ネオナチでは旧共産党支配下の東欧圏(東独やロシアを含む、チェコを除く)の没落労働者家庭出身の青年層が代表的であり、教会などによる地域社会への帰属感を持たず、旧ナチスシンパを標榜することのみを紐帯とし、みずから反社会的行動を行う。しかしながら、極左的アナーキズムの(無政府主義的な)傾向があまりに強いために、内部に特定の指導者を立てることもできず、この点において、同じ国粋主義であっても、旧ナチスや、イスラム圏の原理主義運動のような組織性を持たず、計画的な行動も取りえない。
ナチズム全般は、アーリアン学説に基づき北欧を含むアーリア人種の繁栄のみを目的としてファシズム的な傾向を含み、また他人種を排斥し場合によっては抹殺さえ考える排外思想である。
ただしヒトラー時代のナチズムと大きく異なる点はその人種概念にある。ネオナチにおいては、ゲルマン民族以外に、かつてナチズムから劣等民族と位置づけられていたスラヴ民族も積極的に北欧系アーリア人とみなされる傾向が顕著で(参考リンク)、しばしばネオナチ同士の国際的連帯が図られている。そのためロシア人など、ナチス・ドイツ時代には疎外されていた国民の間にもネオナチ的思想が急速に浸透しており、彼らはゲルマン民族のネオナチの間でも広く受け入れられている。
多くの場合では、自国の労働者の雇用拡大を掲げて外国人労働者の排斥を訴えるなど、就職問題に絡んだ活動で参画者を募っている。但し一方で、弱者や少数民族を排斥し、現実から目をそらしているに過ぎないという批判もある。[要出典]さらに左右を問わず独裁者に一方的な好意を寄せる傾向があるなど、ナチズムの復興を目指すというより反社会性のシンボルとしてナチズムが掲げられている状況であるため、元ナチス副総統ルドルフ・ヘスを初めとする元祖ナチス党員は彼らをナチの教義から外れたならず者として否定している。
[編集] ネオナチの暴力的思想
[編集] 歴史的背景とその変遷
当初は連合国側の戦争犯罪人追及から逃れた(ナチスとの関わりにおいて、非人道的な活動に従事していなかったなどの)ナチスの元関係者などが活動の中心となるケースが多かった。
しかし近年では若者がネオナチの名を騙り、移民や外国人労働者の排斥を訴え、暴行・略奪などの犯罪行為を行うケースが増加している。しかも多くの場合、ナチズムを深く理解せずに、単に暴力に訴えることと曲解されていることが多い。現に、彼らはルドルフ・ヘス存命中に彼を崇拝していたが、ヘス自身はネオナチを「ナチズムを歪ませている」と言って、嫌っていたという(ルドルフ・ヘスの項を参照)。
このような単なる他民族排斥活動や暴力容認と混同されるに至り、特にロシアやドイツ等、他民族の移住者により職を奪われたと感じる若者達の間で一種の流行となっているのに加え、近年はイスラム教=テロリズムとの誇大解釈からイスラム教自体を迫害対象として名指ししているために宗教と民族を巻き込んだ問題と見なされるようになっている。
[編集] 外国人襲撃の激化
これらの活動は、ドイツ国内のイスラム教徒トルコ移民に対する攻撃などで同国内での現象がよく知られており、2006年にはドイツで開催されるFIFAワールドカップに併せて大規模な行動を起こすと警告をするに至っており、元ドイツ首相府報道官は「ブランデンブルク州の中小都市などに、肌の色が違う人は立ち入るべきではない。入れば生きては戻れないだろう」と警告を発していた。
現にブランデンブルク州の州都ポツダムでは、2006年4月に黒人男性が襲撃される事件も発生した。
また、2006年5月にはベルリン市東部のプレンツラウアーベルク地区でイタリア人男性がネオナチとみられる集団に襲撃されている。このとき被害者はスキンヘッドの男たちに「何人」かと訊かれ、「イタリア人だ」と答えると、男たちは差別的な言葉を発して突如殴りかかってきたという。 同日にはドイツ東部のアイゼナハでもチュニジア人男性が暴行を受けている。
2006年5月22日はドイツ東部にある歴史的な街マグデブルクで31歳の韓国人学生が23歳のドイツ人青年に電車内で侮蔑的な言葉を掛けられ、韓国人学生が電車から降りると、追いかけられて激しい暴行を受けたとされる。 しかし、この被害者とされる韓国人の主張を元にした韓国マスコミの主張と現地での目撃者の証言に基づいた地元メディアのニュースとでは微妙に内容が食い違っている。 実際は、韓国人が路面電車に無理やり自転車を持ち込もうとする禁止行為をしたところ、それをドイツ人に再三注意されて、そのことに腹を立てた韓国人が殴りかかったものの、ドイツ人に反撃されて返り討ちにあった事件を、韓国側が人種差別だとして大げさに吹聴したというのが事実のようである。 [4] [5] [6]
2006年5月25日には旧東ドイツ各所でモザンビーク人男性など5人がネオナチと見られる暴漢に襲撃されて負傷した。
ベルリンのプレンツラウアーベルク地区ではトルコ系の男性が4人の男に外国人を差別する言葉を浴びせられ殴られた。
2006年10月27日、ハンガリーの首都ブダペストのブダペスト西駅近くにあるビリヤード場で、日本人旅行者がスキンヘッドと思われる若者の集団に激しい暴行を加えられ、顔面打撲、咽頭の損傷、足首捻挫等の被害にあう傷害事件が発生した。最近のハンガリーでは極右的、外国人排斥主義的な考えを持つスキンヘッドがブダペスト市内を徘徊しており、飲食店や遊技場に集まっていることも考えられることから、日本人が被害にあう類似事件の発生が懸念されている。
ドイツ連邦犯罪捜査局によると、2005年はネオナチ関連の暴力事件が958件発生し、2004年の776件に比べて23%も増加したという。
また、年度別統計では、2005年9月から2006年8月までの年度において、ドイツ国内で極右思想や外国人排斥を動機とした暴力犯罪は7994件発生し、前年度を1400件、率にして56%上回った。
2007年9月には、外国人や同性愛者やシナゴーグに出入りするユダヤ教徒を次々と襲撃していたネオナチがイスラエルで摘発された。8人のユダヤ人の若者で構成されていたこのネオナチ集団は、アドルフ・ヒトラーの肖像を掲げつつ自宅にナチスの制服や拳銃や爆薬を所持し、自宅から押収されたビデオテープには、ナチス式敬礼を行う彼らの姿や、麻薬中毒者を路上に跪かせたうえで『ユダヤ人であること』を詫びるよう脅す様子などが映っていた。[1]
[編集] ドイツにおける現状
かつてナチズムが支配したドイツでは第二次世界大戦後はナチズムを非合法化し、ナチズムの称賛は全面的に禁止された。ナチス時代の軍服や武器を一般市民が手に入れることは原則禁止であり、販売も許されない。また、ナチスのシンボルである鉤十字、あるいはそれを髣髴させるような図柄を公共の場に掲揚するのも禁止されている。
こうした政策はドイツ再統一を経て現在のドイツ連邦共和国でも継続されている。国家民主党など、ネオナチズム政党が地方議会進出を果たした前例はあるが、いずれも憲法裁判所から違憲判決を受け、結社を禁止されている。一方、冷戦期にドイツの東半分を統治していたドイツ民主共和国は、「ナチスと戦ってきた共産主義者が中心となって建設した国家」として自らを定義し、ナチス及びその行為に対しては一切無関係であるという立場をとった。そのため、ナチズムの歴史を自分自身の問題として位置づけることはむしろ拒み続け、反ナチス・反ファシズム教育が共産主義思想に基づいた形式だけの思想教育に留まった。そのことからドイツ再統一後の旧東ドイツ地域では、西に比べてより深刻な失業問題や、かつてのドイツ社会主義統一党による共産主義政治への反感からネオナチ活動に身を投じる若者が増加したと言われている。
ネオナチは極右勢力の一派に類されるが、ドイツの極右は必ずしもネオナチではない。ドイツ極右には、たとえば反ナチ的極右の最大組織のコンスルなどナチスとは別な極右の流れを汲むものも少なくない。
[編集] スキンヘッド
その一方でドイツ国内(特に旧東ドイツ地域)ではスキンヘッドと呼ばれる若者集団が、外国人の移民や労働者に対する暴行事件を起こしているが、スキンヘッド自体は統一された政治勢力ではなく、単なるファッション、もしくは露悪趣味化された様式に過ぎないとも見なされるケースもある。
スキンヘッド族は2006年現在、ドイツ全土で1万人を越えているとみられている。
[編集] 中欧・東欧諸国におけるスキンヘッド
一般に、スキンヘッド族が多く、ネオナチなど排外主義的な思想が一般社会で盛んなのはロシア・クロアチア・ハンガリー・スロバキア・ルーマニア・リトアニア・ラトビア・エストニアといわれる。ロシア以外はみな第二次世界大戦でナチス・ドイツに協力した国家・民族である。
一方、スキンヘッド活動が低調な国はポーランド・チェコである。チェコではロマに対する制度的・社会的差別は苛烈で、難民も発生しているが、ネオナチやスキンヘッドの活動とは直接関係があるとはいえない。
[編集] 日本との関わり
[編集] 日本人への姿勢
日本に対しては第二次世界大戦では枢軸国軍として共に戦い、その関係性からアドルフ・ヒトラーより「東方アーリア人」と肯定的に捉えられた歴史的経緯があるものの、ナチズムとは前述の通りアーリア人の繁栄のみを目的とした人種差別思想であり、その枠外である日本人も原理的には差別対象に含まれる[2]。当のヒトラーも同盟前は日本人を初めとする黄色人種に対する差別発言を行っており、件の宣伝は国際情勢から枢軸国として手を結ぶことになった日本に対する政治的リップサービスという面が大きい。ナチ党高官の中でも日本に強いシンパシーを寄せるローゼンベルクやリッベントロップ、ヒムラーらに対して侮蔑的な姿勢を取るゲッベルスやゲーリングなど、その見解は極めて混乱していた。
そもそもネオナチの思想体系や人種観は前述の通り「本来のナチズム」から遊離している部分が少なくなく、従ってナチス政権時代に日本がどう評価されていたかを考慮しない事も十分考えられる。更にネオナチの行動原理の一つに経済的困窮が挙げられるが、日本はドイツ経済の基幹の一つである自動車産業を脅かす勢力であり、自動車工場を雇用先とする青年労働者層の多いネオナチ党員が反日感情を抱く温床となっているとの指摘もある。
また実例として、ロシアのネオナチ組織から日本の商社にヒトラーの誕生日に合わせて爆破予告が寄せられた事件が挙げられる。
どうあれ日本人でもネオナチの標的とされる可能性は十分に有り、一部のネット上で噂されている様に「元同盟国」という理由で襲撃を回避できるという考えは根拠に乏しく、鵜呑みにすると危険ですらある。
[編集] 日本におけるネオナチ的思想
日本においても、国家社会主義日本労働者党という集団が存在し、近年増加したニューカマーを含む外国人排斥を呼びかけているものの、規模はそれほど大きなものではないと考えられ、実際の活動風景写真でも、数名~十数名程度で気炎を挙げたり大使館守衛に抗議文章を渡している様子などしか見られない。
また異端的な極左活動家として一部で知られていた外山恒一が、近年「ファシズムへの転向」を表明し、「我々団」と称する事実上のファシスト党を結成して活動中である(こういった転向はベニート・ムッソリーニからあり、アメリカのネオナチのリーダーであるビル・ホワイトもアナキストにも共産主義者にもなったことがある)。
日本ではヨーロッパとは違い、ファシズムやナチズムの称賛は禁止されていない。実際、個人においてはウェブサイトやコミュニティサイトにおいてネオナチ主張を唱える者もいる。さらにヨーロッパでは不可能な、関連書籍や実物軍装品の入手も容易である。
こういった事情から個人にてナチズムないしネオナチに傾倒する者もインターネット上の活動を含め見られないではないが、果たしてそれがナチズムの理念に賛同しているのか、それとも単に反社会的なものとして一般的に忌避されていることに対する一種の憧憬に過ぎないのかは人それぞれで、この部分は日本国外でネオナチが単なる反体制的ファッション扱いされている部分にも重なる。過去には福岡猫虐待事件の犯人男性がナチスドイツ将校の名をハンドルネームとしてもちいたケースも報じられている。
上に挙げた同団体に対しても、事の是非は別として一種の話題性や珍奇性から注目する者も見られ、所謂「将軍様(北朝鮮)ウォッチャー」や「ソニー・ウォッチャー」のように動向をチェックする層も見出せる。ただ、これらの層がナチズムないしネオナチを、または同団体を支持しているか否かは別の話である。
思想的な面は伴っていないものの、日本各地の学校の中にはナチス式敬礼と同じ仕草で敬礼が行われているところもあり、問題視されている。当該記事参照。
[編集] ネオナチを扱った作品・アーティスト
[編集] アニメ・映画
- 『フォーリング・ダウン』
- 『ハーケンクロイツ ネオナチの刻印』
- 『アメリカン・ヒストリーX』
- 『ブラジルから来た少年』
- 『マラソンマン』
- 『トータル・フィアーズ』
- 『This is England』
- 『ルパン三世 ハリマオの財宝を追え!!』
[編集] 漫画
- 『MONSTER』
- 『BLACK LAGOON』
- 『ゴルゴ13』(52巻と53巻に「第四帝国」という名前で登場。)
[編集] 音楽
- Absurd
- Blue Eyed Devils
- Blood And Honour
- Hate Forest
- Landser
- Nokturnal Mortum
- No Remorse
- Skrewdriver
- Sturmfuhrer
- Ultima Thule (スウェーデン)
- プルシアン・ブルー
- トンプソン
[編集] 過去に作中にネオナチが出てきた作品
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Mainstreaming Neo-Nazism
- Antisemitism And Racism in the Baltic Republics
- The history of modern fascism