カツ丼
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カツ丼(カツどん)は、丼料理の一種で、丼に盛った飯の上に、味を付けたカツレツを乗せた日本料理。
もっとも一般的なカツ丼は、豚カツを出汁と砂糖と醤油で鶏卵とじにした具を乗せたものである。この他に、日本各地にさまざまなバリエーションが存在する。
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[編集] 卵とじカツ丼
卵とじカツ丼は、現在、日本で最も一般的なカツ丼である。一部地域を除いて単に「カツ丼」と呼んだ場合は、この卵とじカツ丼を指す。卵とじカツ丼の具は、玉ねぎとトンカツを割り下(出汁と砂糖と醤油で作る日本料理の基本的な調味料)で煮て、溶き卵でとじたものである(大阪では、カツを煮ず、丼飯の上にカツを乗せ、その上から溶き玉子で閉じる様式もある)。上にミツバやグリーンピースなどを散らしたり、それらを具とともに軽く煮る場合もある。1921年に早稲田大学の学生・中西敬二郎が考案したという説や新宿区馬場下町のそば屋三朝庵の店主が考案した説がある。玉子丼や親子丼とよく似た料理法であり、親子丼の鶏肉をトンカツに変えた応用形とも考えられる。
通常、単にカツ丼と呼んだ場合には、豚カツが用いられるが、その他ビーフカツ・チキンカツ・ミンチカツ・ハムカツ・エビフライ・牡蠣フライ・魚のフライなどで同種の料理を作る場合もあり、2種類以上のカツを組み合わせる場合もある。トンカツ以外のカツを用いる場合にはそれが明記されるのが通例である。例えばとんかつチェーン店かつやには、チキンカツ丼が、カレーうどんのチェーン店得正にはミンチカツ丼がある。
カツ丼とは呼べないが、卵とじカツ丼の具を丼飯にトッピングせず、別に盛って出す「別れ」と呼ばれる様式もある。「カツ皿」(カツさら)や「カツ煮」(カツに)という名前で呼ばれるのが一般的であるが、築地市場内の「豊ちゃん」の「アタマライス」、大阪市の「やなぎ」の「台ぬき」(だいぬき)など、店によって呼び名が変わる場合もある。室蘭市周辺ではこれもカツ丼と呼んでいる。また、大阪市内のカツ丼屋には、「勝鈍」「祭太鼓」など、この「別れ」を標準とする店も多い。
沖縄では、卵とじカツ丼ではあるが、むしろ沖縄のちゃんぽんの具材の一つとしてカツを使った物を出す大衆食堂がある。かなり脂っこいが独特の味わいがある。
[編集] バリエーション
カツ丼にはさまざまなバリエーションが存在する。ある程度の地域的な傾向があるほか、卵とじカツ丼の文化圏内にも散発的にソースカツ丼を商う食堂を見出すことができ、それぞれの店の師匠筋などの影響も強く感じられる。
また、卵とじカツ丼以外のカツ丼を商っている店の場合、卵とじカツ丼ともう一種類というようなかたちで、複数種のカツ丼を併売していることも珍しくない。
[編集] ソースカツ丼
「丼+カツ」というカツ丼のルーツ・元祖となるのが、このソースカツ丼である。
丼飯の上に、ウスターソースをベースにトマトケチャップ・酒などを加えたソースをかけた豚カツをのせたもの。ソースにとんかつをくぐらせてから丼飯の上におく場合もある。また、駒ヶ根市や会津若松市では丼飯の上に千切りのキャベツを敷くが、福井市では敷かないなど地域による違いもある。
起源については諸説ある。しかしながら大正年間に東京は早稲田大学向かいの鶴巻町にあった洋食店『ヨーロッパ軒』(1913年開店)の初代・高畠増太郎が、1913年に東京の料理発表会で披露し、1917年頃には東京・早稲田の店で提供していた。これが記録されている最古の情報となり、現時点では1913年の東京・早稲田のヨーロッパ軒(高畠増太郎)がカツ丼の起源と推定される。また、1921年(1922年説もあり)に早稲田高等学院生の中西敬二郎らがソースかつ丼を考案し周辺の店に広まった、との説が根強いが前述の史実と齟齬を生むことになり、肯定し難い説である。また、群馬県前橋市のソースかつ丼の元祖とされる「西洋亭」の店舗は1915年創業(カツ丼の提供開始とは必ずしも一致しない)であるほか、長野県駒ヶ根市、群馬県桐生市、岩手県一関市などにも「発祥の地」と名乗る店が存在する。元来、単純な発想の料理であるためか「誕生のきっかけ」とされるエピソードが各地に複数語り継がれているのも確かである。
ソースかつ丼の普及している地域に片寄りがあり、その地域は全国的に分散点在していることから
- 東京で発表され、早稲田周辺などで広まった新しい料理・ソースかつ丼が、当時の食堂店主らの手で各地域に持ち帰られた
- 豚カツの普及に伴い、各地で自然発生的に作られ始めた
の両説、またはその混在説も推定されうる。
高畠が興した東京(1917年に横須賀に移転か?)のヨーロッパ軒は1923年9月の関東大震災により被災し、再建不能となる。これをきっかけに彼は出身地である福井県に戻り、同地にて1924年1月、ヨーロッパ軒を再開した。このことで、福井では名物料理として広まったと推測される。暖簾分けや支店の開設をした同店グループを中心に県内に広まり、現在福井県では「カツ丼」とは当たり前にソースカツ丼のこととされ、近代一般的な卵を使用したカツ丼は「卵カツ丼」「上カツ丼」と呼ばれている。このほか、駒ヶ根市、前橋市、桐生市、福島県会津若松市などの各地で、地元の名物料理として親しまれている。特に駒ヶ根市は「元祖」の主張に熱心で、駒ヶ根市は町おこしの一環として「発祥の地」と宣伝しているためテレビや雑誌に駒ヶ根名物として取り上げられることも多い。福島県会津若松市はソースカツ丼に最初にキャベツを入れた町として、店舗が伝統会津ソースカツ丼の会を結成し、町おこしをしている。
[編集] 煮込みソースカツ丼
卵とじカツ丼を割り下ではなく、ウスターソースで作ったもので、ソースカツ丼との折衷形である。福島県会津若松市の「なかじま」が元祖と言われる。
[編集] ドミカツ丼
岡山市の郷土料理。デミカツ丼とも。ドミグラスソースにくぐらせたカツを乗せる。キャベツを敷き、グリーンピースや生卵を乗せるのが特徴。ソースのベースはフォン・ド・ヴォーや中華スープ、煮干しの出汁など様々である。ラーメンと共に食べられることも多い。
東京都でも確認された事例があり、こちらは池袋の洋食店が発端となり弟子筋が広めたとのことである。なお、東京での事例は、丼飯の上に揚げたてのトンカツを置き、その上からドミグラスソースをかけるという様式であった。
大阪市ではドミカツ丼とは呼ばないが、ビーフカツ丼がドミグラスソース味である場合がある。
兵庫県の加古川市では、「かつめし」「かつライス」の名でよく似た郷土料理がある。ドミカツ丼とほぼ同じ材料をほぼ同じ方法で調理するが、丼でなくカレーライス向けの大きいお皿にのせて出される。下記の「洋風カツ丼」も参照。
[編集] タレかつ丼
醤油だれカツ丼。新潟市の料理。薄手のトンカツを醤油ベースのタレに潜らせて、そのまま丼飯の上に乗せる丼。鶏卵やキャベツも使わない天丼チックなシンプルな丼。丼飯の間にもカツを挟んだ2段重ねのものもある。新潟県外在住者からはカツの見た目からソースカツ丼と誤解されることもある。1945年に新潟市の「とんかつ太郎」初代店主が考案し広めた。漫画『ドカベン』・『クッキングパパ』にはこの店が実名で登場している。
「とんかつ太郎」は醤油だれカツ丼の専門店というわけではなく、普通のとんかつ屋さんである。メニューの中にこの独特のカツ丼も含まれているという感じだが、大半の客は、このカツ丼を注文する。尚、新潟県小千谷市に本店を置く「とんかつ太郎」というチェーン店もあるが、上述の店とは異なるので注意が必要である。
嘉門達夫が新潟でソースカツ丼を食べたという意味合いの歌を発表しているが、このタレかつ丼をそう誤解している可能性が高い。
また、北海道の訓子府町には新潟のとやや異なり、ご飯の上に海苔を敷いて揚げたてのカツを乗せ、それにタレをかけるタイプのカツ丼が存在している。このタイプは訓子府町内では非常にポピュラーで町内出身の人が町外で一般的な卵とじカツ丼を見て不思議がるほどである。こちらは訓子府駅に近い「福よし食堂」が元祖で、そこで修行して独立した料理人が町内に店を開くこともあり、「訓子府カツ丼」として町の名物の一つとなっている。
[編集] 味噌カツ丼
名古屋市の料理。八丁味噌に砂糖などの調味料を加えたタレをカツを乗せる。
[編集] 塩カツ丼
岡山市で事例が報告されている[要出典]。ソースやタレを使わず、塩味をつけたカツをそのまま丼飯に乗せて供する。
[編集] おろしカツ丼
下味以外に、味を付けない豚カツを丼飯の上に乗せ、大根おろしを乗せたもの。好みで、一味唐辛子、七味唐辛子、白醤油、濃口醤油、ポン酢、刻み海苔、刻みネギなどをかけて食べる。大阪周辺では一般的なメニューになりつつある。「別れ」(具を丼飯の上に乗せず、調理時の手鍋に入れたままの状態)で供する店も多い。冷製のものもある。
[編集] カレーかつ丼
カツ丼の上にカレーをかけたもの。カツカレーに近い。主体がカレーである店では「カツカレー丼」と呼ばれることもある。
[編集] 洋風カツ丼
- カツを載せたご飯に、ハヤシライスのソース・ケチャップ・醤油などを混ぜたもの、もしくはデミグラスソースをかけた料理。福岡県大牟田市にあった百貨店「松屋」の食堂(現在は閉店)や、新潟県長岡市周辺などで供されるものが知られている。兵庫県加古川市の「かつめし」に近い。
- 「卵とじカツ丼」が一般的でありそれを単に「カツ丼」と呼ぶエリアで、ソースカツ丼などそれ以外のカツ丼をさすときの名称。逆に「ソースカツ丼」などが一般的でありそれを単に「カツ丼」と呼ぶエリアでは、卵とじカツ丼のことを「煮カツ丼」などと呼んで区別する場合がある。
[編集] トマトカツ丼
豚カツを丼飯の上に乗せ、トマトとタマネギなどを煮た酸味のあるソースをかけたもの。
[編集] 煮カツ丼
カツ丼の山梨や新潟における呼称。醤油味、玉子とじである一般的なカツ丼によく類似する。やや煮込み時間が長く、カツの衣はとろける状態になっている。さらに山梨県、新潟県におけるカツ丼は、カツの下にキャベツがしかれたソース味のものをいう。
[編集] えびカツ丼
カツ丼のトンカツをえびカツに置き換えたもの。店によっては、えびカツではなくエビフライが載っていることもある。
[編集] とんかつパフェ
カツ丼の「台」にあたる丼飯をアイスクリームに置き換えたもの。フルーツ類がトッピングされる。
[編集] その他
個別の店には、チーズ、キムチなどを合わせるメニューがある場合もある。総称して「変わりカツ丼」と呼ぶ場合がある。また、コーフカツとegg substituteなどを用いれば、ベジタリアン仕様のカツ丼さえも可能である。
[編集] 沖縄のカツ丼
沖縄の大衆食堂に見られるもので、カツの上にモヤシやタマネギ、ピーマンなどの野菜の煮込みや野菜炒め、野菜入りあんかけをかける。濃厚な味付けに特色があり、卵でとじない例も多い。
[編集] カツ丼にまつわるエピソード
- カツ丼は戦後しばらく日本が貧しかった時代に庶民にとってはご馳走であった。その頃の刑事ドラマの取調室のシーンでは、刑務所に行ったら二度と食べられないだろうと刑事が自分の安月給から店屋物のカツ丼をとってやり被疑者に食べさせると、被疑者はその情にほだされ犯行を自供をするというシーンがあった。だが、それがモチーフとなってパロディ化され、本来は有り得ない事を特別にしたというエピソードのはずが「取調中の食事はカツ丼が出る」、「自白するとカツ丼を食べさせてもらえる」と誤解されるようになってしまった。
- 通常、留置所での食事時間が必ず取られていること、また投げつけるなどして警察官がひるんだ隙をついて逃走される可能性もある事から取調室で食事が出されることはなく、仮にあったとしてもその費用は被疑者の自己負担であり、警察官が費用負担した場合は利益誘導として裁判の際、弁護側の攻撃対象になるという恐れもある。
- ここで出される店屋物がカツ丼である根拠としては、店屋物の発注先として歴史的に最もポピュラーな店舗は蕎麦屋であり、蕎麦屋に注文可能なもので取り調べのスケジュールを阻害せず、時間が経っても伸びずに、さめても魅惑的なメニューがカツ丼であったからとする見解がある。
- 2006年9月6日、埼玉県警所沢署の警部が、取調室で被疑者にカツ丼を食べさせるなどしたとして、減給100分の10(3か月)の懲戒処分を受けた(この警部は同日に依願退職)。このカツ丼は被疑者の両親の知人が持ち込んだものだが、県警の規定では食事は留置場内で取ることとなっており、これに違反していた(ただし、上記のドラマとは異なり、被疑者が暴力団関係者だったために接見室ではなく取調室で家族と接見させるなど、今後の捜査で利用できないかと思い便宜を図ったことが重い懲戒処分に至った原因であり、単に取調室でカツ丼を食べさせたことだけが原因ではない)[1]。
- 受験生や試合に臨むスポーツ選手の「勝つ」という験担ぎのために、前日や当日にカツ丼が食べられる事がある。ただし、カツは消化に時間を要するため、食べるタイミングによっては、逆効果となる事がある。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
富良野オムカレー(富良野市) - 室蘭やきとり(室蘭市) - 青森生姜味噌おでん(青森市) - 八戸せんべい汁(八戸市) - 横手やきそば(横手市) - 上州太田焼きそば(太田市) - 行田ゼリーフライ(行田市) - 厚木シロコロ・ホルモン(厚木市) - 駒ヶ根ソースかつ丼(駒ヶ根市) - 富士宮やきそば(富士宮市) - すその水ギョーザ(裾野市) - 静岡おでん(静岡市) - たまごふわふわ(袋井市) - 浜松餃子(浜松市) - 奥美濃カレー(郡上市) - 各務原キムチ鍋(各務原市) - 若狭小浜焼き鯖寿司(小浜市) - 高砂にくてん(高砂市) - とうふちくわ(鳥取市) - 小倉発祥焼うどん(北九州市) - 久留米やきとり(久留米市)
未出場: 黒石やきそば(黒石市) - 神代カレー(仙北市) - 三崎まぐろ拉麺(三浦市) - おつけだんご(大月市) - 高岡コロッケ(高岡市) - 姫路おでん(姫路市)