養護学校
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養護学校(ようごがっこう)は、知的障害者、肢体不自由者、病弱者(身体虚弱者を含む。)に対する教育を行う特別支援学校の校名の一形態である。2007年4月1日より前は、これらの障害等をもつ人に対する教育を行う学校は、制度として「養護学校」の名称が使われていたので、しばしば見かけられる校名である。
日本では、2007年施行の学校教育法改正により、盲学校、聾学校とともに、学校種が「特別支援学校」に統一されたが、「特別支援学校」と校名を変更した盲学校・聾学校・養護学校は、既存の学校で916校中182校、2007年度に新設された学校で11校中3校にとどまっており、公立の養護学校の校名変更は設置自治体の判断で分かれている[1][2]。
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[編集] 概要
養護学校には、幼稚部、小学部、中学部、高等部(高等養護学校)、「高等部の専攻科」があり、入学資格(学齢など)はそれぞれ幼稚園、小学校、中学校、高等学校、「高等学校の専攻科」に準じている。
養護学校は多様な人々を対象としており、法的には「知的障害者を教育する養護学校」「肢体不自由者を教育する養護学校」「病弱者を教育する養護学校」の3つの類型が設けられている(詳しくは後述)。さらに、各養護学校の学級には、単一の障害を有する幼児児童生徒で構成される「一般学級」と、複数の障害を有する幼児児童生徒で構成される重複障害学級がある[3]。1学級の定員は15名[4]で、複数の教員が担任することが多い。また自宅からの登校が困難でなおかつ重度の障害児の為に、教員が児童・生徒の自宅へ出向く訪問学級を置いているところもある。更に短期間ながら医療的支援を必要とする場合に、そのような機能を持つ別の養護学校への一時的な転学も珍しくはない。
また自宅からの通学が困難な児童・生徒の為に寄宿舎が設けられている養護学校もある。殆どが同じ敷地内に設けられ、寄宿舎生はそこから学校へ通っている。ここでは生活指導(更衣、食事、排泄、入浴など)や自治活動(子ども会での活動や棟やグループ単位での校外体験活動など)を通じて自立を目指す教育がされている。言わば1日のうち、通学時間以外のおよそ4分の3に相当する時間、寄宿舎指導員が児童、生徒の支援にあたっている。
養護学校の高等部の入学にあたっては、一般の高校受験と同様、入学試験がなされることが多いが、簡単なものである。ただし、出願資格を「中学校特殊学級に在籍する者」、「養護学校の中学部に在籍する者」、「療育手帳所持者」に限定している場合もあり、普通学級で教育を受けてきた人の入学が困難になる場合もある。また高等学校の授業についていけず、養護学校の高等部に転学を希望するケースも稀ながらある。
養護学校の教育課程(授業の内容)について、知的障害がある幼児児童生徒に対しては、本人の状況に合わせて特別なものを実施することが学習指導要領によって認められている。例えば中学部に入ると作業学習(手芸、陶芸、農耕など)が取り入れられ、高等部に進むと年に数回、作業班毎に分かれて1日を通して実習のみの授業を行う校内実習がある。更に2年生になると生徒の障害程度によるが卒業後を見据えた就労体験、「現場実習」が始まり、学校近郊の企業、工場、障害者福祉施設の作業所などが実習受け入れ先として協力している。通常は6月頃と10月頃の年2回行われることが多い。また、肢体不自由者の養護学校では、「自立活動」という領域が設けられており、主に身体機能訓練とコミュニケーション能力の育成が図られる。また、自立活動を専門に行う教諭も配置されており、多くの学校で「自立活動部」等と呼ばれている。逆に、病弱者の養護学校では障害の程度にもよるが普通学校と同等の教育課程が組まれているクラスも編成されている。
養護学校は、普通学校と比べて、幼児・児童・生徒1人当たりに投入される税金の額が10倍程度とされている。理由としては、
- 児童・生徒1人当たりに対する教職員数が普通学校に比べかなり多くなること。[5]
- 特殊な教材、設備を用いるケースが多いこと
- 学区が広大な上、自力で通学できない児童・生徒が多く、複数台の送迎バス、及びその運転手が必要となること。
- 校舎は障害児が利用しやすく、かつ転落等の危険な事故を防ぐ配慮が必要[6]である
- 医療的ケアが必要な幼児児童生徒が多い。
など、学校運営にあたって最低限必要な経費がかさんでしまうためである。
一方で多くの地方公共団体が財政難であることから、養護学校を廃校とすることも増えてきている。しかし養護学校への入学を希望する児童・生徒の数が増えており[7]、また、入学してくる児童・生徒の障害が重度化している傾向にあり、2007年度より始まった特別支援教育により、養護学校の役割はますます大きくなることから障害児の保護者からは不安の声が上がっている。
「養護学校に大学部や青年学部、さらには年齢を延長して一般特別学部も作って欲しい」や「大学に知的障害者用の特殊学級を設置して欲しい」というような要望も聞かれることがあるが、大学部の新設は計画されていない。ただし、法制度に基づいて設けられている「高等部の専攻科」や、各学校が独自に設ける「研修科」(専攻科の修了者を対象とする課程)などの高等教育に相当する課程は存在している。
養護学校でも修学旅行など校外での宿泊を伴う行事はある。また社会体験の為の学習として主に「遊び」を起点にした校外学習も盛んである。自閉症、或いは自閉的傾向の強い生徒、てんかん発作や吸引など医療的な配慮も伴う生徒が、日常生活とは全く別の経験をすることは当然不安が強い。それゆえ普通学校以上に学校側でも生徒の不安感解消(事前学習などで予め認知させる)や緊急時への対処が重要視される。
[編集] 歴史
1979年以前において養護学校は、義務教育が行われる学校ではなく、軽度障害の人しか入学できず、重度障害、重複障害の人は就学猶予や就学免除という名の就学拒否を言い渡され、自宅や入所施設に待機していた。その後1979年に義務化され、重度・重複の人も養護学校に入学できるようになった。その反面地域の普通学校からの障害児の排除もみられた。分離教育であるとの批判は継続してみられる[8]。
そのあと、義務化により在籍生徒に重度・重複の人が多くなったため、軽度の在学生に対して十分な教育ができなくなるという事態が生じた。このため一部の都道府県では、既存の養護学校高等部から高等養護学校(こうとうようごがっこう)という高等部のみの養護学校を作って、軽度の生徒に対する職業教育の場と位置づけた。但し、障害者でない人は見つからない限り入学や編入学、転入学ができない。高等養護学校や養護学校高等部によっては原級留置がない学校もある。
[編集] 養護学校の種類
養護学校には、3つの異なった種類がある。
- 知的障害者を教育する養護学校
- 肢体不自由者を教育する養護学校
- 病弱者を教育する養護学校
- 病弱児のためのものである。慢性の呼吸器疾患、腎臓疾患及び神経疾患、悪性新生物などの疾患で、継続して医療下生活規制の必要な子どもを「病弱児」といい、これは大抵の場合それぞれの地方の国公立病院に併設または隣接し、そこに入院している子どもたちを中心としている。各都道府県に1~2校くらい設置されている。近年、長期不登校児童の受け入れをしているのも病弱者を教育する養護学校である。
- 病弱児のための養護学校が近くにないか、設置されていない場合、院内学級や訪問学級という名前で、地方の基幹病院の小児科病棟の中に、病弱児のためのクラスが設けられているが、最寄の小中学校の特殊学級として設置されているものと、知的障害・肢体不自由・病弱養護学校の分校・分教室として設置されているものがある。
養護学校という名前で一般によく知られているのは、「知的障害者を教育する養護学校」であり、各都道府県で最も多く、2桁程度の数の学校が設置されている。「肢体不自由者を教育する養護学校」は、1桁かそれよりやや多い程度の設置数である。都道府県によっては「知的障害者を教育する養護学校」と「肢体不自由者を教育する養護学校」が併設されている学校もある。
[編集] 養護学校の教員
公立の養護学校には、都道府県立と市区町村立があるが、公立の小学校・中学校の教員は市区町村立の養護学校に容易に転勤できるが、都道府県立の養護学校に転勤するには試験を受けなければならないという地域もある。また、養護学校の数が限られているため、養護学校の教員を続けようとすると必然的に異動が限られてしまうため、教員の交替が少なく、ベテランの教員が多いという見方もある。
養護学校の教員は、必ずしも養護学校教諭の免許状を持っているわけではない。教育学部の教員養成課程においては、大学在学中より特別支援教育(特殊教育)を志していない限り、積極的に特殊学校の教員免許状を取得する教育課程は編成されていない。なお近年は、都道府県の教育委員会の主導によって、養護学校教諭の免許状の授与を受けるための免許法認定講習が実施されており、養護学校教諭の免許状を保有している教員の率も上昇している。
一方、寄宿舎指導員の場合、同じ学校に籍を置く教員同様に教育公務員の身分にありながら、必ずしも教員免許が必要ではなく、基本的に高卒で40歳未満であれば採用される条件となる都道府県もある。また全ての特別支援学校に寄宿舎が併設されているわけではないので寄宿舎は勿論、寄宿舎指導員という職種すら社会的な知名度は低い。教育関係の仕事を経験していなくても採用されるケースもあり、その場合はむしろ配属後に障害児への理解などをより深める為に自己研鑽が求められる。そして中堅からベテランの領域に達してくると、数年間に渡る主任者講習を経て寄宿舎主任指導員に昇格となる。都道府県によってはその昇格と引き換えに遠隔地への異動(最短でも3年間が主流である)を余儀なくされ、これについては教職員組合が条件の撤廃を求めている都道府県もある。
[編集] 脚注・出典
- ^ 「学校教育法等の一部を改正する法律を踏まえた盲・聾・養護学校の校名変更状況調査」文部科学省。
- ^ 養護学校という名前では就職や結婚の際に不利になる場合も多いため、高等養護学校の通称校名を「○○高等学園」にするなど、一見して養護学校だと分からないように配慮している自治体もある。
- ^ 京都市は除く。
- ^ 千葉県等、定員を15名より少なくしている自治体もある。
- ^ 1学級当たりの定員が少なく、複数の教員が担任を勤めることもあるが、介助職員、送迎バスの運転手等もおり、さらに事務手続きが煩雑なため事務職員も多い。知的障害児の養護学校の場合、生徒と職員の比率は2~1.5:1程度、盲学校の場合はほぼ同数になる。普通学校(小学校)の場合、よほどの小規模校でない限り職員数の10倍は児童がいる。
- ^ 関係法令が改正され、3階以上に教室を設置することが可能となったが、校舎が2階建て以下である学校は少なくない。そのため、教室増への対応が難しくなるケースが見られる。
- ^ 1996年に盲・聾・養護学校に通う児童・生徒が約8万6千人だったのに対し、2006年には10万4千人超となっている。(毎日新聞2008年3月5日付けより)
- ^ 統合教育を参照。
[編集] 関連項目
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