原級留置
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原級留置(げんきゅうりゅうち)とは、学校に在籍している児童・生徒・学生(在学生)が、何らかの理由で進級しないで同じ学年を繰り返して履修すること。落第(らくだい)や留年(りゅうねん)に対する公式の表現で、学校長の権限によって生徒、学生に対しこうした処分をすることを原級留置処置という。原級留め置き(げんきゅうとめおき)、又は留級(りゅうきゅう)と表記される場合もある。対義語は「及第」・「通常の進級」である。
類似のケースに当たるものに、小学校就学を標準よりも遅らせる「就学猶予」、学校卒業後の上級学校への進学時に期間が空く「過年度進学」がある。
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[編集] 原級留置の例
原級留置処置になるケースには以下のような場合がある。
- 長期の病気療養(入院、加療)
- 成績不良
- 長期欠席
- 休学
- その他生徒・学生としてふさわしくない行為があった場合
- その他、本人が希望する場合。(一部の大学等では延長して在籍が認められている)
[編集] 学校制度
日本の学校制度では、飛び級経験者などの例外を除き、全ての留年経験者は通常に進級した児童・生徒・学生(就学猶予、原級留置、過年度進学などを経験しなかった人)より学齢で1歳以上高年齢であるが、高年齢の在学生には過年度進学者なども存在するため、高年齢の在学生の全てが留年経験者であるとは限らない。
幼稚園、小学校、中学校など、前期中等教育以前の学校では、下の学年を履修していなくても、所属できる最高学年(いわゆる年齢相当学年)に編入学できる。こういった、高年齢児童生徒の飛び級ができることが、学齢期(15歳以下)の学校に共通する特徴である。しかし、高等学校、高等専門学校、大学など、後期中等教育以降の学校では、年齢が高くても、以前に同等学校などで履修したことがない限り、1年生から履修しなければならない。
学校教育法などでは、諸学校の在学年齢/卒業年齢には上限は設けていないが、高等学校以上の課程において、留年できる回数の上限を設けている学校もある。日本では前期中等教育までは、就学猶予・原級留置・過年度進学などが数少ないため、外見上上限があるように見えるだけである。しかしながら、ほとんどの学齢児童が6歳から就学し、留年することなく15歳で中学校を卒業するということが常識の様になっており、学齢を過ぎた人の在学は通常の小中学校や関係機関などの現場ではほとんど想定されていない。
高等学校以上の課程における留年の場合、学校と校則によって差異はあるが、極めて厳格な校則だと「一度たりとも留年を認めず、即退学とする」場合もあり(大学院修士課程に多い)、続いて「留年は一度だけ認めるが、二度目の留年が決定した場合は、即退学とする」(二度の留年がない)場合もある。
[編集] 公的な表記
公式用語は「原級留置」であるが、「留置」という言葉は留置場を連想させるとして、「原級留め置き」などと表記する人もいる。また、「留年」は単位制である学校、例えば大学などで使われる用語であり、「原級留置」、「落第」は学年制である学校、例えば小学校・中学校・高等学校などで使われる用語である。そのため、「原級留置」は「落第」と同じ意味であるが、「留年」とはやや意味が違う、という説もある。しかし一般的には三者は同じ意味で使われる。なお、養護学校の高等部では原級留置がない(ただし、病弱児養護学校の高等部は原級留置はある)。
[編集] 生活上の現役生との相違点
原級留置者に代表される高年齢の在学生は、必ずしも一般の在学生と同様な学校生活を過ごせるわけではない。これについては、「過年度生#生活上の現役生との相違点」で詳述。
[編集] 年齢基準の統計
義務教育段階の原級留置については、公式の統計が発表されていない。しかし、国勢調査では小中学校の在学者と年齢を区分した統計を出しているので、学齢超過の小中学生の人数を知ることができる。この統計については、「過年度生#年齢基準の統計」で詳述しているが、結果のみ再掲すると、以下のようになる。
- 小学校・中学校とその同等学校に在学中の学齢超過児童生徒の総数は5万6462人よりやや多い
- 学齢超過の児童生徒は全児童生徒の0.49%よりやや多く存在する
- 学齢超過の児童生徒は全生徒の1.37%よりやや多く存在する
もっともこれは、単なる年齢基準の学齢超過者統計なので、学齢期の原級留置者の正確な数を知ることができるものではない。なお、後期中等教育以降での原級留置数は公表されている。
[編集] 学校種ごとの実態と統計
[編集] 小学校・中学校
日本の学校制度では、小学校・中学校の学年は年齢主義を取っており、就学猶予者、帰国子女など特殊な事情がある場合を除き、年齢によって所属する学年が決まる。本来は、成績不良や長期欠席、病気療養などの場合でも、校長や保護者の意思で原級留置をすることができる。以前にはこれらの事情での原級留置もある程度見られたが、現在ではあまり例がなく、一般的な公立小学校では学校判断による原級留置はほとんど見られない。保護者が望んでも年齢主義を理由に、学校または教育委員会等の関係機関から拒否されることもある。
児童の親が、積極的に留年を求めて拒否されたため、裁判に訴えた例がある。これは1993年8月30日に神戸地方裁判所で「進級は正当」との判決が下った。
その一方で、長期欠席や成績不良の小中学生を保護者や児童・生徒の意思に反して原級留置にした例もわずかながら存在する。
なお、私立中学校では成績不良による留年例はある程度見られるといわれる。
2004年9月、当時の文部科学大臣河村建夫は朝日新聞のインタビューに応じ、これまでほとんど死文化していた義務教育期での留年を、対象を広げられるように研究すると話した。
[編集] 高等学校
高等学校などの後期中等教育以降の学校では、成績不良や単位不足などの場合は原級留置の候補者となるが、クラブ活動、他の教科の成績等の学業態度を総合的に考慮し原級留置となるか否かが決められる。一部の教科に対しては単位不足ではあるが、他の教科で秀でた成績を残している場合など、才能の芽を伸ばすという意味で原級留置の対象から外されることが多い。 ただし、単位制の学校では、学年がないため、留年自体が存在しない(単位不足で卒業ができない例はある)。高等養護学校、養護学校高等部では留年がない。
[編集] 高等専門学校
高等専門学校(高専)では、大学と同様に一定の単位数以上をその学年で取得できなかった場合、留年となる。これは、一般の高等学校の修業年限に当たる1~3学年においても例外ではない。
多くの高専で、本科(準学士課程)に10年を超えて在籍することは出来ず、また同一学年には2年を超えて在籍することは出来ないため、上の学年に二度続けて進級できなかった場合には、除籍となる。高専をストレートに5年間で卒業できる者は、全国平均でおよそ3/4である。
[編集] 大学
大学では、一定の単位数以上をその学年で取得できなかった場合、留年となる。必修科目であれば1つでも未修得であれば留年の場合がある。留年した場合、当該科目を翌年に再履修する必要があるが、ごく稀に必修科目の改廃等により、翌年に履修する科目がない場合がある(特に、当該科目以外の成績が優秀で当該科目以外は単位がすべて終わっている場合等)、この場合は、1年間休学して進級を待つことになるが、留年は再履修する必要がないのにもかかわらず、留年はおかしいという意見もある。しかし、留年は成績不良に対する処分の一種であって、再履修の機会を与えることではないので、この場合であっても留年は妥当であるといえる。卒業時には必修科目であったが、翌年度に廃止された場合は、留年したと同時に卒業が内定する、この場合9月で卒業できる
ただし、それはその学年で履修しなくてはならないことになっている科目についていわれることで、1年から3年の間に選択履修すればよいといったふうに履修学年に幅が設けられているものについては当てはまらない。またこうしたルールは、必修科目、選択必修科目についていわれるもので、自由選択科目や自由科目と呼ばれるような科目については、適用されないのが一般的である。
また4年制大学であれば、8年を超えて在学することは出来ず、(1年生は5年、2年生は6年などと残りの期間を差し引いても卒業できないと判断されれば除籍となる) また同一学年には2年を超えて在学することは出来ないというルールが大方の大学にはあり、上の学年に二度続けて進級できなかった場合には、除籍となる。
回生制度(主に関西地方)を採用している場合は成績にかかわらず、1年おきに数字を増していくので入学5年目であれば5回生、6年目であれば6回生と表記されるため留年という制度はない。この場合でも8年を越えて在学することは不可能である。
[編集] 原級留置の例
[編集] 留年を経験した著名人
- 朝永振一郎(卒業) - 病弱のため京都一中にて一年留年、これにより一学年下の湯川秀樹と同学年になった。
- 小泉純一郎(卒業) - 慶應義塾大学を1年か2年留年したとの情報がある。
- 谷垣禎一 (卒業)- 東京大学を4年留年したとの情報がある。
- 田中耕一 (卒業)- 東北大学で、ドイツ語の単位を落として留年した。
- 田中康夫(卒業) - 政治家、一橋大学で卒業直前に横領事件をおこしたとして停学処分を受け留年。
- 夏目漱石 (転校)- 旧制中学校で留年したことが、「落第」という自伝に書かれてある。のちに成立学舎に進学。
- 藤田田 (卒業)- 旧制北野中学(現北野高校)進学時に小学校の校長の計らいで合格できず、他の小学校で小学6年をもう一度行き、事実上留年したことが、彼の著書に書かれている。
- 細川護煕 (転校)- 学習院中等科時代、高等科に進学できなくて留年となるも、弟の近衛忠煇と同学年になるのを避けるために栄光学園中学校に転校。
- 丸山和也 (卒業)- 弁護士、早稲田大学法学部を1年留年した事が明らかに掲載された。
- 萩野志保子 (卒業)- アナウンサー、慶應義塾大学文学部で1年留年して、ピアノ講師の資格を取得。
- 八田亜矢子(在学)- タレント、東京大学で留年しているため現在も教養学部前期課程に所属している。
- 萩原一至 (中退)- 日本の漫画家、高校1年生を3回留年した事が明らかに掲載された。
- 渡辺和洋 (卒業)- アナウンサー、成城大学在学中にフジテレビ入社試験を受けるも、失敗。また、留年も確定する。
- 中田敦彦(卒業) - お笑いタレント、芸能活動の傍ら慶應義塾大学で学業を続け、二年次と四年次に留年した。
- 内田百閒(卒業) - 東京帝国大学一年時にホームシックになり、風邪を口実に実家に帰ってしまい留年。
- 森山良子(卒業) - 歌手、成城学園高等学校を1年留年した事が明らかに掲載された。
- 福澤朗 (卒業)- フリーアナウンサー、早稲田大学を2年留年した。(早稲田ウィークリーインタビューより)
- 森尾由美(転校) - タレント、中村高等学校を2年生の時から3回留年したことが明らかに掲載された。その後明大中野高校(定時制)で卒業。
- 尾崎豊(中退) - 歌手、青山学院高等部を無期限停学処分による出席日数不足により留年したことが掲載された。
- 青柳瑞穂(卒業) - 作家、慶應義塾大学仏文予科を出席時間不足により留年したことが掲載された。
- 宇治原史規(卒業) - お笑いタレント、京都大学法学部に9年間在籍した後卒業。
- 山下智久(在学)-NEWS、必修の体育の単位などを落とし留年が決まった。
- 平野啓一郎(卒業)-小説家、京都大学法学部に5年間在籍していた。
- 松家卓弘(卒業) - 横浜ベイスターズ所属のプロ野球選手、東京大学経済学部を4年次に留年したが、その後単位を取り9月に卒業。
- 堀尾正明(卒業) - フリーアナウンサー、早稲田大学第一文学部(現文学部・文化構想学部)を2年留年した後NHK入社。
- 小林恵美(卒業) - タレント、芸能活動と並行して通っていた青山学院大学経営学部を1年留年。
- 片岡篤史(卒業) - 現野球解説者・タレント、日本ハムファイターズに入団したが、同志社大学を留年し一年目のシーズンオフに残存単位を取得し卒業。
- 勝谷誠彦(卒業) - コラムニスト・写真家、体育の単位が足りず早稲田大学を一年留年。
- 早見優(卒業) - タレント・女性歌手、浪人して入った上智大学を一年留年。
- 義家弘介(卒業) - 参議院議員、明治学院大学法学部を二年留年し卒業。
[編集] 架空
小学校・中学校における留年はあまり一般的ではないため、漫画・アニメなどのフィクションにおいてはあまり登場しないが、全くないわけではない。ただし、留年と明言されなくても留年したことがあるキャラクターもいると見るのが自然である。また、サザエさん方式のように年を取らずに同じ学年を繰り返すのは、原級留置とは区別される。
- 足立花(あだちはな)
- 吉河美希作の漫画「ヤンキー君とメガネちゃん」の主人公。中学時代に一度留年し、高校へ入学した経緯がある。
- 一堂零(いちどうれい)ほか「3年奇面組」の登場人物たち
- 新沢基栄作のギャグマンガ「3年奇面組」の登場人物。数多くのキャラクターが中学3年生時に留年し、卒業できないというシーンがある。ただし、高校受験の不合格が理由とされており、現実にはこのケースでは卒業できるためありえない(過年度生参照)。
- 海老原昌利(えびはらまさとし)
- 森田まさのり作のマンガ「ろくでなしBLUES」の登場人物。中学時代に留年を経験し、通っていた帝拳高校の教師に主人公の前田太尊以上と陰で言われる。
- 江本智恵(えもとともえ)
- 西尾維新作のミステリー戯言シリーズの登場人物。中学校時代に重病で長期入院し、出席日数不足のため留年した。
- 坂口松太郎(さかぐちまつたろう)
- のたり松太郎の主人公。中学校で3年留年した。
- 佐原秀志(さはらひでし)
- 藤たまき作のマンガ「私小説」の主人公。目の病気などのため、養護学校に入学したり留年したりしたあと、私立中原中学校に入学した時点で最低年齢よりも2歳年長。
- 橘柑子(たちばなかんこ)
- 学研の学年雑誌「学習」シリーズで90年代に連載していたマンガ(タイトル求む)の主人公。病気療養のため小学生時代に留年し、1年下の弟の橘青葉(たちばなあおば)と同級生になった。
- 藤堂加奈(とうどうかな)
- ディーオー制作のゲームソフト「加奈 ~いもうと~」の登場人物。重い腎臓病を患っており、ゲーム中のエピソードで中学校までに2年留年して卒業し高校に進学したシーンがある。
- 長山こはる(ながやまこはる)
- フジテレビアニメさくらももこ原作の「ちびまる子ちゃん」の登場人物でまる子と同じクラスだった、長山君の妹。小学校1年生。重い病気にかかって、小学校を長期欠席をし、入院をした。病気を克服し、退院した後に、もう1回、小学校1年生の留年となった。
- 宮内英二(みやうちえいじ)
- 日本テレビのスペシャルドラマ「女王の教室エピソード2~悪魔降臨~」の登場人物。心臓病で一年留年した。なお、13歳の時に小学6年生であった。
- 森村天真(もりむらてんま)
- 水野十子作のマンガ「遥かなる時空の中で」の登場人物。妹が行方不明になったため、探しに出て中学校を留年した。
- 川田章吾(かわだしょうご)
- 高見広春作の小説「バトル・ロワイアル」の登場人物。物語本編の前年に、全国の中学3年生を対象とした殺人ゲーム「プログラム」に巻き込まれており、生還したものの体中を負傷し長期入院、1年留年した。尚、この物語の舞台・大東亜共和国は日本に良く似た別の、所謂パラレルワールド的な国家であるが、学校の進級制度等は日本とほぼ同じものと考えられる。
- 柳沢真由那
- 14才の母、市ノ瀬未希のクラスメイト。作中では明言されていない理由で、中学校を1年留年している。冷酷な性格だったと考えられる。
- 毛利さやか(もうりさやか)
- 大島永遠作のマンガ「女子高生」の登場人物。中学1年生の時に、重度のアトピーが原因で、1年留年した。
- 七瀬香奈花(ななせかなか)
- 丸川トモヒロ作のマンガ「成恵の世界」の登場人物。超光速の星船(いわゆる宇宙船)での航行によるウラシマ効果のために中学1年生でありながら戸籍上は26歳となる。つまり書類の上では13~14留したことになる。
一方、高等学校以上の課程における留年の場合は、ある程度認知されているために、創作上に出てくる場合もときたま見られる。しかしながら日本社会の一部では、高等学校以下の学校では最低年齢より1歳でも年長であるとそれが特徴的なものであるため、作中でも留年したことや他の同級生より年上であることを個性として強調されている場合も多い。
- 乙姫むつみ(おとひめむつみ)
- 赤松健作のマンガ「ラブひな」の登場人物。高校生時代に病気により留年した。
- 浦島景太郎(うらしまけいたろう)
- 同じく「ラブひな」の主人公。東大の入学式当日に日本武道館の光る玉ねぎに押しつぶされて足を骨折、その療養と、考古学の師の発掘旅行に付いていくために1年留年した。
- 十条紫苑(じゅうじょうしおん)
- アニメ「乙女はお姉さまに恋してる」の登場人物。主人公、瑞穂のクラスメートであるが、病気のため1年留年している。
- 高坂聖(たかさかひじり)
- フジテレビの実話を基にしたドラマ「白線流し」の登場人物。松本白稜高校に在籍していたが、両親の離婚もあって不登校により留年した。
- 土谷瑠果(つちやるか)
- アニメ「少女革命ウテナ」のフェンシング部の部長。高校生時代に病気により留年した。
- 古河渚(ふるかわなぎさ)
- Key制作のゲームソフト「CLANNAD」の登場人物。主人公から見ると一歳年上だが、病気のため2度目の高校3年生で主人公と同級となり、2回の留年の末、20歳と3ヶ月弱で高校を卒業する。
- 伊吹風子(いぶきふうこ)
- 同じく「CLANNAD」の登場人物。交通事故による昏睡のために登場時点で2年留年していた。
- 吉川恵(よしかわけい→よしかわめぐみ)
- つだみきよ作のマンガ「革命の日」「続革命の日」の主人公。半陰陽による性別変更のため、異性としての生活の訓練と療養をかねて高校生時代に留年した。
- 春日桜子
- CUFFS製作のPCゲームGardenのサブキャラ。成績は優秀だったが、病気療養のため出席日数が足らず1留。
- 朝倉アキオ(あさくらあきお)
- 楠みちはるの漫画、「湾岸ミッドナイト」の主人公。成績が特に悪いと言う訳ではないが、日々バイト等に明け暮れほとんど学校へ行っていないため、出席日数不足により留年する。