関ヶ原 (テレビドラマ)
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『関ヶ原』(せきがはら)は司馬遼太郎の小説「関ヶ原」を原作に、TBS系にて1981年1月2日から1月4日まで3夜連続で放映された大型時代劇。
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[編集] 概要
石田三成と徳川家康を主人公に、豊臣秀吉の死から天下分け目の関ヶ原の合戦に至るまでの過程を大きなスケールで描く。
このドラマの最大の特徴は、それまで「徳川家康に無謀な戦いを挑んだ愚か者」もしくは「太閤亡き後の実権を握ろうとした奸臣」として描かれがちだった石田三成を、司馬の原作に即した「豊臣家への忠義に熱い正義の人」として主人公に据えた点にある。このドラマの放映前にもNHK大河ドラマ「黄金の日日」などのように三成を悪役として描かないドラマはあったが、これらは全て三成が脇役として描かれるのみであり、本格的に石田三成を主人公に据えて描いたのはこのドラマがはじめてである。徳川家康に関しても、単なる「陰謀家の狸オヤジ」というイメージだけではなく、関ヶ原の戦いの後に豊臣家の忠臣としての石田三成に敬意を表して涙するといった懐の大きい人物として描いている。
[編集] 物語
物語は、天正少年遣欧使節のメンバーだった原マルチノが、ローマ教皇庁に関ヶ原の合戦の顛末を書簡で知らせるという形で語られる。
[編集] 第1話「夢のまた夢」
- 1598年8月、天下人・豊臣秀吉が世を去った。秀吉の遺志を継ごうとする石田三成は、天下取りの野望に燃える徳川家康と対立を深めていく。やがて朝鮮の役に従軍していた諸将たちが帰国、武断派の筆頭であった福島正則、加藤清正らと三成と親しい小西行長らの反目も始まる。豊臣政権の崩壊をよそに家康が勢力を伸ばしていく中、福島・加藤らが石田三成の暗殺を計画。生命の危険を感じた三成は、小西行長らの反対を押し切り、徳川家康邸を訪れる。
[編集] 第2話「さらば友よ」
- 徳川家康の調停により危機を脱した石田三成だったが、奉行職を解かれ、佐和山城に引退させられてしまう。親豊臣派の大名たちを排斥して、ますます勢力を伸ばしていく家康に対し、三成と結託した会津の上杉景勝が彼の専横を責め、戦の準備を始めた。激怒した家康は諸将を集めて上杉征伐を宣言し、東国に向かった。伏見を発つ夜、三成の挙兵を確信する家康は、伏見城の留守居を託した功臣・鳥居元忠と別れの杯を酌み交わす。一方、三成の親友・大谷吉継は佐和山城に三成を訪れたが、三成から打倒家康の計画を告げられる。吉継は命を捨てる覚悟で三成の挙兵に加わった。
[編集] 第3話「男たちの祭り」
- 挙兵した石田三成の檄に答え、毛利輝元・島津義弘・長宗我部盛親・小早川秀秋らの諸将が大坂に参集した。鳥居元忠の守る伏見城を落とした西軍と小山から転進して西に向かう東軍が関ヶ原で相まみえた。1600年9月15日早朝、合戦の火蓋が切られる。石田三成、宇喜多秀家、大谷吉継らの奮闘で西軍優勢の内に戦いは進んだが、毛利・小早川・島津らの諸隊が動かない。正午、徳川軍から撃ちかけられる鉄砲を合図に、小早川隊がついに動いた。しかし小早川隊が襲ったのは味方のはずの大谷隊だった。
[編集] スタッフ
[編集] 主な配役
[編集] 東軍
- 徳川家康(東軍盟主、五大老筆頭、武蔵国江戸城主、江戸内大臣) - 森繁久彌
- 徳川秀忠(家康三男、前中納言、中山道別働隊総大将) - 中島久之
- 本多正信(家康の謀臣、中山道別働隊軍監、佐渡守、通称・弥八郎) - 三國連太郎
- 鳥居元忠(家康の重臣、伏見城の城将、通称・彦右衛門尉) - 芦田伸介
- 本多忠勝(家康の重臣、徳川四天王、通称・平八郎) - 高松英郎
- 井伊直政(家康の重臣、徳川四天王、幼名・万千代) - 井上孝雄
- 伊奈昭綱(家康の旗本、上杉家への詰問使、図書頭) - 横森久
- 佐野忠成(家康の旗本、大坂留守居役) - 伊豆肇
- 村越茂助(家康の旗本、清洲城への使者) - 藤木悠
- 源蔵(本多正信の配下、島左近を襲撃) - 浜田晃
- 福島正則(反三成派の大名、尾張国清洲城主、幼名・市松) - 丹波哲郎
- 加藤清正(反三成派の大名、肥後国熊本城主、幼名・虎之助) - 藤岡弘(現・藤岡弘、)
- 浅野幸長(反三成派の大名、甲斐国甲府城主) - 竹内のぶし
- 黒田長政(反三成派の大名、豊前国中津城主) - 菅野忠彦(現菅野菜保之)
- 加藤嘉明(反三成派の大名、伊予国松前城主) - 石橋雅史
- 池田輝政(反三成派の大名、三河国吉田城主) - 神太郎
- 細川忠興(反三成派の大名、丹後国宮津城主) - 竹脇無我
- 堀尾忠氏(遠江国浜松城主、信濃守) - 角野卓造
- 山内一豊(遠江国掛川城主、対馬守) - 千秋実
- 田中吉政(三河国岡崎城主、兵部大輔) - 溝口瞬亮
- 真田信幸(真田昌幸嫡男、伊豆守、上野国沼田城主)- 西田健
- 前田利長(前田利家嫡男、前中納言、利家死後、豊臣家大老に就任)- 長谷川哲夫
- 横山長知(前田家家老、家康への釈明使、山城守) - 横沢祐一
- 中川光重(前田家家老) - 丸山博一
- 小笠原少斎(細川家家老、大坂留守居役) - 中村竜三郎(現中村竜三朗)
[編集] 西軍
- 石田三成(五奉行、事実上の西軍盟主、近江国佐和山城主、治部少輔、幼名・佐吉) - 加藤剛(子役・中田勇)
- 島左近 (三成の重臣) - 三船敏郎
- 舞兵庫 (三成の重臣、別名・前野忠康) - 草薙幸二郎
- 八十島道与(三成の家臣) - 藤城裕士
- 石田重家(三成の嫡男、隼人正) - 中野健
- 弥一 (島左近の家来)-常田富士男
- 毛利輝元(五大老、名目上の西軍総帥、中国120万石の太守、安芸中納言) - 金田龍之介
- 宇喜多秀家(五大老、軍事面の西軍総帥、備前国岡山城主、備前中納言) - 三浦友和
- 上杉景勝(五大老、会津若松城主、会津中納言) - 三沢慎吾
- 大谷吉継(西軍首脳、三成の親友、越前国敦賀城主、刑部少輔) - 高橋幸治
- 小西行長(西軍首脳、親三成派の大名、肥後国宇土城主) - 川津祐介
- 安国寺恵瓊(西軍首脳、毛利氏の外交僧) - 神山繁
- 直江兼続(西軍首脳[在会津]、上杉景勝の重臣で石田三成の親友、山城守) - 細川俊之
- 小早川秀秋(寝返り組[松尾山]、秀吉の甥、筑前国名島城主、金吾中納言) - 国広富之
- 平岡頼勝(寝返り組[松尾山]、小早川家家老、石見守) - 久米明
- 毛利秀元(傍観組[南宮山]、輝元の養子、長府宰相) - 山下勝也
- 吉川広家(傍観組[南宮山]、毛利氏の重臣、出雲国富田城主) - 勝部演之
- 島津義弘(傍観組[北国街道]・維新入道・薩摩・大隅・日向の国主) - 大友柳太朗
- 島津豊久(傍観組[北国街道]・維新入道義弘の甥)- 高田大三
- 長束正家(五奉行、近江国水口城主) - 森塚敏
- 増田長盛(五奉行、大和国郡山城主) - 平田昭彦
- 真田昌幸(信濃国上田城主、安房守、徳川秀忠の東軍別働隊と交戦) - 玉川伊佐男
- 真田幸村(昌幸次男、大谷吉継女婿、左衛門佐)- 南条弘二
- 丹羽長重(加賀国小松城主、当初は東軍に所属、後に加賀で前田利長軍と交戦)- 矢崎滋
- 湯浅五助(大谷吉継近侍)- 寄山弘
[編集] 女性たち
- 北政所(秀吉の正室) - 杉村春子
- 淀殿 (秀吉の側室で秀頼の母) - 三田佳子(子役・佐々木美枝)
- 芳春院(俗名・阿松、前田利家の正室) - 沢村貞子
- 大蔵卿(淀殿の乳母、女官)-賀原夏子
- 孝蔵主(北政所の女官)-三崎千恵子
- 旭姫(家康の正室、秀吉の妹、駿河御前) - 三戸部スエ
- 阿茶局(家康の側室) - 京塚昌子
- お夏局(家康の側室) - 古手川祐子
- 細川ガラシャ(明智光秀の娘、俗名・珠子、細川忠興の正室で敬虔なキリシタン) - 栗原小巻
- 清原マリア(細川ガラシャの侍女) - 賀田裕子
- 茂助の妻(村越茂助の妻) - 沢田雅美
- 老婆 (美濃国の百姓) - 浦辺粂子
- 出雲阿国(女歌舞伎の頭領) - 木の実ナナ
- 初芽局 (三成の愛妾、黒田家の間者) - 松坂慶子
[編集] その他
- 豊臣秀吉(太閤) - 宇野重吉
- 豊臣秀頼(秀吉の子、中納言) - 岩瀬浩規
- 前田利家(五大老次席、加賀国金沢城主、加賀大納言) - 辰巳柳太郎
- 前田玄以(五奉行筆頭、民部卿法印、徳善院) - 庄司永建
- 浅野長政(五奉行次席、弾正少弼、甲斐国甲府城主) - 稲葉義男
- 原マルチノ(天正少年遣欧使節の一員でカトリック司祭) - 田中健
- 名古屋山三郎(蒲生家浪人で槍の名手、出雲阿国の情夫)-三浦洋一
- 国友寿斎(近江国友鉄砲鍛冶の頭領) - 笠智衆
- 北庵法印(島左近の舅) - 大滝秀治
- 日野屋主人(近江水口宿の旅籠) - 藤原釜足
- 善説 (近江古橋村・三珠院住職) - 下元勉
- 与次郎太夫(近江古橋村の名主) - 今福将雄
- ナレーター - 石坂浩二
[編集] 評価
TBSの開局30周年を記念して局として全力をあげて制作したドラマであったが、放映時の視聴率は最高18.4%と決していいものではなかった。しかし、主演の石田三成役の加藤剛、徳川家康役の森繁久彌をはじめ、「奇跡のキャスティング」と呼ばれる超豪華キャストが多数参加しているうえに、司馬の原作を違和感なく再現してみせたドラマであることから、時代劇のファンを中心に評価が高い。
また、石田三成を「忠臣」として描いたドラマである事から、それまで「悪役」とされがちだった石田三成の再評価にもつながるとの声もある。余談だが石田三成を演じた加藤剛が著書「こんな美しい夜明け」(岩波書店)の中で、このドラマと石田三成への愛着を語っている。
しかし、このように総合的評価は高い一方で、以下のような批判もある。
- 松坂慶子演じる石田三成の愛人役(側室ではない)初芽の存在がストーリー上絶対に必要であるとは思われないこと。なお実際の三成には正室がいたが、このドラマでは三成の息子・隼人正が2歳の時死亡した設定となっており、劇中には登場しない。
- 原作では重要な役どころだった黒田如水や藤堂高虎が登場しないこと。
- 合戦シーンが今ひとつ迫力が感じられないこと。ただし本作の関ヶ原の合戦でのエキストラは3500人を動員しており、これは葵徳川三代の関ヶ原合戦のエキストラ500人を大きく上回っている。
[編集] 備考
- 島左近役の三船敏郎のほか、山内一豊役の千秋実、浅野長政役の稲葉義男、旅籠日野屋主人役の藤原釜足ら、映画「七人の侍」の主要キャストが数多く登場している。
- 現在はレンタルビデオでの視聴が可能であり、原作者司馬遼太郎と主演の加藤剛、森繁久彌の対談シーンが収録されたDVDも発売されている。TBSチャンネルでもたびたび再放送が行われている。
- 本作放送直前に、島左近を演じた三船敏郎が同じTBSの人気番組「8時だョ!全員集合」に番宣の意味から戦国武将の出で立ちで出演した。三船はこの出演の際に、当時流行していたヒゲダンスまで披露し、話題を呼んだ。また小早川秀秋を演じた国広富之も「クイズダービー」に出演し、収録時のエピソードなどを語っている。
- 1981年(昭和56年)1月1日(木曜日)付の毎日新聞に掲載された番組の特集記事には、『データ関ヶ原』と題して、
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- 『制作費/予算5億5千万円。大幅にアシが出た』
- 『出演俳優/セリフのある人だけで118人』
- 『出演エキストラ/実数で3500人』
- 『参加スタッフ/120人』
- 『収録/スタジオで29日。ロケ35日。ロケ地は福島県相馬ヶ原、彦根、伏見、関ヶ原、富士五湖など20ヶ所』
- 『台本印刷費/400万円』
- 『関係者弁当代/570万円。約1万個の計算』
- 『出演の馬/400頭』
- 『合戦シーンのノボリ/300本』
- 『同陣屋のクイ/450本』
- 『使ったVTR/70時間分』
- 『けいこ開始/昨年8月15日』
- 『三本目の完成/1月2日』
などの記述があり、ギリギリまで編集作業が行われていた事がわかる。また、同記事では、第三話のタイトルが『裏切り風景』となっている。(実際の第三話のタイトルは『男たちの祭り』)
- 放映当時の番組宣伝コピー
『“空前”とはこの大作にこそふさわしい “絶後”とはこの合戦をおいて無い』