青年海外協力隊
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青年海外協力隊(せいねんかいがいきょうりょくたい、英:Japan Overseas Cooperation Volunteers 通称:JOCV)とは、日本国政府が行う政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)の一環として、外務省所管の独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する海外ボランティア派遣制度である。青年海外協力隊の募集年齢は20~39歳。募集分野には農林水産、教育、保健衛生などがあり、さらに120以上もの職種に分かれている。また派遣国は約80ヶ国で、これまでに約30,000名の隊員が派遣されている。
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[編集] 概要
募集資格は、日本国籍を持つ20~39歳までの、心身ともに健康な者。募集時期は、年二回:4~5月の春募集と10~11月の秋募集がある。
[編集] 派遣取極国
(相手国の治安状況により、派遣を見合わせている国を含む可能性があります。)
- アフリカ地域
- ベナン ボツワナ ブルンジ ジブチ エチオピア ガボン ガーナ コートジボワール ケニア リベリア マダガスカル マラウイ モザンビーク ナミビア ニジェール ルワンダ セネガル 南アフリカ共和国 タンザニア ウガンダ ブルキナファソ ザンビア ジンバブエ など
- 中南米地域
- アルゼンチン ベリーズ ボリビア チリ コロンビア コスタリカ ドミニカ ドミニカ共和国 エクアドル エルサルバドル グアテマラ ホンジュラス ジャマイカ メキシコ ニカラグア パナマ パラグアイ ペルー セントルシア セントビンセント ウルグアイ ベネズエラ など
[編集] 職種
募集期によって職種や要請内容は変化する。
- 農林水産部門
- 食用作物・稲作 花き 野菜 果樹 組織培養 病虫害 土壌肥料 農業土木 農業機械 家畜飼育 養蜂 獣医師 飼料作物 村落開発普及員 食品加工 農畜産物加工 乳製品加工 生態調査 植林 漁業生産 養殖 水産資源管理
- 加工部門
- 陶磁器 竹工芸 木工 皮革工芸 板金 自動車板金 溶接 塗装 小型造船
- 保守操作部門
- 工作機械 冷凍機器・空調 医療機器 電気機器 電気設備 電子機器 無線通信機 AV機器 電話線路 放送技術設備 建設機械 自動車整備
- 土木建築部門
- 土木 測量 都市計画 建築
- 保健衛生部門
- 医師 歯科医師 薬剤師 看護師 助産師 保健師 言語聴覚士 臨床検査技師 診療放射線技師 作業療法士 理学療法士 歯科衛生士 歯科技工士 ソーシャルワーカー 保育士 養護 義肢装具士・製作者 鍼灸マッサージ師 栄養士 公衆衛生 水質検査 感染症対策 エイズ対策 衛生工学
- 教育文化部門
- 経済・市場調査 統計 地下水開発 社会学・文化人類学 考古学 司書 コンピュータ技術 青少年活動 文化財保護 プログラムオフィサー 環境教育 観光業 視聴覚教育 美容師 家政 手工芸 料理 婦人子供服 縫製 音楽 PCインストラクター バレエ 美術 デザイン 行政サービス 日本語教師 理数科教師 小学校教諭 幼稚園教諭 数学教師
- スポーツ部門
- 体育 陸上競技 体操競技 新体操 水泳 テニス 卓球 バドミントン バレーボール バスケットボール ソフトボール 野球 ハンドボール サッカー 柔道 空手道 合気道 剣道 相撲
[編集] 採用試験
平成18年度秋募集より一次試験及び二次試験の内容が以下の通り、大幅に変更となった。
[編集] 一次試験
- 技術試験
書類審査 JICAホームページ上に掲載される職種ごとの試験を所定の用紙に解答する。
- 健康診断
書類審査
- 注意
青年海外協力隊の職種‘日本語教師’を受験する場合、上記技術試験ではなくJICAホームページ上で行われる‘Web試験’を受験することになる。開催日時はJICAホームページで確認のこと。
[編集] 二次試験
- 語学試験
科目は英語。但し、免除申請者及び対象者を除く。
- 個人面接
職種によって実技試験や作品の提出がある。
- 健康診断
問診、歯科検診
一次試験の際に行う健康診断(血液検査を含む)は、自己負担。しかし、一次試験合格後に再診の指示がJICAからあった場合、その検診の費用はJICAが負担することとなる。 技術的に合格基準を満たした者でも不採用となる場合がある。これは、各国からの要請内容と候補者の希望や履歴等を比較する「マッチング」に際し、要請国の文化や要請内容等に合わないと判断されたためである。そのため、不合格となった場合でも再度の受験により合格にいたるケースも多くある。また、技術レベルの高いものが不合格となったり、低い人が合格となったりする場合もある。また健康診断について、判定基準は厳しいものとなっている。日本では健康でも、開発途上国の環境下では問題となる場合があるためである。開発途上国により医療水準も異なり、派遣国により健康診断派遣基準は異なるものと思われる。
二次試験の選考結果には「合格」「不合格」の他に「登録」がある。前述の“マッチングに漏れて不採用となった者”の一部は「登録」となる。登録者は、合格者の辞退などにより欠員が生じた場合や開発途上国から募集期間外に要請が寄せれられた場合などに、合格に繰り上がることがある。また、次回受験時に一次選考が免除となる場合もある。
[編集] 現職派遣制度
企業あるいは自治体に在籍したまま協力隊参加ができる「現職派遣制度」がある。一般企業に勤めている場合、事前(受験前)に会社の了解を得る必要があり、これを怠ると合格したにもかかわらず派遣辞退になったり、退社をしなければ派遣を認めないなどの問題が発生する可能性がある。公務員の場合、さらに各自治体が「現職派遣制度」を条例に定めている必要がある。派遣中の給与については、約8割を上限としてJICAが補填する。
[編集] 派遣前訓練
試験に合格すると福島県二本松市の「二本松訓練所」と長野県駒ヶ根市の「駒ヶ根訓練所」で、約70日の訓練に入る。訓練所は派遣国によって分かれる。
- 事業所を退職して参加する場合、雇用保険上はこの訓練初日から起算して受給期間延長が可能である。
訓練生には個室が与えられる。
基本的な訓練内容は、早朝がランニングなどの体力づくり、午前が語学訓練、午後が任国事情・緊急時の対応等の講義が行われる。また黄熱病やポリオ等の予防接種なども受けられる。
訓練中の食費、宿泊費等はかからない。研修資金として月50000円が支給される。訓練中の外出は月〜土曜日の夕方と日曜日が可能となっているが外泊は土〜日曜日以外には認められない。
派遣は19年度より、1次隊(6月末ごろ派遣)、2次隊(9月末ごろ派遣)、3次隊(12月末か1月初旬ごろ派遣)4次隊(3月末ごろ派遣)に分かれている。 2007年度より4次隊がある。
[編集] 派遣後
原則として派遣期間は2年間で、任期延長可能なのは1年間。生活費、医療費、渡航費などは支給される。支給される生活費は派遣国の物価などを考慮された必要最低限の金額であり、状況によって異なる。家族等の同伴はできないため、単身赴任となる。
[編集] 任期終了後
休職参加・休学参加の場合、帰国後すぐに元の職場・大学等に戻ることになる。
新卒参加の場合や、退職参加の場合には、任期終了後にJICAから進路相談などを通じた支援があるが、一般企業が青年海外協力隊員経験を評価することはあまりないので、希望に添える就職を紹介されることは多くない。
開発途上国での生活は、参加者の価値観・人生観を変えることが多く、日本の一般のサラリーマン社会に適応できなくなる人も少なくはないが、逆にその新たな価値観・人生観を元に国際企業・国際団体やなどで活躍する者も多くある。
従って、再就職先の保証がない人が隊員になるにあたっては、自分の人生を自分で切り開く覚悟、心構えが必要である。
大学・大学院へ進学する者も少なくない。
また、最近は自治体の採用試験や大学院等で協力隊枠が設けられる事例も増えている。
調整員や専門家、ジュニア専門家など、JICAの契約職員として働く帰国隊員も多い。
[編集] 関連ボランティア
JICAボランティアには青年海外協力隊のほか、中南米の日系人社会を対象とした日系社会青年ボランティア(20~39歳)、40~69歳までを応募対象としたシニア海外ボランティア、日系社会シニア・ボランティアがある。また、派遣期間が一年未満とする短期派遣ボランティアが新たに設けられた。青年海外協力隊、シニア海外ボランティアの二種類があり、それぞれがボランティア経験のある者と経験の無い者を対象にした要請に分けられている。処遇等はそれぞれ青年海外協力隊、シニア海外ボランティアに準じており、異なるのは訓練期間が短いということと、語学はそのレベルを証明する書類が必要(例:英語の場合はTOEIC,TOEFLの点数、英検、国連英検など)となる。また応募期間は年6回設けられており、その要請数は少ない。
また、JICAボランティア経験者は、国連ボランティア(国際連合ボランティア計画)選考の際、特別枠があるため若干有利となる。
[編集] 派遣に関する問題点
活動の問題
本来、相手国の発案する要請を受けて実施するボランティア事業であり、隊員個人の主体的な人的貢献が目的だが、その活動形態は様々であり、現地におけるJICA本体の援助事業の一環として協力隊員が派遣されることもある。その場合、配属先である現地政府機関での責任者やJICAの現場の責任者、JICA本部側の責任者などの意見の違いなどにより、現場にいる協力隊員はその調整が大変だとの声もある。 また、開発途上国特有の受け入れ体制の不備、派遣要請から派遣されるまでの時間差や、引き継ぎの問題により、十分な仕事ができず、不満を抱いたり、任期短縮して帰国する隊員もいる。そのため、「青年海外協力隊員を目指す者には、様々な事態に対応する柔軟性に関する能力が必要」との声が大きい。
国内の問題
派遣を行う際には日本国内から知識、技能を持った人員などが抜け、派遣する者が在籍していた企業・組織において欠員が生じるため、多くの企業側が協力隊参加に積極的な姿勢を持てないでいる。 しかし、協力隊員の帰国後に、日本の地域で留学生を受け入れや国際協力ボランティアを実施したり、帰国後も派遣国とのつながりを持つなど、派遣終了後の国際交流への貢献は非常に大きいと思われ、日本国内での協力隊への理解が進むのが期待される。
[編集] 協力隊に関する書籍等
- 「青年海外協力隊の虚像」石橋慶子著 (健友館、ISBN 4773703822)
- 「青年海外協力隊の正体」吉岡逸夫著 (三省堂、ISBN 438535829x)