デュアル・モード・ビークル
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デュアル・モード・ビークル(Dual Mode Vehicle , DMV)とは、
- 列車が走るための軌道と自動車が走るための道路の双方を走ることが出来る車両のこと。
- 欧米では、2つの異なるエネルギー源を使い分けて走行する車両を指す場合もある(Dual-mode vehicle参照)。例えば、架線からの電力と内燃機関のいずれかからエネルギーを得て、動力を切り替えて走行する車両がある。
ここでは前者について記す。
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[編集] 概要
日本においては、利用の少ない路線のコストを削減するために北海道旅客鉄道(JR北海道)が日本除雪機製作所と共同開発している。同じコンセプトの車両はイギリス(シルバーティップ・デザイン社、ランカスター大学、ノーザンブリア大学などの共同開発)など数ヶ国で研究されているが、ここではJR北海道のものについて述べる。
外見や基本的な構造はほとんど普通のバスと同じである。気動車と同じくディーゼルエンジンを動力源として走行し、ゴムタイヤと金属車輪の2つを持つ。
道路走行時は金属車輪を持ち上げてゴムタイヤのみを路面に接する。
線路上を走行する際は、前輪ゴムタイヤの前部に格納された金属車輪(前部ガイド輪)をレール上に降ろして案内用とし、前輪ゴムタイヤを持ち上げて浮かせる。一方、後輪ゴムタイヤ後部の金属車輪(後部ガイド輪)をレール上に降ろして案内用とするが、後輪ゴムタイヤも駆動輪としてレール上面に接する。動力を後輪のゴムタイヤから直接レールに伝えることで軌道上を走行する。後輪ゴムタイヤは駆動軸上に左右それぞれ2本ずつ取り付けられており、内側のタイヤのみレールに接する。
道路走行から軌道走行に切り替える時は、車体をうまく線路上に誘導するため、地表に設置された専用のポインター(走行モード切り替え装置、モードインターチェンジ)が必要となる。この装置によってスムーズな切り替え作業が可能となり、約10秒間という短時間で走行モードを切り替えることができる。走行モード切り替え装置は左右のレールの外側に設置された2本のガイドウェイで構成される。車体前部と後部のガイドローラーをガイドウェイに沿わせて車体を前進させることで、車体をレール中心上に誘導する。但し、ガイドウェイとガイドローラーのみでは車体を完全にレール中心にセットすることが困難なため、この装置付近のみレールの幅(軌間)が約70mm広くなっている。これに伴い、車体側の金属車輪の踏面の幅も広めになっている。
前史ともいうべきアンヒビアン・バスでは、この走行モード切り替えに多大の手間を要したことから実用化が断念された経緯(後述)があり、この点には特に注意が払われている。1車両当たりの定員が少ないが、車両同士を連結可能として総括制御が可能なシステムとされ、輸送単位の小ささを補う。運行管理にはGPSが用いられる。最小限の設備投資で路線を拡張できるとして、地方ローカル線や路面電車への導入が各地で検討されている。
乗り心地は、道路上走行時はバスと同じで、レール上走行時もやはり列車と同じである。レール上走行時は、列車特有の「ガタンゴトン」という音がするが、外見そのものがバスとそっくりなため、その様子はバスが線路の上を走っているように見える。
[編集] 車両試作および走行試験
発案者であり開発指揮を担当したJR北海道の現・副社長柿沼博彦は、本車両製作のきっかけを「2002年に幼稚園の送迎バスをみて、わずかな改造でそのまま線路上に乗せられるのではと考えた」と語る。詳細は外部リンクのインタビューを参照のこと。
2004年(平成16年)にマイクロバス(日産・シビリアン)を改造した定員34名の試作車(サラマンダー901)が完成し、日高本線で走行試験が行われた。翌2005年(平成17年)には2両を背中合わせに連結できる新型の試作車(911・912)が製造され、同年10月3日に石北本線北見駅~西女満別駅~女満別空港間で実用化を前提とした走行試験が行われた。
2006年11月より、静岡県富士市がJR北海道より車両を借り入れ、岳南鉄道線でテスト走行を行っている。これは富士市制40周年記念事業でなされるものである。先に24日から26日までの3日間の夜間に走行試験が行われた。続いて2007年(平成19年)1月14日と21日にデモンストレーション走行が行われ、岳南原田駅にモードインターチェンジが作られ、市場踏切との間で片道鉄道・片道道路の往復運転が行われた[1]。
[編集] 試験的営業運行
2007年4月14日から同11月11日まで、釧網本線浜小清水駅~藻琴駅間で試験的営業運行が行われた。運転日は土曜・日曜・祝日・長期休暇期間のみ。旅行商品という形のため、乗車には事前に申し込みが必要であった。なお、DMV車両は鉄道車両としての車籍を有していなかったが、試験的営業運行を実施するために2007年3月15日付で車籍を与えられ、釧路運輸車両所に配置された。
試験的営業運行初日は、小雪のちらつくあいにくの天候だったが、初便は満席の12人の乗客を乗せ往路は鉄道線路、復路は並行する国道244号線を走行した。藻琴駅では「あっという間に」道路に降りてバスに変身した。2007年7月からは藻琴湖や濤沸湖を周遊するコースに変更された。定員の増加や運行システムの改善など今後の課題が残る。
2007年10月21日午後0時20分頃、浜小清水駅構内で試験的営業車両が軌道へ乗り入れて走り出した直後に脱線事故を起こしたが、乗員乗客に怪我人は出なかった。走行モード切り替えのための停止位置を示す標識がずれていたのが原因とされ、標識を正しい位置へ立て直した後に10月27日から試験的営業を再開した。
[編集] 前史 - アンヒビアン・バス
1962年(昭和37年)、日本国有鉄道(国鉄)は赤字ローカル線活性化の切り札として、鉄軌道と道路の両方を走行することのできるバスの開発に着手した。これがアンヒビアン・バスである。アンヒビアン (amphibian) とは英語で両生類を意味する。
開発にあたっては、軌道走行用の車輪を車体に内蔵する方式と、別途用意された台車にバスの車体を装架する方式とが考えられたが、前者の方式では、構造が複雑になる上、内蔵する台車の重量が嵩み、特に道路走行時に自重の半分にも及ぶ死重を抱えることになることから、台車の着脱を行う後者の方式が選択された。
国鉄では、三菱日本重工業(→三菱重工業→三菱自動車工業→三菱ふそうトラック・バス)製R-480形のシャーシを用いて試作車を製造し、043形と命名した。同車は、6月に鉄道開業90周年を記念して開催された「伸びゆく鉄道科学大博覧会」に出品された。
しかしながら、この043形は軌道に乗せるために専用のジャッキを必要とし、変速機からのプロペラシャフトやブレーキ配管の接続を必要とするなど、軌道走行モードと道路走行モードの転換に多大の手間と時間を要したため、結局実用化されることはなかった。[2]
[編集] DMVのメリット・デメリット
[編集] メリット
- 線路上に土砂崩れや落石などの障害が発生した場合や、線路の定期的な保守作業が必要な場合なども、近くに道路さえあれば運休することなく迂回して目的地に向かうことが可能である。これがDMV最大のメリットといえる。
- 同様に近くに道路があれば、線路が単線であっても片方の車両を迂回させることで交換設備がなくても交換が可能である(ただし閉塞区間を設ける必要がある)。
- バス側から見ると、道路を経由するバスを線路に迂回させることによって、高速運転が可能な他、渋滞に巻き込まれるのを防ぐことができる。
- DMVは、気動車などの普通の列車と比べて車体が小さく、重量が軽いため、メンテナンス代、燃料費、維持費が抑えられる。
- 道路の上を走る区間については線路のメンテナンス、維持費が不要である。また新たな線路を建設することなく路線を拡張できる。
- 「複数のバス路線を走行するバスを特定の駅で連結し、以後は1つの列車として運行する」「特定の駅で列車の切り離しを行い、道路において複数のルートを設けて客を降ろす」等の運用で、需要に合わせたサービスの提供や、集客の効率化及び人件費の節約が可能になる。
- 運転方法はバスと全く同じだが、線路上を走行時のみハンドル操作が不要になる。
[編集] デメリット
- 同程度の大きさのバスと比べ、価格が高い。
- 道路上も走ることがあるため、渋滞などの交通状況に左右され易い。
- 道路から線路上に移る時には、専用のポインタが必要になる。
- 列車と比べてエネルギー効率が悪い。またバスと比べても道路走行定員1人当りではエネルギー効率は良いとは言えない。道路走行時は車輪が、レール走行時はタイヤが、それぞれデッドウエイトとなるからである。
- 鉄道車両に比べて馬力が小さい。
- 車体構造の違いによる耐衝撃性の低下。踏切事故や衝突事故での衝撃は従来車両以上と推測される。
- 鉄道車両と自動車の2つの規制を受けるために、安全対策やシステム構築に無駄ができる可能性がある。
- DMV1台を旅客運行するためには、鉄道上を走るための動力車操縦者免許を持つ者と、道路で旅客を運ぶのに必要な大型第二種運転免許を持つ者の計2名、もしくは両方の免許を持つ者1名が最低でも必要であり、人件費や人材確保の面で問題がある。
- 鉄道車両としての法定検査と自動車としての車検を二重に受ける必要がある。
また、試作車の場合はマイクロバスを改造したものであるために以下のような問題がある。今後製作されるであろう実用車両でこれらの問題点を解消できるかどうかは不明。
- 乗降口が鉄道車両や路線バスの基準で必要とされる幅が確保されていない。このため試験運転では貸し切りバスの線路乗り入れと言う形を取っており、鉄道線での乗降や路線バスとしての使用が出来ない。乗降口の拡幅は構造上難しく、また今後製造されるマイクロバスも路線バスとしての使用は予想されていない、路線バスに使われる一般の小型バスはエンジンを後部に置く関係上、DMVに改造できない。このため、DMVのベースとなる車両がない。
- ベースとなったマイクロバス自体の定員数が1両あたり28人しかなく、車両改造に伴う重量増加を補うために、バス(道路走行)モードで17人と定員が更に減らされており、一般の鉄道車両ほどの大量輸送に向いていない。2両連結は技術的には可能で、安全性実験は行い実証済みだが国土交通省の通達で認められていない。
- 一般の鉄道車両と乗降口の高さが違い、既存ホームの改造または専用ホームの新設が必要になる。さらにドアも片方だけなので乗降所1ヶ所につき2つホームを設置する必要がある。
[編集] 解決課題と法的整備
[編集] 解決課題
- 北海道の厳冬期における安定運行の確保。2005年11月14日午後11時半ごろ、札沼線での試運転中に月形町の石狩月形駅~豊ヶ岡駅間の踏切で積もった雪に乗り上げて脱線し、12時間以上立ち往生したことがある。これは、DMVが一般の列車と比べて軽いことが原因とされる。JR北海道の鉄道車両には、長時間の立ち往生に備えてトイレの装備があるが、現在のDMVには無い。この設置をどうするかも課題である。
[編集] 法的整備
- 2007年の通常国会において、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律案が成立した。この法律では、同一の車両(など)を用いて鉄道事業法による鉄道事業(など)と一般乗合旅客自動車運送事業の両方の運送サービスを提供する場合を「新地域旅客運送事業」として、DMVや水陸両用車につき、運賃・料金・各種認可届出などの整備を行おうとするものである。この法律によりDMVの法的位置付けがなされた。[3]
[編集] DMVの導入を計画又は検討中の都市・事業者所在地
- 日本
- スロバキア ジリナ県(スロバキア国有鉄道)
[編集] その他
- 地方紙の特集に掲載、実用化前にも関わらず漫画『D-LIVE!!』の一エピソードとして登場、DMVのチョロQが発売される等、反響も大きい。
- DVD 「夢の乗り物!デュアル・モード・ビークル」製作:HBC北海道放送、販売:SMD ドキュメンタリーDMV開発物語(41分)/完録DMV-メカニズムと“密着”映像(30分)ほか
[編集] 脚注
- ^ 道路も線路も走るDMV 富士で来月テストJR北海道と24日に覚書 (静岡新聞 2006年10月21日付朝刊)
DMV デモンストレーション実施計画
http://www.city.fuji.shizuoka.jp/cityhall/soumu-b/kouhou/dmv/dmv_photo.htm - ^ ホビダス・オフィシャルブログ内「消えた車輌写真館」
- ^ 参議院 議案審議情報
- ^ 一部廃止方針の島原鉄道にDMV導入、市長が提案へ
- ^ JR西日本グループ中期経営計画2008-2012
[編集] 関連項目
- ガイドウェイバス
- ゴムタイヤトラム
- ライトレール(LRT)
- ミシュリーヌ
- 案内軌条式鉄道
- 新交通システム
- トロリーバス
- 連節バス
- 路面電車
- IMTS
- 軌陸車
- 特種用途自動車
- 日産・シビリアン
- JR北海道の在来線車両 (■国鉄引継車を含む全一覧 / ■カテゴリ) ■Template ■ノート
[編集] 外部リンク
- JR北海道公式ページ
- デュアル・モード・ビークル Dual Mode Vehicle (DMV)~JR北海道 ※PDF文書ファイル
- 朝日新書「線路にバスを走らせろ『北の車両屋』奮闘記」
- JR北海道 「デュアル・モード・ビークル」~railfan.ne.jp
- 女満別空港アクセスへのDMV(デュアル・モード・ビークル)走行実験を活用したオホーツク圏公共交通活性化プロジェクト
- DMVの産みの親 柿沼副社長インタビュー(イノベーティブワン)
- 変形する電車? バス? 「DMV」に大接近!(動画あり)~ascii.jp
- Brain News Network
- asahi.com
- 線路・道路両用車 DMVの挑戦
- DMV実用化への道
- デュアルモードヴィークル (DMV)で紋別直通を!
- DMV登場
- 富士市公共交通網整備に関する基本指針(案)※PDF文書ファイル
- 房総横断鉄道活性化プログラム推進委員会について
- Dual Mode Bus(英語)
- Dual Mode Transit(英語)