バス (交通機関)
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バス(英:bus)は、大量の旅客輸送を目的とする自動車。前後に長い形状の車両が一般的であり、車両の内部には多くの座席を備えている。乗合自動車とも呼ばれ、公共交通機関としても利用される。現代のバスはゴムタイヤで走行する自動車がよく使用されており、室内の前後を結ぶ通路を備えることによって円滑な乗降やバスの内部での移動が実現されている。
※車両そのものの分類、構造、技術などに関しては日本のバス車両を参照。
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[編集] 歴史
バスの起源は17世紀にフランスのブレーズ・パスカルが考案した「5ソルの馬車」と呼ばれる乗合馬車である。比較的安価な運賃で利用でき、一定の経路を時刻表にしたがって運行するなど現代のバスと共通する特徴を持っていたが、十数年で廃止された。
現代まで続くバスの起源であり、かつ「バス」の名の由来となったのは1825年にフランス・ナントで運行を開始した乗合馬車である。ナント郊外で公衆浴場を経営していた退役軍人スタニスラ・ボードリーは、ナント市の中心部と浴場の間で送迎用の馬車を運行していた。ボードリーは市民が彼の馬車を浴場へのアクセスとは無関係な移動の手段として利用していることに気づき、乗合馬車の事業化に専念することにした。
「バス」の語源は、ラテン語で、「すべての人のために」という意味のomnibus(オムニブス)から来ている。ボードリーが乗合馬車事業を始めたころ、ナント中心部のコメルス広場にはオムネ(OMNES)という帽子屋があり、「OMNES Omnibus」という看板をかかげていた。この看板が馬車乗り場の目印ともなったことから、馬車の方もオムニビュスと呼ばれるようになり、みんなのための車というvoiture omnibus という語が生まれた。
同様の交通機関はomnibusの名とともにパリ(1828年)、ロンドン(1829年)、ニューヨーク(同)など世界中に広まった。後にomnibusが英語読みで短縮されて「バス」となった。乗合馬車は前部に馬を操縦するための運転席を、後部に人員を輸送するための客室を備えていた。
なお、日本のバスに関する詳しい歴史は、日本のバスを参照にされたい。
[編集] 交通機関としてのバス
交通機関として、バスが活用されている。公共交通機関にも用いられている。
運賃を支払って乗車することも行われる。
公共交通機関として路線や運行時刻を定めて運行されるバスは路線バスと呼ばれ、特に高速道路を走行して都市間を結ぶ路線バスは高速バスとと呼ばれる。また営業車両を貸切ることもできる。路線バスとは無関係に契約に応じて定められた路線・運行予定に従い運行される営業車両は貸切バスと呼ばれる。貸切の中には長期間の契約に基づき従業員・学生等の送迎に就くものもある。また、契約上は貸切だが、路線や運行時刻を定め主に高速道路を走行して都市間を結ぶものもある。
路線バスは道路事情によって所要時間が変わるため、鉄道に比べダイヤの正確さに乏しい。そのためバスの遅延証明書は鉄道と違い発行されない場合が多い。稀には乗る予定の便が間引きされてしまうことも有る。
これらとは別に、工場や学校、幼稚園、病院、自動車教習所、ホテルなどの施設が、従業員や利用者の送迎を行うために自家用バス車両を保有していることも多い。(以下の説明は公共交通機関としての路線バスに限定する)
[編集] 乗り場
バス停から乗る。駅前ではバスプールが整備されているのでバスに乗るのがわかりやすい。
[編集] 運賃
料金を決定する仕組みは、乗車距離に比例するものや、それに関わらず一律なものの、両方を組み合わせたものなどが混在する。
運賃の支払い方式には、一般路線バスの場合、以下の方法がある。
- 車掌乗務の場合、車内で車掌に乗車区間の運賃を払う。
- ワンマン運転の場合、運転士に運賃を払う場合は、前払いと後払いがある。前払いは乗車時に、後払いは降車時に、運賃箱に現金やプリペイドカード、回数券を投入して支払う。
(バスについてはプリペイドカードへの移行が進み、回数券、特に100円や10円などを組み合わせた額面式の回数券は減少している)
- ワンマン運転で、運転士に運賃を払わない場合は、停留所あるいは車内にある券売機で切符を購入、日付を刻印する。信用乗車方式と呼ばれ、乗降時間の短縮に効果がある。なお、抜き打ちの検札があり、有効な切符を所持していない場合は高額の罰金を払う。
高速バスでは事前に乗車便の予約と乗車券の購入を行い、降車時に乗車券を運転手に渡す場合がほとんどである。
[編集] 運営主体
交通機関としてのバスの運営主体は、日本では民間企業(いわゆるバス会社)が一般的である。政令指定都市レベルの大都市などでは、公営交通として、地方自治体(交通局といった地方公営企業)が主体となる場合も少なくない。都市部のコミュニティバスや過疎地などの生活路線では、自治体などが運行を直接行なう場合もあるが、他のバス会社やタクシー会社などの民間企業に委託する間接的な場合もある。
諸外国の都市では、国や地方自治体、公企業(公社、営団など)が主体となる場合が多い。自治体側が路線網を策定し、そこに請負業者が入札して路線を運行する例も多い。[1]
[編集] 車両
※車両そのものの分類、構造、技術などに関しては日本のバス車両を参照。
バスの車両は前述の馬車によるものが19世紀末頃まで一般的であったが、自動車が発明されてからは専ら自動車が用いられることが多くなり、20世紀に入ってからは世界的に自動車によるバスが一般的となった。
本項では主に自動車によるバスの車両について解説を行うが、一概に自動車と言っても幾つかの分類がある。主な分類としてはエンジンの配置によるものや、内装、とりわけ床の構造によるもの、使用する動力によるものが挙げられる。
[編集] 動力源
内燃機関や、電力が主流。
多くは内燃機関を用い、軽油ないしはガソリンなど石油精製物を使用する場合が多い。通常は軽油を燃料としたディーゼルエンジンが使われる。
大気汚染を防ぐために、天然ガス(CNG,LNG)やエタノールなどの代替燃料を使用することが少なくない。その場合タンクを天井に設置する必要性から、強度や重心の問題から難しかったが、新しい構材の使用や天然ガス・エタノール供給施設(スタンド)の増加などにより問題が解決され、徐々に普及が広まっている。
日本では、石油燃料が統制された第二次世界大戦期および戦後の混乱期に木炭(木炭バス)や蓄電池を動力源とした例があるが、のちに石油燃料の供給が安定化したため廃れていった。大気汚染対策等の観点から、後に蓄電池を動力源としたバスが再び試用される。
道路上に張られた架線から取り入れる電気を動力とするバスはトロリーバスと呼ばれる。
[編集] エンジンの配置
エンジンの位置は、大きく分けて車両前部にあるもの、車両中央の床下にあるもの、車両後部にあるものの3種類に分類できる。
エンジンの位置は、自動車によるバスが登場してからかなりの長い間は全て車両前部にあった。これは乗合馬車の、前部に馬、後部に客室という構造に由来し、ボンネットバスとしてバスの主流であった。ボンネットバスは、運転席より前のフロントの部にエンジンを設けており、乗用車のようにボンネットにエンジンが格納されている。ボンネットを開けることでエンジンを管理できるため、保守や点検が容易であり扱いやすいだけでなく、エンジンの駆動音が客室に響きにくいため静音性が高い。しかしボンネットが前面にあることで、その部分に旅客が積載できず、多くの人員を輸送することを考えると空間的に無駄が生じていた。
バスが交通機関としての地位を獲得した頃、一部のバス路線では大量の需要が生じ、輸送力が限界となっていた。それだけでなく道路でも渋滞が起こるなど事情が悪化していたため、一台のバスでより多くの人員を輸送することが求められた。そのため前面に大きく場所を取っていたエンジンや、各駆動機関の位置を見直し、旅客空間を拡大する試みが行われた。
キャブオーバーバスはその結果開発されたバスの種類であり、乗車定員を増加させるために、ボンネットの横に運転席を設け、その後ろの車体全てを客室化したものである。これによって空間が拡大し、従来より多くの旅客を輸送できることとなった。しかしエンジンはカバーをつけて覆っただけのものであったため、客室への騒音やエンジンの放熱の面では不利であった。
そこでセンタアンダフロアエンジンバスと呼ばれる種類のバスが開発され、車体中央床下に水平式のエンジンを搭載した(この配置はミッドシップレイアウトと呼ばれる)。この種類のバスでは完全にボンネットに相当する突起が無くなったため、バスの寸法の大部分を客席にすることができた。しかし車体中央にエンジンがあるために、メンテナンス上の問題やシャシーの強度に関してやや劣る面があり、また中央部に扉を配置しにくい欠点もあった。
リアエンジンバスはエンジンを最後部に設けたものであるが、エンジンの配置の面から見ると最も登場が遅く、1950年代になってから開発された。これはリアエンジンリアドライブ(RR)駆動を採用しており、フレームレス構造の普及に合わせて普及した。
路線バス用としては、1960年代以降水平式エンジンを採用したリアアンダフロアエンジンバスが登場する。この方式はエンジン直上まで座席を設けることができるため、室内空間の拡大につながり、その後の主流となる。しかし後述する低床化のため、床下にエンジンを設けることが出来なくなり、エンジンの設置方法に様々な工夫がされるようになる。
[編集] 車体
[編集] 車体構造
1930年代まではフレーム上に車体を造る方式であったが、1950年代以降、車両の大型化により、フレームを廃して車両外板と骨格をリベットで固定し外板にも強度を負担させるモノコック構造が主流となった。この技術は航空機製造技術を応用できるため、第二次世界大戦期の航空機製造技術の向上と相まって発展していった。日本では第二次世界大戦の終戦後に航空機の開発・生産が禁止されたことで航空機技術を取り入れたバス製造技術が発展した。
その後1970年代後半からは車体骨格と外板を単に溶接のみで張り合わせ、骨格だけに強度を負担させるスケルトン構造が採用された。スケルトン構造はモノコック構造に比べて軽量であり、騒音や振動が少なく、また外板が強度を負担しないため車体外側に荷物入れや乗務員仮眠室などの大きな開口部を設けることができ、リベットがないため洗練されたスタイルの車体になるなどの数多くの利点があることから、現在ではこのスケルトン構造が主流になっている。
バスを2台分繋げてしまう連節バスも登場した。
[編集] 特殊車両
バスの車両は室内空間が大きいことから、広い空間を必要とした目的の車両に改造されるベースとなることも多い。移動献血車、移動図書館などが挙げられるが、これらは時にトラックなどをベースに改造されることもあるため、一概にバスがベースであるわけではない。詳細は各車両の記事を参照して欲しい。
[編集] 座席配置
用途により様々であるが、通常、中央の通路を挟み、その両側に一人掛けまたは2人掛けの前向き座席が配置される。車両の構造などによっては、窓を背にする横向き座席や、進行方向に向かって後ろ向きの座席が設置されている車両もある。また、居住性の改善の為に、通路を2列として、独立した3列の前向き座席の配置例も見られる。
なお、中国など国土面積が広く、なおかつ航空機利用が一般に浸透していない国では、2段~3段式の寝台を進行方向と平行に設置した寝台バスが用いられており、全行程で3~4日を要する長距離輸送に用いられている。日本の夜行高速バスでもフルリクライニングシートやスリーピングシートと呼ばれる睡眠を前提とした設計の座席の採用例はあるが、座席が完全に平坦になるわけではない。
座席収容数を大幅に増加させるため、二階建てのバスも存在する。
[編集] 床構造
もともと路面から床高さは900mm程度が標準で、ドアステップは2段~3段のものが多かった。しかし、乗合用途では乗降の改善の為に、更に床の高さを下げる努力が成された。先ずはサスペンションの高さを下げることと、扁平タイヤを採用することで2段ステップでの低床化が進む。これは最終的に1段ステップ、床高さ500mm前後のワンステップバスに改良された。さらに、エンジンおよび動力伝達機構の工夫でステップなし、床高さ300mm前後のノンステップバスが実現する。
一方、貸切用あるいは長距離路線用の車両は、乗降性を気にする必要性が薄い。このため、逆に、客席床をかさ上げすることにより、視界をよくしたハイデッカー車が多数製造された。ハイデッカーよりさらに床をかさ上げしたスーパーハイデッカーも製造されている。
また、定員を増やしたり、高所からの遊覧を楽しんだりすることを目的とする2階建て構造とした例がある。
[編集] その他の特殊なバス
- ガイドウェイバス:一般のバスの特徴に加え、専用軌道を案内装置の誘導で走る(ハンドル操作が不要)ことのできるもの。日本の法規上では、専用軌道走行時は鉄道車両として扱われる。ドイツのエッセン、オーストラリアのアデレード等が有名である。日本では2001年に名古屋ガイドウェイバス志段味線が実用路線として開業した。
- IMTS:路面に埋め込まれた磁石をガイドとして走るバス。無人で隊列走行し、マニュアル操作で一般道にも乗り入れ可能である。日本の法規では、軌道に沿って走るため、専用軌道走行時は鉄道車両として扱われる。2005年に開催された愛・地球博の会場内交通機関として使用された。
- デュアル・モード・ビークル:道路と鉄道の鉄軌道の両方を走行する機能を備えた車両。1963年に国鉄がアンヒビアンバス(アンフィビアンは英語で両生類の意)の名で試作したが、実用化はされなかった。2004年から北海道旅客鉄道(JR北海道)により実用化に向けて試験中。
- トラックバス:ボンネット付きのトラックを改造し、荷台の代わりに客室を設けたもの。製造費が安いために、東南アジア諸国では小規模輸送の主力として使われ、アメリカ合衆国では主にスクールバスに使われている。日本では一般的には使われていないが、昔のボンネットバスを模したものや在日米軍の基地内で使われていることがある。
[編集] 脚注
- ^ 日本国外で交通局と呼ばれるものは、このような交通計画の策定および各者間の調整を行うために存在しているものが一般的である。