インターシティ
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インターシティ (InterCity、略称・IC)は欧州各国の主に在来線において、その国内で都市間連絡を主たる目的として運行される優等列車である。
その性質はJRの特急列車に極めて近く、主要都市を中心として比較的長距離を専用車両を使用して各線区の最高速度で運転される。多くの国で日本の特急料金に相当する追加料金・特別料金が必要とされるが、追加料金・特別料金が必要でない国もあり、追加料金・特別料金が必要でも日本円換算では一般の運賃に500円程度を追加する程度で、JRの特急料金に比べ廉価な場合が多い。
ドイツ、スイス、オーストリア、デンマークなどで特にネットワークが発達している。これらの国では、1時間ごとあるいは2時間ごとの覚えやすいパターンダイヤを採用し、主要駅では違う系統同士が数分の待ち時間によって、同じホームの両側で乗り換えができるように配慮されているのが特徴である。
ただし国によっては、上記の国々のようなパターンダイヤや相互接続を行わず、一般に国内都市間を結ぶ長距離優等列車(特急列車に相当する列車)の種別名として「インターシティ」という言葉が使われることもある。
InterCity は元々イギリス国鉄が同様の優等列車に対して与えた呼称であったが、同国では国鉄の民営化に伴い、正式な呼称としては既に使用されていない。ちなみに、当時のドイツ国鉄のインターシティは日本の旧国鉄でエル特急のモデルとなった。
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[編集] 各国の事例
[編集] ドイツ
西ドイツ当時の1968年に、都市間を結ぶF-Zug(特急列車)の一部に対して"Intercity"の名称が付けられたのが最初である。1971年9月26日ダイヤ改正では、従来のF-Zugを再編する形で、主要都市間を当時隔で結ぶ"InterCity"のシステムが構築された。当初は1等車のみで組成され、TEE「ラインゴルト」と同等の客車、あるいはTEE用のVT601形気動車が使用された。設定当初の運転系統は以下の通りで、各系統とも2時間間隔のパターンダイヤで設定され、主要駅(ハノーファー、ケルン、ドルトムント、マンハイム、ヴュルツブルク )では、対面乗り換えによる異系統同士の接続がとられた。
- 1号線(Linie 1):ハンブルク – ブレーメン – ミュンスター – ドルトムント – エッセン – デュースブルク – デュッセルドルフ – ケルン – ボン – コブレンツ – マインツ – マンハイム – ハイデルベルク – シュトゥットガルト – ウルム – アウグスブルク – ミュンヘン
- 2号線(Linie 2):ハノーファー – ビーレフェルト – ハム – ドルトムント – ハーゲン – ヴッパータール – ケルン – ボン – コブレンツ –ヴィースバーデン – フランクフルト・アム・マイン – ヴュルツブルク – ニュルンベルク – アウグスブルク – ミュンヘン
- 3号線(Linie 3):ハンブルク – ハノーファー – ゲッティンゲン – フルダ – フランクフルト・アム・マイン – マンハイム – カールスルーエ – フライブルク – バーゼル
- 4号線(Linie 4): ブレーメン – ハノーファー – ゲッティンゲン – ベプラ – フルダ – ヴュルツブルク (– インゴルシュタット) – ミュンヘン
1977年より、103形電気機関車による、最高速度200km/h運転が開始された。
1979年5月27日ダイヤ改正では、"Intercity '79"と呼ばれる、大幅な改革が行われた。運転系統の増加により、主要線区では1時間間隔での乗車チャンスが確保されるようになったほか、1等車に加えて2等車も連結されるようになった。当時の西ドイツ国鉄は"Jede Stunde, jede Klasse"(英訳すれば"Every hour, every class"、日本語に意訳すれば「毎時発車、各等連結」)をスローガンとして「インターシティ」の広報に努めた。1980年代に入ってからも拡大は続いた。
ドイツ再統一直前の1990年夏には、東ドイツに直通する最初のインターシティ「ヨハン・セバスチャン・バッハ」号(フランクフルト・アム・マイン – ライプツィッヒ)が設定され、統一後は旧東ドイツ地域にも拡大した。1991年6月には、従来のインターシティを立て替える形でICEの運転を開始した。その後は旧インターレギオ(IR)の一部を取り込むなど、運転範囲はドイツ全土に拡大している。現在のドイツ鉄道のインターシティ網は、長距離旅客鉄道輸送の基幹列車として位置づけられているが、ICEが勢力を拡大した現在に至るまで、基本的には1979年当時の思想を受け継いでいる。
[編集] オランダ
オランダの鉄道は、国内の都市間を網の目のように結んでいるが、「インターシティ」は、これらの都市間を結ぶ速達列車としての位置づけであり、日本の私鉄の特急や、JRの新快速・特別快速に近い存在と言える。いずれの系統も30~60分間隔のパターンダイヤを組み、主要駅での異系統同士の接続や、普通列車との緩急接続なども行われている。一部の列車は、末端部で各駅に停車する場合もある。
基本的にはオランダ国内で完結するが、首都アムステルダムと、ベルギーの首都ブリュッセルを結ぶ「ベネルクストレイン」(Beneluxtrein)のような国際列車も存在する。
[編集] スペイン
スペインの鉄道事業者であるRENFEが、マドリード~アビラ~バリャドリッド~ブルゴス~ビトリア~イルン~アンダイユ(フランスとスペインの国境の町で、フランス側に属する)間で"Intercity"を1日1往復、運転している(2007年冬ダイヤ)。
448形特急型電車が使用され、最高速度は160km/h、643kmを約7時間かけて走る。全区間で広軌在来線を経由し、標準軌の高速新線は経由しない。
1990年代までは上記のほか、マドリード~バレンシア、マドリード~サラゴサ、マドリード~ログローニョ、マドリード~パンプローナ、マドリード~マラガの各系統にも設定されていたが、高速新線(AVE)の開業や、タルゴ、アラリスへの置き換えなどにより、現在は1往復のみの存在となっている。
[編集] ユーロシティ
過去におけるTEE列車に準じた扱いの特別急行列車であるユーロシティ(EuroCity、略称・EC)は、インターシティ列車の国際列車版的な性格があるが、TEE列車同様に、原則として次の条件を満たすことが必要とされている。1987年5月の欧州ダイヤ改正で登場した。ユーロシティはTEEとは異なり、全車全席一等を原則としていない。
- 一等・二等車ともエアコンつき
- 駅の停車時間は5分以内。運転上必要がある場合(機関車交換等)は15分以内。
- 出入国審査は走行中に行い、国境駅で長時間停車しない。
- 乗客全員が車内で食事が取れること。(できる限り食堂車を連結)
- 車掌は2ヶ国語以上を話せること(うち1つは英語、ドイツ語、フランス語のいずれか)。
- 表定速度90km/h以上。(勾配区間および航送区間は除く)
- 一定以上の定時運行実績。
- 列車愛称が付けられること。
- 昼間運転(6時から24時)
ただし、各国の事情により全ての基準が完全に満たされているわけではない。
各国を直通運転するため、ヨーロッパ共通規格(RIC規格)の 客車を使用した列車が多い。通過する国々の客車を混結したカラフルな編成も多く見られ、国際列車らしい雰囲気を醸し出している。しかし、在来線走行時の最高速度はたいてい160~200km/h程度で、新型のユーロスター列車などの高速鉄道に押されて、既にオランダではユーロシティ自体が消滅するなど、一部の国では縮小の傾向も見られる。また1,000kmを越える長距離列車もあるが、TGVやICEなど高速鉄道や航空機などの影響により、運転系統は分断・短縮される傾向にある。長距離運転のため、遅延も国内列車より多い。その反面で、1990年代以後は、東ヨーロッパ諸国へのネットワーク拡大が目立つ。なおTGVとICEも、フランスまたはドイツと他国にまたがる運行では、列車種別がユーロシティである場合が多い。
オーストリア連邦鉄道では、従来のユーロシティ (EC) 以外に、リニューアル客車主体で組成された「ÖBB EuroCity」(ÖEC) という国内列車も存在する。