西欧同盟
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西欧同盟 Western European Union Union de l'Europe occidentale |
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加盟国 ・ 準加盟国 ・ オブザーバ ・ 協力パートナー |
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加盟国数 | 加盟国:10 準加盟国:6 オブザーバ:5 協力パートナー:7 |
設立条約 -調印日 |
ブリュッセル条約 1948年3月17日 |
西欧同盟(せいおうどうめい、英:Western European Union, WEU; 仏:Union de l'Europe occidentale, UEO )は、ヨーロッパの防衛・安全保障機関。1948年に調印されたブリュッセル条約を基本として、1954年に西ドイツとイタリアが加わったことで設立された。近年の西欧同盟としての活動は半休止状態となっている。欧州連合 (European Union; EU) とは別の組織である[1]。本部はブリュッセルに置かれている。
目次 |
[編集] ブリュッセル条約
詳細はブリュッセル条約 (1948年)を参照
1948年3月17日、イギリス、フランス、ベルギー、ルクセンブルク、オランダの5か国はブリュッセル条約に調印した。ブリュッセル条約は経済、文化、社会での協調を促進することも盛り込まれた相互の自己防衛のための条約である。欧州防衛共同体構想が頓挫したことを受けて、1954年10月23日にパリ会議での合意により、従来の加盟国に当時の西ドイツとイタリアが加わることで西欧同盟が設置された。パリ協定の調印国ではブリュッセル条約が修正され、その修正後の条約の前文に以下の3つの目的がうたわれている(以下仮訳)。
- 西ヨーロッパにおいてヨーロッパ経済の復興に向けた確固たる礎を築く
- いかなる侵略行為に対しても抵抗し、相互に支援する
- 結合を深め、ヨーロッパの統合を前進させる
[編集] 組織
西欧同盟には閣僚理事会、理事会議長、事務総長の3つの主な機関がある。
[編集] 理事会
西欧同盟の意思決定は閣僚理事会においてなされ、これを大使級の代表による常設代表理事会が補佐する。また欧州評議会の議員総会に参加している西欧同盟加盟国の代表団で構成される議員総会が閣僚理事会の業務を監督している。なおブリュッセル条約でうたわれている社会・文化関連の規定については、ヨーロッパ内での重複を避けるために欧州評議会にその責務を委ねている[2]。
[編集] 議長
西欧同盟では任期6か月で輪番制の議長が置かれている。西欧同盟加盟国が同時期に欧州連合理事会議長国となっている場合はその国が西欧同盟の議長国を務めることになり、西欧同盟の加盟国でない国が欧州連合理事会議長国となっている場合は別の国が西欧同盟の議長国を務める。例えば2005年1月1日から同年7月1日まではルクセンブルクが両方の議長国であった。その後イギリスが両方の議長国となったが、2006年1月1日に西欧同盟に加盟していない(オブザーバ)のオーストリアが欧州理事会議長国となったさい、イギリスが異例ではあるものの、続けて西欧同盟の議長国を務めていたという事例がある。
[編集] 事務総長
西欧同盟の事務総長は1999年11月20日以降、ハビエル・ソラナが務めている。ソラナはEUの共通外交・安全保障政策上級代表や欧州防衛庁長官を兼務している。
[編集] 現状と将来
従来アムステルダム条約においては、西欧同盟はペテルスベルク・タスクにおける役割を果たすため、EUにおける独自の防衛力をもたらすものという位置づけがなされていた。ところがその位置づけは変化することとなる。2000年11月13日、西欧同盟の閣僚がマルセイユにおいて会合を開き、共通外交・安全保障政策 (CFSP) と欧州安全保障防衛政策 (ESDP) が発展しつつある状況において、西欧同盟の機能をEUに移管させるということが合意された[3]。
2002年1月1日には、西欧同盟の安全保障研究所と衛星センターがEUに移管され、それぞれ欧州連合安全保障研究所 (EUISS) 、欧州連合衛星センター (EUSC) となった。さらにアムステルダム条約で定められた西欧同盟の役割がニース条約においてその規定が除去され、また欧州憲法条約においては、集団的自衛についての役割は北大西洋条約機構 (NATO) に移行されることになった[4]。ただしブリュッセル条約第4条の防衛責任についてはEUに継承されていない[5]。リスボン条約によって修正された後のマーストリヒト条約第42条第7項では、防衛責任についてEUの枠組みに含めることになっている[6]。
以下は西欧同盟からEUへの統合に関するおもな動きの一部である。
- 1999年11月20日、EUのCFSP上級代表であるハビエル・ソラナが西欧同盟の事務総長に任命される。ソラナがこの2つの役職を兼ねることは、ソラナの下で西欧同盟のEUへの機能移管を進めるということを意味する。
- 1992年に西欧同盟が発したペテルスベルク・タスクは、1997年にアムステルダム条約によってEUに組み込まれた。これによりESDPの基礎が形成され、人道支援や救助、平和維持活動、緊急事態における戦闘部隊の活動、調停といった行動において共通政策の枠組みを定めることとなった。
- EUISSとEUSCがEUのCFSPの柱の下に置かれることになった。両機関はそれぞれ西欧同盟の関連機関として設置されていた。
機能の移管に伴って、西欧同盟の議員総会は西欧同盟の政策を監督する役割を担うものであって、EUのESDPにかかわっていくものではないため解散を求められることになる。しかし総会自体は安全保障に関する権限、加盟国の資格、防衛政策における経験と専門性などでは重要な役割を担っていると考えている。そのため名称を「欧州安全保障防衛暫定議会」 (Interim European Security and Defence Assembly) と改称し、欧州コンベンション(EUの将来のあり方について協議する場)に対して暫定議会を第二院としてEUの機関に含めるよう求めている。このためESDPを政府間で協議されるような形式とするために、議会総会について各国の議員からなる、ESDPを精査し、EU・NATO関係の向上と最適化させるための機関とすることが議論されていた。
ところが欧州憲法条約ではEUの外交政策の合理化・一元化が狙われており、EUにおける外交政策を担う2つの役職を統合することが盛り込まれていたため[7]、CFSP関連の立法機関を二重に設置することは賢明ではないと考えられ、代わりに欧州議会の外交政策についての監督権限を強化することになった。
西欧同盟とEUの完全な統合はいまだ実現されていない。たとえ緊急時における対応についてEUがこれにあたるとしたとしても、準加盟国やオブザーバといった形態の参加国が残っている以上、当面は何らかの形で西欧同盟の枠組みが存続することになる[8]。ジョリオン・ハワースは Defending Europe [9]で、このような状況を停滞していると表現せず、「西欧同盟の復権」 "revival of the WEU" と表現している。
[編集] 参加国
西欧同盟には10の加盟国のほかに、6か国が準加盟国、5か国がオブザーバ、7か国が協力パートナーとして参加している。2001年6月14日、ソラナは正規の加盟国以外の参加国の地位が変わる見込みはないと述べている。
加盟国:修正ブリュッセル条約(1954年)による
以下の加盟国はNATOとEUの両方に加盟している(ただしフランスはNATOの軍事機構には完全に参加していない)。これらの国々には採決に関する完全な権限が与えられている。 オブザーバ:ローマ宣言(1992年)[10]による オブザーバはEUに加盟しているが、NATOには加盟していない国で構成される。1 1 デンマークはEUとNATOの両方に加盟しているが例外となっている。デンマークには1992年に調印されたマーストリヒト条約の例外規定が適用され、ESDPに参加しないということになっている。 |
準加盟国:マーストリヒト宣言(1991年)[11]による
準加盟国制度はNATOに加盟する一方でEUには加盟していないヨーロッパ諸国を対象とするために創設された。その後、ポーランド、チェコ、ハンガリーはEUに加盟している。 協力パートナー: キルヒベルク宣言(1994年)[12]による 当時NATO、EUの両方に加盟していない国を対象とする。その後これらの国々はNATOとEUの両方に加盟している。 |
[編集] Eurofor
1995年5月15日、西欧同盟の閣僚理事会がリスボンにおいて会合を開いた。そこでフランス、イタリア、スペイン、ポルトガルによって即応部隊 Eurofor[13] の設立宣言が採択された。Euroforは1998年6月に西欧同盟のタスクフォースとして任務を開始している。
[編集] 付属機関
西欧装備グループ (WEAG)[14] - 1976年に軍備協力フォーラムとして設立され、将来の欧州軍備庁への発展が念頭に置かれていた。参加国は2000年の時点で19か国[15]となっていたが、2005年5月23日をもって廃止された。
西欧装備機構 (WEAO)[16] - 軍備庁への発展を企図して設立されたが、研究機関としての活動にとどまった。防衛研究や技術などを支援していた。1996年に設立され、2006年8月に廃止された。
これら2機関の機能の大部分は欧州防衛庁に引き継がれている。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ ただし運営は事実上、一体化されている。
- ^ Western European Union European NAvigator (英語、ほかフランス語。要Flash Player)
- ^ Marseille Declaration 2000 西欧同盟 (英語、PDF形式)
- ^ Western European Union - EUポータルサイト "EUROPA" (英語、ほか10言語)
- ^ EU Security Policy & the Role of the European Commission 欧州委員会対外関係総局 (英語)
- ^ European Union - Tenth Report イギリス貴族院 (英語)
- ^ CFSP上級代表と欧州委員会対外関係担当委員を統合して、EU外相職を設置することになっていた。リスボン条約では欧州委員会の副委員長を兼ねる「外交・安全保障上級代表」とされている。
- ^ Written question E-3750/00 by Ioannis Marios (PPE-DE) to the Council. Incorporation of the WEU within the EU. OJ C 235 E , 21.08.2001, p. 14
- ^ [2003-04-19] in Howorth, Jolyon / Keeler, John: Defending Europe: The EU, NATO, and the Quest for European Autonomy, Europe in Transition: The NYU European Studies Series (英語). Palgrave Macmillan. ISBN 978-1403966902 (Paperbook), ISBN 978-1403961143 (Hardcover).
- ^ Declaration on WEU Observers 1992年11月20日 (英語、PDF形式)
- ^ Maastricht Declaration 1991年12月10日 (英語、PDF形式)
- ^ Kirchberg Declaration 1994年5月9日 (英語、PDF形式)
- ^ Eurofor (英語)
- ^ Western European Armaments Group (英語)
- ^ オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、トルコ、イギリス
- ^ Western European Armaments Group (英語)
[編集] 外部リンク
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