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ステルス (軍事) - Wikipedia

ステルス (軍事)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ステルス(Stealth)とは、軍用機軍艦戦闘車両等の兵器レーダー等のセンサー類から探知され難くする為の軍事技術の総称。

単にそれらの技術を取り入れて開発された兵器を指してステルスと呼ぶ事もある。「ステルス性」という言葉は「ある兵器がセンサー類からどの程度探知され難いか」という事を相対的に表す。ステルスの本来の意味は「こっそりとする」「隠れる」である。

F-22 ラプターステルス戦闘機
F-22 ラプターステルス戦闘機

目次

[編集] 概要

ステルスとは電波反射赤外線放射などを抑え、敵から発見されづらくする技術である。人間の聴覚による発見を避ける為の低騒音技術や、同じく人間の視覚による発見を避ける為の迷彩保護色等も、広義のステルスにあたる。妨害電波(ジャミング)やチャフフレアなどの電子的欺瞞はステルスではなくソフトキルと呼ぶ。 ただし基本的には相対的に発見されづらいという事であり、絶対に発見されないというものではない。例えばレーダーに対するステルス技術を使用した兵器は、非ステルス兵器と比べて敵レーダーに探知される距離が相対的に短いだけで、レーダーに十分近づけば発見される。

[編集] ステルスの歴史

[編集] 第二次大戦期の木製機体

ステルス技術は、レーダーが使われ始めた第二次世界大戦の頃から研究され始めた。レーダーと言う「目」の研究・実用化とともに、その目から逃れる技術を研究するのもまた、当然の流れであった。

この時代のステルス機と言われているのが、大戦中にイギリス空軍で使用されたデハビランド モスキートであろう。当時のイギリスでは資源の不足が心配されていたため、この木製のフレームにべニア板を張り合わせた爆撃機が開発された。だが木材の使用によりレーダーから探知されにくいという効果は副次的なものであった。同様の理由(資源不足)から日本やドイツでも木製航空機の試作が行われたが強度が満たされず、金属製より重量増加となったため実用化はされなかった。 終戦間際の日本海軍では、試作潜水艦のセイル側面を外向きに傾けることで、米軍レーダー電波の反射を海面へ向ける工夫を始めた。

もっとも、当時のレーダーは信頼性に乏しく、センサー類も原始的なものがほとんどであった。

[編集] 朝鮮戦争期の複葉機

朝鮮戦争でも、現代でいうステルス性能を発揮した航空機が存在した。北朝鮮軍のポリカルポフPo-2という複葉機である。複葉羽布張りの旧式機であったPo-2は、夜間にアメリカ軍基地の爆撃を行ったが、然したる戦果はあげる事は出来なかった。だが、地上のレーダー要員や迎撃に上がった夜間戦闘機は、これの探知に苦労したという。複葉羽布張りの航空機が超低空で飛行するとレーダー探知が困難になるという事実は、朝鮮戦争以降も指摘される事になる。

[編集] 近代ステルス機の黎明

1957年、ソ連の科学者ピョートル・ウフィムツェフによって、ステルス機開発での重要論文が発表された。これにより従来、電波反射が解析不能だった部分の計算が可能となった。また、アメリカ軍では入手したソ連製輸送機An-2を演習場内で飛ばし、レーダーがどの程度探知できるかを調べたり、繊維強化プラスチックを多用した軽飛行機で電波反射特性の調査を行った。

[編集] ベトナム戦争以降のステルス機

ベトナム戦争第四次中東戦争で、ソ連製地対空ミサイルによって多くの航空機を損失した事も、アメリカ軍のステルス機開発を後押しした。敵がその存在を探知できないステルス機が実現すれば、対空ミサイル迎撃戦闘機を管制する対空レーダーは無力化し、その存在意義はなくなる。ステルス機は従来の戦術思想を覆す革命的なシステムと期待されたのだ。そしてアメリカでは、ロッキード社のスカンクワークスが開発したステルス実験機「ハブ・ブルー」をもとに、1981年に世界初の本格実用ステルス機、F-117が開発された。以降、F-22YF-23B-2といったステルス戦闘機や爆撃機が生み出された。

だが、ステルス性重視の機体設計と空気力学的に優秀な機体形状の要求は背反することが多い。電波吸収材の使用にも限度がある。2000年代末の今では、ステルス性を求めた為に空気力学的に不安定になった機体を、CCV技術フライ・バイ・ワイヤなどのエレクトロニクスによって操縦安定性を確保する事が必須となっている。

[編集] 古典的複葉機の利用

ソ連製輸送機「An-2」
ソ連製輸送機「An-2

第二次世界大戦時のモスキートがレーダーに映りにくかったように、古典的な複葉機が現代戦においてもステルス機として使用されるのではないかという話がある。

北朝鮮にも配備されているソ連製の旧式輸送機 An-2は、有事の際は韓国軍と米軍のレーダー網をすり抜けて、特殊部隊を韓国国内に送り込もうとしているのではないかと言われている。道路沿いを超低空・低速度で飛行すれば、早期警戒管制機でも陸上の走行車輌と判断する可能性がある。

[編集] 言葉としての「ステルス」の初登場

被発見率を下げる設計を指した言葉としてステルスという言葉が使われたのは、F-117の広報リリースが最初だと思われる。ただし、F-117が登場した当時は情報公開などもあまりなく、都合のいいスペックや戦果だけが伝えられたため、レーダーへの被発見率低下だけを指してステルスとか、ステルスであれば全然レーダーに引っかからない、またそうでなければステルスではない、などという誤解が広まることになった。

[編集] 電波ステルス

[編集] 電波ステルスの仕組み

まずレーダーが物体を探知する仕組みについて説明する。

  1. レーダーが電波を飛ばす
  2. その電波が物体に当たり、誘導電流が発生する
  3. 誘導電流から電波が発生することで反射波となる
  4. レーダーがその反射波を拾う
  5. 発信と受信の時間差から物体との距離が、アンテナの放射特性から大体の方向が判る

本項でいうレーダーとはすべて一次レーダーであり、航空交通管制に使用しているトランスポンダと情報を交換するような二次レーダーとは異なる。

電波が物体に当たっても反射波が戻ってこなかったり、反射波をレーダーが拾えられなければ、レーダーは物体を探知出来ない。レーダーは反射波を捉えることによって物体の存在を探知している。そこで、以下の2点を工夫することでステルス性を向上できる。

  • 電波が来た方向へ電波を反射しない
  • 金属は電波を反射し易いので、電波を反射し難く吸収する物質に換える

それぞれは「形状制御技術」と「電波吸収体技術」によって実現化が図られている。[1]

[編集] 電波ステルスの技術

JSF F-35 ライトニングII 一定の形状は良好なステルス性をもたらす
JSF F-35 ライトニングII 一定の形状は良好なステルス性をもたらす

[編集] 形状制御技術

形状制御技術はステルス性を求める兵器にとって重要である。

以下の形状はレーダー断面積を増大させる。形状制御技術は兵器の外面にこれらの形状が露出するのを避ける。

  • 電波の飛来方向に垂直となる平面
  • 二面や三面で構成される直角凹面(コーナーリフレクタ形状)
  • 電波の飛来方向に対してレーダー波の半波長の整数倍の長さを持つ物体
  • 鋭角な構造物

艦船ならば、上部構造物の外面や艦舷を単純平面で構成しこれを垂直方向から斜めに傾けることで、多くの場合に水平方向から放射されるレーダー波に対してその反射波を同じ水平には戻さない。アンテナ・マストにはAEM/S(先進型閉囲マスト/センサー、Advanced Enclosed Mast/Sensor)と呼ばれる単純平面で構成されたFSS機能を備えた覆いを被せる。などの工夫を行なっている。

F-35のETOS後部の前脚格納部
F-35のETOS後部の前脚格納部

軍用機では、主に正面下方からRCSに注意を払い、側面方向にも気を配っている。元々流線型の機体であるため、正面からのRCSは比較的良好であるが、ジェットエンジン吸気口からコンプレッサーのファンブレードが見える場合は、吸入流路を延長湾曲して隠したり、斜めに取り付けたメッシュやグリッド状の部品によって電波反射を抑える必要がある。

自機のアンテナを覆う機首レドームにFSS機能つまり電波の選択透過性を備えた遮蔽材を使用する。戦闘機攻撃機なども機外に搭載するものがある場合にはRCSが悪化するので、出来るだけ機内への収容が求められる。

側方への配慮として、垂直尾翼を斜めに傾けるか備えないで済ます。機体側面は主翼付け根から機首まで水平方向への張り出しを付けるか、全翼機として胴体側面から垂直面を排除する。などの工夫を行なっている。

波長によるレーダー電波の無効化レーダー波の一部は反射体(または電波吸収体)の表面で反射され、一部は内部に浸透して裏面で反射される。反射体の厚みがレーダー波の1/4波長の時は内部に浸透した波が往復の距離分、つまり「1/4+1/4=1/2=半波長」の分だけ遅れて表面からの反射波に重なるため、干渉し互いに打ち消し合う。
波長によるレーダー電波の無効化
レーダー波の一部は反射体(または電波吸収体)の表面で反射され、一部は内部に浸透して裏面で反射される。反射体の厚みがレーダー波の1/4波長の時は内部に浸透した波が往復の距離分、つまり「1/4+1/4=1/2=半波長」の分だけ遅れて表面からの反射波に重なるため、干渉し互いに打ち消し合う。[2]
流体工学ノズル
流体工学ノズル(fluidic nozzle)を使用したベクトル・スラスター・ノズルも構造が単純化されている分、ステルス性の向上に寄与するため、今後の実用化が検討されている。
キャノピー
コックピット・キャノピーにもレーダー波を反射する薄膜によってコートされている。材質は蒸着金薄膜やインジウムとスズの酸化物(In2O3とSnO2の混合物)による薄膜が用いられる。 このためほとんどのレーダー波はキャノピー表面で反射され、操縦席付近の複雑な形状の電子機器や機体内部面によって生じる乱雑な反射波は最小限に抑えられる。パイロットのヘルメットの電波反射の低減も検討されている。
プラズマ・アンテナ
プラズマを使ったアンテナである。
プラズマ・アンテナではガラス管などに封入した希薄ガスに電波周波数で放電電圧を印加して放電を起こさせる。このプラズマがそのままアンテナとなり電波が放射される。電圧の印加を停止すればプラズマはガスに戻り電波の放射は停止される。プラズマ・アンテナは放射器としてだけでなく、反射器としても機能する。また入射電波の受信も可能であるとされる。[3]

ステルス性の観点では対象物の大きさも影響する。Xバンド(8~12GHz)では波長3cm以上であるが、Cバンド(4~8GHz)やSバンド(2から4GHz)での対象物の部分的な長さがレーダーの波長と共鳴することも考慮される。[1] また反対に1/4波長の厚みを持った電波吸収体に入射したレーダー波は表面と裏面の2ヶ所からの反射によって互いに打ち消しあって、上手くすれば消滅する。[2]

[2]

[編集] 電波吸収体技術

電波吸収体技術は形状制御技術ではコントロールしきれなかった鋭角などに、電波吸収体または電波吸収材料(Radar absorbent material、RAM)と呼ばれる物質を使って電波を吸収し反射波を減らす技術である。
電波吸収材料は大きく3つに分かれる。

  • 導電性電波吸収材料は材料内部の抵抗によって電波によって発生する電流を吸収するものである。導電性繊維の織物によって優れた電波吸収体が実用化されている。
  • 誘電性電波吸収材料は分子の分極反応に起因する誘電損失を利用するが、誘電体単体では大きな損失は望めないので、カーボン粉などをゴム、発泡ウレタン、発泡ポリスチロールなどの誘電体に混合して見かけ上の誘電損失を大きくしたものが開発されている。
  • 磁性電波吸収材料は磁性材料の磁気損失によって電波を吸収するものである。鉄、ニッケル、フェライトを使用して電波を吸収できるが、重くなるのが欠点である。

また、使用する形態によっても電波吸収体は分けられる。

  • 構造材型は構造材自身に電波吸収体の機能を持たせた、2つの機能を兼ね備えた部材を使用する技術であり、構造が単純で軽量化できるので実用化されつつある。
  • 貼付型は外面に電波吸収体を貼り付ける形態であり、ゴムシート状のフェライトやカーボンが使用される。電波暗室では発泡スチロールが使われる。重量が増す。
  • 塗装型は外面に電波吸収体を塗装する形態であり、厚さを一定にするのが困難なため対象周波数に対する精度が保てない点や、厚く塗る必要があることからはがれ易い点に問題がある。[1]

[編集] ステルス航空機への電波による対策

現在各国ではステルス機の開発に加え、ステルス機の探知技術にも力を入れている。

[編集] バイスタティック・レーダー

ステルス機はレーダーの電波を発振された方向とは「異なる方向」に反射させる工夫をしているが、この「異なる方向」の先に反射波を受信する専用レーダーがあればステルス機でも反射波を捉えることが可能となる。

レーダー波を送信する場所とレーダー波を受信する場所を初めから離しておいて、両者間は通信線で結び発信されたレーダーの情報を受信側に伝える。このようなレーダー・システムをバイスタティック・レーダーと呼ぶ。通常のレーダをモノスタティック・レーダーと呼ぶ。

バイスタティック・レーダーの技術を使えばステルス機をレーダで捉えられる。 以下の課題がある。

  1. 送信側と受信側が高度に同期を取ることが求められる
  2. 受信装置の有効領域が狭くなる
アラスカのフェーズド・アレイ・レーダー(BMEWS)
アラスカのフェーズド・アレイ・レーダー(BMEWS

1.は原子時計GPS衛星により高度な同期が可能となっている。
2.はフェーズド・アレイ・レーダーやその発展形ともいえるデジタル・ビーム・ホーミングや高性能マイクロプロセッサによって複数の受信ビームを構成することで有効領域を広げることが可能となる。

対象の位置は次の2つの交点から求められる。

  • 送信側の発射した時間と受信側の受信した時間による差によって導かれる、2点を焦点とする楕円
  • 受信側の受信角度による直線

受信レーダーを複数持つものをマルチスタティック・レーダーと呼ぶ。バイスタティック・レーダーやマルチスタティック・レーダーはECCM性(Electronic counter-countermeasures)に優れ、敵の電波妨害に対して強い。 [1]

[編集] パッシブ・レーダー

パッシブ・レーダーはバイスタティック・レーダーを一歩進めた技術であり、送信側のレーダーは設けずに代わりにラジオやテレビ、携帯電話などの既存の送信局をレーダー波源として利用するものである。 バイスタティック・レーダーの利点や特徴に加えて、レーダー送信局がいらないのでコストが省け、敵の攻撃を受けるリスクも送信局分は無くなる。パルス圧縮技術やレンジサイドローブの影響を小さくする技術により現実的なレーダーとなってきている[1]

[編集] 低周波数レーダー

機体の長さの半波長の低周波数レーダーを使用すれば探知精度は悪いながらもステルス機を探知することが可能である。

[編集] レーダー反射断面積

電波に対し、どれだけのステルス性を持っているかを表す値としてRCS(Radar cross section, レーダー反射断面積)という言葉が使われる。この値が小さければそれだけレーダーに探知される距離が短くなる。特に断らない限りはRCSが最小となる正面での値が、書籍などでのRCS値となるが、RCS値は全ての方向からのものが存在する。

\sigma = \lim_{R \to \infty}4\pi R^2\frac{|E_r|^2}{|E_i|^2}
| Er | :入射電界強度
| Ei | :受信散乱電界強度
R:目標とレーダーとの距離

RCSは面積の次数で表わせるが、1m2との比較をデシベルで表記することもよく行なわれる。単位はm2又はdBsm(DEcibel squared meter、デシベル・スクエアメーター)で表わす。たとえば1m2は0dBsm、2m2は3dBsmである。

上記の式より、探知距離はRCSの4乗根に比例する。つまり探知される距離を2分の1にしたいのなら、RCSはその4乗の16分の1にする必要がある。B-52のRCSが100m2でF-117攻撃機のRCSが0.025m2とすれば、8倍のレーダー探知距離の差が生じる。
次にレーダーの方程式を示す。

P_r = \frac{P_tG^2\lambda^2\sigma}{4\pi)^3R^4}
Pt:レーダーの尖頭電力
G:アンテナ利得
λ:波長

レーダーの最低受信電力はPrが判れば、RCSがσである目標からの最大探知距離は次の式で計算できる。

R_max = \frac{P_t^\frac{1}{4}G^\frac{1}{2}\lambda^\frac{1}{2}\sigma^\frac{1}{4}}{P_r^\frac{1}{4}(4\pi)^\frac{3}{4}}

[1]

RCSはなにか直接の反射面積を表わしているわけではなく、たとえば1m2の金属板がレーダーに直角に位置する時のRCSは14,000m2であるように、軍用機の電波に対する低発見性を数値化して比較するためのものである。RCSが0.01m2だから10cm角四方の金属板と同じ反射であるといった表現は、よくある間違いなので注意が必要である。

[編集] 赤外線でのステルス

サイドワインダー・ミサイルのように飛行中の航空機が放つ赤外線を捕らえて自動追尾する対空ミサイルが多い。高空では周囲や背景の温度が低いため、パッシブ式赤外線画像装置で航空機自体の画像を捉えることもそれほど難しくない。これらパッシブ式赤外線センサーを備えるミサイルに対する最も単純で有効な対策は、自らの赤外線放射量を減らすことである。以下に航空機での赤外線でのステルス技術について示す。

赤外線放射抑制技術
一般に航空機は赤外線誘導ミサイルによって攻撃を受けることが多く、特にヘリコプターは低空を比較的低速で飛行するために最も危険である。自機からの赤外線放射による被発見性を低減するためには、高温で排気される燃焼済みガスを出来るだけ早く周辺大気に拡散させて温度を下げることや、高温となった排気ノズルなどを周囲に曝さない工夫が必要とされる。

固定翼航空機
排気ノズルを尾翼部で囲んで出来るだけ曝さない(A-10サンダーボルトIIF-22ラプターF-35ライトニングII
主翼上面部に排気することで下方からの赤外線探知を困難にする(B-2スピリットYF-23ブラックウィドウ
ジェットエンジンのバイパス比を高めて、燃焼に寄与しない空気量を増やすことで排気時の温度を下げる。
AH-64アパッチ 機体両側にあるターボシャフト・エンジンポッド後部の大きな排気ガス拡散部が見える
AH-64アパッチ 機体両側にあるターボシャフト・エンジンポッド後部の大きな排気ガス拡散部が見える
ヘリコプター
排気ノズルを周囲に出来るだけ曝さない
積極的に排気ガスを機体周辺の下降流に拡散させる工夫を備える(AH-64アパッチ
テールブーム内に排気ガスを送りローターの代わりのノーターとして使うことで、テールブーム内での冷却と機体後部での早い拡散が行なえる

赤外線迷彩
航空機自体の画像を捉えて画像認識を行うミサイル・シーカーに対しては、赤外線反射率が異なる塗料を機体に塗布し、航空機としての形状の検出を困難にする。

フレア赤外線レーザーの照射といったステルス以外の技術は本項目では扱わない。それぞれの項目を参照されたい。

[編集] 光学的ステルス

航空機のステルス技術の進歩がレーダー電波による探知性能を弱めており、人の目視による敵航空機の捜索が無視できなくなる。以下に航空機の目視捜索を困難にする技術について説明する。

ユーディの光
ユーディの光(Yehudi lights)またはイェフディの光と呼ばれる技術は機体の下部を照明によって照らし出す。地上や海上から空中の航空機を見た場合に背景となる空と同じにして、光学的なステルスを得るという方法。すでに第二次世界大戦中のイギリス空軍のショート サンダーランド(Short Sunderland)のドイツ軍Uボートへの攻撃時に成功を収めていた。米軍のグラマン・アヴェンジャー(Grumman TBF Avenger)雷撃機では約1,000mに近づかないと発見されなかった。その後のレーダーの発達でこの技術は使用されなくなったが、近年の電波に対するステルス技術の発展によって、光学的ステルスとして再び関心が寄せられている。
飛行機雲
どれだけ高性能なステルス機も飛行機雲によって容易に発見される。B-2は飛行機雲抑制剤(Contrail-inhibiting chemical)のタンクを備えており、飛行機雲の発生を抑えるよう考慮されている。

[編集] 磁気的ステルス

潜水艦を含む戦闘用艦艇は、時間と共に地磁気や摩擦によって自身の船体が磁気を帯びてくるためにこれを専用の施設で定期的に消磁している。これを船体消磁と呼び、一種のステルス技術と言える。消磁を行なわずに磁気を周囲に放射したまま敵性海面・海中を航行すると、磁気探知性機雷に蝕雷したり、敵航空機などの磁気探知装置(MAD)に発見されたりする危険が増す。

[編集] 潜水艦でのステルス

[編集] 潜水艦の低反射性と低磁性

静粛性もひとつのステルス性と言える。とくに潜水艦では敵ソナーによる探知を最小化するため、外殻外面に振動吸収素材を貼り付けてアクティブ・ソナーの水中波を吸収するようにしている。潜水艦が時々、船体に帯磁した磁力を消磁所で消しているのも磁力的なステルスである。チタン製の耐圧殻を持つ潜水艦は対潜哨戒機などのMADによる探知に対するステルス性も有する。

[編集] ステルスの重要性

B-2 スピリット 三面図
B-2 スピリット 三面図

戦闘の際に相手のセンサー類に捕捉され難いという事は、それだけ相手より優位に立てる事を示している。その為、現在において各国のステルスへの注目度は高く、今後もステルス性を考慮した各種の兵器が開発されていくと思われる。

一般的に軍用機は敵に発見された場合のリスクが比較的大きく、それを最小化できるステルス技術が重視されている。軍艦等では航洋性に支障が出ない程度のステルス性を持たせているものが多い。戦闘車両に対して空中からのレーダーによる探知が始まってはいるが、今のところはまだ限定的なためや地上車両に対するそれほど有効な技術が存在しないために、電波に対するステルス性はあまり考慮されてはいない。多くは目視に対するカムフラージュや赤外線への対策を行なっている程度である。

[編集] ステルス性を重視した兵器の例

1994年 B-2 スピリット爆撃機がカリフォルニア沖の演習でMk.82爆弾を落とす
1994年 B-2 スピリット爆撃機がカリフォルニア沖の演習でMk.82爆弾を落とす

[編集] 軍用機

完全にステルス性重視の設計であるもの
RCS 低減設計のもの
現時点で不明

[編集] 軍用ヘリコプター

[編集] 軍艦

アメリカ海軍の実験艦 シー・シャドウ
アメリカ海軍の実験艦 シー・シャドウ

[編集] 軍用車両

現在開発中の一部の戦車などではステルス性を考慮されているものの、それ以外ではあまり無い。

[編集] その他

[編集] ステルス艦船での平時の配慮

ステルス性を重視した戦闘艦では、平時にはわざわざコーナー・リフレクタを甲板上の見通しの良い場所に設置して、ステルス性能の漏洩を防ぐと共に一般航行時の安全を図るように留意するケースが出てきた。艦船でのステルス性能が今後一層向上すれば、一般船舶や友軍艦船との衝突事故を防ぐためにも必要な処置になる。

[編集] RAM

今のところRAMの塗装型は高価であるという点やメンテナンスに手間がかかるという点で問題がある。 一部には、赤外線放射率が異なる塗装で各部を塗りわけ、赤外線映像として見た際に、航空機の形状として認識されづらいように配慮した機種もある。

現時点で実用化されたステルス航空機の機体色は、たいていがマットブラックかダークグレー系であるが、これは夜間運用時に効果的であると同時に、極端に高度を下げない限り日中でも比較的に目立たない色だから、そのように色を調合されただけであり、レーダー反射塗料そのものがダーク系カラーというわけではない。

なお航空機に高度なステルス性を持たせる場合、やはり機体をステルス性の高い形状にしなければならないが、航空機の場合、単純に「ステルス性に優れる形状」であれば良い訳では無く、同時に「良好な飛行が可能な形状」すなわち航空工学に基づいた形状も求められる。それらを両立する為に、設計には非常に複雑な計算を必要とする。また、開発・生産・維持のいずれの段階においても、高技術力と高コストの両方が要求される。特に維持は困難で、飛行中に水滴や埃が機体に付着したり、ビスの締めが甘く頭が少し表面から浮いただけでも、ステルス性は損なわれるといわれている(例えばB-2爆撃機の場合、一機あたりの価格が高いうえに、整備には専用の格納庫を必要とする。国外の基地へ展開する場合、専用格納庫も一緒に展開する必要がある。それらの影響だけが原因では無いが、総生産数は当初の予定を下回る21機にとどまっている)。したがって費用対効果も悪くなりがちである。その為、技術力が追いつかない、あまりコストを割けない等の理由で形状の工夫が出来ない場合は、RAMを使用する等して、少しでもステルス性の改善を求めることも多い。

艦船や車両では、運用上の理由(RAM塗料は劣化が早く長期間の野外活動に耐えられない、陸上兵器は少しでもカムフラージュを行えばレーダーには元々映りにくい等)から、高価なRAMは使用せず、外観の形状に配慮をする程度である。

[編集] F-117

  • F-117のステルス性は、その機体構造(概観の形状)からレーダ入射波を散乱及び後方背面波としてRCS(レーダー断面積)を下げているものと考えられる。この機体のステルスの特徴としては、レーダに対するRCS低減は全方位でなく前方方向と背面方向に対してRCSが極端に小さい。また運動性を犠牲にしているがステルス機の中ではRCSが最も小さい機体と考えられている。

現在、こういった電波に対するステルス機の特性を踏まえ、これらステルス機を捉えられるバイスタティック・レーダ(通常はモノスタティックレーダ)が開発されている。

[編集] 可視光でのステルス(ビジュアル・ステルス)

詳細は光学迷彩を参照。

可視領域の電磁波(光)での探知を困難にする技術(光学迷彩)は実用化されていないものの、研究は行なわれている。いわば「見えない兵器」を実現しようというもの。

電磁波である可視光をねじ曲げて、その途中に存在する物体を目に見えないようにする技術が考えられている。2006年10月20日付けのUSA Today紙はデューク大学のデービッド・スミスを中心とした研究グループ[2]が同様の理論でマイクロ波(可視光ではない)をねじ曲げる事に成功したと報じた[3](詳細な内容はアメリカの科学雑誌 Science に掲載された[4])。現在はまだ確立していない技術であるが、理論的には同じ方法で可視光をねじ曲げる事が可能で、実現可能であると主張されている。この技術によって目に見えない究極の戦闘機等を作成可能かもしれないが、問題は外から戦闘機が見えないのと同様に戦闘機からも外が見えなくなる事である。


[編集] フィクション

光学迷彩のアイディアとしては、サイエンス・フィクションにおいては以前より使用されている。プレデター攻殻機動隊などを参照。

[編集] フィクション作品

[編集] 出典

  1. ^ a b c d e f 防衛用ITのすべて 防衛技術ジャーナル編集部 防衛技術協会 ISBN4-900298-1-X
  2. ^ a b c (財)防衛技術協会編 『ハイテク兵器の物理学』 日刊工業新聞社 2006年3月発行 ISBN 4-526-05644-8
  3. ^ 「レーダーに映らないステルスアンテナ」 日経サイエンス 2008年4月号 [1]

[編集] 参考文献

  • ミリタリー・イラストレイテッド28「ステルス」ワールドフォトプレス編:ISBN 433471384X 光文社

[編集] 外部リンク


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