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イギリス空軍 - Wikipedia

イギリス空軍

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

第一次世界大戦の勝利記念と戦死者追悼のためテムズ川のビクトリア堤防に建てられた記念碑 (RAF Memorial)
第一次世界大戦の勝利記念と戦死者追悼のためテムズ川のビクトリア堤防に建てられた記念碑 (RAF Memorial)

イギリス空軍( — くうぐん)は、イギリスの保有する空軍。正式名称は"The Royal Air Force"(王室空軍)である。略称としてRAFやR.A.F.という表記があるが、日本におけるイギリスの通称である英国から、日本では英国空軍(えいこく くうぐん)と表記することが多い。

1918年4月1日イギリス軍の一部として独立した。現在、RAFは世界で最も長い歴史を持つ空軍であり、942機の航空機、49,280人の兵力を保有する世界最大規模の空軍のひとつでもある。


目次

[編集] 歴史

第二次世界大戦で活躍した戦闘機スピットファイア
第二次世界大戦で活躍した戦闘機スピットファイア
RAF戦略核攻撃軍が装備した戦略爆撃機ヴァリアント
RAF戦略核攻撃軍が装備した戦略爆撃機ヴァリアント

RAFは第一次世界大戦中の1918年4月1日にトレンチャード子爵の働きかけで陸軍航空隊と海軍航空隊の融合によって設立された。海軍航空隊はイギリス海軍と同格の部隊で、陸軍航空隊はイギリス陸軍の管轄下にある工兵隊の一師団であったが、第一次世界大戦において航空戦力が決定的であると判明したことから、独立した空軍を設立することが決定した。終戦後は1936年の空軍再編を経て、その戦力を大幅に減らし、次の大戦が始まるまでの間は比較的平和で、簡単な警備任務に従事した。

第二次世界大戦前に急ピッチでパイロット数・航空機数ともに拡張され、バトル・オブ・ブリテンではドイツ空軍を寄せつけず、RAFは戦争の流れを変えるのに大きく貢献した。また、RAFの最も大きな努力としてRAF爆撃機軍団 (RAF Bomber Command) によるドイツへの戦略爆撃があげられる。

冷戦の長期間に渡って、RAFはソビエト連邦核兵器からヨーロッパ大陸を核抑止をもって防御するという重要な役割を演じた。冷戦期間中、イギリス帝国の衰退により世界規模な作戦行動は縮小され、1971年10月31日にRAF極東空軍 (RAF Far East Air Force) が解散されたものの、朝鮮戦争で飛行艇部隊を派遣して国連軍の支援を行った。第二次中東戦争(スエズ危機)ではキプロス島マルタ島から航空機を出撃させて大きな役割を果たした。

1982年に始まったフォークランド戦争では戦場が友好国の空軍基地から離れていたため、イギリス海軍とイギリス陸軍が主力となったが、RAFのハリアーも海軍の航空母艦や徴用されたコンテナ船に搭載されて、フォークランド諸島で近接航空支援を行った。爆撃機アブロ バルカン空中給油機ヴィクターアセンション島に展開し、有名なブラック・バック作戦 (Operation Black Buck) を行った。

冷戦が終結した近年においても、RAFは1991年湾岸戦争で100機以上の航空機を参加させ、実戦で初めて誘導爆弾を使用したことで、RAFの歴史において重要な分岐点となり、その後も空中給油機と偵察機を動員して多国籍軍を支援した。コソボ紛争(コソボ戦争)は第二次世界大戦の終結以来、初めてヨーロッパでの作戦行動となった。

アフガニスタン侵攻でも多数の航空機を派遣して大規模な作戦行動を行った。同作戦でアメリカ軍のパトリオットによる誤射で攻撃機を撃墜され、搭乗していたパイロットとシステム・オペレーターの2名が死亡した。また、対空砲火で輸送機が撃墜され、10名の人員が殺傷されている。

[編集] 構成

[編集] 指揮

イギリス空軍旗
イギリス空軍旗

RAFは国防会議の空軍委員会 (Air Force Board) が管理し、空軍参謀総長 (CAS ; Chief of the Air Staff) によって率いられる。空軍委員会は空軍参謀総長以外に、空軍参謀次長 (Assistant Chief of the Air Staff) と数人の上級司令官から構成される。現在、空軍参謀総長はグレン・トーピー (Glenn Torpy) 空軍大将。空軍参謀次長はクリス・モラン (Chris Moran) 空軍少将が任ぜられている。

[編集] 軍団

戦闘機軍団 (Fighter Command) 
1936年に多種にわたる航空機の管理を特化すべく創設された。第二次大戦でドイツ空軍がイギリス本土侵攻(アシカ作戦)のためイギリス本土とドーバー海峡の制空権を獲得しようとRAFと衝突し、1940年夏季に戦闘機軍団にとって最大の試練が訪れたが、戦闘機軍団は搭乗員の不足に悩まされながらも制空権を堅持した。
爆撃機軍団 (Bomber Command) 
1936年に創設され、RAFの爆撃機を管轄した組織。第二次大戦ではナチス・ドイツの工業地域と都市を爆撃で破壊し、間接的に連合軍の犠牲者軽減に貢献した。
沿岸軍団 (Coastal Command) 
沿岸軍団は海からの脅威に航空機で対処するため1936年に組織された。空軍以外にもイギリス海軍の艦隊航空隊からも航空機を貸与されていたが、当初は旧式機しか供給されず、ドイツのUボートを相手に苦杯をなめた。

後に再編成があり、2007年3月までは打撃軍団 (Strike Command) と人事・訓練軍団 (Personnel and Training Command) で構成され、この2個軍団に空軍委員会から権限を委任されていた。

打撃軍団 
RAFの打撃軍団は1968年に戦闘機軍団と爆撃機軍団を統合して作られた。1969年に沿岸軍団と信号軍団 (Signals Command) を吸収し、1972年には航空支援軍団 (Air Support Command) も吸収した。司令部 (HQSTC) はRAF ハイ・ウィッカム (High Wycombe) 基地に置かれ、現在はジョン・フレンチ (John French) 空軍大将が指揮している。
人事・訓練軍団 
通称、PTC。1994年に支援軍団 (Support Command) から分割された。RAF全人員の養成を受けもつ他、RAF内の契約や人員の生活保護、人員の補充、予備役や転勤の管理などに責任を持つ。

2007年4月1日より打撃軍団と人事・訓練軍団を統合し、航空軍団 (Air Command) が編成された。現在のイギリス空軍において航空軍団が唯一の軍団であり、統合前の二つの軍団の命令系統は現在の軍団司令部に完全に集約されている。

[編集] 航空機

パナヴィア トーネード GR.4
パナヴィア トーネード GR.4
BAE/ボーイング ハリアー GR.7A
BAE/ボーイング ハリアー GR.7A
ユーロファイター タイフーン F.2
ユーロファイター タイフーン F.2
ニムロッド MR.2
ニムロッド MR.2
シー キング HAR.3
シー キング HAR.3
チヌーク HC.2
チヌーク HC.2
ハーキュリーズ C.1
ハーキュリーズ C.1
ツカノ T.1
ツカノ T.1

イギリス空軍機の一覧も参照

各種軍事システムの価格上昇を受け、数十年前と比較すると戦力組成(ORBAT) における多様性は減少しているものの、RAFは現在でも多種の航空機を保有している。以下に、現時点での保有機材を任務別に並べた[1]

航空機の名称に続けて付与されているコードは、その機種が果たす任務を示している。例えば、トーネード F.3は、戦闘機 (Fighter) を示す "F" を冠されており、さらにトーネードの3番目の派生型であることを意味している。

[編集] 攻撃機・攻撃支援機

RAFの攻撃部隊の中核をなすのはトーネード GR.4である。トーネードは超音速飛行能力を備え、SCALP-EG/ストーム・シャドウ巡航ミサイルレーザー誘導爆弾ALARM対レーダーミサイルといった多様な兵装を搭載できる。ハリアー (GR.7/GR.7A) とジャギュア (GR.3/GR.3A) がトーネードを補完し、これらは航空阻止 (AI)・近接航空支援 (CAS)・敵防空網制圧 (SEAD) などの任務に投入される(各任務については航空作戦を参照)。現在、ハリアーは新たなシステムと強力なエンジンをもつGR.9へ更新を行っている。ジャギュアは2007年までに軍務を終え、タイフーンと交代する予定である[2]

[編集] 戦闘機・早期警戒機

トーネード F.3はイギリスの領空を守る防空戦闘機で、RAF ルーカース (Leuchars) 基地とRAF リーミング (Leeming) 基地に配備されている。機上空対空レーダーを搭載するセントリー AEW.1は、侵攻する敵性機を探知するとともに、戦闘空域の調整にもあたる。トーネードとセントリーはイラクバルカン半島など国外でも任務を行った。1980年代末から防空任務に従事してきたトーネードは、より敏捷なタイフーン F.2と交代する予定である[3]

[編集] 偵察機

攻撃機の派生型であるジャギュア (GR.3/GR.3A)、トーネード (GR.4A) は専用偵察ポッドを搭載しており、それぞれの機種を要する偵察飛行隊が存在する。初飛行が1949年と年季の入ったキャンベラ PR.9も、高高度の長時間滞空能力を買われて偵察任務に投入されていたが、近ごろ退役した。これら3機種はいずれも、広い波長域にわたるカメラ・赤外線センサ・レーダーを搭載している。ニムロッド R.1が電子偵察・通信傍受任務に従事している。ボンバルディア グローバルエクスプレス (BD-700) を元に開発されたセンチネル R.1は、アメリカ空軍E-8 JSTARSが果たしているのと同様の陸上部隊支援任務を遂行するために、ASTOR対地レーダーを備えている。

[編集] 海上哨戒機

ニムロッド MR.2が対潜水艦戦闘 (ASW) と対水上艦戦闘 (ASUW) 任務に従事している。加えて同機は、長大な航続距離と強力な通信装置を生かし、救難ヘリ・艦艇・沿岸基地間の通信を橋渡しすることで、捜索救難ミッションにおける調整役をも担っている。さらに、海上を漂流する人々に対して、救命ボートとサバイバル用品を搭載するポッドを投下することも可能である。MR.2は改良型のMRA.4によって更新される予定となっている[4]

[編集] 捜索救難機

戦闘やトラブルが原因で不時着したり、射出座席で脱出したりした搭乗員の救出を主任務とするヘリコプター3個飛行隊が存在している。このうちシーキング(HAR.3とHAR.3A)を装備する第22飛行隊と第202飛行隊はイギリス本国にあり、グリフィン HAR.2を装備する第84飛行隊はキプロスにある。軍事部隊として設置されてはいるものの、実際には海上の船舶や山岳などから民間人を救出する任務が大部分を占めている。

[編集] 支援ヘリコプター

兵士や装備を戦場へと送り出したり、戦場から別の戦場へと輸送して陸上部隊を支援することは、RAFの重要な任務である。支援ヘリコプターは、命令系統を統一するため1999年に創設されたジョイント・ヘリコプター・コマンド (Joint Helicopter Command) に所属する。大型のタンデムローターを持ち、重量物の輸送を引き受けるチヌーク(HC.2とHC.2A)がRAF オディハム (Odiham) 基地に、チヌークを支援するマーリン HC.3とより小型のピューマ HC.1がRAF ベンソン (Benson) 基地とRAF オルダーグローブ (Aldergrove) 基地に展開している。

[編集] 輸送機・空中給油機

1995年に王室用飛行隊 (Queen's Flight) はBAe 125 CC.3を装備する第32飛行隊に吸収され、VIP(要人)輸送を受けもつ第32王室飛行隊となった。第32王室飛行隊はBAe 125 CC.3の他にアグスタ A109BAe 146 CC.2など運用し、ロンドンの西に位置するRAF ノーソルト (Northolt) 基地に駐留している。RAF ブライズ・ノートン (Brize Norton) 基地のL-1011 トライスターVC-10は貨物、兵士とその装備を輸送する通常の任務だけでなく、タンカー機能を有するものは空中給油機としても運用されている。また、RAFはバディ式を採用しており、タンカー同士の給油も可能である。

輸送にはリネハム (Lyneham) 基地に駐留するC-130 ハーキュリーズが単機または数機で任務ごとに派遣されている。ハーキュリーズはK型に代わるC-130Jの装備が1998年に始まっているが、ボーイング社から長期リースで4機のC-17 グローブマスター IIIも運用した。国防省が新たにリース機を増やすと共に、運用中のC-17も2004年に切れたリースの期限に併せた購入することも発表し、RAFはC-17の保有数を増やすことで戦略輸送力の強化を果たした。

[編集] 練習機

初等訓練用の練習機としては、いずれもレシプロエンジン単発の、スリングスビー ファイアフライ (Slingsby Firefly) かチューター T.1 (Grob G 115E Tutor) のいずれかが使用される。チューターは、バイキング T.1 (Grob G 103A Viking) とヴィジラント T.1 (Grob Vigilant) と共に、パイロット候補生の飛行経験確保にも使われている。

中等課程では、飛行機にはターボプロップ単発のツカノ T.1 (Short Tucano) を、ヘリコプターにはスクワロー T.1 (Eurocopter Ecureuil) を使用している。航法訓練にはドミネ T.1が用いられる。

高等課程においては、ホーク T.1が高速ジェット機、グリフィン HT.1(ベル 412)がヘリコプター、スーパーキングエア T.1が多発機の課程で、それぞれ用いられている。

高等課程を終えた段階では第一線の部隊に必要な経験と能力が不十分であり、それらを機種・任務別に支援するため予備飛行隊において、キャンベラ T.4、ハリアー T.10、ジャギュア T.4、タイフーン T.1 といった、実戦機の訓練用派生型機が使用される[5]

[編集] 次世代機

RAFの航空機は運用している期間を通じて更新と改良を受け、状態が維持されているが、新型機が現行機と交代し、必要であれば新しい任務に就く。

何機かのC-130K ハーキュリーズは1999年に25機のC-130Jと交代している。また、間もなく配備されるエアバス A400Mは25機のC-130Kに代わって運用されることになっている。チヌークも特殊部隊の任務のため航続距離を増やし、アビオニクスを改良した新型のHC.3が開発された。配備はソフトウェアと法的問題で遅れた。すでにユーロファイター タイフーンは就役しており、RAFで最も数多く運用されている。タイフーンは要撃機のトーネード F.3と攻撃機のジャギュア GR.3Aと2010年までに交代する。また、実戦部隊と同様の機器と性能をもち、配備されている新型のホークがホーク 128と交代する。

旧式化した空中給油機のL-1011 トライスターとVC-10は、次世代戦略給油機 (Future Strategic Tanker Aircraft) 計画の元でエアバス A330 MRTTと交代する必要があるが、契約の問題で民間のトライスターとDC-10の改造機を導入することになった。

ハリアー GR.7とGR.9はイギリス向けに設計された統合攻撃戦闘機のF-35 ライトニング IIと交代する。2005年に中止されたが、トーネード GR.4の長期代替機に関する研究である次世代攻勢航空システム (Future Offensive Air System) が始まった。ピューマとシーキングで構成されたRAFの輸送ヘリコプター部隊は、恐らく支援水陸両用と戦場回転翼機 (SABR) 計画のマーリンとチヌークの混成になる予定である。

[編集] 参考

  1. ^ Aircraft, www.raf.mod.uk(英語)
  2. ^ Jaguar GR3/GR3A, www.raf.mod.uk(英語)
  3. ^ Typhoon F2, www.raf.mod.uk(英語)
  4. ^ Nimrod MRA4, www.raf.mod.uk(英語)
  5. ^ 41 Squadron, www.raf.mod.uk(英語)

[編集] 外部リンク

ウィキメディア・コモンズ


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