VIPカー
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VIPカー(ビ(ヴィ)ップカー / VIP Car)とは、大型高級車を改造した車両(改造車)の事である。VIP(Very Important Person - 要人)が乗る自動車を標榜して改造(主にドレスアップ)されることから名付けられる。また、亜流としてミニバンや軽自動車をベースとするカスタムがある。
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[編集] 起源
関西圏では、阪神高速環状線における警察のローリング族撲滅作戦により暴走族として走れなくなった走り屋やチームの一部が、車をシビックなどから高級車に乗り換えていじり始めたのが始まりとされる。
関東圏では暴走族車両として、マークII・クレスタ・アリスト・ チェイサー・シーマなどの4ドアハイソカーを改造するジャンル、いわゆるチバラギ仕様が根付いており、その延長線上であるという認識もある。この傾向は仙台を中心とした東北地方でも見られる。
メルセデス・ベンツのチューンド車両であるAMG、特に1980年代後半の黒系でまとめられた車両をモチーフとして改造されることも多々あり、これが起源であるとする説もある。
ヤクザ、チンピラ、ヤンキー、アウトローと呼ばれる、いわゆる「不良」と括られるジャンル人達が乗っているというイメージが強かったが、最近は普通の若者が乗っている例も多くなった。
従来は上記暴走族向けの車両であったこの種の改造車は、1990年代後半から暴走を行わない10代から20代前半の男性層にも定着した。千葉県、群馬県、栃木県などの首都圏周辺部や、大阪府・兵庫県・宮城県などの大都市の縁辺部では専門中古車店も多く存在し、活発な取引が行われている。
最近では海外でも人気があり、特にアメリカでは国内におけるVIPカー黎明期と同じく近年取り締まりの厳しくなったスポーツコンパクトからの乗り換えユーザーが多いという。これを受けてジャンクションプロデュース等海外へ進出する国内サードパーティーも見受けられる。
[編集] 概要
外装の改造ポイントは、大径・大音量マフラーへの換装や、エアサスキット、車高調、ローダウンサスなどによるローダウン、威圧的なフォルムを作るエアロパーツの取り付け、インチアップした幅広アルミホイールを履く、オーバーフェンダー加工、ホイールのツライチ(面一 ボディとの段差ゼロ)セッティングなどさまざまである。
内装の改造ポイントは、応接室をモチーフに仕上げることが多い為、大理石調や木目調のカラーリングが施されることが多い。また、ルームミラーにフサ(房、総)と呼ばれる装飾品を下げるなど、和風のテイストを持った改造が成される事も多いが、逆に原色や光物、ブラックライト、紫色などを使った派手な改造もあるため、こちらも特に定まっているわけではない。なお、スモークフィルムの貼り付けがなされる事も多いが、2004年より規制が厳格化された事には注意すべき点である。
現在はシンプル志向の改造が多くのオーナーに好まれ、控えめなエアロパーツ、小振りなマフラーなどのものが多い。また、前述の理由でスモークフィルムを装着しない車両も存在する。しかし外装とは反対に内装は多数の小型のモニターやハイパワーオーディオ、巨大なウーファーを装備しているものが主流である。
また、塗装も以前は原色系の派手なカラーが主流になった時期もあったが(1998年~2000年頃)、シンプル志向の改造がブームとなった現在では、シルバー、ブラック、パールホワイト、ワインレッドなど、一般的なカラーが好まれている。ただ、オールペイントをする事もまた一般的である。これは後述のベース車両が中古車主体である事に由来する。最近、原色系の派手なカラーにメルセデス・ベンツ Sクラスやレクサス・ES等をお手本にしたブラックルーフを組み合わせる配色パターンも人気である。
しかしながら、これらの中には本来のVIPが乗車する車両にはあり得ない改造も一部含まれている。特に車内外の静粛性が求められるはずの車で大きな音が出るだけのウーファーやマフラー、乗り心地が求められるはずの車で固いダウンサスの使用は、「本来の意味で」の要人専用車としては問題外である。
暴走族など反社会的集団の構成員にも地位の上下を問わず人気である。集団の上下によってベースとなる車が異なるだけである。
[編集] 対象車種
一般的には130系トヨタ・クラウン以降のトヨタ製大型高級セダン、Y31系日産・セドリック/グロリア以降の日産製大型高級セダンである。一部ホンダなどの高級セダンもベース車両として用いられる。
トヨタ・センチュリーや日産・プレジデントなどの社用車、レクサス・LS・レクサス・GS・トヨタ・セルシオ・トヨタ・アリスト・トヨタ・クラウン、日産・インフィニティQ45、日産・シーマ、日産・フーガ、日産・セドリック/グロリアなどのオーナードライバー向け大型高級セダン (しかし、ハードトップとセダンを一本化する前は、150系以前のクラウン・Y34系までのセドリック/グロリアなどはハードトップが用いられる) が用いられるが、ホンダ・レジェンドやホンダ・インスパイア等も人気が根強い。この他にも少数派ではあるがマツダ・ミレーニア・センティアベースのものも存在する。トヨタ・ソアラベースも見られる。
一部には新車を改造する者もいるが、中古車を改造するのが一般的である。一部ではメルセデス・ベンツEクラス・Sクラス・CLSクラスや、BMW7シリーズなどの輸入車もベースになることがある。輸入車でも中古車がベースであり、現行車種が対象となることはあまり多くない。
セダンよりも空間が広くとれるミニバンをベースとする手法もある。代表車種はトヨタ・エスティマ、日産・エルグランド、ホンダ・オデッセイなど。
税金が安い軽自動車をベースとする同様のカスタムも根強い人気がある。軽トールワゴンのスズキ・ワゴンRやダイハツ・ムーヴ、三菱・ekなどが例。ただ、これらの車種は本来「VIP(要人)」の車ではないという指摘もあるが、VIPカーと言う存在自体、概要の項で述べたとおり「要人の車」ではない。
[編集] VIPカーを取り巻く環境
VIPカー的なドレスアップによって、その車種に対するイメージの悪化を嫌う人もいる。これはその派手な外見や内装、車の出す騒音、あるいは所有者自身や違法改造されたものも一部にはあるため、一般的には暴走族・珍走団(スラングで言うところのDQN)と見なされることが多いためである。
メーカーにもそのような傾向があると思われ、2004年11月に発表・発売されたトヨタ・マークXや後発のレクサス・LS、トヨタ・クラウンでは、バンパーとマフラーが一体的にデザインされている。これを見習い、軽をはじめとするいろいろなクルマがバンパー一体マフラーにカスタムしているが、最近になってサードパーティーからレクサス・LS用のエアロパーツが発売された。ちなみにバンパー一体型のマフラーを通常のマフラーに交換することはそれほど困難ではなく、実際エアロパーツメーカー「ケンスタイル」からマークX用の通常型マフラーが発売されている。
ただ、純正のエアロパーツやホイールの中にも派手なパーツはあり(代表的なものとしてJZS161アリストV300ベルテックス、20系後期セルシオの純正アルミ)、VIPカー的なドレスアップに限らず、メーカーがこういったユーザーによるクルマのカスタマイズを根本から否定しているとは考え難い。実際に、自動車本体のデザイナーと、純正エアロパーツのデザイナーが異なる事が大半である。デザイナーの意図したデザインは、たとえ純正であろうとオプションのエアロパーツがついていない状態が多い。
本来別ジャンルであるラグジュアリーカーにて対象となる車種もVIPカーの対象に含まれることがある。これは、主に両者のカスタム趣向や車の形態などに類似性があることによる。
[編集] パーツのブランドについて
VIPカーにおいてはベース車両のランクもさることながら、パーツのブランドも重要視される。特に有名なのはインパル、ジャンクションプロデュース、(アレス・プレミアム・スポーツ・ディスティニーブランド含む)エボリューション(オートクチュールブランド含む)、アドミレイション、WALD(ヴァルド)、インシュランス、ワイズ、ギャルソン(D・A・D含む)、ファブレスなどがある。特にブレーン、K-BREAKなどのパーツメーカーは、全国的に有名であったVIPカーオーナーが設立したメーカーであるため、ユーザー感覚に近い製品のため人気がある。
ホイールのブランドとしてはOZレーシング(フッツーラ・オペラ・ミケランジェロなど)、ワーク(レザックス・マイスター・エクイップ・ユーロラインなど)、BBS(LM・RGなど)、MAE、タケチプロジェクト(レーヴェンハート・ベルサリオなど)、SSR、スピードスターなどがある。また、上記にあげたジャンクションプロデュースやWALD、ファブレスなどは、自社でホイールの開発も手がけている。さらに、BMWチューナーのアルピナや、メルセデスチューナーのブラバス、ロリンザーなどのホイールが加工流用されることもある。一般に、稀少かつ高価なホイールほど格が上とみなされる。
なお、改造はショップと呼ばれる板金屋で行うのが一般的である。全国に多々ある板金塗装店の中でも、いわゆる名店と呼ばれるショップは少なく、どこのショップによるカスタマイズかによってもクルマの格が変わってくるといえる。
[編集] チーム・イベントについて
VIPカーのオーナーは、チームやクラブ、連合などと呼ばれる集団に属している者が多く、またミーティング、イベント、ドレコン(ドレスアップカーコンテスト)などと呼ばれる集まりに参加するものも多い。彼らは暴走族に見られる集会などとは違い、全国規模での集まりであることが多い。そのため、プレートと呼ばれるフロントガラスに提示する室内用装飾品や、ステッカーなどで自らのチームをアピールしていることが多々ある。
[編集] 注意点
専従の運転手がおり、オーナー本人は後席に乗車する一般社会の”ショーファー ドリブン カー”と違い、“オーナー自らハンドルを握って運転する”というポイントの違いには注意しなければならない。当然ながら一般にVIPとして扱われるのは後席の乗員である。
「VIP」を「ビップ(ヴィップ)」と読むのは、語学的には誤りである。また、アメリカ合衆国等北米ではVIPをビップと呼ぶのは軽蔑的な意味があり、正しくは「ブイ・アイ・ピー」である。 なお、専門誌、特にVIPCAR誌が意図的に上記のような改造高級大型セダンを「ビップカー」と名づけたのは、ショーファー ドリブン カーのイメージを敢えて打ち消すためであると公式コメントを行っているが、「VIP」は前述の通り「ブイアイピー」と発音するのが正しいものであるため、この意図は広く理解されることなく定着してしまい、誤りをそのまま使用したものと一般的に解釈されるようになってしまった。
VIPカーという言葉の語源は、古くはY30型セドリックグロリアにあったブロアムVIPというグレードのためであるという説や、雑誌『ヤングオート』(現在休刊)のコーナー、VIPCLUBであったという説などがある。
その特徴的なスタイリングで目立ちやすく、マナーの悪さも目立ってしまうため、悪印象を抱かれる事も多い。そのため、VIPカーに否定的な意見を持つ者は徹底的に嫌う傾向にある。
また、自分の車に「BIP」と書かれたシールを貼った者が目撃されている事から、"ビップ"と言う語のスペルを理解できないほど無教養な者もいるとされる。同様の理由でVery Immoral Person's carの略と揶揄されることもある。蔑む意味でわざと「BIPカー」と呼ぶ場合もあるが(似たような例にX JAPANのhideが逝去した際に車のリアガラスにカッティングシートで文字を貼っていたが、「X-japan hide Forever」とする所を「hibe」として居た為、一時期ネットコミュニティでは同語を用いて揶揄していた)、これは一般に「ボロいVIPカー」や「馬鹿の乗るVIPカー」の意味である。VIPカーに改造される車は年式落ちでが古くなると安価で入手することができる型落ち高級車が使われることが多いためである。
最近は、こういった車の整備等をお断りする自動車修理店及びカー用品店も増えてきている。
車検証の記載事項を超える改造、安全性に問題がある改造、整備不良と扱われる改造などは継続車検が受けられないばかりか、警察に検挙されることもある。特にスモークフィルムの装着は一般的であるが、リア側だけでなくフロント側にも施行しフルスモーク化するのは違法であり、施工業者すら逮捕された事例もある。
軽自動車やミニバン、低排出ガス車認定制度が開始された平成12年以降に生産された高級車をベースにするのでなければ、高額の改造費用に加え、旧形式の大型車だけにガソリン代や自動車税など維持費も高額となり、また老朽化、メカニカルの複雑さから故障も多い。
バンパー交換タイプのエアロバンパー及びフロントバンパー下に取り付けするハーフスポイラータイプの物は、それらを取り付けた上、車高を下げているため、最低地上高が拳(こぶし)ひとつすら入らないくらい低いものとなっている車両が多く存在する。その上、そういったエアロパーツは、あくまでも見た目重視であり、実用性を考慮せずに開発されている物が大半であるため、日本の道路事情に合わない物ばかりであり、エアロ下部分を擦ったり、ぶつけて割ってしまうというケースも多くある。