軽トールワゴン
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軽トールワゴン(けい- )とは、軽自動車のスタイルの呼称である。軽ハイトワゴンとも言う。
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[編集] 概要
前部にボンネットを備えた、2BOXハッチバックスタイルの軽自動車であり、一般的には車高制限の厳しい機械式立体駐車場に入庫できない高さである1550mmを超える高い全高のキャビンが最大の特徴の乗用車である。但し、三菱・eKシリーズ/日産・オッティやスバル・プレオのように機械式立体駐車場に入庫できる高さが1550mmの車も含まれる事もあるが、こちらは軽セミトールワゴンに分類される事もある。また、三菱・iは車高1600mmではあるが、スタイリング重視で造られている事から軽トールワゴンとは言い難い事もあり、現状では定義が曖昧である。
トールワゴンの軽自動車版といえる。エンジン配置はボンネット内への横置き配置が基本で、駆動方式は前輪駆動もしくは4WD。ドアの種類・配置は、側面はヒンジドアを前席用と後席用の左右2枚ずつ、後部にはバックドア1枚を備えた5ドア車が一般的で、スライドドアが採用されているのは、2代目 三菱・eKワゴン/日産・オッティ, 2代目 ダイハツ・タント, スズキ・パレット、のみである。セミキャブオーバー型軽1BOXワゴンは含まない。
現在の軽自動車では主流のスタイルであり、キャビンの高さを通常より高くすることによって、広い室内スペースを実現し、しかも使い勝手にも優れる。これは現在ブームとなっているミニバンにも共通する長所であり、よって軽トールワゴンも大変人気が高い。軽自動車全体の特徴でもある価格や燃費などのコストパフォーマンスの良さと、その背景にある1990年代から続く不況という情勢も人気を増幅している。スズキ・ワゴンRが人気に火を付け、以後軽自動車メーカーにとって激戦のカテゴリとなった。各メーカーとも様々な軽トールワゴンをラインナップして、消費者の取り込みを図っている。
[編集] カテゴリ名の呼称について
本項においては、概要の節に記された定義に沿った形態を「軽トールワゴン」もしくは「軽ハイトワゴン」と呼称しているが、実際においては、同カテゴリに対する呼称が業界もしくはメディア間で必ずしも統一されていないのが実態である。よって「軽ミニバン」という呼称が使われる場合もあるが、この「軽ミニバン」という言葉だと一部ではセミキャブオーバー型軽1BOXワゴンを含めて解釈する場合も見られるので、本項では呼称しない。中にはセミキャブオーバー型軽1BOXワゴンとの混乱を避け、明確に区別してカテゴライズするために、同カテゴリの発祥車種であるスズキ・ワゴンRの車種名から取って「ワゴンR型」や「ワゴンRスタイル」などと呼称する場合も一部で見られる。
[編集] 歴史
軽トールワゴンの起源を探ると、1972年登場のホンダ・ライフステップバン(以下ステップバン)に行き着く。ステップバンは現在の軽トールワゴン同様、エンジンを収めたボンネットに背高キャビンを備えるというスタイルで、軽トールワゴンの先駆けのような車であった。ただ当時のステップバンは、世に登場するのが早すぎたのかあまり売れなかった。原因として、当時のキャブオーバー型軽1BOXカーと比較されて、積載能力の低さがウィークポイントとなったと言われている。ステップバンは現在のような乗用車としての提案ではなかったし、消費者も乗用車として捉えなかった点も大きかったのであろう。その後しばらくは、この手のパッケージングの軽自動車は登場しなかった。
ステップバンが消えてしばらくして1990年に三菱からミニカトッポが発売された。ミニカトッポはスズキがワゴンRを生み出すきっかけとなった車とも言われている。そのミニカトッポはミニカ(6代目)の派生車種として登場した。その最大の特徴は、ボンネット形状やメカニズムは当時の通常のミニカと共通であるものの、背の高いキャビンを与えたことで広い室内スペースを実現した点である。これは現在の軽トールワゴンとも共通する特徴である。但し現在の軽トールワゴンと違う点は、ボンネット形状が当時のミニカそのままにキャビンだけを上に伸ばしたような少々アンバランスなボディスタイルで、印象もワゴンというよりカーゴであった。ドアが左右のヒンジドア2枚+バックドア1枚の計3枚しか備わってない点も現在の軽トールワゴンと異なっていた。座面の高さも従来の軽自動車と同等で、従来の2BOX軽自動車の概念を覆すに至らなかった。それと使い勝手の面もドアの枚数に限らず全体的に未成熟であった。とはいえミニカトッポは当初は他社に競合車種がなかった事もあり、割合売れたものの、大きな支持を得るには至らなかった。
軽自動車の主流が軽トールワゴンになるきっかけを起こしたのは、スズキ・ワゴンRである。1993年に登場したワゴンRは、ミニカトッポのように背高キャビンを備えるがアンバランスさは無く、整ったスタイリングで、乗り降りがしやすく後席の自由度も高かった。ドア数も当初は右側だけ後席ドアの無い4ドア車であったが、スクエアフォルムにより後部の積載能力も高く、4ドアという点も肯定的に受け入れられた。そしてミニカトッポ、さらにはそれまでの軽自動車の概念を覆したのは、その座面の高さにある。それまでの一般的なシートが座椅子だとすれば、ワゴンRのそれは完全に椅子であった。しかしこれによって、足を窮屈に前方に投げ出す必要がなくなり圧迫感もそれとともに軽減され、視点が高くなることにより眺望性・視認性が向上し開放感も増したことである。これらにより、それまでの乗用車にはない広々とした空間を創造した。その広さが消費者の支持を受けて、瞬く間に大ヒット車種となった。スズキはかつて1979年にアルトのヒットで軽ボンネットバンというカテゴリを切り開いた過去があるが、このワゴンRのヒットで、スズキは再び新たなるカテゴリの開拓に成功したことになる。そのような点からワゴンRはエポックメイキングな車だったといえる。現在も軽トールワゴンの元祖はワゴンRとする見方は非常に多い。それはこの車以前に存在したステップバンやミニカトッポとは違い、現在の軽トールワゴンの基本コンセプトを築いた点はもちろん、他メーカーが追随し競合車を多く発売するようになったきっかけを生んだ点が挙げられるからである。トールワゴンとは異なるカテゴリにおいてもこれらの手法を部分的に取り入れた車も登場するようになった点も考えると、それほどワゴンRが軽自動車市場のみならず、自動車市場全体に及ぼした影響は大きかった。
このワゴンRのヒットをまざまざと見せつけられた軽自動車業界第2位でスズキの最大のライバルであるダイハツは、それに対抗すべく1995年にワゴンRと同様のパッケージングを取り入れたムーヴを投入した。ムーヴは、販売台数でワゴンRを抜き去ることは出来なかったが(後の2003年にようやく販売台数逆転に成功する)、ダイハツの看板車種として、またワゴンRの最大のライバルとして成長していった。
ムーヴとワゴンRによって軽トールワゴンのカテゴリは大きく活気を見せ、その後、同カテゴリには1997年にホンダがライフを、1998年に、遂に三菱がかつてのミニカトッポのパッケージングを捨ててワゴンRのパッケージングを取り入れたトッポBJを投入し、主要なカテゴリとして完全に確立され、軽トールワゴンは軽自動車の主流となった。
ただし、スバル1社のみは自社の生産能力や規模の観点から、車高を機械式立体駐車場に入庫できる高さである1550mmとし、セダン(ハッチバック)系統にトールワゴンの性格を持たせたプレオで対応していた。しかし、2006年5月、新車種のステラを投入し、セダンの系統であるR2(2代目)と別れた。これで全ての軽自動車メーカーが軽トールワゴンに参入したことになる。また、スバル・360で「本格的な乗用車としての」軽自動車を完成させた元祖であるメーカーがカテゴリに参入したことにもなる。
その後も軽トールワゴンの軽自動車での主流の地位は揺るぎないが、各社軽トールワゴンカテゴリを1車種だけに留めなかった。スズキがワンモーションフォルムのMRワゴンを発売。さらにタント対策のパレットを発売した。ダイハツは更なるキャビン拡大を図ったタントを発売した。さらにはワゴンRやムーヴなどの既存の車種においても、スポーティ仕様を追加するなどした。三菱は車高を低くし、立体駐車場に入る車高としたeKを発売した。eKは主婦層のセカンドカーを狙ったこのカテゴリでは長らく不在だった5速MT車を追加したり、軽自動車を持たなかった日産にオッティとしてOEM供給を行って、バリエーションと販売店を増やすことによって、コンセプトを変えた複数の車種を揃えて更なる消費者の取り込みを図っており、同カテゴリはますます広がりを見せている。ekシリーズ発売と同時にトッポBJも継続生産されたものの、結局は生産中止となってしまい三菱からは車高が1550mm以上(ekアクティブは別として)の軽トールワゴンは2004年1月をもって生産を中止し、同社のekアクティブの発売に伴い同年4月をもって販売を終了した。
[編集] 車種一覧(現行車種)
- スズキ・ワゴンRシリーズ
- マツダ・AZ-ワゴン(ワゴンRのOEM車種)
- スズキ・MRワゴン
- 日産・モコ(MRワゴンのOEM車種)
- スズキ・パレット
- ダイハツ・ムーヴシリーズ
- ダイハツ・タント
- 三菱・eKシリーズ
- 日産・オッティ(eKのOEM車種)
- 三菱・i(軽トールワゴンに含めるかは見解が分かれる)
- ホンダ・ライフ
- ホンダ・ゼスト
- スバル・ステラ
- スバル・プレオ(セダン系統であるヴィヴィオの後継も兼ねており、形状的にも完全なトールワゴンとは言いにくい部分もある。なお、ワゴンR以降の車種としては唯一、商用バンモデルがある。2007年現在、新車で購入可能なのは商用バンモデルのみ)