運河
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運河(うんが)とは、船舶の移動のために人工的に造られた水路であり、河川・湖沼を利用しているものもある。鉄道同様経路中に、橋梁や隧道などもみられる。産業革命以前は船舶を騾馬などが牽引したため、経路に沿って曳舟道(トウパス、towpath、船曳道、牽引路)が設けられている。
海岸・河川付近に造られたもののほか、河川間に造られたもの、半島を横断するもの(キール運河等)、地峡(陸の狭窄部)を横断するもの(スエズ運河・パナマ運河)がある。
世界最大の運河は、1400年ほど前に作られた中国の京杭大運河。
ドイツが東西に分裂していた時代、西ベルリンに運び込まれる西側からの生活物資の大半は、ハノーファーから運河で運ばれていた。西ドイツの航空機は、西ベルリンに入ることが出来なかったためだが、ヨーロッパでは日本人の想像以上に運河は大切な交通手段で、しかも人気のレジャーのひとつ。フランスも、運河を回るだけで、ほぼ一周することができるという。
イギリスも多数の運河があり、これらは産業革命時代に馬車に代わる大量輸送手段として盛んに建設された。陶器会社のウェッジウッドが馬車による輸送での陶器の破損を避けるために製品輸送用の運河を造った例などが有名である。貴族でも目先の利くものは領地内に運河を造り、通行料を取って大もうけをした。しかし、運河による輸送は鉄道の勃興と共に衰えた。現在は、主に観光やレジャー用に使用されている。運河で用いる舟をナロウボートという。ロンドンのリトルベニスに運河時代の町並みが現存している。
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[編集] 水位差の調整
標高に差のある地形に運河を建設する場合、水位の高低差を調整する仕組みが必要になる。この仕組みとして、閘門、インクライン、ボートリフトなどがある。
[編集] 閘門
閘門(こうもん)とは、閘室と呼ばれる前後を扉で仕切った水面に、片方の扉を開けた状態で船を入れて扉を閉じた後、他方の扉側の水路の開閉によって水位を昇降させ、その後他方の扉を開けることにより船を昇降させる装置。
パナマ運河にあるものがよく知られている。中国では、13世紀にクビライによって築かれた通恵河がある。アメリカ合衆国とカナダの五大湖・セントローレンス川水系にはスーセントマリー運河やウェランド運河といった閘門式運河がある。日本にも埼玉県さいたま市に同様の構造の見沼通船堀(みぬまつうせんぼり)がある。茨城県稲敷市・千葉県香取市境の横利根閘門や愛知県愛西市の船頭平閘門は重要文化財に指定されている。名古屋市の松重閘門(現在稼動せず)は、東海道新幹線や東海道本線・名鉄名古屋本線(同線山王駅近く)からも見ることができる。関西では毛馬閘門(淀川)、尼崎閘門(尼崎港)が現役で稼動している。
閘門の扉は観音式の扉が左右に開閉する「マイターゲート(扉が左右に開くため上部に構造物が無く、背の高い船を通せる。パナマ運河などで使われている形状)」と扉が上下に動く「ローラーゲート(扉の開閉の際に水圧の影響が少ない。いわゆる水門と同じ形状)」がある。
[編集] ギャラリー
- 閘門での水位調整の例
毛馬閘門に入ったアクアライナー(淀川本流より手前の大川の方が水位が低い) |
[編集] インクライン
船を水に浮かんだままの状態で台車に収納し、台車全体を斜面に沿って引き上げることで水位差を吸収する。日本では琵琶湖疏水の蹴上に設置されていたが廃止された。日本以外ではイギリス、アメリカを始めフランス、ベルギーなどに設置され、現在も使用されているものもある。
[編集] ボートリフト
シップリフト、運河エレベータと呼ばれることもある。インクラインからさらに進んで、船を水に浮かべた箱をエレベータのように垂直に昇降させることで水位差を吸収する。
古いものでは、1875年にイギリスの運河に建設されたアンダートンボートリフト (Anderton Boat Lift) や20世紀初頭にドイツのベルリン郊外に建設されたNiederfinowボートリフトがある。
近年のものでは、ベルギーのサントル運河(中央運河)に建設された Strepy-Thieu リフト(2002年完成)がある。Strepy-Thieuリフトでは、高低差73mの運河に、1350tの船を収納し、水も含めると約8000tの重量を昇降させることができる巨大なリフトを2基備えている。これはユネスコの世界遺産にも登録されている一連の4つのボートリフトに代わり、高低差を一気に克服するものである。
また、スコットランドのフォース・クライド運河にあるフォルカークホイール(2002年完成)は、回転運動により船舶を昇降させる、視覚的にも大変興味深いボートリフトである。
[編集] 世界三大運河
- キール運河
- ユトランド半島の根元に位置し、バルト海と北海を結ぶ運河。
- スエズ運河
- 地中海と紅海を結び、インド洋へとつながる海の交通の要衝。
- パナマ運河
- 中央アメリカにある太平洋と大西洋を結ぶ海の交通の要衝。
[編集] その他の運河
[編集] ヨーロッパ・ロシア
ヨーロッパでは、絶対王政を確立し中央集権国家が登場し始めた17世紀頃から近代的な運河の開削が活発になった。
ベルギー、オランダ、ドイツ北部にかけての地域では貨物船も航行可能な長大な運河網をもち、現在も物流の一翼を担っている。また、国際河川であるライン川とドナウ川を運河で接続することで、ヨーロッパの北側の北海から南東側の黒海の間まで貨物船の航行を可能にしている。ライン川の河口に位置するオランダのロッテルダム港は世界一の貿易量を誇り、ドイツのルール地方にあるジュイスブルク港は内陸港としては最大規模の積み替え量を誇る。ヨーロッパの貨物輸送に利用される運河では、運河用に作られた1,350tクラスの専用船を使用する。
ロシアもまた、ヴォルガ川など大河に設置した人造湖や運河を結ぶことでカスピ海からバルト海、黒海までを結ぶ水網を有している。ロシアでは冬季に運河が凍結するため、1年のうちでも輸送可能な期間が限られている。
- ミッテルラント運河、ドルトムント・エムス運河など
- ライン川下流域から東に伸び、ベルリンの東部、オーデル川まで接続する貨物船の航行可能な運河。この水網はさらに別の運河を通じて、航行可能な船舶は制限されるものの東はポーランドのワルシャワやウクライナのキエフ、西はフランス北東部を経由してパリまで通じている。古い時代の運河は貨物の運搬には使用できないが、その景観を活かして主に観光やレジャーに利用されている。
- ライン・マイン・ドナウ運河
- 北海に注ぐライン川と黒海に注ぐドナウ川の間を結ぶ、貨物船の航行が可能な運河。
- ドナウ・黒海運河
- ドナウ川の下流にある。ドナウ川は下流で大きく迂回するため、ショートカットするように運河が開削されている。
- コリントス運河
- ギリシアのペロポネソス半島の根元を横断する運河。
[編集] アメリカ
- セントローレンス海路 (The St. Lawrence Seaway)
- 大西洋と五大湖を結ぶ。五大湖の途中にはナイアガラの滝を回避するウェランド運河がある。この運河系は、大型の外洋船舶の航行が可能であるため「海路」といわれる。日本語訳には「海路」の他に「水路」も存在する。
- ニューヨークステートバージ運河(エリー運河)
- 1825年開通。ニューヨーク州を東西に横断し、ハドソン川とエリー湖を結ぶ。この運河により、ニューヨーク市に河口があるハドソン川を遡上し、オールバニ(州都)から運河に乗り換えてエリー湖北東岸のバッファローへと航行することが出来るようになり、ニューヨーク(大西洋)と五大湖が結ばれた。
- イリノイ・ミシガン運河
- 1848年開通。イリノイ川とミシシッピ川を結ぶ。シカゴに河口があるイリノイ川を遡上し、運河に乗り換えてミシシッピ川に至ることが出来るようになったため、ニューオーリンズ(メキシコ湾)と五大湖が結ばれた。
[編集] 中国
- 大運河
- 隋の時代に完成した長江と黄河を結ぶ総延長約 2,500km の運河。水運による物流が活発になったことで、後には運河の中継地に首都を置く王朝も現れた。
- 通恵河
- 元の時代にフビライによって築かれた、全長84kmに及ぶ閘門式運河。十三世紀当時、草原の真っ只中にある湖にすぎなかった積水潭(せきすいたん)はこれによって海と結ばれ、元の首都である大都は国際的な貿易港へと発展した。
- 三峡ダム
- 長江流域に建設中(2005年現在)のダム。運河ではないが、ダムには船舶を航行させるための閘門設備と、閘門とは別に大型のボートリフトを備え、閘門では 10,000t、ボートリフトでは3,000tの船舶の航行を予定している。
[編集] 中央アジア
[編集] 日本
日本は、周りを海に囲まれており、時代の要請に合わせて海運が発達したため、川船のための運河を造るよりも河口の港同士を結ぶ海運航路が開発された。安土桃山時代にかけて治水能力が向上し、江戸時代にかけて、地方政権(藩)が各地に出来て資本集中と城下町建設(都市化)が発生したため、各地で河川改修や運河開削が行われ、川船流通が発達した。明治以降は、速く大量に物資を運ぶことが出来る鉄道が発達したため、近代的な運河は六大都市の大量物流に関わる部分や国際貿易港周辺に主に造られた。昭和時代になると、トラック流通が発達したため、堀や運河を埋め立てて道路にする動きが活発化した。現在の街の幹線道路がかつての堀の跡だったところも多い。
[編集] 内陸水運
- 利根運河 (千葉県)
- 利根川と江戸川を結ぶ水運用の運河で1890年の開通。東北地方からの物資を東京に運ぶ際、房総半島を短絡する目的で造られた。日本初の西洋式運河。全長は約8km。
- 琵琶湖疏水 (滋賀県-京都府)
- 水道用、発電用として作られたが水運としても利用された。1894年に全通。第一疏水と第二疏水で多少長さが異なるが、いずれも8km前後。
- 高瀬川(京都府)
- 江戸時代初期の1614年に開通。京都の中心部と伏見を結ぶ約9.7km。
- 道頓堀 (大阪府)
- 大阪の中心部の繁華街にある有名な堀。江戸時代初期の1615年に開通。木津川と東横堀川を結ぶ約2.5km。
[編集] 外洋からの荒波を避け、物流の安定と集中を目的とした運河
- 貞山運河 (宮城県)
- 伊達政宗の命により安土桃山時代末期から江戸時代にかけて開削された部分と、明治政府によって開削された部分とがある。北上川河口から松島湾を経て阿武隈川河口までの仙台湾沿いにあり、岩手県の北上川水系、仙台平野の全ての水系、福島県中通りの阿武隈川水系など、多くの水系から川船のまま海船の拠点港に物流を集中させる目的で造られた。全長は60km。日本の運河の中では最も長い。
- 利根川(関宿~鬼怒川合流点)(千葉県・茨城県)
- もともと利根川は東京湾に注いでいたが、関宿から東進して鬼怒川下流域と合流させるという事業が行われた(利根川東遷事業)。これは治水が主目的であったが、結果として東北東岸からの海運貨物を房総半島を回ることなく内陸水運にまわし、利根川を遡上して江戸川を下るというルートを開拓した。日本における初期の大規模運河事業のひとつであったとも言える。1654年の開通で、開削区間は約25km。