空冷エンジン
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空冷エンジン(くうれいエンジン)とは、内燃機関から発せられた熱を直接外からの空気(外気)を利用して排熱し冷却するエンジン。
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[編集] 概要
空冷エンジンの特徴として水冷エンジンに比べ構造が簡単でコストが安いので二輪車には昔から多く普及している。その反面空冷式はエンジン表面を流れる空気が冷却の要になるため、風を受けていない(長時間のアイドリング等)状態が続くとオーバーヒートの可能性がある。エンジンオイルも重要な冷却要素となり、両者の冷却バランスを図ることで、初めて安定した性能のエンジンとなる。
自動車用では冷間時と温間時、軽負荷時と高負荷時などの運転状況の変化に対して、全域での燃焼(温度)管理が難しく、排ガス規制への対応が非常に難しい。さらに、温度変化の幅の大きさは、シリンダー、ピストン間の、熱膨張によるクリアランスや真円度の変化にまで及ぶため、それなりの設計と対策が必要となり、高性能化には多くのコストがかかる。
燃料のエネルギーをヒーターなどで有効利用出来ないため、その分は損失となる。
空冷エンジンは走行風を受ける面積を増やすためにシリンダー及びシリンダーヘッドに蛇腹型の形をした冷却フィンが付いている。そのため、体積と表面積のバランスから大排気量では、冷却ファンを含めたスペース面で空冷エンジンは不利で、小型エンジンの方が適している。
その結果、空冷エンジンは比較的小排気量の汎用エンジンや二輪車で一般的であり、自動車用では一時は隆盛を誇ったものの、時代の流れに対応できず、マイクロカー以外では姿を消した。
[編集] 自動車
水冷同様、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンとがある。 空冷ディーゼルエンジンは戦車やピンツガウアーなど、軍用車両とその民生用などの一部に限られるが、ガソリンエンジンは、第二次世界大戦後ブームとなったことで、多くの例がある。
米国では、1902年創業のフランクリン社が1934年まで空冷エンジン自動車を生産した。創業者はダイキャストという言葉を作り、それ以前にはダイキャスト事業をおこなっていたハーバート・フランクリン。不凍液の登場までは寒冷となる地域では空冷エンジンが大きな優位性を持っており、いかなる天候時にも乗る必要があった医者に多く用いられた。1905年には6気筒エンジンも製作している。欧州では、チェコのタトラの影響が大きく、その後フォルクスワーゲン・タイプ1やポルシェ356がリアエンジンで空冷エンジンを採用した。さらにフォルクスワーゲン・タイプ1の成功からフォロワーが多く現れ、一時はGMやトヨタさえもが手がけるなど、第二次境大戦後の大衆車ではリアエンジンと空冷は流行のエンジニアリングとなった。
リアエンジン以外では、フランスのパナールやシトロエンが、戦前から得意であったFFとの組み合わせで、水平対向エンジンを前車軸後方に置いていた(フロントミッドシップ)。
各メーカーとも簡単な構造で低コストである空冷のメリットを生かすべく、駆動方式はRRかFFが一般的でありGMも無理をしてその流行に乗ったほどであった。しかしRRの操安性の問題に気付いていたトヨタは、また一方では等速ジョイントの信頼性の不安からFF化にも非常に慎重であり、初代パブリカと、その派生車であるスポーツ800とミニエースをFRレイアウトとして発売したが、これは世界的に見ても非常に珍しい例である。
自動車における空冷エンジンの弱点は、エンジンのみで快適なヒーターを実現することが不可能なことである。排気マニホールド部にヒートエクスチェンジャーを設ける方法が一般的であったが、熱量の少なさや、油臭、さらに排気漏れによる一酸化炭素中毒の問題などがあり、後付けの燃焼式ヒーターも用意されたが、外気導入で暖かいフレッシュエアーを大量に供給できる(油臭がないほか、窓の内側も曇りづらい)水冷エンジンの温水式ヒーターに較べると、快適性では大きな隔たりがあることは間違いなく、販売上では大きなマイナスとなった。
またエンジンの温度が大きく変化するため排気ガス規制への対応が難しい。
騒音に関しても水冷と比較すると非常に不利で、冷却ファンの風切りや、シリンダーフィンの共鳴、また、ウォータジャケット(冷却水の循環する通路)を持たないことなどで大きくなる傾向にある。
このためタトラの一部を除いて高級車には空冷エンジンは存在しない。
空冷の代名詞でもあったポルシェのタイプ993が、通過騒音規制をクリアすることが出来ないことを理由に1998年に、またメキシコ生産のフォルクスワーゲン・タイプ1も排ガス規制に適合できず2003年に、それぞれその幕を閉じ、空冷乗用車の歴史は終焉を迎えた。
高度に進化した現代の自動車では、水漏れの心配がないこと以外に水冷エンジンに対するアドバンテージはないが、趣味の世界では空冷エンジン独特の冷却ファンの音を好む人は多く、その希少性からも依然として人気が高い。
[編集] 航空機
航空機のレシプロエンジンでは、その使用環境から、冷媒に不自由せずまた構造が単純で重量軽減に有利である空冷エンジンの使用頻度が高く、その多くが冷却用流入空気にシリンダーを効率的にさらす事のできる星型エンジンであった。しかしジェットエンジンが主流となった現在、生産されているものは小型機、小型ヘリコプター用のみで、全て水平対向エンジンとなっている。
第二次世界大戦当時の日本では、ドイツから評価の高いダイムラー・ベンツ社製液冷(水冷)エンジンの設計図を取り寄せたにも拘らず、設計、加工、組み立て技術など工業レベルが低劣であり、この種のエンジンに対する理解も足りなかった為、長いクランクシャフトやシリンダーブロックの精度や剛性が不十分で、高負荷、高回転運転が出来ない有様であった。また元設計どおりではなく日本で変更が加えられたことも不具合の拡大につながったと言われており、結局この問題は最後まで解決できなかった。そのため陸軍海軍とも配備された液冷エンジン機の稼働率は依然として極めて低いままであった。エンジン生産も軌道に乗るどころか遅々として進まず、慢性的なエンジン不足をきたしており、航空機メーカーにはエンジン未搭載の「首なし」機が多数放置される有様であった。そのため陸軍のキ-61「飛燕」と海軍の「彗星」艦爆は、緊急措置として空冷エンジンに換装されることとなった。これらの機体は最高速度など一部の性能が原型機のカタログスペックよりは低下したものの依然として高性能で、重量軽減により運動性能が向上するなどの副次的効果もあり、何より慣れ親しんだエンジンを積んだことで扱いやすく、稼働率も一般的なレベルまで持ち直したため、操縦士、整備士ともに現場の評価は上々であった。特にキ-100「五式戦闘機」(「飛燕」のエンジン換装型の呼称)に関しては、陸軍最優秀機と評価される事も多く、もっと早く換装に踏み切っていれば、との声も少なくない。結局日本では、最多生産数の零式艦上戦闘機を始めとするほとんどの航空機が星型空冷エンジンを搭載していた。
一方ドイツやイギリスでは液冷エンジンが主流で、空冷エンジン搭載機は少数派であった。ただし、アブロ・ランカスター爆撃機などには、液冷エンジンの供給不足への対策として、一時的に空冷エンジンを搭載した型も生産された。ドイツのフォッケウルフ Fw190戦闘機が空冷エンジン搭載であるのも同様の理由による。
アメリカでは空冷エンジンが主流で、液冷エンジン搭載機のベルP-39やカーチスP-40などはいずれも平凡な性能であったが、イギリスのロールス・ロイス・マーリンエンジンがライセンス生産されるようになると、ノースアメリカンP-51などの傑作機も生まれた。しかしながらグラマンF6FやリパブリックP-47など、空冷エンジン機も依然として多数使用され、特に海軍では最後まで空冷エンジンが主流であった。また、ボーイングB-29を始めとする爆撃機や輸送機は全て空冷エンジンであった。
寒冷地が主な飛行地域である航空機の中には、ソ連のI-15、I-16などのように、過剰冷却を防止する為、カウリング前面にシャッターを設けたものもあった。また、多くの機体には、カウリング後方に冷却調節用のカウルフラップが設けられている。
[編集] オートバイ
オートバイはほとんどがガソリンエンジンであり、2ストロークおよび4ストロークの両方式において、以前はほとんど全ての車種が空冷であった。
これは、エンジンが車体に覆われていて直接走行風が当たらずに自然冷却があまり見込めない自動車と違い、オートバイはエンジンがほぼ剥き出しの状態の場合が多いことが大きな理由である。剥き出しであれば特に工夫しなくともエンジンに走行風が当たり、自然冷却が期待できるからである。また排気量あたりの出力比がそれほど高くなかった時代にはエンジンの発熱量も少なく、わざわざ水冷化しなくても冷却が充分に間に合っていたからでもある。更に、オートバイ用エンジンを水冷化するにはウォーターポンプやラジエターといった水冷機構を小型軽量化する必要もあり、小型で軽量なことが好まれるオートバイ用エンジンにおいては水冷化の普及に製造技術の進歩が待たれる状況もあった。
やがて、年を経てエンジン製造技術が進歩し排気量あたりの出力比が上がってエンジンの発熱量も多くなっていき、空冷では冷却しきれなくなっていく。また、車体にカウルが取り付けられたり、走行風が通り抜ける為に必要なエンジンと車体の隙間が少なくなったりと、走行風による自然冷却があまり期待できなくなる要因もあり、高性能車を中心に徐々に水冷化していくようになる。だがオートバイの場合には、自動車ほど急激に水冷化が普及することはなかった。これには市場の大きさの違いと、オートバイの持つ趣味性が多分に影響している。
エンジン製造技術の進歩によりオートバイ用エンジンを水冷化するのは技術的には難しくなくなったが、その反面、水冷エンジンを開発および製造するにはそれなりのコストを要する。市場が自動車ほど大きくなく車種あたりの販売数が少ないオートバイでは、このコストが車両販売価格が上がる大きな要因の一つになった。その為に、それほど高性能が要求されずコストが重視される車種、例えば原付スクーターや、スーパーカブのようなビジネス車では、水冷化が見送られて空冷エンジンを採用する場合が多かった。
また、自動車に比べて水冷エンジンの普及が遅れたせいもあってか、オートバイというと冷却フィンがある空冷エンジンの印象が強いという消費者側の心理もあり、それほど高性能を要求せずに外観や空冷エンジン独特の味わいを重視するような車種、例えばクルーザータイプやネイキッドタイプで空冷エンジンが採用されやすかった。
しかし近年では自動車排出ガス規制や騒音規制法等の環境規制の強化で、空冷エンジンでは規制に対応することが難しくなってきている。特に運転免許の区分等で排気量の上限が決められている、原動機付自転車、小型自動二輪車、普通自動二輪車といった中小排気量クラスでは、環境規制に対応して落ち込んだ出力を排気量を拡大して補うという方法を採るのが難しい為に、より環境規制に対応しやすい水冷エンジンの採用が徐々に増える傾向にある。
だが一方で排気量に特に上限のない大型自動二輪車と呼ばれる大排気量クラスでは、前述のように環境規制に対応して落ち込んだ出力を排気量の拡大で補う方法が採れるせいもあって、現在でも空冷エンジンを採用する例が少なくない。その為に、大型自動二輪車クラスを主に製造販売しているメーカー、例えばハーレーダビッドソン、ドゥカティ、モトグッチ、BMW等では、現在でも高性能を謳いながら空冷エンジンを採用する車種を製造販売している。なお、日本国内メーカーのホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキでも、空冷エンジン採用の車種を少ないながら現在も販売している。
[編集] 分類
空冷エンジンは大きく分けて二つの方式に分類される。
- 走行風があたることによって冷却する自然空冷式
- 冷却ファンの作動による強制空冷式
前者はネイキッド(カウル等の装備が無い)などのオートバイに古くから利用され、後者は現在の原付スクーター等に利用されている。
ポルシェ911シリーズなどは車体後部に空冷エンジンを載せ大きなファンをエンジンに当てて強制的に冷却している。また国内の昔の軽自動車には2ストロークの強制空冷式エンジンを載せているモデルが少なくなかった。