犬神家の一族
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『犬神家の一族』(いぬがみけのいちぞく)は、推理小説家横溝正史の執筆した長編推理小説。また、同小説を原作にした映画作品またはテレビドラマ作品。
目次 |
[編集] 概要と解説
横溝作品のなかでは『八つ墓村』に次いで映像化回数が2番目に多い作品で、2006年12月の公開作品を含め映画が3本、テレビドラマが5作品公開されており、特に1976年公開の市川崑監督による映画版は、「日本ミステリー映画の金字塔」と称されこともある。
この市川崑監督・石坂浩二主演による1976年版は、80年代にかけて一世を風靡することになる角川春樹事務所の第1回映像作品であり、金田一耕助を初めて原作通りの着物姿で登場させたことでも知られる。大野雄二による主題曲『愛のバラード』も有名で、横溝正史本人もゲスト出演(民宿・那須ホテルの主人役)している。
この映画は後々の演出家にも影響を与えたとされ、2004年春にフジテレビが稲垣吾郎主演で製作したテレビドラマ版には、この映画へのオマージュが多数(岸田今日子が同じ役で出演していること等)見受けられる。そして2006年には、市川崑監督自身により、石坂浩二主演で30年ぶりに映画でリメイクされた。
なお、1976年版映画の大ヒットが爆発的な横溝ブームのきっかけともなったと誤解される向きもあるが、実際には角川文庫における横溝作品の売り上げが1,000万部を越えた後で公開されている。
ドラマ版では金田一耕助を一番多く演じている古谷一行が、初めて金田一を演じたのも作品であり、放映当時、最高視聴率は40%を超えた。
湖から死体の足が突き出るシーンは強烈なインパクトを与える本作品を象徴するシーンだが、出典を『八つ墓村』と混同される事が非常に多い。また、映像作品での「波立つ水面から突き出た足」の印象が強いが、原作での情景は氷結した湖面に死体が逆さに突き刺さっている。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] あらすじ
昭和2×年2月、那須湖畔の本宅で信州財界の大物・犬神佐兵衛(いぬがみさへえ)翁が莫大な遺産を残してこの世を去った。佐兵衛は生涯に渡って正妻を持たず、それぞれ母親の違う娘が3人いたが、彼女たちは皆、遺言状のことばかりを気にしていた。唯一、佐兵衛の死を悼んでいたのは、彼の恩人野々宮大弐(ののみやだいに)の孫娘で佐兵衛も可愛がっていた珠世(たまよ)であった。
同年10月、金田一耕助は、犬神家の別荘のある那須湖畔を訪れた。犬神家の顧問弁護士を務める古舘恭三の助手・若林豊一郎から「近頃、犬神家に容易ならざる事態が起こりそうなので調査して欲しい」との手紙を受け取ったためであった。どうやら若林は佐兵衛の遺言状を盗み見てしまったらしい。しかし耕助と会う直前、若林は何者かによって毒殺されてしまう。
そんな中、佐兵衛の遺言状は古舘弁護士によって耕助の立ち会いのもと公開されるが、その内容は
という相続争いに拍車をかけるようなものであった。3姉妹の仲は険悪となり、やがて佐武が惨殺され、直前に佐武と会っていた珠世に容疑が向けられてしまう…。
[編集] 事件の発生年について
原作では事件の起きた年を「昭和2×年」とぼかしているが、原作中に登場する人物の年齢が昭和24年を基準に設定されていることから、事件発生年は昭和24年と推定されている。
- 野々宮珠世は大正13年(1924)生まれで事件当時は26歳。
- 犬神佐清は奉納手形に「昭和18年 23歳、酉年の男」と書き記しており、事件当時は29歳。
- 犬神佐兵衛は17歳のときに野々宮大弐に保護され、事件が起きる半年前の2月に81歳で死去している。これだけでは年代を特定できないが、出会ったときに42歳であった野々宮大弐が、明治44年に68歳で死去しているので、佐兵衛と大弐の邂逅は明治18年だったことがわかる。つまり、佐兵衛が81歳で死亡したのは昭和24年となる。
- 登場人物の年齢は数え年である。
- 作中でも述べられているが「斧琴菊」とは歌舞伎の尾上菊五郎家に伝わる嘉言がモデルになっている。奇しくも尾上菊五郎 (6代目) が亡くなったのも昭和24年である。
しかし、この原作から想定される事件発生年にも、1976年版の映画による後続の作品への強い影響が伺える。それは、1976年の映画では上述の原作想定年(昭和24年)とは異なり、冒頭に「昭和22年」とテロップが入る。これ以降の「横溝正史シリーズ・犬神家の一族」(1977年)、「金田一耕助シリーズ5・犬神家の一族」(1994年)、「プレミアムステージ・犬神家の一族」(2004年)、そして1976年版のリメイクである映画「犬神家の一族」(2006年)は、すべて昭和22年を踏襲することになった。
[編集] 登場人物
- 金田一 耕助(きんだいち こうすけ)
- 飄々とした探偵。
- 野々宮 珠世(ののみや たまよ)
- 犬神佐兵衛の恩人・野々宮大弐の孫。絶世の美女。
[編集] 犬神家
- 犬神 佐兵衛(いぬがみ さへえ)
- 犬神財閥の創始者。彼の書いた遺言状が事の始まり。
- 犬神 松子(いぬがみ まつこ)
- 佐兵衛の長女。夫とは既に死別。いつも凛とした佇まいをしている。佐清を溺愛している。
- 犬神 佐清(いぬがみ すけきよ)
- 松子の息子。戦争に取られてビルマに行っていたが、顔に傷を負ったとして白いマスク姿で復員。
- その異様な外見から、映像化作品ではビジュアルが象徴的に用いられる事が多い。
- 犬神 竹子(いぬがみ たけこ)
- 佐兵衛の次女。小山のような体型。直情的な性格である。反松子。
- 犬神 寅之助(いぬがみ とらのすけ)
- 竹子の夫。犬神製糸東京支店長。
- 犬神 佐武(いぬがみ すけたけ)
- 竹子の息子。両親似で衝立のような体形。
- 犬神 小夜子(いぬがみ さよこ)
- 竹子の娘。珠代ほどではないが美人。気が強い。
- 犬神 梅子(いぬがみ うめこ)
- 佐兵衛の三女。三姉妹の中では、一番美人。末娘なので、姉達に対する反感が大きい。
反松子、反竹子だが、竹子と結託して松子を責める。
- 犬神 幸吉(いぬがみ こうきち)
- 梅子の夫。犬神製糸神戸支店長。
- 犬神 佐智(いぬがみ すけとも)
- 梅子の息子。よく動く目が、狡猾な両親に似ている。
[編集] 系譜
- 犬神氏
某 ┃ ┣━━━━犬神佐清 ┃ ┏犬神松子 ┃ ┃ 寅之助 ┃ ┃ ┃ ┣━━━┳犬神佐武 ┃ ┃ ┃ 犬神佐兵衛━╋犬神竹子 ┗犬神小夜子 ┃ ┃ ┃ ┃ 幸吉 ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┣━━━━犬神佐智 ┃ ┃ ┃ ┃ ┗犬神梅子 ┃ ┃ 青沼菊乃━━━━━━━━━青沼静馬 野々宮大弐 ┣………野々宮祝子━━野々宮珠世 晴世
[編集] 関係者
- 青沼 菊乃(あおぬま きくの)
- 佐兵衛の愛人。消息不明。
- 青沼 静馬(あおぬま しずま)
- 菊乃と佐兵衛の息子。消息不明。
- 古館 恭三(ふるだて きょうぞう)
- 弁護士、古館法律事務所所長。犬神家顧問弁護士。犬神佐兵衛より、遺言状の管理を任されていた。殺された助手・若林豊一郎に代わり、金田一耕助に調査を依頼する。やがて金田一耕助に親愛の情を抱くようになる。
- 若林 豊一郎(わかばやし とよいちろう)
- 弁護士。古館の助手。犬神家の遺産相続問題に関して金田一に捜査依頼をするが、金田一と会う前に毒殺された。
- 猿蔵(さるぞう)
- 珠世の世話役として、子供の頃佐兵衛に拾われた下男。「猿蔵」というのは本名ではなく猿に似ている事から付けられた通称。本名は不明。
- 宮川 香琴(みやがわ こうきん)
- 松子の琴の師匠。目が不自由。
[編集] 映像化リスト
[編集] 映画
- 犬神家の謎・悪魔は踊る (1954年8月10日・東映 監督:渡辺邦男)
- 出演:片岡千恵蔵(金田一)、千原しのぶ(珠世)、石井一雄(佐清)、島田照夫(佐武)、南川直(佐智)、小夜福子(松子)、花岡菊子(竹子)、真山くみ子(梅子)、宇治みさ子(小夜子)、高田稔(古舘)、高橋清三郎(若林)、山室耕(猿蔵)、十朱久雄(大山泰輔)、喜多川千鶴(白木静子)他。
- 犬神家の一族 (1976年10月16日・角川春樹事務所 監督:市川崑)
- 出演:石坂浩二(金田一)、島田陽子(珠世)、あおい輝彦(佐清)、高峰三枝子(松子)、三条美紀(竹子)、草笛光子(梅子)、川口晶(小夜子)、坂口良子(那須ホテル女中・はる)、地井武男(佐武)、川口恒(佐智)、寺田稔(猿蔵)、大関優子→現・佳那晃子(菊乃)、角川春樹(渡辺刑事)、那須清(大弐)、仁科鳩美(晴世)、原泉(老婆お園)、小林昭二(幸吉)、三谷昇(藤崎鑑識課員)、辻萬長(井上刑事)、横溝正史(特別出演)(那須ホテル主人)、金田龍之介(寅之助)、大滝秀治(大山神官)、加藤武(橘署長)、岸田今日子(香琴)、三木のり平(柏屋亭主・久平)、小沢栄太郎(古舘弁護士)、三國連太郎(佐兵衛)他。
- 犬神家の一族 (2006年12月16日・東宝 監督:市川崑)
- 出演:石坂浩二・前作にも出演(金田一)、松嶋菜々子(珠世)、尾上菊之助(佐清)、富司純子(松子)、松坂慶子(竹子)、萬田久子(梅子)、奥菜恵(小夜子)、深田恭子(那須ホテル女中・はる)、岸部一徳(寅之助)、葛山信吾(佐武)、池内万作(佐智)、永澤俊矢(猿蔵)、蛍雪次朗(幸吉)、嶋田豪(若林)、松本美奈子(菊乃)、石田直也(岬の子供)三條美紀・前作にも出演(老婆お園)、尾藤イサオ(仙波刑事)、石倉三郎(藤崎鑑識課員)、林家木久蔵(柏屋亭主・久平)、三谷幸喜(那須ホテル主人)、草笛光子・前作にも出演(香琴)、中村玉緒(柏屋女房)、大滝秀治・前作にも出演(大山神官)、加藤武・前作にも出演(等々力署長)、中村敦夫(古舘弁護士)、仲代達矢(佐兵衛)他。
[編集] テレビドラマ
- 火曜日の女・蒼いけものたち (1970年8月25日~9月29日、日本テレビ)
- 出演:酒井和歌子(珠世)、大丸二郎(佐清)、大出俊(佐武)、柴田光彦(佐智)、沢村貞子(松子)、千石規子(竹子)、
- 市川寿美礼(梅子)、室田一人(猿蔵)、菱見百合子(小夜子)、東雲美子(菊乃)、中山仁(古舘)、江波多寛児。
- ※金田一は登場しない。
- 横溝正史シリーズ・犬神家の一族 (1977年4月2日~4月30日、毎日放送)
- 出演:古谷一行(金田一)、四季乃花恵(珠世)、田村亮(佐清)、成瀬正(佐武)、松橋登(佐智)、京マチ子(松子)、
- 月丘夢路(竹子)、小山明子(梅子)、岡田英次(佐兵衛)、新海丈夫(猿蔵)、丘夏子(小夜子)、西山辰夫(寅之助)、
- 堀内一市(幸吉)、吉本真由美(菊乃)、西村晃(古舘)、ハナ肇(橘署長)、溝田繁(大山神主)、石原須磨男(志摩久平)、
- 野村昭子(下宿のおばさん)、井上聡子(キヨちゃん)他。
- 横溝正史傑作サスペンス・犬神家の一族 (1990年3月27日、テレビ朝日)
- 出演:中井貴一(金田一)、財前直見(珠世)、石黒賢(佐清)、四禮正明(佐武)、小沢仁志(佐智)、岡田茉莉子(松子)、
- 三ツ矢歌子(竹子)、結城美栄子(梅子)、若山富三郎(佐兵衛)、丹古母鬼馬二(猿蔵)、川津花(小夜子)、
- 結城しのぶ(香琴)、小林桂樹(古舘)、和泉ちぬ(菊乃)、辰巳琢郎、浅野ゆう子他。
- 金田一耕助シリーズ5・犬神家の一族 (1994年10月7日、フジテレビ)
- 出演:片岡鶴太郎(金田一)、牧瀬里穂(珠世・晴世)、椎名桔平(佐清)、矢野和朗(佐武)、長岡尚彦(佐智)、
- 栗原小巻(松子)、二宮さよ子(竹子)、山口美也子(梅子)、平幹二朗(佐兵衛)、黒沢あすか(小夜子)、
- 渡辺いっけい(古舘)、加藤祐子(菊乃)他。
- プレミアムステージ・犬神家の一族 (2004年4月3日、フジテレビ)
- 出演:稲垣吾郎 (金田一)、加藤あい(珠世)、西島秀俊(佐清)、平岳大(佐武)、眞島秀和(佐智)、三田佳子(松子)、
- 赤座美代子(竹子)、佳那晃子(梅子)、佐藤慶(佐兵衛)、長江英和(猿蔵)、石橋けい(小夜子)、木村多江(菊乃)、
- 黒部進(寅之助)、山西道広(幸吉)、岸田今日子映画版にも同じ役で出演(香琴)、佐野浅夫(古舘)、樋渡真司(若林)、塩見三省(橘署長)、
- 江幡高志他。
- 冒頭で『誰も知らない金田一耕助』というドラマオリジナルによる金田一のアメリカ時代のエピソードが描かれた。
[編集] 漫画作品
- 犬神家の一族 (講談社漫画文庫、つのだじろう・画)
- 犬神家の一族 (講談社コミックブックシリーズ、いけうち誠一・画)
- 犬神家の一族 (角川書店あすかコミックスDX、JET・画)
- 犬神家の一族 (秋田書店サスペリアミステリーコミックス、長尾文子・画)
- 犬神家の一族 (ぶんか社ホラー・ミステリー、小山田いく・画)
- つのだ版、いけうち版は現在絶版。小山田版は未刊行。
- JET版の登場人物リストに珠世を晴世に誤植されていたことが発覚し後に訂正している。
[編集] 関連項目
- 斧、琴、菊
- 横溝正史
- 金田一耕助
- 八つ墓村
- 新世紀エヴァンゲリオン - サブタイトルで白抜きの明朝体を直角に折り曲げて表示したり、足だけさらして倒立するエヴァンゲリオンのシーンなどに市川監督作品の影響が見受けられる。
- にしおかすみこ - "犬神家"という名の三点倒立の応用技を持っている(その姿が見られるシーンのパロディが多数ある)。
- らき☆すた - アニメ第6話で泉こなたが、廊下で白いマスクをかぶり「佐清です」。部屋に戻り布団から足だけ出して「犬神家」と言って友人の柊つかさを驚かせていた。
[編集] 外部リンク
- 犬神家の一族 (2006年版映画の公式サイト)