親米保守
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親米保守(しんべいほしゅ)とは、アメリカ合衆国に好意的で、政治思想としては保守的な立場を指す。
日本では一般に、日米同盟(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)の維持・堅持を是とする保守派のことを指す。本項では、日本における親米保守について述べる。
自由民主党の大半の議員は親米保守の立場を取る。また、野党である民主党にも党内右派の前原誠司らを中心とする若手議員がこれに該当する。
自民党の主流派が親米保守になり党全体が極端に親米保守化したのは、戦後から90年代までに隆盛を誇っていた自民党内部のハト派保守・保守左派の保守本流(田中派や宏池会)の勢力が90年以降衰退し、新保守主義と呼ばれる森派(森喜朗、小泉純一郎)が台頭してからである。
メディア・出版界ではフジサンケイグループ、政治結社では赤尾敏の大日本愛国党、新しい歴史教科書をつくる会など。
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一般的な思想傾向
親米保守は反米保守から見た用語であり[要出典]、実際には石破茂など右派リベラル(旧吉田自由党系、保守本流)と、小泉純一郎など現実的国家主義者(旧岸民主党系、保守傍流)を包摂した用語。基本的に「民族の誇り」より「日本の生存と繁栄」(国家安全保障)を重視する。世界最大のアメリカ合衆国の巨大な経済力・軍事力に対抗できないこと、現状中ロの軍事力も日本の6倍であり、日本の国防は日米同盟に大きく依存している実情を背景に、自力単独で自国を守れずアメリカに守ってもらっている同盟国(というより衛星国)という立場を認識し、当面は米国の戦略に付き従うべきと言うのが親米保守の基本的な思想である。つまり、日本が他国に攻撃された場合、米国の援軍を借りる以上、米国の戦争に兵力/後方支援力を貸さざるを得ないという考え方である。
軽武装・法人減税を望む経団連が支持団体であることもあって現実的国家主義者のグループである清和政策研究会は、米国の衛星国に甘んじることにより国益の追求が達成されると主張する者が多い。よって、清和会政権はホワイトハウスからの年次改革要望書の指令内容を忠実に実行し(大店法改正など数々の規制緩和、民営化、ホワイトカラーエグゼンプション・裁判員制度の導入など )、自衛隊に関しては世界各地における米軍の戦争の後方支援や平和維持活動への参加とそれを拡大するための憲法改正・軍隊保持を主張する。日米同盟と日米安保条約を強化することなしには中国・北朝鮮とは渡り合っていけないという見解を持ち、(最近米国・民主党に浮上している同盟国放棄・削減傾向を抑えるため)米国共和党の「日本や東欧は中ロから米本土に向かう弾道弾を撃ち落す迎撃ミサイル基地になる予定だから米国は東欧や日本を守らねばならない」という米国内向け宣伝に合せて[要出典]、ミサイル防衛構想など数兆円もの巨大な費用のかかる国際軍事事業を積極的に推進し、日本が米国を狙うミサイルを迎撃する場合は集団自衛権行使可能になるよう憲法9条1項の解釈改憲を急いでいる。国際連合については事実上意見が反映されやすい常任理事国入りを目指しているが、アジア諸国の支持が得られずに頓挫している。
また、現実的国家主義者である自民党清和政策研究会とその衛星派閥の中には単独核武装論を提唱・容認する者(安倍晋三、中川昭一、麻生太郎など)、北朝鮮による日本人拉致問題の被害者救出・解決のために対北朝鮮開戦を主張する者(石原慎太郎など)もおり、彼らは対米自立を目指す国家主義者の反米保守派に思想的には近い。ただし、反米保守に人気がある清和政策研究会は支持基盤の経団連が軽武装・国防対米依存・法人減税を望んでいるため、実際には自衛隊の戦力を大削減して法人減税を検討するなど軍備弱体化行動を行っている。清和会小泉政権の時、小泉の意を受けた片山さつきは自衛隊の戦車や野砲を900から600に大削減した。したがってタカ派的対外強硬発言と裏腹に自衛隊の軍備を削減している。この行動は右派リベラルの親米保守、ナショナリスト反米保守の両方から批判された。
また中国に関しても「政冷経熱」という言葉があるように、経済関係上有好的ではあるが政治・外交的に歴史認識・反日政策・反共主義により対立するケースもある。韓国に対してはかつては親米反共政策を取っていたためパートナーと見る傾向があったが、近年の金大中・盧武鉉が親北・反日傾向を強めるようになったため摩擦が生じている。また、親米保守には併合後も反発が少なかった事から台湾に友好的な者も少なくないが、台湾に同情しながらも強大な軍事大国中国を刺激しないため台湾と距離を置いている。
親米保守の中には現実派国家主義者のように本音では反米であるが国益等を考えてやむなくアメリカとの同盟を推進する勢力も存在する。反米保守を自認する盟友の平沼赳夫や元側近の城内実らと極めて近い政治思想を持ち、アメリカによる占領下の改革を全面否定しようと「戦後レジーム(体制)から脱却」を掲げる安倍晋三が、その典型である。
政界・官界内では彼ら右派リベラルは戦前・戦中の政府内部の親英米派・不戦派の流れを汲む政治家・官僚であり、旧吉田自由党系、保守本流である。戦前・戦中はあくまで日米開戦には消極的であり対米講和を推進していたグループで、太平洋戦争の敗戦による連合軍の進駐により、名実共に日本の政界・経済界を支配するようになった。そのため戦後に進駐したアメリカ軍を「特高警察が政府批判者を逮捕拷問死させるような戦前国家主義社会から戦後自由民主主義社会に変えた解放軍」とする認識がある。
しかしながら、満州国総務部次長であった岸信介の様に戦前・戦中には大陸進出に比較的積極的な立場をとり、戦後にはA級戦犯容疑者に指定されたにも拘わらず親米派へ転向することによってGHQに罪を許され、戦後の日本を指導した親米国家主義者も存在する。この系譜に属する保守傍流政治家は親米反共主義の立場から積極的に冷戦期のアメリカの外交政策に協力しながらも、自主的な経済・国防体制を模索し、戦後のGHQによる日本占領についても否定的な認識が強く、特に憲法については改正論あるいは自主憲法制定論を唱えている。このスタンスは中曽根康弘や清和政策研究会にも共有され、現在では政権の中枢となっている。なお、反米保守(観念的国家主義者)からは親米保守と言う呼称で一括りにされる石破茂・前原誠司等右派リベラル・保守本流派と小泉純一郎ら現実的国家主義者・保守傍流派であるが、戦後自由民主主義社会を戦前国家主義社会に戻す復古的改憲論については戦後自由民主主義か戦前国家主義かで両者の意見は激しく対立している。
戦後長期間に渡り、政権の中枢を占めていた自民党の保守本流派は農地解放「一億総中流」や「日本列島改造論」など所得再分配的・社会民主主義的な政策により、地方の組織票を支持基盤にしていた。また、日米安全保障条約を維持し安全保障面はアメリカに一任することでできる限り経済成長にリソースを振り分ける政策を継承していた。しかし、最近は国防依存される側の米国では依存されることに不快感を表明する意見が台頭しており、日本安保ただ乗り批判なども燻っている。挙句、中国の台頭を見て「再生不能の消耗資産」である日本から中国に乗り換えようという意見も米民主党に出てくるに及んで、右派リベラル・保守本流グループも国防再生を訴える石破茂や前原誠司などのような政治家が出てくるようになった。(つまり経団連の安保ただ乗り政策では米国に愛想をつかされるので、自主国防力を改善しようという意見)
現在の自民党は、かつて地方重視・弱者救済を唱えた保守本流派の衰退により親米タカ派・戦前復古主義・新保守主義・新自由主義の傾向が特に強い保守傍流清和政策研究会派が主導権を握っていたが、2007年参院選の敗北により安倍晋三・麻生ら右派保守傍流は失政の責任を問われ、自民党内保守傍流/保守本流両派の妥協により、右派清和会所属だが政治信条は左派・リベラル色が強い福田康夫が首相に推戴された。
更には経団連を背景とする安倍晋三ら右派保守傍流が日本の証券取引所に上場している外資系企業の政治献金を認める政治資金規正法改正案を成立させ、アメリカ人を中心とした外国資本系企業による日本経済、日本社会の進出にも賛成している者もいる。
米国との関係
親米保守は基本的に保守主義者を名乗り、現在の日本国憲法や戦後民主主義体制をアメリカに押し付けられたものとして否定し改正を主張するが、その一方でアメリカのネオコンが推し進める武力による世界の民主化・グローバル化に追従する傾向がある。
米国は日本の軍事独裁を降伏させ解体したことにより日本に自由と繁栄をもたらしたと見なしており、そのため米国内では日本の政治家の靖国神社参拝を、日本の保守勢力では戦前の歴史認識が温存されていることを示すものと考え、警戒している政治家も少なくない。日本の保守政治家が、米国との間で歴史評価について対立を孕む危険性は常に存在しており、日米保守勢力の間の歴史問題への態度の相違が近年しだいに顕在化してきている。米下院国際関係委員会において日本の従軍慰安婦動員を非難する決議[1]が採択されたほか、靖国神社の遊就館の展示内容を問題視する演説が行われている[2]。遊就館の展示内容についてはワシントン・ポスト紙でもジョージ・ウィルによる批判記事(2006年8月20日)が掲載され、岡崎久彦がこれを受けて展示内容の修正を求めている(2006年8月24日産経新聞「正論」欄)。なお、靖国神社自身も遊就館の展示内容の修正に向け作業中であるとしている(同月25日産経新聞朝刊)。
反米保守、左派からは「アメリカのいいなりになっているのではないか」と批判されるケースもあるが、「あくまでアメリカと利害が一致しているから協力するのであり、アメリカに反論すべき事はしっかり反論している」と主張する。
韓国・宗教との関係
岸信介元首相・安倍晋太郎・安倍晋三現首相などの親米派は韓国の旧軍事政権の親米派・親米保守政党のハンナラ党とも交流を持っていて、発言にもみられるように基本的に韓国には好意的である。また、韓国発祥の反共団体勝共連合・統一教会とは深い関係を持っている。
産経新聞に統一協会系の記者がしばしば記事を載せるように、一般的に親米保守派には統一協会への共感から何らかの人脈を持っている人々が多いとされる。
歴史認識
歴史認識においては、第二次大戦の膨張・侵略政策に肯定的な見解から否定的な見解まであり、南京大虐殺に対する認識でも容認論から否定論まであるなど、多様な立場があるが、中国などが公表する死者数については、膨張されているとして否定的であることは共通している。
現状
親米保守派は保守系雑誌・メディアへの出演も多く、政界でも強い力を持っている。反米保守派とは、今までは同じ保守派として革新・左翼陣営に対して共闘することが多かった。しかしイラク戦争以降は、対立が前面化し反米保守は親米保守を似非保守やポチ(アメリカの犬という意)などと非難し、親米保守派は反米保守を「極右の皮をかぶった反日左翼」(「反米は反日・親中・親韓・親朝につながりうる」という持論から)として非難する者もいる。
蔑称
親米の立場を取る保守主義者に対する侮蔑的な言葉として、ポチ保守(親米ポチ)がある。反米保守、左派・リベラル陣営には「ポチ保守」「アメリカの狗(犬)」「似非保守」「呆守」と呼ぶ者もいる。
ポチ保守は漫画家・小林よしのりが考案したとされる。日本では、犬の愛称として「ポチ」という名前をよく使用すること、小林が「ポチ保守」として批判する論者を彼の作品中で時折人面をもつ犬のように描くことから、親米の立場を取ることを飼い主に無制限に服従する犬になぞらえたものである。類似の表現として、社会学者・宮台真司が考案した「対米ケツ舐め」という蔑称もある。
また、これと同じ意味でイラク戦争時にアメリカ追従路線を示したイギリスのトニー・ブレア等を侮辱する意味で「親米プードル」(プードルはイギリスの人気犬で日本の「ポチ」と同等に扱われる)という言葉もある。
脚注
- ^ H. Res. 759, Expressing the sense of the House of Representatives that the Government of Japan should formally acknowledge and accept responsibility for its sexual enslavement of young women, known to the world as "comfort women", during its colonial occupation of Asia and the Pacific Islands from the 1930s through the duration of World War II, and for other purposes, Sep. 13, 2006.
- ^ Japan’s Relations with Her Neighbors: Back to the Future?Henry J. Hyde