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ミサイル防衛 - Wikipedia

ミサイル防衛

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ミサイル防衛、略称MD(Missile Defense)またはBMD(Ballistic Missile Defense)とは、主に弾道ミサイルからある特定の区域を防衛することである。

ミサイル防衛は時代と共にその名称が変遷してきた。現在のミサイル防衛計画は、2001年5月以降にジョージ・W・ブッシュ政権が推し進めている、戦域ミサイル防衛 (TMD:Theater Missile Defense) と国家ミサイル防衛 (NMD:National Missile Defense) を統合した多層的なミサイル防衛構想である。

目次

[編集] 歴史

[編集] ミサイル防衛の始まり

核ミサイルが登場した当初から、これを爆発前に打ち落とす技術の開発は始まっていた。 1960年代には米ソの双方でABM(Anti-Ballistic Missile)と呼ばれる弾道弾迎撃ミサイルが開発されている。当時は精密誘導技術がまだ未熟だったため、迎撃ミサイルにも核弾頭を搭載し、核爆発の広範な破壊力によって命中率を補う方式であった。これにより、相互確証破壊の崩壊を懸念してABMの配備を制限する弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)が米ソ間で結ばれた。

しかし、核ミサイルを迎撃するのに核ミサイルを使用したのでは放射性降下物などの被害が避けられないこと、核爆発に伴う大規模な電磁的障害のせいで敵国の第二次攻撃に対抗できないことなどから、このような核弾頭を搭載するタイプの迎撃ミサイル開発は次第に廃れていく。

[編集] SDI

1980年代に入ってから、アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンは、戦略防衛構想(SDI, Strategic Defense Initiative /エス・ディー・アイ)構想を発表した。人工衛星に搭載したレーザー兵器や迎撃ミサイルによって、飛来するミサイルを破壊するというものであった。開発には巨額の予算が投じられたが、実現には至らなかった。なお、この計画は、当時の技術力ではあまりにも非現実的であったため、「スターウォーズ計画」とも言われている。SDI構想については、現実味の薄い計画に無駄に大金を投じたという批判がある一方で、ソ連に対抗策を強要してその崩壊を早めさせたという意見もある。

[編集] GPALS

冷戦の終結後、ソ連の脅威に代わって戦域弾道ミサイルの拡散が大きな問題になった。そして湾岸戦争をきっかけに、弾道ミサイルの脅威が広く知られるようになると、ジョージ・H・W・ブッシュ政権の下、GPALS(Global Protection Against Limited Strikes / じーぱるす、限定的攻撃に対する地球規模の防衛構想)が提唱された。SDIが大国間の弾道ミサイル攻撃を想定していたのに対して、GPALSはより小規模な弾道ミサイル攻撃への対処を目的としていた。迎撃方式も改められ、宇宙配備と地上配備の迎撃・追跡システムを組み合わせる事とされていた。後述のTHAADやパトリオットミサイル PAC-3が計画されたのはこのころである。

[編集] TMDとNMD

ビル・クリントン政権が、GPALS計画を破棄し、代わって打ち出したのがTMDである。これは、GPALSで予定されていた宇宙配備の迎撃システムを構築するためにはABM条約を破棄せねばならず、これを嫌ったためとされている。TMDでは地上配備型の迎撃ミサイルが迎撃の中心となっている。

その後、再び米本土を狙うことができる長射程の弾道ミサイルに対する懸念が高まった。具体的には、イランのシャハブ3や、北朝鮮テポドン1などである。これらは射程が1000km前後であるものの、将来的には米本土に対する脅威になりえると見られていたからである。この脅威に対抗するために始められたのがNMDである。

[編集] 現代のミサイル防衛

その後、これらの計画を引き継いだジョージ・ウォーカー・ブッシュ政権は、NMDとTMDを統合し現在の計画を作り上げ、以前の政権よりもさらにミサイル防衛計画を強力に推し進めている。またABM条約を破棄したことから今後、宇宙空間配備のミサイル迎撃兵器が登場する可能性もあり、実際に計画もされている。

なお、アメリカ以外でも弾道ミサイル迎撃能力を持つミサイルは開発されており、イスラエルのアローミサイルや、ロシアのS-300などが知られている。

[編集] 迎撃段階と使用される兵器

弾道ミサイルの発射は早期警戒衛星によって探知される。弾道ミサイル迎撃の方法としては発射直後のブースト段階で破壊するもの、発射後大気圏外で慣性飛行している段階で破壊するもの、着弾前の再突入段階で破壊するものの3つに分けられる。基本的にこの3つは個々で使用されるわけではなく、あわせて使用され撃墜率を高める。

弾道ミサイルは射程1500km程度なら秒速4km、5500kmなら秒速6km、大陸間弾道ミサイルなら秒速8km以上で飛行し、射程1000km以上の物なら2段式から3段式になることから、長射程の弾道ミサイルほど開発するのが難しくコストもかかり信頼性も落ちる。しかし攻撃側の弾道ミサイルが長射程になればなるほど、迎撃側のミサイル防衛システムの方が極端な高性能化が要求される事になり技術的な難易度は高くなる。

ミサイル防衛で使用される兵器は、弾道弾を所持する国家に対してその効用を全く失わせる万能兵器では無く、あらゆる政治的圧力をかける為の政治的兵器でもない。弾道弾と大量破壊兵器を併せ持つ国家は増えるばかりだがその種の国家の武力的恫喝に対する限定的な対処手段にすぎない限界を持っている。

[編集] ブースト段階(ブーストフェイズ)

AL-1A(想像図)
AL-1A(想像図)

ブースト段階で破壊するための兵器としては ABL (Airborne Laser) が挙げられる。これはレーザーを使用しブースト段階のミサイルを破壊しようとするものである。現在この兵器は AL-1 として開発中である。この段階での迎撃の利点として、ミサイル自体がまだ低速で弾頭切り離し前のため大きいことから、迎撃が比較的容易であることである。逆に欠点としては常に迎撃可能な位置にいるとは限らないことである。またその性質上敵領空内での迎撃となる可能性が高いため制空権が確保されていない場合使用が困難でもある。

注:ここで取り上げられているレーザー兵器とは、SF的な破壊力を持つ兵器ではない。弾道弾が上昇中のほんの一時期、ロケットモーターが全力で推進している状態でレーザー光を照射してやる事により高圧状態のミサイル本体特に推進剤タンク部分の外板に負荷を掛けてロケットを自爆させる兵器である。スペースシャトル剥落したタイルや氷片で破壊、爆発した事例を想起されたい。従って燃焼が終了したミサイルには効力がない。つまり広い国土を持つ大陸国家(アメリカ、ロシア、中国、インド)への迎撃はその射程から見て不可能である。

[編集] 慣性飛行段階(ミッドコースフェイズ)

宇宙空間を慣性飛行している段階で使われる兵器としてはイージス艦から発射される現在開発中のスタンダードミサイル SM-3や、欧州配備をめぐってロシアと摩擦を起こしている大陸間弾道ミサイル対応型のGBI(Ground Based Interceptor)が挙げられる。

[編集] 再突入段階(ターミナルフェイズ)

再突入段階での迎撃に使用される兵器としてはパトリオットミサイル PAC-3、THAAD(Terminal High Altitude Area Defense)が挙げられる。パトリオットミサイル PAC-3は現在実戦配備が開始されており2003年のイラク戦争でも使用された。THAADはPAC-3より射程が長く大気圏外での迎撃も可能とされる。この段階で弾頭の迎撃に成功したとすると、弾頭の残骸や弾頭内の放射性物質が迎撃国領内に降り注ぐ可能性はある。だが、この事象による環境への影響は、原子力発電所の爆発事故や核爆発と比較すると、無視できるレベルと考えられている。

[編集] 日本版ミサイル防衛

[編集] 導入に至った経緯

日本では、1998年平成10年)8月31日テポドン発射以来、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の弾道ミサイル開発を日本の安全保障の脅威とみなしその動きを注視してきた。このため、米国のミサイル防衛計画の進行を鑑みて、小泉純一郎内閣は2003年(平成15年)12月19日安全保障会議および臨時閣議によって、『日本版弾道ミサイル防衛(BMD)』のシステム導入を決定した。同日付で閣議決定「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」(計画概要、総合的な防衛力の見直し、BMDが集団的自衛権に利用されるものではない旨の説明)を発表、同時に福田康夫官房長官(当時)が周辺国に脅威を与えるものではないことを旨とした補助的な談話を公表した。

[編集] 現状

ミサイル防衛システムは2004年(平成16年)度から調達が開始され、2007年(平成19年)度から順次運用開始している。2008年現在、海上自衛隊が弾道弾迎撃能力を保有したスタンダードミサイル SM-3を搭載可能なミサイル防衛対応型イージス艦長崎に実戦配備しており、航空自衛隊が弾道弾迎撃能力を保有した「パトリオットミサイル PAC-3」を第1高射群に実戦配備している。

また、在日米海軍は横須賀港にアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦フィッツジェラルド」、「カーティス・ウィルバー」、「ジョン・S・マッケーン」、「ステザム」、「ラッセン」、「マスティン」「マクキャンベル」を弾道ミサイル監視艦として、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦シャイロー」を弾道ミサイル迎撃艦として配備している。

さらに在日米空軍は、常駐ではないが沖縄の嘉手納基地RC-135WC-135などを展開させ、弾道ミサイル実験の光学/電子情報収集や、大気中に浮遊する放射性物質の観測・収集を行い、北朝鮮に対し日米共同でミサイル防衛体制を敷いている。

[編集] 将来

日本では2011年度までに、これらの迎撃ミサイルシステムや各種レーダー等を増備し、当初のミサイル防衛体制の構築を完了させる予定である。 現在、次世代型「スタンダードミサイル SM-3」をアメリカと共同開発中であり、開発が完了する2015年以降はミサイル防衛の更なる能力向上が予定されている。 さらに、防衛省2007年5月、ミサイル迎撃のための高出力レーザー兵器の研究、開発に2008年度から着手する方針を決めた。北朝鮮のミサイル発射や核実験で日本上空の脅威が高まる中、本土防衛に直結する地上配備型レーザーの研究、開発を目指す。将来的には航空機搭載レーザー(ABL)についても検討する。

[編集] 構成要素

パトリオットミサイル PAC-3
  • 陸上に配備して弾道ミサイルの終末局面(ターミナルフェイズ・再突入から着弾期)での迎撃を行う。
  • PAC-3はミサイルの対応時間の余裕や速度から射程1500km程度のノドンなどの準中距離弾道ミサイル(MRBM)まで対処できる。つまり中距離弾道ミサイル(IRBM)や大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)には対応していない。
  • すでに航空自衛隊で配備されている対航空機用のPAC-2改2型と併用し運用する。
  • PAC-3はさらに弾道ミサイル迎撃用のスタンダードミサイル SM-3と併用する。PAC-3はロケットモーターの推進中に直接体当たり方式で迎撃する仕様のため射程は20kmと短く(PAC-2の対航空機への実用射程は70km超)、PAC-3の配備だけで弾道ミサイルから日本全土をカバーすることは不可能であり、弾道ミサイル防衛を多重化するためにもSM-3と併用することが望ましい。
  • PAC-3は日本国内では可能性の低い短距離弾道ミサイル(SRBM)攻撃(速度マッハ6強・2km/秒)であれば、左右70km前後40kmの扇状の範囲を迎撃できるが、可能性の高い準中距離弾道弾(MRBM)攻撃(速度マッハ10=3.7km/秒)では薄い半径20kmの扇状の範囲のみ要撃できる。ちなみにこの広さは市ヶ谷を起点として23区西部境界程度迄の広さで、1個高射群に4個、無線指揮車により部隊分割使用で最大8個までの首都圏近郊の高射部隊の内、埼玉からと、千葉からとの2個をもって23区全域をカバーできる広さである。
  • 命中精度は湾岸戦争以来の開発の継続により、弾頭の改良、管制ソフトウエアのバグフィックス、アップデート、ロケット本体の新型化による高機動性の確保、即応弾の4倍増化、短射程を補うリンクシステムによる広域分散配置による要撃覆域の広域化を実現させ、イラク戦争時の実戦使用の戦訓をもってほぼ仕様内での能力を確保することに成功させた。
  • PAC-3は弾頭貫通時に高熱を発し生物・化学兵器を無力化させる能力がある。
  • 空自の1個高射群は4個高射隊により編成されていて、基本的に1個高射隊は1個のファイヤユニットで編成される。1ユニットの編成は射撃管制装置・レーダー装置・アンテナマスト・電源車・無線中継装置・発射機5機からなる。(MD対応部隊では3機にPAC-2・2機にPAC-3を搭載)
  • 2007年度までに4ユニットが配備済み、2008年度から2010年度までに毎年4ユニットづつが配備される。(2007年度に第1高射群配備・2008年度に高射教導隊と第2術科学校配備、2009年度に第4高射群配備、2010年度に第2高射群配備)。2011年度と2012年度に各年1ユニットづつの予備用を取得する。
  • 現在開発中の終末局面対応のミサイル防衛システムは、THAADミサイル中距離拡大防空システム(MEADS)やアロー2ミサイルなどがある。THAADミサイルでは中距離弾道弾(IRBM)まで対処可能とするシステムが検討されている。
スタンダードミサイル SM-3
  • イージス艦で運用される迎撃ミサイル。弾道ミサイルの中間飛行局面(ミッドフェイズ・宇宙空間での弾道飛行)での破壊を行う。
  • すでに海上自衛隊では航空機迎撃用にスタンダードミサイル SM-1SM-2を運用しているが、いずれも弾道ミサイルの迎撃は行えない。
  • SM-3とミサイル防衛システムに対応するため、こんごう型護衛艦4隻の改修が予定され全艦予算化済である。既に1隻が改修済で残り3隻は2010年度までに毎年1隻ずつ改修する。配備されるミサイルは4隻ともSM-3ブロックIAである。
  • 日本近海では、2007年度末段階で米海軍の1隻と海上自衛隊の1隻の、SM-3ブロックIAでの迎撃が可能なイージス艦が配備されるている。それ以外の両国併せて10隻程度のイージス艦は未改修であるが、高度なレーダー能力により、弾道弾の捕捉、追尾は可能であり監視目的能力は保持されている。
  • SM-3ブロックIA搭載イージス艦は2隻の作戦配備艦で南西諸島を除いた日本全土をカバーできる能力を持っている。
  • SM-3ブロックIA搭載イージス艦は弾道ミサイル発射情報がもたらされた後、距離500km超程度の範囲から自艦のAN/SPY-1レーダーにより弾道ミサイルを捕捉、追跡が可能で、この情報をSM-3に送信して、弾道飛行中の目標弾道弾を高度150km程度(~500km)の宇宙空間で迎撃する。
  • 従って射程1500km程度の準中距離弾道弾(MRBM)の場合、弾着まで7、8分と言われるがその間、複数回の迎撃が可能とされている。
  • SM-3システムは、より高度な迎撃試験が段階的に繰り返し実施されていて、現在まで非分離型弾頭の迎撃、分離型弾頭の迎撃、分離型弾頭と推進部の2弾同時迎撃、弾道弾と航空機の同時迎撃などを、システムエラーや標的ミサイルの発射不能などの事例による失敗以外の全てで成功を納めている。
  • さらに迎撃能力を高めた日米で共同開発されているブロックII-ブロックIIAでは要撃覆域はイージス艦一隻で南西諸島を除いた日本列島全域をカバー出来るまでに拡大する予定である。また、より高速で高射程の射程5500km程度の中距離弾道弾(IRBM)まで迎撃可能になる予定である。さらにブロックIIBでは多弾頭型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)にも対応する予定である。
  • SM-3、PAC-3共により正確な弾道弾捕捉の為の赤外線探知型の追尾システムの追加が検討されている。
  • SM-3は艦船配備のシステムであるため、可能性としては至近距離まで自由な配置が可能であり運用性の自由度は高いものの、艦船の運用の特性上、陸上配置のシステムと違って修理補給等の為に使用できなくなることも見込まねばならない。
警戒管制レーダー(FPS-5)
  • 防衛庁(現・防衛省)が開発した弾道ミサイルの探知が可能なアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー。開発時の名称は将来警戒管制レーダー (FPS-XX) 。Lバンドの周波数を用いる。2008年度から2011年度までに、青森県、新潟県、鹿児島県、沖縄県にある航空自衛隊の各分屯基地に1基づつ計4基が配備される予定である。その特異な外見からガメラレーダーとも呼ばれる。
警戒管制レーダー(FPS-3改・能力向上型)
  • 2008年度に3基、2009年度に4基を能力向上させミサイル防衛に対応させる。
警戒管制レーダー(AN/TPY-2)
  • トレーラーほどの大きさの移動式前方配備型Xバンドレーダー(FBX-T)。THAADミサイルシステムで利用されているレーダーを転用した。航空自衛隊車力分屯基地に配備されている。米軍が運用する。
将来センサシステム (AIRBOSS)
  • Advanced Infrared Ballistic-Missile Observation Sensor System、通称エアボス。弾道ミサイルを探知する(航空機による赤外線探査・目標背景が宇宙空間であるため衛星情報より優れた部分がある)ために開発された、航空機に搭載するセンサーである。日本版コブラボールとも言われる。将来センサシステム(搭載型)としてUP-3Cを試験母機に開発が進められており、2005年(平成17年)11月と2007年(平成19年)12月に米ハワイ州での弾道ミサイル探知試験で捜索・探知・追尾に成功した[1]
自動警戒管制システム
  • 2008年度までにミサイル防衛システムとの連接するための改修設計と製造を完了し、2009年度にFPS-5と連接、2010年度にXバンドレーダーと連接、2011年度に適合化改修を完了させる。

[編集] 運用体制

ミサイル防衛にはアメリカの協力が不可欠であることから、航空自衛隊航空総隊司令部を横田基地に移転し日米共同の作戦センターを設置する予定である。航空総隊司令官がミサイル防衛等の統合任務部隊の指揮官となる。

ミサイル発射を最初に捉えるのは早期警戒衛星である。そのため、PAC-3開発時の推定ではあるが、早期警戒衛星の情報が無い要撃部隊単体での期待要撃率は早期警戒衛星の情報がある場合に比べて半減する物と考えられている。 イラク戦争時の先例では比較的低速な短距離弾道ミサイルの弾着までの余裕は7分強あり、早期警戒衛星が敵弾道ミサイルの発射を確認するまで10秒以内、防空部隊への情報伝達は3.3分まで短縮され、防空部隊がレーダーで補足する前までに1分間の余裕が稼げたと伝えられている。 米軍発表によると既に06年9月以来、日米間の運用訓練が実施され両国イージス艦及び空自のAWACS等による情報の共有訓練が重ねられており、第5回目の訓練では官邸への第一報も訓練に加えられた。敵から弾道弾を発射された場合を想定した実艦訓練では官邸サイドへの伝達時間は、理想状態で発射確認から1分と伝えられている。

ミサイル防衛が有効に機能するためには迅速な判断が必要とされ、2005年(平成17年)に改正された自衛隊法によって、ミサイル防衛システムで迎撃する際の手続きが簡略化された。これによって2007年(平成19年)度から開始されるミサイル防衛システム配備の法的な整備が整った。実際に迎撃するにあたり現場の指揮官に大幅な裁量を認めているため、シビリアンコントロールが確保されていないとして問題視されることがあるが、数分以内で対応できなければ甚大な被害をこうむる可能性があるため、権限を制約しこれ以上時間をかけることは難しいと考えられている[2]

[編集] 是非に関する議論

ミサイル防衛計画に対し、それぞれの立場・見知から批判がある。

  • 【主にパワーバランスを重視する立場から】ミサイル防衛は相互確証破壊(MAD)による安定を崩壊させる。先制核攻撃を容易にし、核戦争の危機と軍拡を引き起こしかねない計画は進めるべきではない。相手もまた同様の装備の導入を計画していると考えるべきだ。
  • 【特に日本における反戦・反米の立場から】弾道弾が、日本を狙ったものであれ、米国その他の国を狙ったものであれ、日本上空を通過すれば、迎撃するため、これは集団的自衛権の行使になりかねず、日本国憲法第9条に違反する。また「日米一体化」に拍車を掛ける。
  • 【コストパフォーマンスを重視する立場から】ミサイル防衛計画は、その推進にも維持にも莫大な費用が必要である。しかし、それに見合った迎撃効果はこれまで一度足りとも得られておらず、ミサイル防衛における最大の問題でもある100%の撃墜率の達成は非常に難しい。反面、ミサイル防衛をすり抜けるような核ミサイルを開発することは容易である(単に飽和攻撃を行えばよい)。そして核ミサイルは、たった1発が防御をすり抜けただけで、マジノ線を突破されたフランスのように甚大な損害をもたらす。これは、攻撃側に先制攻撃の誘惑を断ち切らせることは出来ず、同時に防御側も、システムに対する信頼性の不安感から、相手国への先制攻撃の誘惑を断ち切ることが出来ない。つまり、軍事の本質である抑止力の点で効果が薄い。従って、このような計画は、コストパフォーマンスに見合わず、他の防衛手段を模索するべきである。現実問題として、ロシアが、冷戦時代に建設したABM基地の1つをかろうじて維持していることを除けば、核保有国ですら本土防衛用として、ミサイル防衛システムを運用していないのが現実である。
  • 【実用の面から】防衛省は“実験は成功”と主張するが、予め着弾点が分かっているものを撃墜するのは容易。“いつ”“どこに”落ちるか想定出来ない(或いは数分以内に算出しなければならない)ミサイルを撃墜するのはほぼ不可能。

上記のような批判に対して、特に日本において以下のような反論がある。

  • 【主にパワーバランスを重視する立場に対して】中国は実際に軍拡を続けており、将来的にも継続されると推測され、このままでは日本との勢力均衡が維持できないので、ミサイル防衛は是非とも必要である。一般論としては相互確証破壊の安定とは、全面核戦争の危険を伴う「恐怖の平和」であり、「核に核で対抗する」という悪循環から脱却する代替の手段としてもミサイル防衛は有用である。相手も同様の装備を保有する可能性があるとの示唆は、そもそも日本が核武装していないので相手国がMDを保有する事は日本にとっては影響が無いと考えられる、日本側からすれば、むしろ相手にとってはMDを配備する事が経済的な負担を掛けるだけである(これにより相手側の核戦力の配備を抑える効果も期待出来る)。
  • 【特に日本における反戦・反米の立場に対して】集団的自衛権について、安倍首相は、「米国を狙った弾道ミサイルを迎撃することが法的に可能であっても技術的に不可能」との主旨を発言している。米国を狙った弾道ミサイルの迎撃能力がないなら、集団的自衛権が法的に行使可能だとしても、実際に実行するのは不可能なので、(ミサイル防衛について)集団的自衛権の議論を持ち出すには及ばない。[3]
  • 【コストパフォーマンスを重視する立場に対して】コストパフォーマンスとは比較対象があってこそ成り立つものであるが、コストパフォーマンスのみを追求すれば先制攻撃予防攻撃)あるいは報復核戦力の保持がもっとも効果的なものとなる。だが、現状の日本の法体制では、それは、実現する可能性は極めて低い(参照:専守防衛)。また、先制攻撃が可能だとしても、実戦では、開けた場所にある固定の発射台で弾道ミサイルが運用されるとは考えにくく、巧妙に擬装された発射台(地下ミサイルサイロ、弾道弾車両など)から発射される可能性が高いため、弾道ミサイル発射準備を事前に発見できず、発射台を攻撃する前に弾道ミサイルが発射されるおそれもあるとされる。よって、実力行使としては、ミサイル防衛以外の手段は、考えにくい。現状で100%の迎撃が不可能だとしても、ミサイル防衛は度重なる実験によって迎撃率は向上してきており、信頼性は向上していくものと考えられるため、これによって攻撃側にとっては攻撃失敗のリスクは今後増加していくため有効な抑止力となると考えられる。よってミサイル防衛に見切りをつけるのは時期尚早である。また、全ての核兵器を迎撃出来なくても核兵器一発でも国民の生命と財産に甚大な被害を与えるため一発でも迎撃できた方が良いと考えるべきである。飽和攻撃については、迎撃する側も防衛機材を多く揃えればよい、その事により核兵器保有側も厳重な防衛を突破するために大量に攻撃用の機材を揃えなくてはならず、それにより攻撃側(そして防衛側も)の経済的な負担も増し、後は防衛側、攻撃側のリソースの限界の話となる(端的に述べるなら、日本へ核攻撃をする側が日本側の出せる防衛のリソースの限界を超えた攻撃のリソースを揃えられるのか?)。そして、ミサイル防衛の予算は、既存の防衛費からの出費であり、追加の防衛費計上がなされていなく、むしろ防衛費の総額は減額されている。
  • 【軍産複合体を肥やすだけという立場に対して】他に有力なミサイル防衛の代行手段が考えにくい以上は、ミサイル防衛に関する機材を米国から購入する以外の選択肢は考えにくく、日本独自にミサイル防衛技術を一から構築する事は、コスト的にも技術的にも難しいとされる。
  • 【実用の面に対して】時刻を指定しない不意打ちでの迎撃実験は何度も行われている[4]

意見を集約しまとめると、

  • MDという手段に対する否定、もしくは拒否する意見
  • MDという手段の実用性に対する否定、もしくは強い疑問を持つ意見
  • MD自体の能力については了解するものの、その導入経費が防衛費を圧迫する状況に対しての懸念
  • MDシステムの着実な発展を手がかりに、賛成する意見

となる。

ミサイル防衛に関する議論の内容はその性質上、技術的課題に未知数な部分が残り、防衛政策(及び、安全保障政策)上の問題のみならず、経済的問題、政治的な課題が複雑に絡み、客観的かつ的確な議論を行うことが難しいとされる。

[編集] 脚注

  1. ^ 防衛省技術研究本部 - H17/11:将来センサシステム(搭載型)の性能確認試験H19/12:AIRBOSS ミサイル標的の探知・追尾に2度目の成功
  2. ^【質問】MDの法的枠組みを整備するための、イージス艦に関した自衛隊法改正案とは、どんなものか?」、2ちゃんねる軍事板常見問題
  3. ^ 仮にアメリカ・ユーラシア両大陸間で核攻撃を行う場合、弾道は北極圏を通過するコースが最短な為、日本上空を通過するケースは考え難いという見方もある。
  4. ^ FLIGHT TESTS FOR AEGIS BALLISTIC MISSILE DEFENSE(英語)

[編集] 関連項目

ウィキメディア・コモンズ

[編集] 外部リンク

執筆の途中です この「ミサイル防衛」は、武器兵器に関連した書きかけ項目です。この記事を加筆・訂正などして下さる協力者を求めています軍事ポータル|軍事PJ


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