細胞
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細胞(さいぼう)は生物の最も基本的な構成単位である。ウイルスを除き、全ての生物が細胞から成り立っている。細胞を持つことが生物の定義とされることもある(この場合、ウイルスは非生物に位置付けられる)。
生物は多様であり、一つ一つの細胞が独立して生きていくような単細胞生物から、同じような細胞が集まってコロニーや群体を形成して一緒に生きていくようなもの、また一つ一つの細胞に分かれては生きていけないほどまでに特殊化した細胞からなる多細胞生物まで、様々の形態がある。ヒトは約220種類の細胞組織から構成されている。
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[編集] 全ての細胞に共通する性質と構造
何種類かの特殊な細胞を除けば、全ての細胞は細胞膜、染色体、リボソーム、細胞質(原形質)といった共通の構成要素を持っている。外界から内部を隔てる構造が細胞膜である。細胞膜は脂質二重層から構成されている。その内部には生体物質を含む水溶液があり代謝の場を提供している。生体物質としては構造や代謝に機能するタンパク質を含み、遺伝情報を担う DNA を持つ。他にはエネルギー源や情報源として脂質や糖質が含まれる。これらの生体物質は集合してより高次の構造をとっている。DNA は主に染色体として存在する。翻訳の場として rRNA とタンパク質からなるリボソームがある。
また、細胞には細胞分裂、遺伝子発現、代謝などの能力が備わっている。細胞分裂は細胞が増殖を行なう手段であり、遺伝と進化の基本現象となる。遺伝子発現は DNA が持つ遺伝情報がタンパク質などの機能物質へと変換される過程である。代謝は原材料となる物質を摂取し、それを細胞の構成要素の構築やエネルギー生産に利用したり、その副産物を放出したりする現象であり、生物の恒常性を維持する基本的な機構である。
このことを言い換えれば、細胞は生命現象を示す、つまり細胞そのものが生きていると言うことである。細胞が生命の単位とも言われるのは、そのためである。
[編集] 原核細胞と真核細胞
細胞はその内部構造から原核細胞と真核細胞に分けられる。これらの最も大きな差異は細胞核の有無である。原核細胞には真正細菌と古細菌が含まれ、真核細胞は真核生物が含まれる。また、原核細胞から構成される生物をまとめて原核生物と呼ぶ。これら3種類の生物群はドメインと呼ばれる最も上位の分類群で、進化的には古細菌と真核生物が近く、真正細菌が離れている。
原核細胞は真核細胞に比べ、構造が単純である。原核細胞は単細胞生物や群体をなす生物に限定して見ることができる。真核細胞は、その細胞膜の内側に細胞小器官を有する。ミトコンドリアと葉緑体は細胞に取り込まれた真正細菌が共生したものに由来すると考えられている(細胞内共生説)。単細胞の真核生物は非常に多様な種類があるが、群体や多細胞生物の種類も多い。(多細胞生物の中に含まれる界である動物界、植物界、真菌は全て真核細胞生物である。) なお、原核細胞を裸核細胞、真核細胞を被核細胞と呼ぶこともある。
[編集] 原核細胞
- 細胞の大部分を液体が占めており、原核細胞の細胞質基質はそこに拡散した状態になっている。また、リボソームが細胞内に浮遊しているのでざらざらしている。
- (古細菌のテトラエーテル型脂質などを除き)細胞膜は主に脂質二重層であり、細胞内と外界とを隔てている。また、フィルターとして、内外の通信中継器としての機能も持つ。
- (マイコプラズマと古細菌のサーモプラズマ属などを除いた)ほとんどの原核細胞生物では、細胞壁がある。真正細菌の細胞壁は主にペプチドグリカンから構成され、細胞を外界の影響から守る強固な壁となっている。また細胞壁の存在は、低張液などの条件下での浸透圧による細胞の破裂を防止する。一方古細菌はS-レイヤー、シュードムレイン、シース、メタノコンドロイチン、糖鎖など様々な種類の細胞壁を持つ。最も一般的なのはS-レイヤーであるが、浸透圧の変化に対してはそれ程強固ではない。
- 原核細胞のゲノムDNAは環状(稀に直線状)のDNA分子である。一本とは限らず、生命活動に必須な遺伝子が複数のDNA分子に分かれて乗っている場合もある。これとは別にプラスミドを持つものもいる。はっきりとした核は見られないが、DNAは核様態という形で凝縮し、古細菌ではクロマチンに似た構造をとる。
- ある種の原核細胞は鞭毛を持つ。そのような生物は漂流するだけでなく、能動的に移動することができる。
[編集] 真核細胞
- 真核細胞の細胞質基質は原核細胞と違ってざらざらしていない。これはリボソームの主要な部分が小胞体に結合しているためである。
- 細胞膜は、原核細胞と構成は少々異なる部分もあるが、機能はほぼ同じである。真核細胞では、細胞壁があるものもあれば、無いものもある。
- 真核細胞のDNAは、一本、または複数本の分子から構成され、染色体と呼ばれる。染色体は、DNAがヒストンに絡みついてしっかりと凝縮した状態になっている。全ての染色体のDNAは核の中に閉じ込められており、核膜によって細胞質と隔てられている。何種類かの細胞内小器官は、それぞれが独自のDNAを持つものがある。それらは、元は別の生物であり、共生によって細胞小器官となったとする、細胞内共生説が現在ではほぼ認められている。
- 真核細胞生物の中には、繊毛や鞭毛で移動できるものがある。鞭毛は原核生物のものとは構造が異なり、まったく違った性格のものである。
[編集] 原核細胞と真核細胞の特徴のまとめ
原核細胞 | 真核細胞 | |
---|---|---|
典型的な生物 | 真正細菌(バクテリア)、古細菌 | 真核生物(原生生物, 真菌, 植物, 動物) |
一般的な大きさ | ~ 1-10 μm | ~ 10-100 μm |
細胞核の形態 | 核様体; はっきりとした核の境界は無い | 二重膜で区切られたはっきりした核がある |
DNA | 環状、稀に直線状 一部の古細菌のみヒストンと結合 |
直線状で、ヒストンと結合している 細胞分裂時には染色体を形成する |
RNA-/タンパク質-合成 | 細胞質中で行われる | RNAの合成は核の中で、タンパク質の合成は細胞質で行われる |
リボソーム | 50S+30S | 60S+40S |
細胞質 | 構造はほとんどない | 膜と細胞骨格によって高度に構造化されている |
細胞の移動 | フラジェリンから構成される鞭毛 | チューブリンから構成される鞭毛と繊毛 |
ミトコンドリア | なし | 1-数十個 |
葉緑体 | なし | 藻類と植物にある |
組織化 | 通常は単細胞、稀に群体・融合体 | 単細胞、群体から高度に分化した多細胞まで |
細胞分裂 | 二分裂(単純な分裂) | 有糸分裂(核分裂) 細胞質分裂(細胞質の分裂) |
[編集] 細胞小器官
また、図には示されていないが、
- マイクロフィラメント(アクチンフィラメント)
- 中間径フィラメント(中間フィラメントあるいは10nmフィラメント)
- デスモソーム(接着斑)
- ギャップ結合(間隙結合あるいはネクサス)
- タイト結合(タイトジャンクションあるいは密着結合、閉鎖帯)
- エンドソーム
- ペルオキシソーム
- 分泌顆粒(分泌小胞)
なども存在する。
微小管、中間系フィラメントおよびアクチンフィラメントをまとめて、細胞骨格と呼ぶ。
[編集] 歴史
- 1665年: "Cell" の名前の由来は、ロバート・フック (Robert Hooke) が1665年に刊行した顕微鏡図譜「Micrographia」で、コルクガシのコルク層小片を観察し、多数の中空の構造として見られた死細胞を、小部屋を意味する "Cell" と命名したのが始まりとされる。
- 1839年: テオドール・シュワンとマティアス・ヤコブ・シュライデンは動植物は基本的に細胞から構成されていることを解明した。 すなわち細胞は生物共通の構造と発生の基本単位であるとする細胞説の基礎となった。
- 19世紀: ルイ・パスツールは生物の自然発生説を否定した。
- ルドルフ・ウィルヒョウは、新しい細胞は常に細胞分裂から生じるとした。
[編集] 参考文献
- Cell Biology and DNA - Graphics
- 『細胞の分子生物学』第3版
- 『岩波生物学辞典』第4版
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