脂質二重層
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脂質二重層(ししつにじゅうそう、lipid bilayer; リピッドバイレイヤー)とは極性脂質が二層となり膜状の構造をとったもののことである。生体膜の基本的な構造の一つで、極性脂質、特にリン脂質からなる。
1935年にDanielliとDovsonの提唱した『細胞膜は脂質の二重層からなる』という説に基づいた、生体膜モデルの一つでもある。
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[編集] 構造
脂質二重層構造をとる極性脂質は、親水性と疎水性の両方の性質を兼ね備えた両親媒性(りょうしんばいせい)という性質を持っている。親水基は極性を持つ水分子と静電的結合あるいは水素結合を作って水側へ配向する。一方、疎水基は水を避けるよう疎水基同士で凝集する。
このように両親媒性の分子は水中でエネルギー的に最も安定化する構造として、外側に親水基を配置し、内側に疎水基を水から隔離されるように配置する。膜の側端においては疎水基が水分子に触れるることがないよう膜構造を変化させて側端を作らないように配置される。すなわち側端が存在しない三次元構造として球状の小区画を形成する。この球状の脂質二重膜は脂質二分子膜ベシクルと呼ばれ、内部が水分子で満たされている。純粋な平面構造をとらせるには側端を別のもので水分子から隔離するように行わなければエネルギー的に起こり得ない。
[編集] 流動性
安定化した脂質二重層は一見静的に見られるが、その実、脂質分子は以下の様な動きを見せる。
- 側方拡散(そくほうかくさん)…脂質分子が平行に移動する
- 回転…個々の脂質分子が文字通り回転する
- フリップ・フロップ…上下の脂質分子が入れ替わる(生物体では頻繁に起こるが、エネルギー的にはなかなか起こらない)
側方拡散と回転については頻繁に起こっており、こうした動きの良く見られる脂質二重層は流動性が高いといえる。
脂質二重層の流動性を決定する最も重要な要因は、炭化水素鎖がいかに整然と配置するかによる。それは炭化水素鎖の以下の特性によって決定される。
不飽和度が高く(二重結合の数が多く)、炭素原子数の少ない炭化水素鎖からなる脂質二重層であればあるほど流動性は高い。
脂質二重層の流動性は、生物の生息温度に深く関係しており、至適生育温度の低い生物では生体膜の流動性が低温でも維持されるように工夫されている。なぜなら、流動性が下がると側方拡散や回転の頻度が低下し、膜および配置されているタンパク質の活性が低下するからである。そのため、低温環境に生息する生物、例えば深海性魚類の細胞には膜の流動性を低温でも保つため不飽和脂肪酸が多く含まれている。
[編集] 物質の透過性
生体膜は『外界との境界として内部物質の流出を防ぐ』という役割を担うため、その物質透過性は生物体にも極めて大きな影響がある。脂質二重層を通過する物質は以下のようなものがある。
気体に関しては脂質二重層に溶けやすく拡散によって膜を透過する。極性分子は大きさによって透過スピードが異なり、分子量が大きくなると透過しにくくなる。
逆に透過が妨げられるものとしては
大型の極性分子については上記に挙げた理由から透過しにくい。イオンに関しては分子量に無関係に水との静電気的、水素結合のほうが強く、脂質二重層疎水部に浸入することができず透過性が無い。
脂質二重層では上記の選択が行われるが、実際、生体膜においては配置している膜内輸送タンパクによってアミノ酸、糖、核酸、イオンなどの取り込みが行われる。
[編集] 人工脂質二重層
脂質二重層は脂質が水中で取りうる最も安定な形状であるために、人工的に合成が簡単な膜の一つである。そのため、膜タンパクの特性を調べたりする実験に頻繁に使用されている。
こうした実験に使用される脂質二重層のうち球状のものをリポソーム、平面状のものを平面状二重層と言う。これらの二重層を用いて行われてきた実験には、膜タンパク活性に関わるものが多くin vitroにおける活性を定量しにくいこれらのタンパクの知見を収集することにいまだ使用されている。
これらの実験のうち、もっとも有名なものがバクテリオロドプシンのプロトンポンプ活性を調べた実験だろう。今後、コンフォメーション変化の未知な膜タンパクの活性が脂質二重層を用いた実験から明らかになってくるものと思われる。