水着
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水着(みずぎ、swimwear、swimsuit、swimming suit)は、プールや海で運動、遊泳もしくは潜水用に着用する衣服のことである。水泳用、潜水用など様々な物があり、デザイン・構造や素材など多くの点で異なる。
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[編集] 水着の歴史
[編集] 使用目的による分類
[編集] 運動用
水泳競技やフィットネスに用いられる水着。体を動かす支障にならないこと、脱げにくいこと、(特に競泳において)水の抵抗を減らすことが求められる。競泳用水着、スクール水着、フィットネス水着など。過去、競泳選手は水着自体による水の抵抗を減らすために肌の露出度を高める傾向があり、男子はブリーフ型、女子はハイレグ型が一般的であった。2000年代頃から水着の素材や表面の模様を工夫することによって、水着表面の抵抗が肌の抵抗を下回るようになると、首、手首または腕、足首を除き、全身を包み込む様な物等が普及し始め、長尺の水着を使用する事が多くなった。オリンピック競技などの水着はいわゆる新素材・ハイテク素材が積極的に投入されている。ライフセーバーにおいても同様の全身を包み込む様な物等が普及し始めているが、これらは危険回避や体温の維持などを重視した物が多い。
- 競泳用 - 基本的に「競泳用」と呼ばれるものは水泳連盟の公認を受けている。密着度・圧迫度が非常に高くフィットネス用途に比べると伸縮性が低い。抵抗が少なく身体の無駄なブレを防ぐが、耐久性は重要ではないため劣化が激しい。また、男子水着は女子と同じワンピース型を除き腰で履くことを想定されている。これは、腹にあわせてしまうと、水の流入方向、臀部と腹部の径の違い、動作による腹部の径の変化から密着性が損なわれ抵抗が増大するためである。このため臀部(臀裂)が若干露出する状態になることもあるが、着用する水着が既製品であるため避けられない。しかし、臀部(臀裂)が大きく露出する状態は臀裂と水着との隙間に入り込む水が多く、結果抵抗となる。また、極端に小さいサイズを着用すると大腿部や臀部の動作に制限がおきやすい。このような状態は競技には向かず、水着のサイズが合っていないと言える。男女ともに、小さいサイズをムリに着用することはこの2つのデメリット以外にも、素材が伸びすぎてしまい設計意図どおりの性能を発揮できないということもあり、サイズ選びは注意が必要である。
- フィットネス用 - 競泳用に比べタイトではなく水中運動を楽しむためのもので、素材の自由度が高いためデザイン性が高い。ほとんどの製品が柔らかく伸縮性の高い生地を(部位・製品によっては二枚重ねで)使い、動きやすさ、着心地への工夫がなされている。形状としては競泳用に準ずるものが多いが女子用はセパレーツタイプもある。
- 水球用 - 競技特性上、滑りやすい素材を二枚重ねにしたり、表面処理を施しつかみにくく、破れにくくなっている。水球の稼動範囲の大きな動きに対応した、臀部の生地にゆとりがあるものもある。
[編集] 遊泳用
男性はトランクス形式の物が多いが、女性はファッション性を重視し、ワンピースタイプや、胸部と下腹部にそれぞれ着用するビキニタイプといわれるものが一般的である。海岸での海水浴やプールなどでの水遊びのために用いられる水着。もっぱら見た目の華やかさ、スタイルを美しく見せることが重視される。特に女性用は各メーカーのファッションデザイナーが毎年、新作を発表し水着キャンペーンガールと呼ばれる女性達が広告宣伝を行っている(近年、キャンペーンガールを取りやめるメーカーも多くなってきた)。デザインや色・模様などはまさしく千差万別ではあるが、白のように薄い色合いの布地は水に濡れると透けてしまうことから(後述するような「見せるためのもの」を除いては)使われることは少ない。しかし2000年代頃より「透けない白」などと呼ばれる新素材を用いたものが登場している。
[編集] 潜水用
シュノーケリングなど、主として水面で行われるレジャーとしての簡易な潜水の場合は、多くの場合遊泳用水着が用いられる。潜行を伴うスキンダイビングやスクーバダイビングでは、ウェットスーツやドライスーツが用いられる場合が多いが、水温が30℃を超えるような場合には、ダイブスキン(あるいはスキンスーツ)と呼ばれる、全身を覆う形状の水着が着用される場合もある。
[編集] ラッシュガード
主としてサーフィンに用いられる、低温、紫外線、擦過傷、あるいはクラゲ等の有害生物から身体を保護することを目的とした水着である。ウエットスーツの内側に着用されることが多く、また有害生物が内部に侵入することを防ぐため、伸縮性の生地を用い、身体に密着するようになっている。形態は男性用、女性用ともほぼ同じで、上半身は着丈の比較的長い長袖あるいは半袖、下半身はショーツ型である。素材としては身体の保護性能を高めるため、他の水着よりは厚く、目の詰まった素材が用いられることが多い。形態・素材の点で従来の水着と若干異なるため、商品としては水着とは区別して販売される傾向にあるが、用途や基本的な構造等の点では実質的に水着そのものである。
[編集] 見せるためのもの
水着を着用して、水着を含む体全体を第三者に見せる事自体を目的とするときに用いられる水着。水着をファッションとして使用するため、デザインや肌の露出度の高さが水着本来の機能よりも優先されることが多い。水着キャンペーンガール、レースクイーン、ミスコンテスト、またはアイドルの水着撮影会のときに着用される。他にボディビルダーが極端に布地の面積の小さいビキニタイプの水着を着用する場合もある。水着との外見上での区別が難しい場合があるが、裏地の全く無いものや水に入る事を全く考慮していないものはレオタードになる。
[編集] 女子プロレスラー用
女子プロレスラーの試合用コスチュームも、通例『水着』と呼称する。これはかつて、水着を改修して試合用のコスチュームとしていたことにより言い習わされたもので、現在でも新人は水着を改修したものを使用することが多い。
[編集] 女性用水着
[編集] デザインによる分類
- ワンピース - トップ(上半身)とボトム(下半身)が繋がっているタイプ。
- ツーピース水着 - トップ(上半身)とボトム(下半身)がそれぞれ独立したタイプ。
[編集] トップ(上半身)のラインによる分類
- ベアトップ - バストラインより上をカットしたデザイン。
- ベアバック - 背中を大きくカットしたデザイン、バックレス。
- ベアミドリフ - ウエスト部分を大きくカットしたデザイン、寸胴を目立たせなくする。
- Vネックライイン - 胸元を深くカットしたデザイン、バストラインを美しく見せる。
- ホルターネック - ストラップを首に吊るしたデザイン。
- ワンショルダー - 片方のストラップをとったデザイン、肩幅の広さを目立たなくする。
- ストラップレス - トップに肩ひもがない形のもの(英語の意味もそのままである)。胸の大きさが目立たないという長所がある反面、上からの衝撃には弱いという欠点がある。ビキニの場合はチューブトップとも言い、背中はひもでなく太い布とするのが一般的。また好みにより肩ひもが着脱可能なものもある。
- センターストラップ - 肩ひもが首から胸の中央までV字になっているもの。これも胸が目立たず、可愛いという特徴がある反面、乳首と肩ひもの位置が一致していない為、やはり上からの衝撃に弱い。またチューブトップブラと組み合わせる場合、センターストラップとブラの下のワイヤが、胸の中央でX字に交差するデザインも見られる。
- ワイドストラップ - センターストラップと逆で、胸の両側までハの字になっているもの。
[編集] ボトム(下半身)のラインによる分類
- ハイレグ - 腰骨あたりまでカットされたデザイン。
- スーパーハイレグ - サイドが3~4㎝しかなく腰骨より上にハイカットされたデザイン 。
- ローレッグカット - カットが非常に浅いデザイン。
- ボーイレッグ - ショートパンツ風のデザイン。
- ローライズ - 股上が浅いデザイン、1970年代まで流行ったが短足に見えるため、現在グラビアアイドル以外では余り着られない。
[編集] ボトムのバックによる分類
- フルバック - ボトムのバック全体をすっぽり覆うデザイン。
- ブラジリアンカット - ハイカットでボトムのバックが1/2カットのデザイン。
- リオカット - よりハイカットでボトムのバックが1/2カットのデザイン。
- Tバック - ボトムのバック‐デザインがT字型で、以下のモノの日本での俗称。和製英語。
[編集] 結合部・ストラップによる分類
以下の三方式はチューブトップや矯正ビキニなど、背中の結合部にストラップでなく布を使う水着に多い。
- L字式ホック - 下着のブラジャーでは、結合部を外側から体側に引っかける方式が多いが、水着では右肩側のL字状プラスチックパーツを左肩側のくぼみに入れる方式が多い。また結合部が背中でなく、左のブラの脇の下に設けられているタイプもあり、これは背中に比べ、一人で装着しても見え易くかけ易い、寝転がっても背中に当たらないなどの長所を持つ。
- バタフライ式ホック - 平たいプラスチック板をX字状に交差され、指で平らにすると、男子向けプラスチック玩具でよく使われるはめ込み機能が働いて固定される。L字式の次によく使われるが、ある程度縦の高さを必要とするため、背ひもがストラップのものには使われない。
- ちえの輪式ホック - 左右とも輪の先に小型の分銅があり、右の分銅を左の輪(左右で微妙に形が違う)に通す。この後は指で押して固定する手順が無いが、ストラップの弾力で引っ張られて自然に直線化されるので、隙間なく固定される。強度上必ず金属が使われるので、リングの形や分銅の部分に装飾が施せる特徴を持つ。
- バッククロス - 背中でストラップを交差させたデザインで、背中を小さく細く見せる。ストラップは継ぎ目無し、またはブラや腰の部分で金属パーツを引っ掛けて固定するものも多い。主にワンピースやスリングショットで見られ、競泳水着では交差部の下部が布と一体化しているデザインも見られる。ビキニでは物理的にブラの位置が苦しくなるのであまり使われない。
- タイサイド - ボトムのサイドを紐で結ぶことでサイズを調整するもの。近年は飾りとしてダミーの紐となっているものもあるが、実際に結べるタイプはかなり長いもの、ダミーは妙に短いものがあり、外観からある程度判別できる。
- この他にボタンやスナップを使った水着もあったが、現在はデザインセンスとしては古くなり、幼児向け水着などにしか使われない。
- ストラップを結ぶタイプは結び目が抜ける、およびストラップが端からほつれるのを防ぐため、端をきつく玉縛りにしてあるが、ここにビーズなどのミニアクセサリーをぶら下げるデザインも見られる。
[編集] その他
- ワンピース・セパレーツ共にボトム部分がロングスパッツになっているものがあり、競泳用・スクール水着に使用される。また遊泳用としてはボトムにミニスカートやホットパンツ、パレオ等と併用する場合がある。
- パイピング - 布の縁がパイプの様に少し太くなっているもので、パイピングだけ色を変えるデザインが多く見られる。ビキニは布の周囲全てにパイピングがあり、2000年頃からは白い布に赤いパイピングが人気。またストラップとあわせて左右や上下で色を様々に変えるパイピングもある。ワンピースはブラの上のみがパイピングで、競泳水着でストラップと同じ色にするものが多い。
- パレオ - ボトムに巻いた布。トロピカルなイメージがあるが露出度が減るため、男性より女性の視点で人気がある。
- 胸パッド - 水着では1980年代まではあまり使われていなかったが、現在では低年齢向けを除くと、ほとんどのブラにパッドが装着されている。形をよく見せるほか、ブラのガードが崩れた時に守りを少々堅くしておく(パッドが入っていると簡単にめくれない)目的もある。肩ひも付きのブラは物理的に余裕があるため、上部か左右にポケットを設け、パッドを単独で入れ替え可能なものが多い。逆にストラップレスやチューブトップでは上記と逆になるため、パッドを縫いつけなければいけない。
[編集] 男性用水着
男性は乳房を隠す必要がないため、一般的に下半身を覆うのみであるが、ワンピース型も存在する。女性用に比べデザインが凝ったものは少ない。男性用水着の俗称としては形状・用途に左右されず、海パンが圧倒的である。
- ブリーフ型 - 脚の自由度が高い。ビキニ、ブーメランパンツと呼ばれることが多い。遊泳、フィットネス、競泳用ともに種類は比較的豊富。臀部・大腿部のブレをおさえられないため、近年の競泳の大会では着用して出場する選手は減少しているが、生地面積が少なく一番安価であるため廃れない。下腹部・臀部の形状に沿った日焼け跡になるため、日焼けの際の水着として好まれる傾向がある。サイドラインを太くし、ファッション性を高めたショートボクサーに近いデザインもある。競泳でも履き方に流行廃りがあり、過去には男子用ビキニ型の装着位置を過度に下げて履くことが流行った時期があり、小さ目や細めの水着をメーカーも発売していた。
- Tバック - バックスタイルがT型の形状になっているタイプ。臀部が隠れない。日本では公衆施設などで着用して遊泳する者は少数。男女ともに着用が禁止されているプールもある。和製英語。
- ビキニ - ブリーフ型の中でも、特にサイドラインが細く、更に露出度が高いもの。腰(骨盤)より上にサイドラインが来るタイプもあるが、こちらは競泳用ではなく、ボディビルダーが身体を見せるのに使うポージングに使用することもあるなど、ファッション性重視である(大会に出るようなボディビルダーが主に履いているものはビルダーパンツなどと呼ばれ、水着とは別物である。)。なお、女性用をビキニというのに対して男性用のそれはモノキニとも呼ばれる。
- ブーメランパンツ - 競泳用のタイトなブリーフ型水着を前方からみたとき、ブーメランのように見えることからつけられた呼称。
- 競パン - 文字どおりでは競泳用パンツの略称になるが、競パンと呼称する場合主に男子のブリーフ型を指し、スパッツ型などは含まない。競泳用にとどまらずタイトなブリーフ型も含み、ファッションの分類用語に近い。「競パン」だけでは、水泳をやっていなければ何の競技のパンツなのか意味が通じず、販売店でもそのような呼称で販売しないため、用いる者は少数
- ショートボクサー型 - 股下数センチ(主に3~7cm)までを覆う。ビキニ型より生地が多く露出度は若干低いがデザインに凝ったものが多い。俗に言う耐久水着や抵抗水着(アリーナのタフスーツなど)で一番多いタイプである。少数だが競泳用のものもある。
- ショートスパッツ型 - 膝うえまでを密着して覆う。主にプールでのフィットネス、競泳用である。ハーフチューブ、ハーフスパッツとも言われる。
- ロングスパッツ型 - 足首まで覆うタイプ。競泳用である。チューブ、ロングチューブ、フルレングスとも言われる。
- ワンピース型 - 主に競泳用で、近年使用されてきている上下一体型水着。
- ショートジョン - 下半身を膝上まで、上半身は肩掛けの水着
- ロングジョン - 下半身を足首まで、上半身は肩かけの水着
- フルボディ - 首から下、手首・足首まで、ほぼ全身を覆う水着
- トランクス型 - 主に遊泳用でファッション性が高い。肌に密着しておらず抵抗が大きいため、水泳運動そのものには向かない。色、デザインに凝ったものが多い。
- ふんどし - 小学生~成人は白、又は赤の六尺褌(主に東日本は前袋式、主に西日本は前垂れ式)、学校によっては越中褌、幼児~小学生は黒猫褌。
[編集] 水着用下着
第一次性徴期の男女は身につけないことが多い。ただし、股布の無い水着を着用する場合はスイムショーツ(スイムサポーター)を履くことが多い。第二次性徴期以降は陰部の保護や陰部はみ出し、陰毛のはみ出しや女性の場合マンスジを防ぐために股布のある水着を着用していても水着の下にスイムサポーターを履くことが多い。一般的に競泳用は材質そのものが優れており、あえて履く必要はなくなっている。色は白・ベージュ・黒などである。また、第二次性徴期以降の女性は、胸ポチや、摩擦を避けるために粘着式の乳首被覆用パッド(知名度の高いニプレスは常盤薬品工業の登録商標である)を貼り付けたり、水着の下にバストパッドを付けることもある。どちらとも下着は水着からはみ出ないように着用する。
[編集] 競技用水着についての概要
競泳用の水着は1970年代以降、素材の改良やデザインの見直しが常に行われ、記録の向上に寄与してきた。そんな中で水着の製造・販売に携わるスポーツ用品メーカーの競争が繰り広げられ、業界再編につながるケースも出てきた。
現在世界ではフランスの「arena(アリーナ)」と英国の「SPEEDO(スピード)」の両陣営がメジャーとなっており、これにイタリアの「DIANA(ディアナ)」、日本の「アシックス (ASICS)」が続く。最近ではアメリカの「ナイキ (NIKE)」、ドイツの「アディダス (adidas)」、さらに北京オリンピックをにらんで中国の「Yingfa(インファ)」も世界市場に食い込んでいる。
日本国内ではデサントがarena、かつてのミズノがSPEEDO陣営に加わり、これにアシックスを加えた3社が日本水泳連盟から各競技代表選手への水着供給メーカーとして指定され、一般にも普及している。しかし、各社とも技術力をつけてきたことや上記海外勢が日本への展開を本格化させたこともあり、近年は独自の世界戦略をとり始めている。
アシックスはDIANA陣営に加わり、日本で同社の水着をライセンス製造・販売していたが、陸上競技などで自社ブランドへの世界的な認知が高まったことから、競技用水着は自社ブランドに切り替えた(女性向けフィットネス用では引き続きDIANAブランドの人気が高いため契約は存続し、「COMO DIANA」のブランドで製造・販売を継続中)。さらにSPEEDO陣営の一員として数々の先端技術開発を担ってきたミズノも2006年末、創業100年を機に「全商品のブランドを“MIZUNO”に統一する」という方針を明確にし、SPEEDOとのアジア地区パートナー契約を2007年5月で終了させ、以後は自社ブランドの水着を展開している。
なおSPEEDOはミズノとのライセンシー契約が終了後、三井物産が日本での新たなパートナーとなり、ゴールドウインの受託製造・販売で展開されている。
国際水泳連盟は2007年、「北京オリンピックから、水着表面に(高速化のための)特殊な加工を施すことを禁じる」決定を行った。これにより各メーカーでは、いわゆる「鱗(うろこ)入り」「突起付き」「ストライプ入り」水着の製造中止に追い込まれた。このルールの周知を徹底させるため、国によっては新ルールを前倒しで実施して大会を行うケースもある。