スクーバダイビング
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スクーバダイビング、スキューバダイビングとは、スクーバ器材を使用して行う潜水を指し、息をこらえて行うスキンダイビングや、地上からホースで空気を供給する送気式潜水と対比される。日本にはアメリカのアクアラング社(Aqua Lung)が紹介し、一時期は社名がそのまま呼称として有名だった。
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[編集] 語源・由来
スクーバとは、英語のSelf Contained Underwater Breathing ApparatusのアクロニムであるSCUBAのカナ表記であり、空気などの呼吸ガスを携行する方式の潜水器具(ジャック=イヴ・クストーが発明者の一人として有名)を指す。自給式水中呼吸装置とも訳される。英語のSCUBAは本来潜水器具を指す名詞であるが、現在では、この方式の器具を用いて行う潜水活動をもスクーバと言い、また形容詞的語としても良く使われる。
レジャーダイビングの安全管理は、洞窟潜水(テクニカルダイビングの一種)より情報を得ている所が多く、ケイブダイバーは国際的な大手ダイビング指導団体のトレーニング部に所属したり顧問をしている。またダイビング器材メーカーにもケイブダイバーが所属していたり顧問をしている会社が増えた。
スクーバダイビングは、海事工事、水難救助、軍事などの職業的活動としても行われるが、一般にはレジャーダイビングを示すことが多い。
[編集] レクリエーショナルダイビング
海や湖などに楽しみで潜る行為を指し、ファンダイブともいう。
一般に、次の範囲内で潜水することが強く推奨される。
- 水深30m以内(特にトレーニングを受けた場合水深40m以内)
- 特別な浮上手順(減圧)を行わなくて良い水深・潜水時間
- 直接浮上可能な場所
- 洞窟の場合、自然光の届く範囲
- 沈没船の場合、外側
- 呼吸ガスは空気(講習を受けることでEAN40以下のナイトロックス)
[編集] テクニカルダイビング
一般的なレクリエーショナルダイビングの限界を超えた領域、すなわち
- 水深40m以上
- 減圧潜水(特別な浮上手順を要する潜水)
- 洞窟潜水
- 沈没船内
などに、より安全に到達・帰還できるよう装備や手順を体系化した非職業的ダイビングを指す。 全てのレジャーダイビングにおける安全管理の基礎を担う。 詳しくはテクニカルダイビングの項参照。
[編集] コマーシャルダイビング
商業潜水ともいう。営利を目的とした作業潜水や調査潜水などを示す。
[編集] 主な指導団体
指導団体とは、ダイビングの普及・ダイバーの育成を目的とする営利または非営利の団体。現在日本だけでも30あまりの団体があり、それぞれの理念に基づいてダイバーの教育、Cカードの発行を行っている。以下に主な指導団体を挙げる。
- PADI - パディ(Professional Association of Diving Instructors)
- 1966年にアメリカで設立。全世界のダイバーの約60%が所属しているといわれる、名実共に世界最大のダイビング教育機関。
- NAUI - ナウイ(National Association of Underwater Instructors)
- 1950年代初め(下記BSACよりは後と見られる)、アメリカのカリフォルニアで発足したナショナル・ダイビング・パトロールを前身とする。
- BSAC - ビーエスエーシー(British Sub-Aqua Club)
- 1953年、イギリスのロンドンで発足。チャールズ皇太子を名誉総裁に戴く、世界最古の伝統を誇るダイビング教育機関。
- AII - エーアイアイ/国際指導者連盟(Association of International Instructors)
- 1959年にダイビング教育コースを開始した、U.S.YMCAスクーバプログラムを基本とし、安全にそして真に楽しめる自立したダイバーの養成と指導を提供できる国際的に通用する団体を目指し活動。世界水中連盟(CMAS)のメンバーとしても認められている。
- SSI-エスエスアイ/スクーバスクールズインターナショナル(Scuba Schools International)
- 1970年にアメリカで設立された指導団体。フリーのインストラクター登録は認めず、代理店(ディーラー)のみに雇用されるインストラクターを認定しているのが特徴。90カ国以上に提携ディーラーを約2100店舗配する。
[編集] ログ (log)
潜水場所、潜行日時、潜水時間、気温、水温、透明度などの環境要因などを含めた潜水の記録である。日本においては遭遇した生物等の副次的な出来事を記録することに重点が置かれることが多いが、これは必須の記載要件ではない。ログに記録されたダイビングの回数は、Cカードと共に潜水の技量を対外的に証明するものであり、非常に重要である。また、証明としての信憑性を高めるため、ダイビングのためのサービスを提供した者、あるいは一緒にダイビングした者のスタンプないしは署名をその都度得ることが多い。なお一般的に、ダイビングの回数は潜行・浮上の回数ではなく、使用したタンクの本数を基に、「1本」「2本」というように数える。
[編集] バディシステム(buddy system)
ダイビングを行うに当たって、2名以上でお互いが相手側の安全を確認し合うシステムである。単独で潜水する場合に比べ、緊急時の対応が取りやすくなるという安全対策でもある。このシステムは、潜水以外にも多くの安全対策手段として用いられている。
安全確認を行うパートナーをバディと呼ぶ。
[編集] スクーバダイビング用の器材
ダイビングは、器材に頼るレジャーであり、器材選択は安全管理の基本にもなる。
詳しくは、ダイビング器材の項を参照。
[編集] スクーバの障害
[編集] 肺の過膨張傷害
息を止めて浮上したことで起きる。 深いところでは周囲の水圧と同じ圧力の空気を吸うので、息を止めると空気の体積が大きくなり、肺が膨張し、破裂してしまう(肺破裂)。
スクーバダイビングで最も重要なことは、ゆっくり深く呼吸し、絶対に息を止めない事である。
[編集] スクイズ
体内の空隙などが水圧によって押しつぶされたり引っ張られたりする現象をスクイズ(スクイーズ)という。中耳腔のスクイズによって鼓膜が破れるおそれがある。鼓膜の損傷を防ぐには耳抜きという動作を行う。副鼻腔や虫歯、マスク、ドライスーツも、スクイズを起こして痛みを感じることがある。潜行するにつれて、マスク内の空気が陰圧になることで、マスクが顔に押し付けられたり、ひっぱられたりして痛みを感じる現象をマスクスクイズと呼ぶ。マスクスクイズを防ぐためには、鼻からマスク内に空気を送り込むマスクブローを行う必要がある。潜水前に飲んだ炭酸飲料の気泡により、胃腸に不快感をおよぼすこともある。
[編集] 減圧症
水中で高圧の環境に長時間暴露されることにより、体内の各組織には窒素などの気体が取り込まれる。浮上により周囲の圧力が低下してくると、組織に取り込まれた気体は徐々に放出されるが、このときの圧力低下が急速であると、体外への気体の排出が間に合わなくなり、体内に気泡が形成される。この気泡が血管を閉塞して発症する疾患が減圧症である。
減圧症を発症しないためには、十分に遅い速度で浮上する必要があり、通常、潜水の分野で減圧と言えば、この目的で行う遅い浮上を示す。実際的には、浮上速度を長時間にわたってコントロールすることは非常に難しいため、一定深度で一定時間停止する、減圧停止と呼ばれる手順が用いられる。
潜水計画時において、減圧表(ダイビング・テーブル)と呼ばれる表から減圧停止を行わなくてはならない深度・時間を読み取る。最近は事前の計画をせずに、ダイビングコンピューター(自動化した減圧表)を装着し、その指示に従って潜水する場合が多い。
万が一、減圧症になってしまった場合の治療方法としては、現在、チャンバーという高圧機械の中に入る方法が主である。 チャンバーを持つ病院数は多くはないが、例としては東京医科歯科大学の高気圧治療部が挙げられる。
[編集] 窒素酔い
窒素の麻酔作用によるアルコール酔いに似た症状のこと。窒素中毒(en:Nitrogen_narcosis)ともいう。個人差もあるが、概ね30mを超える程度まで潜ると症状が発現しはじめ、さらに深くまで潜水を続けると、感覚や思考が麻痺し、口からマウスピースを外したりするような危険な行動をとったりもする。浅いところへ浮上すれば、速やかに醒める。低水温、暗い海、視界不良、激しい運動は窒素酔いを増長する傾向にある。呼吸ガス中の窒素分圧が高いことが原因なので、ヘリウムのような、麻酔作用の小さい低分子量のガスを主体とした呼吸ガスを用いることで回避できる。詳しくはテクニカルダイビングの項参照。
[編集] 酸素中毒
酸素の分圧が一定範囲以上のガスを呼吸しつづけると、突然の痙攣、意識消失などを伴う酸素中毒を発症する可能性がある。水中で酸素中毒を発症した場合致命的であることから、特殊な目的のため綿密な計画の下に行う場合以外は、決してスクーバダイビングの呼吸ガスとして純酸素を用いてはならない。時折、スクーバダイバーの携行する呼吸用ガスタンクを酸素ボンベと称する場合があるが、これはほとんどの場合誤った用語である。
[編集] 事故の種類
- ガス中毒
- エアー切れ
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- これを防ぐため、通常はタンク内の空気が50気圧未満にならないようにダイビングを終える。
- 急浮上
- 溺水
- 低体温(ハイポサーミア)
- ノーパニック症候群
- 漂流
- ダイバーの不注意による何らかの生物からの危害
[編集] 関連項目
- 洞窟潜水
- テクニカルダイビング
- ダイビング器材
- 潜水士
- 潜水(関連映画)
- 月刊ダイバー