放送倫理・番組向上機構
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放送倫理・番組向上機構(ほうそうりんり・ばんぐみこうじょうきこう、Broadcasting Ethics & Program Improvement Organization、略称BPO)は、NHKと民放連、民放連加盟会員各社によって出資、組織された任意団体。は理事会、評議員会、事務局と三つの委員会(放送倫理検証委員会、放送と人権等に関する権利に関する委員会、放送と青少年に関する委員会)とによって構成されている。
- 「本機構は、放送事業の公共性と社会的影響の重大性に鑑み、言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対し、自主的に、独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的とする。」(BPO規約第3条「目的」より)
- 「放送事業者は、いわば、BPOの判断というのは最高裁の判断みたいなもので、ここが判断を出したら、いろいろ言いたいことはあっても、すべて守っていく、忠実に守っていく、そういう約束の合意書にNHK及び民放各社がサインをしてBPOに提出しております。」(2007年6月20日衆議院決算行政監視委員会での広瀬道貞民放連会長の発言)
- 「BPOの役割は、番組を監視して罰するところではないということもやはり国民の皆さんにしっかりと、あくまでも放送事業者自身が自主的にさまざまな問題を解決していく、そのためにBPOは応援していく、視聴者と放送局の仲介をするところであるということを国民の皆さんにも周知して知っていただくということが必要だと思います。」(2007年12月4日衆議院総務委員会での飽戸弘理事長の発言)
ロゴマークは、BとPの間に人間のシルエット(錯視図形『ルビンの壷』の要領)を導入している。 テレビコマーシャルは、液晶テレビのキャラクターとリモコンのキャラクターがBPOの活動について話すCM。HDCM。 よく、独立U局やBS放送で流れる(深夜が多い)。
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[編集] 設立経緯
郵政省に設置された「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」が、1996年12月に出した報告書の中で、「視聴者の苦情に対応するための第三者機関を設けるべき」との意見が盛り込まれたことを受け、日本放送協会 (NHK) と日本民間放送連盟が1997年5月に「放送と人権等権利に関する委員会機構」(BRO) を設置。BROのもとに、第三者の有識者で構成される「放送と人権等権利に関する委員会」(BRC) が置かれた。
BROは機能強化のため、「放送と青少年に関する委員会」と「放送番組委員会」を擁する放送番組向上協議会と2003年7月に統合し、放送倫理・番組向上機構 (BPO) に改組された。
[編集] 機構
[編集] 理事会
最高意思決定機関は、「理事会」。放送事業者及びその関係者以外から専任された理事長と、設立母体であるNHK・民放連から専任された8名以内の理事で構成される。 理事会は、評議員を選任する。(評議会については以下で詳述。)
理事会のもとで、日常の業務を行う事務局が設置されている。
なお、政府からの独立性を理念の一つとしているため、放送の所管官庁である総務省との人的・財的つながりは無い。
- 【理事】
[編集] 評議会
放送事業者及びその関係者を除く7名以内の学識経験者で構成される。 評議会は、下部の3委員会の委員を選任する権限を有する。
- 【評議員】
[編集] 事務局
事務局は理事会の統轄下にあり、三つの委員会にあわせて13名の調査役がおり、4名が放送局および民放連からの出向者、9名が放送局OB。(2007年12月4日衆議院総務委員会での飽戸弘BPO理事長の答弁より) BRCには法律専門調査役も。 他に視聴者応対に総括責任者と常時4名体制。
総務
[編集] 放送倫理検証委員会
前身は1969年設立。放送倫理を高め、放送番組の質を向上させるための審議を行う委員会。2007年5月までは「放送番組委員会」という名称だった。
- 【委員】
- 【調査顧問】
- 【過去の主な委員会決定】
[編集] 放送と人権等権利に関する委員会 (BRC)
1997年5月設立。放送番組において人権侵害を受けたと考える者による「申立て」に基づき、実際に人権の侵害があったかどうかを検討する委員会。具体的な番組で具体的な個人・企業等の組織が被害を受けたとする場合でなければ、審理の対象とはならない。
この委員会の出す決定には「勧告」「見解(問題あり)」「見解(問題なし)」の三種類があり、重大な人権侵害があったと認定した場合には「勧告」、重大な人権侵害は存在しないものの、制作・編集過程に若干の問題があった場合には「見解(問題あり)」、放送事業者の対応に人権上の問題が見られなかった場合には「見解(問題なし)」が出される。
- 【委員】
- 【過去の主な委員会決定】
- 「勧告」(重大な人権侵害があったと認定した事案)
- 「自動車ローン詐欺事件報道」(2000年10月6日) - あいテレビ『キャッチあい』の中で、詐欺事件の舞台として自動車販売店が映像に出た際、映像の選択、ぼかし処理、字幕スーパーの表現などが不適切であったため、販売店が特定されてしまい、視聴者に容疑者と共犯関係にあるかのような印象を与えたとして、人権侵害と認定。
- 「熊本・病院関係者死亡事故報道」(2002年3月26日) - テレビ朝日『週刊ワイドコロシアム』で、熊本で起きた交通事故について保険金殺人の可能性が高いと報道したことについて、十分な裏づけが無いまま報道し、当事者への配慮に欠けたとして人権侵害と認定。
- 「中学校教諭・ 懲戒処分修正裁決報道」(2004年5月14日) - 北海道文化放送『uhbスーパーニュース』内の「今日の特集」コーナーで、中学校教諭へのセクハラによる懲戒免職処分が北海道人事委員会の裁決で停職処分に修正されたことを批判的に報道した際に、具体的事実関係及び懲戒処分とその修正過程を客観的に調査し、教諭側の主張を丁寧にフォローすることを怠ったとして、人権侵害と認定。
- 「国会・不規則発言編集問題」(2004年6月4日) - テレビ朝日『ビートたけしのTVタックル』の中で、編集ミスにより衆議院議員の藤井孝男が北朝鮮拉致問題に関する国会審議中に不規則発言を行ったかのように放送されたことについて、人権侵害と認定。
- 「産婦人科医院・行政指導報道」(2005年7月28日) - NHK名古屋放送局『ほっとイブニング』の中で、愛知県豊明市の産婦人科医が受けた行政指導について、当該指導を受けた時期を明示せず、現在も違法行為を行っているかのように報道されたことについて、人権侵害と認定。
- 「バラエティ番組における人格権侵害の訴え」(2006年3月28日) - 関西テレビ『たかじん胸いっぱい』において、タレントの杉田かおるが元夫の鮎川純太の名誉を傷つける発言を行ったとし、人権侵害と認定。バラエティ番組での勧告措置は初のケース。
- 「見解(問題あり)」(重大な人権侵害は存在しないものの、制作・編集過程に若干の問題があったと認定した事案)
- 「サンディエゴ事件報道」
- 「其枝幼稚園報道」
- 「帝京大学ラグビー部員暴行容疑事件報道」
- 「隣人トラブル報道」
- 「援助交際ビデオ関連報道」
- 「インターネットスクール報道」
- 「出演者比喩発言問題」
- 「女性国際戦犯法廷・ 番組出演者の申立て」
- 「山口県議選事前報道」
- 「喫茶店廃業報道」
- 「新ビジネス“うなずき屋”報道」
- 「勧告」(重大な人権侵害があったと認定した事案)
[編集] 放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)
2000年4月設立。視聴者からの苦情等に基づき、放送による青少年への影響を検討し、放送事業者に文書で回答を求めたり、改善を求める委員会。 討議の結果、「見解」「提言」「声明」等を公表する。
- 【委員】
- 【元委員】
[編集] 活動例
- 『24時間テレビ 「愛は地球を救う」』について、出演者のタレントに法外なギャラが出ているとの噂を否定。青少年委員会 放送局への回答要請
- フジテレビの『めちゃ²イケてるッ!』の1コーナー「七人のしりとり侍」と、テレビ朝日の『おネプ!』の1コーナー「ネプ投げ」(出演者がこの企画をやめたいという説も)において、暴力表現やわいせつ表現が含まれていて青少年に悪影響であるとの視聴者の一部からの苦情が相次いだことを受け、青少年委員会が対応を協議。2000年11月に当該2コーナーについて、「問題あり」との指摘をしている。この結果、両放送事業者は、当該番組中問題があると指摘されたコーナーを中止した委員会見解全文。
- 2003年、アニメ番組『機動戦士ガンダムSEED』について、夕方6時からの放送にも関わらず性行為を想像させるシーンを放送したことで、MBSに回答要請した。なお、続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』についても同様に「放送と青少年に関する委員会」で議題となったが、回答要請は行われなかった(2005年)。
- 2003年、他の放送局では深夜の時間帯に編成されていた成人ゲーム原作のアニメ番組『らいむいろ戦奇譚』を、夕方6時からに編成したサンテレビジョンに対し、2度に渡って回答要請した。なお、この件が関係しているかは不明であるが、当該番組の終了をもってサンテレビの夕方時間帯のアニメ番組枠は全て廃止され、また全国各地の地方局での夕方や19時台のアニメ番組枠は、昭和60年代以前の作品の再放送を除いて編成を取りやめる局が相次いだ。ちなみに2006年、同じく成人ゲーム原作のアニメ番組『うたわれるもの』について、他局では深夜に編成していたものの、東京MXテレビのみ夕方6時台に編成した。性的表現が殆どなかったためか、こちらについては活動を行っていない。
- 2004年6月、総務省がテレビ朝日及び山形テレビにおける誤編集や政治的公平性への配慮の欠如に関し、厳重注意をする旨の行政指導[1][2]を行った。これに対し、BPOは同年11月、「放送の自律や放送界の第三者機関に対する信頼を危うくするおそれが極めて強いと判断せざるを得ない」とし、抗議する旨の声明[3]を発表した。この声明の中でBPOは、総務省がBRCの事実認定や判断を踏まえて行政指導を行ったことに関し、「二重の処分(制裁)を受けたことを意味するとともに、第三者機関としてのBRCの存在意義を甚だしく軽視するものである」と指摘した(なお海外においては、放送事業者に明らかな不備がある場合は、議会や許認可権がある省庁が批判や苦情、警告を発したり、場合によっては罰金を科す事は普通にあることに留意されたい。)。
- 2004年12月、青少年委員会で、血液型性格判断を取り扱った民間放送のテレビ番組について、視聴者から寄せられた苦情を踏まえ、内容についての配慮を各社に要望した。しかし結局このことは全国に回ってしまい、間違った常識となってしまったので後の祭りであった。
- テレビ大阪の深夜の関西ローカル番組『フットボール汗』で漫才コンビ「フットボールアワー」が街角で女性に声をかけて、相手が応じればキスをするコーナーで、女性が拒否したにもかかわらず岩尾望が強引にキスをしようとした行為があり、2004年12月に女性がBPOに訴えた結果、人権侵害の可能性を指摘されてコーナーが打ち切られ、番組自体も2005年3月で終了された。
- タレントのレイザーラモンHGについて、視聴者から「下品だ」「子供の見る時間帯に放送すべきではない」などの意見が多く寄せられていることについて2005年10月から青少年委員会が審議日本テレビ及びTBSに文書で回答を求めた[4]。両局は回答の中で、「本人に同性愛者への差別意識はなく、現状同性愛者からの批判的なご意見は皆無」「本人もいわゆる下ネタは使用せず、奇抜なファッションとパフォーマンスで視聴者を楽しませるパフォーマーに徹している」「レイザーラモンHG氏自身は「HG」の意味を“ハードな”“芸風”の略であると言っており、番組の主旨と彼の芸風を合わせて“ハードなものに挑戦する”というコンセプトで、“世直し”“人助け”“巨大企業に挑む”などのコーナーを設けている」「視聴者の方々からのご意見も踏まえ、直接子供たちと接するという構成は中止した」と説明。委員会は、レイザーラモンHGの出演自粛勧告や是正提言等の特段の措置は行わず、「今後とも一層の配慮を求める」との方向で当面の対応をする方針[5]。きっかけとなった番組『爆笑問題のバク天!』は2006年3月で終了。同じくきっかけとなった番組『ラジかる!!』は、『ラジかるッ』へ時間帯の変更などのリニューアルが行なわれたものの、コーナー等は前番組をほぼ引き継ぐかたちで構成されており、レイザーラモンHGも引き続き出演しているのが現状である。
- 毎月その前月にBPOに寄せられた意見を「視聴者からの意見」という形でWEBページ上に掲載している。主に、番組に対しての苦情・抗議、番組、出演者の不適切などの意見が多く掲載される傾向にある。
[編集] 不祥事
- 2007年9月21日、埼玉県警朝霞警察署が青少年委員会副委員長及びその長男等を大麻取締法違反(所持)の現行犯で逮捕。副委員長及び長男は、「普段からパイプを使って使用していた」と大麻使用も認める供述をしている。埼玉県警は、副委員長の長男が自宅で大麻栽培を行っており、委員は頻繁に長男宅を訪れて大麻を受け取っていたと見て追及している[1]。健全な青少年育成に向け、具体的番組名と問題点を積極的に挙げて改善を要求してきた青少年委員会委員が、皮肉にも大麻所持という青少年に顔向けできない容疑で、しかも息子とともに逮捕される形となった。
- ^ 2007年9月22日 日刊スポーツ 等
[編集] 関連項目
- 映倫管理委員会
- 低俗番組
- 有害番組
- 表現の自由
- メディア・リテラシー
- やらせ
- 児童ポルノ
- レイティング
- 報道被害
- 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律
- 情報通信法案