独裁政治
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独裁政治(どくさいせいじ、英:dictatorship、独:Diktatur)とは、一個人、少数者または一党派が絶対的な政治権力を独占して握る政治体制を指す。独裁制とも言う。
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[編集] 概要
「独裁政治」という言葉は、戦争や内乱などの非常事態において、法的委任の手続きに基づき独裁官に支配権を与える古代ローマの統治方法に由来する。
独裁政治は、一般に、社会の混乱期や、経済の長い停滞期に多く出現する。
近世の君主制との違いは世襲を伴わないことなどが上げられるが、朝鮮民主主義人民共和国のように世襲が行われる場合もある。 軍事的な手続き(クーデター、内戦)によって独裁者となる場合も多いが、民主主義的な手続きの結果独裁者が生まれることもある。 ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーは、民主主義、民主憲法(ヴァイマル憲法)のもとで独裁化した例である。
独裁的な政治体制の下では体制批判は許されず、個人の自由は著しく制限される。民衆は抑圧され、反対派は排除される事が多い。また、為政者の権力行使に抑制が効かずに、恣意的な国家運営に堕すこともあり、国家としての方向性を失って行く場合も多い。
権力分立や大統領多選の禁止(アメリカ合衆国における三選の禁止(憲法修正22条)や韓国・チリにおける再選禁止など)は政治の独裁化を防ぐ理念に基づくものと考えられている。
[編集] 専制政治(autocracy)との違い
ローマ時代の独裁制に注目したドイツ・ワイマール時代の政治学者カール・シュミットは、独裁制と専制政治の違いを「具体的例外性」にみいだしている。シュミットによると、独裁性は、非常時に現行法規を侵犯するが、それは法秩序を回復するという具体的目的に従属し、したがって独裁は、秩序回復ののちには当然に終了する例外的事態である。独裁がこの具体的例外性をうしなえば、専制政治に転化することになる。 さらにシュミットは、独裁を「委任的独裁」と「主権的独裁」に分類している。
委任的独裁は、現行の憲法秩序が危機におちいったとき、憲法秩序を維持するためにその機能を一時的に停止する独裁をいう。憲法の規定に非常大権がさだめられていれば、この独裁は形式的にも憲法に違反しておらず、「立憲的独裁」とよばれうる。
これに対して主権的独裁とは、現行憲法ではなく将来実現されるべき憲法秩序、政治イデオロギーにもとづいておこなわれる独裁をいう。 この場合の独裁は、主権をもつ人民からその権限を委任されているがゆえにゆるされるとし、現行法秩序をまったく超越して成立する革命権力がこれに相当する。
主権的独裁の歴史的事例としては、フランス革命におけるロベスピエール独裁、ロシア革命や中国革命における共産党独裁があてはまるだろう。
[編集] 関連文献
- Schmitt, Carl.,Die Diktatur: von den Anfangen des modernen Souveranitatsgedankens bis zum proletarischen Klassenkampf(München:Duncker und Humblot, 1921).(カール・シュミット著、田中浩・原田武雄訳『独裁――近代主権論の起源からプロレタリア階級闘争まで』未來社、1991年。ただし1964年の原著第三版の邦訳)
- Neumann, Sigmund.,Permanent revolution; the total state in a world at war(New York:Harper and brothers, 1942).(シグマンド・ノイマン著、岩永健吉郎・岡義達・高木誠訳『大衆国家と独裁――恒久の革命』みすず書房, 1960年/新装版, 1998年)
- Moore, Barrington Jr., Social Origins of Dictatorship and Democracy: Lord and Peasant in the Making of the Modern World(Boston:Beacon Press, 1966).(バリントン・ムーア著、宮崎隆次・森山茂徳・高橋直樹訳『独裁と民主政治の社会的起源――近代世界形成過程における領主と農民(1・2)』岩波書店, 1986年)
- 猪木正道著『独裁の政治思想 [三訂版]』、創文社、2002年、ISBN 4-423-71053-6
- 佐野誠著『近代啓蒙批判とナチズムの病理――カール・シュミットにおける法・国家・ユダヤ人』、創文社、2003年、ISBN 4-423-71057-9